そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第3部

愛し子です

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 ウルリクの言葉に、シーグフリード、ヴァレリラルド、テュコは顔を見合わせて無言でお互いの考えを伝えあった。

 やがて無言のまま話がまとまったらしく、ヴァレリラルドはアシェルナオの頭のサークルに手をかける。

 アシェルナオは不思議そうにヴァレリラルドを見上げた。

 「ナオ、ウルとルドは私を護衛する立場の側近だ。私を護るということは私の大事な者を護るということでもある。ナオのことを知ってほしいと思うんだけど、いい?」

 「えーと、うーん。いいよ?」

 いつものように軽く答えるアシェルナオに、テュコの顳顬がピクピクと動く。

 ヴァレリラルドは、ナオらしい、と微笑ましく思いながら、アシェルナオの頭に装着されたサークルをはずした。

 エルとルルの制作した魔道具の効力が消え、シーグフリードと同じ髪の色が漆黒に。紺色の瞳が黒曜石の瞳に変わる。

 一瞬で髪と瞳の色が変わると、さらにアシェルナオの美麗な容姿に磨きがかかり、ウルリクとベルトルドは固まる。

 「黒髪、黒い瞳って……」

 「ナオは精霊の愛し子だ。私が8歳の時に精霊の泉に落ちてきて、私の命を救うために代わりに命を落としたが、シグの弟として生まれ変わってきてくれた。私が一目で恋に落ちた、私の最愛の精霊の愛し子だ」

 「愛し子です」

 ヴァレリラルドの熱い愛の告白に、アシェルナオはさらりと頷いて両方の手のひらをあわせて差し出す。

 そこには色とりどりの精霊たちが乗っているのだが、残念ながら他の者には見えなかった。

 「ああ! ナオ様! そうだ。夏の離宮でお会いしたことがある。あの時は亜麻色の髪の毛で、アイスグリーンのワンピースがよくお似合いでした。子供心ながらに胸がときめいたことを覚えています」

 ようやくアシェルナオと記憶の中の梛央とが一致したベルトルドが手を打つ。

 「そう言えば夏の離宮でユングストレーム公爵家の方とお会いしてましたね」

 テュコも思い出す。

 「ん? あの時ヴァルと剣の稽古をしていた子? 大きくなったねぇ」

 アシェルナオも懐かしそうに目を細める。

 「ワンピース? たまたまにたまちゃん、女の子? でも弟?」

 「ウルるん、たまたまにたまちゃんはやめて。恥ずかしい」
 
 アシェルナオはヴァレリラルドの背中に隠れてプルプルと首を振る。

 「うはぁ。ウルるんて言われたー。やばい、ほんとにくれない?」

 ときめきが半端ないウルリク。

 「くれない。うちのアシェルナオが困っているからたまたまにたまちゃんはやめてやれ」

 「ちぇー、たまたまにたまちゃん、可愛いのに。じゃあ普通にナオ様にする。精霊の愛し子様なら、確かに陛下より立場は上だよ。本当に尊いなー」

 「あの時のナオ様が……。本当に生まれ変わっておられるのですね。臣下としても友人としても、お礼を申し上げます。ラルの命を護っていただき、ありがとうございます」

 「お礼はいいよ、ルドっち。これからも兄様とヴァルをよろしくね」

 「もちろんです。……うちの弟とは可愛さのレベルが違うな」

 「当たり前だ」

 シーグフリードが得意げな顔をした時、ドアがノックされた。

 テュコがドアを開けると、そこにはジンメルが立っていた。

 「シーグフリード様、私は少し席を外します。すぐに戻りますのでそれまでナオ様をお願いします」

 ジンメルの顔を見て察したテュコがシーグフリードを振り向く。

 「その後があるから、軽く済ませるだけでいい」

 「心得ています」

 そう言うとテュコは部屋を辞し、

 「兄様、テュコは?」

 テュコがいなくなったことにアシェルナオは不安を覚えた。

 「すぐに戻ってくるよ。そしたら兄様たちが他の部屋に移動するから、アシェルナオは着替えてからテュコと一緒においで?」

 安心させるように事情を説明するシーグフリード。
 
 「はい、兄様」

 「ナオ、テュコが戻ってくるまで私がそばにいるよ。おいで」

 ヴァレリラルドは寝台の縁に座ってアシェルナオを手招きする。

 「イっ……」

 テュコがいない間のイチャイチャタイムに、アシェルナオの胸が高鳴る。

 「い?」

 「なんでもない」

 心なしかぎこちない動きでヴァレリラルドに近づくと、その膝にちょこんと座るアシェルナオ。

 「あらあら」

 「まあまあ」

 アイナとドリーンは微笑まし気な視線を向けるが、シーグフリードは苦虫をつぶしたような顔になり、ウルリクとベルトルドはデレデレのヴァレリラルドを興味深そうに見つめる。

 人の膝の上に座ることに抵抗がないアシェルナオの自然な行動なのだが、

 「ナオ……可愛すぎる」

 ヴァレリラルドは背面からアシェルナオをぎゅっと抱きしめる。

 「んふふ……イチャイチャだね」

 アシェルナオがヴァレリラルドの顔を見上げて幸せそうな笑みを見せた時、

 ピッ。

 笛が鳴った。

 「早すぎる」

 まだアシェルナオを堪能したかったヴァレリラルドが不平を言うと、

 「一発ずつにしてきてよかった……。ナオ様のお着替えをします。皆様は先にあちらへ」

 テュコは聞こえないふりでシーグフリードたちを部屋から追い出した。

 「ナオ、またあとで」

 ヴァレリラルドは残念そうにアシェルナオをおろす。

 「うん、またあとでねぇ」

 無垢な笑顔で手を振るアシェルナオに、愛し子とは大物なのだな、とウルリクは思った。

 
 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 風邪と超早出で死んでます。
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