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第3部
お披露目までのひととき
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バルコニーの近くに設けられた控室には、婚約式を終えた両家が会していた。
控室の奥にある2人掛けの豪奢な椅子には、国王であるベルンハルドと王妃テレーシア。ではなく、本日の主役であるヴァレリラルドとアシェルナオが座っていた。
アシェルナオは自分の薬指に嵌められたエンゲージリングとヴァレリラルドの瞳を交互に見ては、嬉しそうに微笑む。
それを見て、ヴァレリラルドも嬉しくなって微笑む。
絵に描いたようなカップルに、婚約式に立ち会った者たちからも、知らずに笑みがこぼれていた。
エンゲルブレクトのいない室内は、婚約式の直後の穏やかで幸せな雰囲気が満ち溢れていた。
『ナオ、ちゅっちゅは?』
『お礼にはちゅっちゅだよねぇ』
『ちゅ、だよねぇ』
ナオの幸せが嬉しい精霊たちが、さっきはできなかったちゅぅをそそのかす。
「そんなに?」
ちゅぅさせたい?と、アシェルナオは苦笑する。
『そんなにそんなに』
『幸せならちゅっちゅだよねぇ』
うんうん、と頷く精霊たち。
「ナオ、何が『そんなに?』」
自分に視線を向けていたアシェルナオが、よそ見をしたのに軽く嫉妬するヴァレリラルド。
「えぇ……あのね……」
精霊たちがぎゅぅぎゅぅにくっついてアシェルナオを見ている。
そんなに期待するなら、とアシェルナオは少し腰を浮かせて、
「指輪、ありがとう。大切にするね」
ヴァレリラルドの頬にキスをした。
「ま」
「まっ」
テレーシアとパウラは歓喜の呟きをあげ、
「む」
「むっ」
オリヴェルとシーグフリードは受け入れがたい呟きをもらす。
そんな身内の反応など気にしない精霊たちはアシェルナオの周りでダンスしながらハイタッチしている。
「私こそ、喜んでもらえて嬉しい」
ヴァレリラルドはナオからキスされたことに舞い上がっていた。
「兄上ばかりナオを独り占めしてずるいぞ」
ずるいずるい、とソファに座りながらもアネシュカが地団駄を踏む。
「ごめんね、アネちゃん。退屈した?」
アシェルナオはテレーシアの隣に座るアネシュカのもとに歩み寄ると、いい子いい子、と頭を撫でる。
「撫でられるのもいいが、私にはキスしてくれないのか?」
「アネちゃんは僕の可愛い妹になるからね? キスよりいい子いい子、だよね?」
ね?と子供に言い聞かせるようなアシェルナオに、アネシュカの動きが固まる。
「なっ、なんと……私が可愛い妹……」
「アネちゃんはヴァルの妹だから、僕とヴァルが結婚したら僕にとっても妹だよね?」
ね?と念押しするアシェルナオ。
「兄嫁だから義理の姉……。ナオが姉……お姉ちゃん、私の部屋にお泊りに来ないか?」
ピーーーッ。
いつもより一際長い笛の音が聞こえた。
「アネシュカ殿下の方が、うちのナオ様の貞操が危なくなるのでだめです」
テュコが即答する。
「ナオは騙されやすいから、アネシュカにいいように言い含められるのが怖い。ナオ、アネシュカは可愛い妹かもしれないが、獰猛な猛獣と同じだと思ったほうがいい」
「兄上、猛が2つも使われているぞ。兄上こそ、私を可愛い妹だと認識してほしいものだ」
「アネちゃんは可愛い可愛い」
腕を組んで憤慨するアネシュカを、アシェルナオは『いい子いい子』と頭を撫でている。
「これはある意味、三すくみだな」
壁際に控えるベルトルドが兄妹とアシェルナオのやりとりを見て感心して言った。
「シグも入ればいいのに。ラルはシグの可愛い弟になるんだろう?」
面白がるウルリクに、シーグフリードは首を振る。
「可愛い弟ではないな。それに、あんな濃い者たちの中に入れるか。私はアシェルナオが穢れないように見守るだけだ」
