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第4部
『ありがとう』でいいんだよ?
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「ナオちゃん、目覚めはどう?」
「ボフ美の顔を見るまではすっきりした目覚めだったよ」
テュコと同様、精霊王に敬意を払っていないことが目に見えてわかるアシェルナオに、本当にボフ美は精霊王なのだろうかとヴァレリラルドは疑念を持った。
「ごめんなさいねぇ。本当はナオちゃんが自然に目覚めるのを待っていたかったんだけど、いろいろ立て込んでて。ねえ、ナオちゃん。さっき大浄化したこと、覚えてる?」
「うん。おっきいひとたちが手伝ってくれたんだ。ありがとうって手を振って、そのあと……僕、また眠ってたんだね? どれくらい? またお寝坊だった?」
バルコニーでのお披露目で起きたことを思い出して、アシェルナオは心配そうにテュコを見る。
「眠っていたのは長くはない時間ですよ。今回はお寝坊ではありません。でも、私たちの制止をきかずに1人で立ち向かわれて、心配したんですよ」
「……ごめんなさい」
テュコに叱られて、前回のスタンピードの時にどれだけ心配をかけたのかをしっかり覚えているアシェルナオは、しょんぼりした顔で寝台の周りにいる人々を見回す。
「ナオが身をもって凶事を天恵に変えてくれたことを感謝している。ありがとう、ナオ」
窮地を救ってくれた本人が申し訳なさそうな顔をしていることこそ申し訳なくて、ベルンハルドは国王として頭を下げた。
「アシェルナオのお歌、とても綺麗で、心があらわれるようだったわ」
母親として心配していたことに蓋をして、元気づけようとパウラが微笑むと、アシェルナオも嬉しそうに微笑んだ。
「ナオちゃん、あまり楽しくないお話をするけど、いい?」
そんなアシェルナオを見ながら、珍しくボフスラヴァは真剣な表情をした。
「なに?」
あらたまるボフスラヴァを、アシェルナオは胡乱な目で見る。
ボフスラヴァへの第一印象が悪すぎて、根深い不信感はまだアシェルナオの胸にずっと残っていた。
ボフスラヴァがどんなに厳格な表情をしてみせても軽佻な外見が緊迫とは無縁だったが、それでも残念な精霊王が大事なことを話そうとしていることはわかって、仕方なくアシェルナオは上体を起こす。
すかさずヴァレリラルドがヘッドボードとアシェルナオの背中の間にクッションを厚く挟んだ。
「ありがとう、ヴァル。心配をかけてごめんね?」
寝台の横に座るヴァレリラルドは、おそらくずっと側にいてくれたのだろう。そう思うと申し訳ない半分、嬉しい半分のアシェルナオだった。
「正直、すごく心配した。ナオが目覚めるまではずっと側にいようと思ってたよ。……ナオにばかり負担をかけてすまない」
神妙な顔で自分を見てくるヴァレリラルドを、アシェルナオは不思議そうに見つめる。
「負担? 負担かかってないよ?」
「だけどナオが浄化してくれて、だから精根尽きて……」
「僕、愛し子だから、悪いものを全部引き受けないといけない。とか、思ってないよ?」
アシェルナオは首を傾げる。
「そう、なの?」
「うん。ん-、前にね、エンロートでサリーが言ったんだ」
精霊王のいる場で自分の名前が出て、サリアンは「ひぇっ」と変な声を出した。
青い顔で立ちすくむサリアンに人々の視線が突き刺さる。
「わ、私は何を言ったんでしょう」
サリアンは、どんな罪状を告げられても今なら全力で受け入れる覚悟をしていた。
「確かね、誰かのために何かをしなくちゃ、とか思わないでほしい、って言ったんだ。たった1人で家族とも引き離されてこの世界に連れてこられたんだから、一生分の賠償を請求していい、わがまま言っていい。優しいのはいいけど、優しくなりすぎないでほしい。自分のことを一番に考えてほしい、って。そして指切りしたんだよね?」
アシェルナオに言われて、
「ああ……確かに17年前にそんな話をして指切りしましたね。切れなかったですけど」
サリアンも記憶の片隅に埋もれていた思い出を掘り起こす。
「だからね、僕は愛し子としての義務とか負担を背負うつもりはないんだ。背負ってはいけないと思うんだ。だから僕は、僕がしたいことを一番に考えるようにしてるよ。さっきも、僕とヴァルの婚約をお祝いしてくれる人が雨風に襲われて困っていたから、どうにかしたいと思った。だからそれは、ヴァルが謝ることじゃないよ?」
「ナオ……」
「声をかけてくれるなら、ベルっちみたいに『ありがとう』でいいんだよ?」
そう言ってまた首を傾げるアシェルナオを、ヴァレリラルドは自分の胸に抱き寄せる。
「ありがとう、ナオ。私は、17年経って大人になっても、ナオには敵わない」
大好きだ、ナオ。
アシェルナオの耳元で囁くと、囁かれたアシェルナオは顔を赤らめる。
「うわぁぁぁぁん、ナオちゃんがいい子すぎて、ボフ美泣いちゃうぅ」
