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第3部
え? あ? はぁ? えぇぇっ
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空間に切れ目を入れるのだから、切れ目を入れる場所はどこでもよかった。
ただ、一刻も早くヴァレリラルドとアシェルナオが睦まじくしている場所から立ち去りたかった。
だからといって領城に戻るとハハトが常に側にいる。だから口実をつけてハハトを遠ざけるためにシアンハウスに行くと言ったのは咄嗟のことだった。
精霊の泉に死骸の山を投げ込み、執務室に戻ってきてすぐにただならぬ気配が精霊の森から発せられ、あまつさえ地鳴りや地響きを室内にいても感じたエンゲルブレクトは、非常事態の渦中に我が身を置いてしまったことは咄嗟の判断が凶と出たのだと思った。
だが、
「無作法失礼します! エンゲルブレクト様、精霊の森に異常が発生しました! 状況を把握するために騎士たちを向かわせていますが、真っ黒い雲のようなものが精霊の森から立ち上がり、上空を覆っていて、それが王都の方向にとてつもない速さで広がっています!」
ダニエルソンが執務室のドアをノックするなり飛び込んできたことで、エンゲルブレクトは自分の判断が吉と出たことを知った。
「なんだと! 早急に事態を把握して報告するように! 私は王城に報告する!」
深刻そうな表情をしながらも、めでたいお披露目をこの手で中断させることができる喜びに、エンゲルブレクトは内心で高笑いしていた。
ヴァレリラルドに手を引かれてバルコニーに現れた王太子の婚約者を見上げて、
「え?」
「あ?」
「はぁ?」
「えぇぇっ」
スヴェンたちは思わずポカンと口を開けた。
お披露目が終わったらお見舞いに行って、未来の王太子妃の話を聞かせるはずの当人が、王太子に手を引かれて幸せそうに微笑んでいた。
「そりゃ、諦めろって言うよなぁ……」
6年前にサリアンに諭されて失恋したはずのスヴェンだったが、諦める理由を知って軽いショックを受けていた。
王太子との婚約が決まっているのなら、いくら頑張っても報われないはずだった。
もともと諦めていたのだから、護衛騎士になって生涯仕える覚悟をしていたじゃないか。
スヴェンは心の中で呟いて気持ちを切り替えると、着飾って、一段と綺麗なアシェルナオを一瞬たりとも見逃さないように、食い入るように見つめた。
「あれが婚約者様……」
マロシュはバルコニーに現れたアッシュグレイの髪のアシェルナオを見て、とても綺麗な人だと思った。
綺麗で、可愛らしい。けれど……。
以前どこかで会った気がして、マロシュは胸がもやもやしながらバルコニーを見上げた。
ヴァレリラルドは長い間見たことのなかった心からの笑顔で婚約者に寄り添っていた。
「すごくお綺麗な人です」
マロシュの横では、ウジェーヌが初めて見た王族と婚約者に感激していた。
エクルンド公国の自分の家族と比較しても段違いの品格と華やかさのある王族と、新たに王族に加わる神秘的な美しさの婚約者に目を奪われていた。
「本当に。とてもお美しくて、王太子殿下ととてもお似合いですね」
チドもまた、幸せそうに微笑みあうヴァレリラルドとアシェルナオを思わず拝みながら見上げていた。
カロラは信じられないものを目にして、驚きで口を手で押さえていた。
バルコニーにヴァレリラルドとアシェルナオが登場すると、その後からオリヴェル、パウラ、シーグフリードも姿を見せ、さらにその後ろにはテュコとデュルフェルも並んだ。
それを見届けると、ベルンハルドは広場に集まった民衆を見渡した。
「王太子の婚約者のお披露目に、多くの者が集まってくれたことを嬉しく思う。統括神殿の神殿長、グルンドライスト立会いのもと、王太子であるヴァレリラルドと、エルランデル公爵家次男であるアシェルナオ・エルランデルの婚約式が本日執り行われたことをここに報告する。アシェルナオは王立学園高等部の1年に在籍している。学園を卒業したら結婚の儀を執り行うこととする」
ベルンハルドの言葉に歓声があがる。
「アシェルナオ、おめでとう」
少しの間固まっていたハルネスだが、手を振ってアシェルナオに叫んだ。
ハルネスの声に気づいたアシェルナオが、笑顔で手を振る。
精霊たちもアシェルナオを真似て、手を振っている。
それをきっかけに貴族席からも後ろの民衆からも祝福の声があがった。
ヴァレリラルドはアシェルナオと手をつないだまま、時折顔を見合わせて微笑みながら手を振った。
「無事にお披露目が終わりそうですね」
歓声に沸く広場を見下ろしながら、ブロームは胸を撫でおろした。
「気を緩めるな! 何か来るぞ!」
だがドレイシュは険しい声でブロームを叱咤した。
言われてブロームもドレイシュの見つめる方向に目をやる。
まだ何も見えなかったが、確かに空気に不穏なものが混じっているのを感じた。
それはだんだんと強くなり、禍々しい気配を伴って地平線の方から向かってきていた。
「来るぞ! 恐ろしく強大な瘴気だ! 民衆が巻き込まれる! なんとしても阻止するんだ!」
「はいっ!」
ドレイシュとブロームは禍々しいものに対抗するための結界を張り、光魔法をいつでも放てるように身構えた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
