そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第3部

〇ンコを〇っ〇〇〇たかった話

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 「素直に話をしてくれたら、体の中の傷まで治すと約束しよう。知っているかと思うが、シルヴマルク王国は精霊の国だ。もし嘘を言おうものなら、精霊の罰がくだる。そこを踏まえて話をしてほしい」

 シーグフリードの言葉に、大柄な男が、明らかにばかにした顔をした。

 ひぃは、ちゃーの手を取り、大柄の男の顔の前に移動した。

 昨日からアシェルナオが泣いてばかりなのも、さっき馬車が襲われて怖い思いをしたのも、もとをただせばエルとルルとこの男たちのせいなのだ。

 『いくよ、ちゃー』

 『いいよ、ひぃ』

 ひぃとちゃーが頷きあう。

 「あ、だめだよ、ひぃ、ちゃー」

 制止されて、ひぃとぐりはアシェルナオを振り向く。

 『ちょっとだけー』

 『残念だけどちょっとだけー』

 ヴァレリラルドに耳をふさがれているアシェルナオは、ひぃとぐりが何を言ったのかわからなかった。
 
 ちゃんと止める前にひぃが大柄の男の前で火を吹く。ちゃーが小さな石のつぶてを次々に投げる。

 「うわっ」

 咄嗟に頭を後ろに引く男だが、その額の髪の毛は燃えてチリチリになっていた。顔面には小さな熱い石が当たり続けて、顔を振る。その度に体の中の傷が痛んで苦悶の表情を浮かべていた。

 「精霊が怒ってるんだ」

 見えないが、おそらくアシェルナオの側にいる精霊たちの仕業だろうことはわかって、シーグフリードが男たちに告げる。

 「言います」

 「話します」

 最年少の男、へディーンと、ウジェーヌと行動を共にしていたエイセルが口を開いた。

 カッセルとブラードも、しばらく考えたが頷き、

 「話す」

 大柄の男、アグレルも、精霊の怒りにこれ以上触れたくないという思いで悲痛な声をあげた。

 「初めからそう言ってくれたらいいんだ。ラル、もういい」

 シーグフリードはアシェルナオの耳をふさいでいたヴァレリラルドに声をかけた。

 「ヴァル、耳塞ぐの上手だねぇ」

 耳珠を外耳孔と指のはらで押すことで、痛みや圧迫感なく外音を遮断するヴァレリラルドを感心するアシェルナオ。

 「本当に遮断するなら魔道具使えばいいだろ。っていうか、やめさせろ!」

 叫ぶルルを見ると、頭頂から一筋の水が絶え間なく顔面を濡らしていた。

 「こっちもやめさせろ。目が乾いて、目があけられない」

 エルの顔面には風が当たり続け、髪の毛が靡いている。

 みっちーとぐりがエルとルルの前でハイタッチをしてくるくると回っていて、なんだか微笑ましいと思うのは、それが見えているアシェルナオだけだった。

 「ごめんねぇ? なんだかみんな怒ってるみたいだけど、すっごく可愛いんだよ?」

 申し訳ないと思いながらも、可愛い精霊たちの動きに、アシェルナオの顔も綻ぶ。

 「それくらいの怒りでは物足りないくらいですけどね。ナオ様がそれで満足しているならこれでよいでしょう」

 テュコがあまり納得できない声をあげる。

 「では、なぜうち(シルヴマルク王国)に来たのか、話してもらおうか」

 シーグフリードに促されてアグレルは、大公の末の公子であるウジェーヌが初恋の相手であるエルとルルにずっと会いたがっていた事。長年会いに行きたいと願っていたが、今回許しが出たこと。エクルンド公国の大公はウジェーヌの恋心よりエルとルルの魔法の才能と魔道具の才能が欲しかったこと。エルとルルが嫌がっても無理やりにでも連れ帰るように命令されたことを話した。

 「ウジェが?」

 強風が当たり続けているので目が開けられないエルが、うっすらと目を開けて、だがすぐに目を閉じて言った。

 「そういえばやたら懐いていたけど・・・」

 顔面から水を垂らしながらルルが呟く。

 「お2人からいい返事が聞けなかった場合は、公子の心情に関係なく連れ帰るように命令されていることを私たちが知ったのは、王都に入ってからです。公子の恋心は私たちにも伝わっていましたから、私たちはずっと、公子の恋心を叶えるために来たと思っていました」

 不本意な命令に従った結果がこれでは、エイセルはどこに向けていいかわからない怒りを抱えていた。

 「俺たちが初恋だとしても、まだ思ってるわけ? まじで? 帰国してもう何年経った?」

 「ウジェって、いま18? 子供の頃は末っ子の甘えん坊で、ひ弱な感じがしたけど、どんな風に成長してるんだ?」

 エルとルルの問いに、

 「背だけ伸びていらっしゃいますが、色白でひょろっとしたところはお子様の時とあまり変わっていらっしゃいません」

 以前から面識のあるブラードが言った。

 「どこか浮世離れしている感じがしますが、それだけお心が純真なのです」

 数日の付き合いだが、ウジェーヌの『ひととなり』に接したエイセルが補足する。

 「じゃあだめだ」

 エルが断言する。

 「俺たちは強い男のチンコを突っ込まれたいんだ」

 ルルが自分たちの性癖を暴露し、一瞬場が凍る。

 「だから俺たちはチンコを突っ込まれたいんだよ! テュコ先輩のを!」

 「前から突っ込まれたかったんだよ!」

 やけになって大声で叫ぶエルとルルに、シーグフリードたちはヴァレリラルドの膝の上に座るアシェルナオを見た。

 天使のように綺麗で純真なアシェルナオに何度チンコを連呼してるんだよ。人々の視線はそう訴えていたが、ヴァレリラルドの機転で再び耳を塞がれたアシェルナオは、なぜ自分に視線が集まるのかわからずに、首をかしげて人々を見ている。

 「ナオ、何か聞こえた?」

 ヴァレリラルドが取り繕った笑顔で尋ねる。

 「えとね、ヴァルは耳を塞ぐのが上手だけど、微かに聞こえたかな?」

 少し顔を赤らめ、モジモジと打ち明けるアシェルナオに、

 「ナオ様のお耳を汚したな」

 ただでさえ不快な発言だと言うのに、よりにもよってアシェルナオに聞かせてしまった事実に、テュコは目で誰のんを借りようかと剣を探す。

 「思うだけならいいだろ!」

 「たとえかなわなくても、願うことは自由だろ!」

 風を浴びながら、濡れながら、テュコに殴られた痛みも相まってやけになるエルとルルだが、
 
 「2人の気持ちはわかるよ。きっといつか叶うよ」

 ヴァレリラルドの膝の上からアシェルナオが穏やかに語りかけた。

 その発言に、わかるのか、と驚愕する人々は、精霊の愛し子の綺麗な顔を見つめた。
 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 下品な回ですみません。
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