姻戚になるとはいえ、さすがに王族と慣れ親しめるほどの図太さは持ち合わせていないシーグフリードが言った。
「ちぇー。シグはぶれないなぁ」
「分をわきまえているだけだ」
「アシェルナオ、そろそろこちらにおいでなさい。アイナとドリーンが困っていますよ」
パウラが声をかける。
アシェルナオが視線を向けると、身支度の用意をして待っているアイナとドリーンがいた。
「はーい」
アネシュカを撫でる手を止めて、2人のもとに歩み寄ると、準備してあった椅子に座る。
アイナはアシェルナオの顔が見えるように慎重に確認しながら浅くヴェールを被らせ、ベストな位置が決まったところでドリーンがヴェールをサークレットでおさえる。
「短い間ですから、これで大丈夫だと思います」
「今日は日差しが強いので、いい日よけになりました」
アッシュグレイの髪と紺色の瞳に変わったアシェルナオの仕上がりを確認すると、アイナとドリーンは壁際に下がった。
「なんだ、ナオ。綺麗な黒髪を隠してしまうのか?」
アネシュカは残念そうな声をあげる。
「いずれナオが愛し子であると公表をするが、それは今日ではない。今日のところはヴァレリラルドの婚約者としてのお披露目だ」
先ほどのエンゲルブレクトの振る舞いが尾を引いているのか、ベルンハルドの表情は少し硬かった。
「父上、もう少し表情を明るくしてください。ナオのお披露目を国王が喜んでいないように思われるではありませんか。スマイルです」
ベルンハルドの両頬を横に引っ張るアネシュカ。
「痛いぞ、アネシュカ。ナオのお披露目に暗い顔をして出るわけがないだろう」
大袈裟に痛がるベルンハルド。
アネシュカのおかげで、ともすれば沈鬱になりそうな気持が晴れるのを感じるベルンハルドだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
嵐の前の静けさ。控室でのイチャイチャほのぼのでした。
私の仕事の地獄の1週間に終わりが見えてきました。
エール、いいね、ありがとうございます。
嬉しいです。寿命が延びます 人(-ω-`*)
控室の奥にある2人掛けの豪奢な椅子には、国王であるベルンハルドと王妃テレーシア。ではなく、本日の主役であるヴァレリラルドとアシェルナオが座っていた。
アシェルナオは自分の薬指に嵌められたエンゲージリングとヴァレリラルドの瞳を交互に見ては、嬉しそうに微笑む。
それを見て、ヴァレリラルドも嬉しくなって微笑む。
絵に描いたようなカップルに、婚約式に立ち会った者たちからも、知らずに笑みがこぼれていた。
エンゲルブレクトのいない室内は、婚約式の直後の穏やかで幸せな雰囲気が満ち溢れていた。
『ナオ、ちゅっちゅは?』
『お礼にはちゅっちゅだよねぇ』
『ちゅ、だよねぇ』
ナオの幸せが嬉しい精霊たちが、さっきはできなかったちゅぅをそそのかす。
「そんなに?」
ちゅぅさせたい?と、アシェルナオは苦笑する。
『そんなにそんなに』
『幸せならちゅっちゅだよねぇ』
うんうん、と頷く精霊たち。
「ナオ、何が『そんなに?』」
自分に視線を向けていたアシェルナオが、よそ見をしたのに軽く嫉妬するヴァレリラルド。
「えぇ……あのね……」
精霊たちがぎゅぅぎゅぅにくっついてアシェルナオを見ている。
そんなに期待するなら、とアシェルナオは少し腰を浮かせて、
「指輪、ありがとう。大切にするね」
ヴァレリラルドの頬にキスをした。
「ま」
「まっ」
テレーシアとパウラは歓喜の呟きをあげ、
「む」
「むっ」
オリヴェルとシーグフリードは受け入れがたい呟きをもらす。
そんな身内の反応など気にしない精霊たちはアシェルナオの周りでダンスしながらハイタッチしている。
「私こそ、喜んでもらえて嬉しい」
ヴァレリラルドはナオからキスされたことに舞い上がっていた。
「兄上ばかりナオを独り占めしてずるいぞ」
ずるいずるい、とソファに座りながらもアネシュカが地団駄を踏む。