お声かけ、エール、いいね、ありがとうございます。
嬉しいです。寿命が延びます 人(-ω-`*)
このままトントンと更新したいのですが、先週より地獄の仕事量です。
みんな、オラにげn・・・
ただ、一刻も早くヴァレリラルドとアシェルナオが睦まじくしている場所から立ち去りたかった。
だからといって領城に戻るとハハトが常に側にいる。だから口実をつけてハハトを遠ざけるためにシアンハウスに行くと言ったのは咄嗟のことだった。
精霊の泉に死骸の山を投げ込み、執務室に戻ってきてすぐにただならぬ気配が精霊の森から発せられ、あまつさえ地鳴りや地響きを室内にいても感じたエンゲルブレクトは、非常事態の渦中に我が身を置いてしまったことは咄嗟の判断が凶と出たのだと思った。
だが、
「無作法失礼します! エンゲルブレクト様、精霊の森に異常が発生しました! 状況を把握するために騎士たちを向かわせていますが、真っ黒い雲のようなものが精霊の森から立ち上がり、上空を覆っていて、それが王都の方向にとてつもない速さで広がっています!」
ダニエルソンが執務室のドアをノックするなり飛び込んできたことで、エンゲルブレクトは自分の判断が吉と出たことを知った。
「なんだと! 早急に事態を把握して報告するように! 私は王城に報告する!」
深刻そうな表情をしながらも、めでたいお披露目をこの手で中断させることができる喜びに、エンゲルブレクトは内心で高笑いしていた。
ヴァレリラルドに手を引かれてバルコニーに現れた王太子の婚約者を見上げて、
「え?」
「あ?」
「はぁ?」
「えぇぇっ」
スヴェンたちは思わずポカンと口を開けた。
お披露目が終わったらお見舞いに行って、未来の王太子妃の話を聞かせるはずの当人が、王太子に手を引かれて幸せそうに微笑んでいた。
「そりゃ、諦めろって言うよなぁ……」
6年前にサリアンに諭されて失恋したはずのスヴェンだったが、諦める理由を知って軽いショックを受けていた。
王太子との婚約が決まっているのなら、いくら頑張っても報われないはずだった。
もともと諦めていたのだから、護衛騎士になって生涯仕える覚悟をしていたじゃないか。
スヴェンは心の中で呟いて気持ちを切り替えると、着飾って、一段と綺麗なアシェルナオを一瞬たりとも見逃さないように、食い入るように見つめた。
「あれが婚約者様……」
マロシュはバルコニーに現れたアッシュグレイの髪のアシェルナオを見て、とても綺麗な人だと思った。
綺麗で、可愛らしい。けれど……。
以前どこかで会った気がして、マロシュは胸がもやもやしながらバルコニーを見上げた。
ヴァレリラルドは長い間見たことのなかった心からの笑顔で婚約者に寄り添っていた。
「すごくお綺麗な人です」
マロシュの横では、ウジェーヌが初めて見た王族と婚約者に感激していた。
エクルンド公国の自分の家族と比較しても段違いの品格と華やかさのある王族と、新たに王族に加わる神秘的な美しさの婚約者に目を奪われていた。
「本当に。とてもお美しくて、王太子殿下ととてもお似合いですね」
チドもまた、幸せそうに微笑みあうヴァレリラルドとアシェルナオを思わず拝みながら見上げていた。
カロラは信じられないものを目にして、驚きで口を手で押さえていた。
バルコニーにヴァレリラルドとアシェルナオが登場すると、その後からオリヴェル、パウラ、シーグフリードも姿を見せ、さらにその後ろにはテュコとデュルフェルも並んだ。
それを見届けると、ベルンハルドは広場に集まった民衆を見渡した。
「王太子の婚約者のお披露目に、多くの者が集まってくれたことを嬉しく思う。統括神殿の神殿長、グルンドライスト立会いのもと、王太子であるヴァレリラルドと、エルランデル公爵家次男であるアシェルナオ・エルランデルの婚約式が本日執り行われたことをここに報告する。アシェルナオは王立学園高等部の1年に在籍している。学園を卒業したら結婚の儀を執り行うこととする」
ベルンハルドの言葉に歓声があがる。
「アシェルナオ、おめでとう」
少しの間固まっていたハルネスだが、手を振ってアシェルナオに叫んだ。
ハルネスの声に気づいたアシェルナオが、笑顔で手を振る。
精霊たちもアシェルナオを真似て、手を振っている。
それをきっかけに貴族席からも後ろの民衆からも祝福の声があがった。
ヴァレリラルドはアシェルナオと手をつないだまま、時折顔を見合わせて微笑みながら手を振った。
「無事にお披露目が終わりそうですね」
歓声に沸く広場を見下ろしながら、ブロームは胸を撫でおろした。
「気を緩めるな! 何か来るぞ!」
だがドレイシュは険しい声でブロームを叱咤した。
言われてブロームもドレイシュの見つめる方向に目をやる。
まだ何も見えなかったが、確かに空気に不穏なものが混じっているのを感じた。
それはだんだんと強くなり、禍々しい気配を伴って地平線の方から向かってきていた。
「来るぞ! 恐ろしく強大な瘴気だ! 民衆が巻き込まれる! なんとしても阻止するんだ!」
「はいっ!」
ドレイシュとブロームは禍々しいものに対抗するための結界を張り、光魔法をいつでも放てるように身構えた。
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