婚約式を終えたばかりの初々しいカップルがいい雰囲気になったのをぶち壊すほど、ボフ美は大泣きしていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
いつも、いいね、エール、ありがとうございます(。uωu))ペコリ
「ボフ美の顔を見るまではすっきりした目覚めだったよ」
テュコと同様、精霊王に敬意を払っていないことが目に見えてわかるアシェルナオに、本当にボフ美は精霊王なのだろうかとヴァレリラルドは疑念を持った。
「ごめんなさいねぇ。本当はナオちゃんが自然に目覚めるのを待っていたかったんだけど、いろいろ立て込んでて。ねえ、ナオちゃん。さっき大浄化したこと、覚えてる?」
「うん。おっきいひとたちが手伝ってくれたんだ。ありがとうって手を振って、そのあと……僕、また眠ってたんだね? どれくらい? またお寝坊だった?」
バルコニーでのお披露目で起きたことを思い出して、アシェルナオは心配そうにテュコを見る。
「眠っていたのは長くはない時間ですよ。今回はお寝坊ではありません。でも、私たちの制止をきかずに1人で立ち向かわれて、心配したんですよ」
「……ごめんなさい」
テュコに叱られて、前回のスタンピードの時にどれだけ心配をかけたのかをしっかり覚えているアシェルナオは、しょんぼりした顔で寝台の周りにいる人々を見回す。
「ナオが身をもって凶事を天恵に変えてくれたことを感謝している。ありがとう、ナオ」
窮地を救ってくれた本人が申し訳なさそうな顔をしていることこそ申し訳なくて、ベルンハルドは国王として頭を下げた。
「アシェルナオのお歌、とても綺麗で、心があらわれるようだったわ」
母親として心配していたことに蓋をして、元気づけようとパウラが微笑むと、アシェルナオも嬉しそうに微笑んだ。
「ナオちゃん、あまり楽しくないお話をするけど、いい?」
そんなアシェルナオを見ながら、珍しくボフスラヴァは真剣な表情をした。
「なに?」
あらたまるボフスラヴァを、アシェルナオは胡乱な目で見る。
ボフスラヴァへの第一印象が悪すぎて、根深い不信感はまだアシェルナオの胸にずっと残っていた。
ボフスラヴァがどんなに厳格な表情をしてみせても軽佻な外見が緊迫とは無縁だったが、それでも残念な精霊王が大事なことを話そうとしていることはわかって、仕方なくアシェルナオは上体を起こす。
すかさずヴァレリラルドがヘッドボードとアシェルナオの背中の間にクッションを厚く挟んだ。
「ありがとう、ヴァル。心配をかけてごめんね?」
寝台の横に座るヴァレリラルドは、おそらくずっと側にいてくれたのだろう。そう思うと申し訳ない半分、嬉しい半分のアシェルナオだった。
「正直、すごく心配した。ナオが目覚めるまではずっと側にいようと思ってたよ。……ナオにばかり負担をかけてすまない」
神妙な顔で自分を見てくるヴァレリラルドを、アシェルナオは不思議そうに見つめる。
「負担? 負担かかってないよ?」
「だけどナオが浄化してくれて、だから精根尽きて……」
「僕、愛し子だから、悪いものを全部引き受けないといけない。とか、思ってないよ?」
アシェルナオは首を傾げる。
「そう、なの?」
「うん。ん-、前にね、エンロートでサリーが言ったんだ」
精霊王のいる場で自分の名前が出て、サリアンは「ひぇっ」と変な声を出した。
青い顔で立ちすくむサリアンに人々の視線が突き刺さる。
「わ、私は何を言ったんでしょう」
サリアンは、どんな罪状を告げられても今なら全力で受け入れる覚悟をしていた。
「確かね、誰かのために何かをしなくちゃ、とか思わないでほしい、って言ったんだ。たった1人で家族とも引き離されてこの世界に連れてこられたんだから、一生分の賠償を請求していい、わがまま言っていい。優しいのはいいけど、優しくなりすぎないでほしい。自分のことを一番に考えてほしい、って。そして指切りしたんだよね?」
アシェルナオに言われて、
「ああ……確かに17年前にそんな話をして指切りしましたね。切れなかったですけど」
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「だからね、僕は愛し子としての義務とか負担を背負うつもりはないんだ。背負ってはいけないと思うんだ。だから僕は、僕がしたいことを一番に考えるようにしてるよ。さっきも、僕とヴァルの婚約をお祝いしてくれる人が雨風に襲われて困っていたから、どうにかしたいと思った。だからそれは、ヴァルが謝ることじゃないよ?」
「ナオ……」
「声をかけてくれるなら、ベルっちみたいに『ありがとう』でいいんだよ?」
そう言ってまた首を傾げるアシェルナオを、ヴァレリラルドは自分の胸に抱き寄せる。
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婚約式を終えたばかりの初々しいカップルがいい雰囲気になったのをぶち壊すほど、ボフ美は大泣きしていた。
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