「ごめんね、アネちゃん。退屈した?」
アシェルナオはテレーシアの隣に座るアネシュカのもとに歩み寄ると、いい子いい子、と頭を撫でる。
「撫でられるのもいいが、私にはキスしてくれないのか?」
「アネちゃんは僕の可愛い妹になるからね? キスよりいい子いい子、だよね?」
ね?と子供に言い聞かせるようなアシェルナオに、アネシュカの動きが固まる。
「なっ、なんと……私が可愛い妹……」
「アネちゃんはヴァルの妹だから、僕とヴァルが結婚したら僕にとっても妹だよね?」
ね?と念押しするアシェルナオ。
「兄嫁だから義理の姉……。ナオが姉……お姉ちゃん、私の部屋にお泊りに来ないか?」
ピーーーッ。
いつもより一際長い笛の音が聞こえた。
「アネシュカ殿下の方が、うちのナオ様の貞操が危なくなるのでだめです」
テュコが即答する。
「ナオは騙されやすいから、アネシュカにいいように言い含められるのが怖い。ナオ、アネシュカは可愛い妹かもしれないが、獰猛な猛獣と同じだと思ったほうがいい」
「兄上、猛が2つも使われているぞ。兄上こそ、私を可愛い妹だと認識してほしいものだ」
「アネちゃんは可愛い可愛い」
腕を組んで憤慨するアネシュカを、アシェルナオは『いい子いい子』と頭を撫でている。
「これはある意味、三すくみだな」
壁際に控えるベルトルドが兄妹とアシェルナオのやりとりを見て感心して言った。
「シグも入ればいいのに。ラルはシグの可愛い弟になるんだろう?」
面白がるウルリクに、シーグフリードは首を振る。
「可愛い弟ではないな。それに、あんな濃い者たちの中に入れるか。私はアシェルナオが穢れないように見守るだけだ」
姻戚になるとはいえ、さすがに王族と慣れ親しめるほどの図太さは持ち合わせていないシーグフリードが言った。
「ちぇー。シグはぶれないなぁ」
「分をわきまえているだけだ」
「アシェルナオ、そろそろこちらにおいでなさい。アイナとドリーンが困っていますよ」
パウラが声をかける。
アシェルナオが視線を向けると、身支度の用意をして待っているアイナとドリーンがいた。
「はーい」
アネシュカを撫でる手を止めて、2人のもとに歩み寄ると、準備してあった椅子に座る。
アイナはアシェルナオの顔が見えるように慎重に確認しながら浅くヴェールを被らせ、ベストな位置が決まったところでドリーンがヴェールをサークレットでおさえる。
「短い間ですから、これで大丈夫だと思います」
「今日は日差しが強いので、いい日よけになりました」
アッシュグレイの髪と紺色の瞳に変わったアシェルナオの仕上がりを確認すると、アイナとドリーンは壁際に下がった。
「なんだ、ナオ。綺麗な黒髪を隠してしまうのか?」
アネシュカは残念そうな声をあげる。
「いずれナオが愛し子であると公表をするが、それは今日ではない。今日のところはヴァレリラルドの婚約者としてのお披露目だ」
先ほどのエンゲルブレクトの振る舞いが尾を引いているのか、ベルンハルドの表情は少し硬かった。
「父上、もう少し表情を明るくしてください。ナオのお披露目を国王が喜んでいないように思われるではありませんか。スマイルです」
ベルンハルドの両頬を横に引っ張るアネシュカ。
「痛いぞ、アネシュカ。ナオのお披露目に暗い顔をして出るわけがないだろう」
大袈裟に痛がるベルンハルド。
アネシュカのおかげで、ともすれば沈鬱になりそうな気持が晴れるのを感じるベルンハルドだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
嵐の前の静けさ。控室でのイチャイチャほのぼのでした。
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嬉しいです。寿命が延びます 人(-ω-`*)
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