そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第4部

確定でございましょう

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 王太子の婚約式には参列させてもらえなかったものの、国の重鎮である大臣たちにはお披露目のバルコニーが見える王城の広間に席が設けられていた。

 それほど秘匿し、接触を避けなければならない婚約者とは何者なのか。

 お披露目が始まるまでは疑心を持っていた大臣たちだったが、いざ蓋を開けてみると王太子の婚約者は、思ったよりも年若かったが申し分のない家格と容姿を持っていた。

 一目で心を通じ合わせていることがわかる王太子と婚約者の姿は、見ている方も幸せな気持ちになった。

 申し分のない家格と容姿と、王太子との親愛の情。王太子の婚約者になるのにふさわしい人物だがこれまで秘匿にされてきたのは、おそらく公表しても問題ない年齢になるまで待っていたからなのだろう。

 大臣たちはそう納得し、離れた場所からではあるが王家の慶事を祝福していた。

 だが、そのあとの奇跡の瞬間を目撃するとすぐに会議の間に場所を移していた。

 「エルランデル公爵家の次男。これは血筋的に婚約者にふさわしい家柄ではありますが」

 「まさか愛し子様の生まれ変わりとは。見ましたか、あのお姿」

 「見ましたとも。それより聞きましたか、あのお歌のなんと素晴らしかったこと」

 「それにあの黒髪の神秘的な美しさ。王太子殿下の婚約者にこれほどふさわしい方はおられまい。むしろ愛し子様のお心を射止められた王太子殿下が僥倖であったのだ」

 「だから王太子殿下は数多の見合いをすべて断っておられたのですな」

 「17年も待たれたとは。なんという純粋な思い」

 「これほどシルヴマルク王国に明るい未来をもたらすものはありませんな」

 一時は国の一大事と肝を冷やしたが、その後の素晴らしい奇跡を目にした大臣たちは、国王がお披露目のバルコニーから移動してくるまでのあいだ会議の間で興奮気味に話をしていた。

 「なにを呑気な。あの恐ろしい瘴気を見なかったのか?」

 シアンハウスから報告のために王城に舞い戻ったエンゲルブレクトが苛立った声を上げる。

 国の政にほとんど関与せず飄々と好き勝手に生きるエンゲルブレクトだが、王弟であるために言い返すことのできない大臣たちは黙り込む。

 「その瘴気をナオが吹き払ってくれたのだ」

 会議の間の扉が開き、現れたベルンハルドがエンゲルブレクトに告げながら中央の国王席に進む。

 そのあとにサミュエルとローセボームが続いた。

 「ナオ様が浄化を?」

 ベルンハルドが席に着くのを待たずにエンゲルブレクトが尋ねる。

 「お前には聞こえなかったのか。あの歌声が。精霊の力を借りたのだろう、光を放ちながら美しい歌を響かせて浄化するナオはまさに精霊の愛し子だった。おかげで王都を飲み込もうとしていた膨大な瘴気は振り払われた」

 ベルンハルドの言葉をエンゲルブレクトは目を見開いて聞き入っていた。

 「失礼します」

 会議の間にケイレブが姿を見せる。

 「統括騎士団にシアンハウス騎士団のダニエルソンから報告が入りました。聖域の森から立ち上っていた瘴気は途切れ、上空には青空が戻ったそうです。ただ、聖域の森には依然として瘴気が立ち込めており、状態は膠着しているようだと」

 「そうか」

 ケイレブの報告に、ベルンハルドは大仰に頷くと、エンゲルブレクトをまっすぐ見つめる。

 「エンゲルブレクト。お前がたまたまシアンハウスに居合わせてくれたことで、サミュエルの留守をつとめていたダニエルソンもさぞ心強かっただろう」

 「……突然のことでしたから、私にすぐに報告ができてダニエルソンも心強かったと思います」

 「王都にまで瘴気が迫ってきたのだ。瘴気の大元のそばにあるシアンハウスではさぞおそろしい光景が広がっていただろう」

 「それは、もう……」

 兄王の言葉の真意を探るように、エンゲルブレクトは言葉少なに答えながらベルンハルドを凝視する。

 「ヴァレリラルドとナオのお披露目を抜け出して、たまたま立ち寄ったシアンハウスで大いなる災いに立ち会うとは、お前も災難だったな。あとはサミュエルとケイレブに指揮を任せるがいい」

 静かに労う言葉をかけながらも、ベルンハルドの眼差しはエンゲルブレクトを射抜くように鋭かった。

 「わかりました。あとは任せます」

 エンゲルブレクトは一礼すると足早に会議の間を出て行った。

 「サミュエル、シアンハウスに戻り、聖域の森の監視と報告を頼む。ケイレブ、各地に異変がないか調査してくれ。何かあれば逐一報告するように。各大臣も有事への備えは万全にしておくように。今日の会議は以上だ」

 ベルンハルドはそう言うとローセボームを伴って奥城を目指した。

 行き先はもちろんアシェルナオのいる星の離宮だったが、

 「確定だと思うか?」

 まっすぐ前方を見ながらベルンハルドがローセボームに尋ねた。

 「確定でございましょうな」

 ベルンハルドの顔を見ずにローセボームが応える。

 「だが、まだ確証がない。このもやもやはナオの顔を見て解消するにかぎる」


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