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第3部
よいとはいえない
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「ナオ様、どうかしましたか?」
演奏を終えたブロームが動揺しているアシェルナオのもとに歩み寄る。
「箱に入れてもらってて、よかった」
ブロームに心情を吐露するアシェルナオ。
「なんの話です?」
アシェルナオの言ってる意味がわからないブロームだったが、
「アシェルナオは箱入り息子だって話ですよ、ブローム先生」
ハルネスに言われて納得した。
「ご両親と兄上に大事にされていますからね。ナオ様、今日はこれでおしまいでしたね? 帰りの馬車は私もご一緒させてもらいます」
「先生はもう授業はないの?」
「ええ。それにさきほどシーグフリード様から、今日は早く帰ってきてほしいと連絡が入ったんです」
「兄様が? じゃあ今日は兄様も早く帰ってくる?」
途端に綺麗な顔に喜色を浮かべるアシェルナオ。
ヴァレリラルドの側近であるシーグフリードは、なるべく朝食か夕食を一緒に摂るようにしてくれてはいるが、ゆっくりと話ができる機会は少なかった。
「ええ、おそらく」
「じゃあ、早く帰ろう? みんなも帰る?」
「ええ、帰りましょう」
家族から可愛がられているが、同じように家族が大好きなアシェルナオに、クラースたちは笑顔で同意した。
エルランデル公爵家の馬車寄せに着くと、先に降りたテュコに補助されてアシェルナオが馬車を降りる。その後に続いてブロームが降り立つと、出迎えた執事のデュルフェルが一礼する。
「おかえりなさいませ、アシェルナオ様、ブローム様。お部屋でシーグフリード様とお客人がお待ちです」
「お客人?」
部屋に通すくらいだから知り合いだろうが、誰だろうとアシェルナオはテュコとブロームを交互に見た。
「その方と会わせるために、私に早く帰ってくるように言われたのでしょう」
なんとなく事情を察してブロームが言うと、アシェルナオも納得して本館の最奥にある自分の部屋に向かった。
部屋といっても1階と2階に分かれた広い空間で、2階がアシェルナオの居住空間になっている。1階はホールやダイニング、その奥にゲストルームがあり、ブロームはそのゲストルームの一室を使っていた。
テュコが扉を開けると、いつものようにアイナとドリーンが出迎えていた。
「おかえりなさいませ、ナオ様。ブローム様」
「シーグフリード様たちがお待ちです」
2人に言われてアシェルナオはホールのソファセットに目を向ける。
「兄様!」
「おかえり、アシェルナオ」
シーグフリードは立ち上がるとアシェルナオが急ぎ足でやってくるのを待ってハグする。
「ただいま、兄様。お早いお帰りで嬉しいです。……エルるん、ケルるん?」
ハグを返すアシェルナオは長椅子に座っているエルとルルを見て目を見開く。
「お久しぶりだな、ナオ様……。何年か会ってないうちに成長して綺麗になったなぁ」
「中身はアレだが、すごい美人になってる……。お久しぶりです、テュコ先輩」
立ち上がって挨拶をするエルとルルを見て、
「どういうことです?」
テュコは訝し気にシーグフリードに説明を求める。
「帰って来たばかりですまないが、ここに座ってくれるかい、アシェルナオ。ブローム先生もおかけください」
シーグフリードはソファに座りながら、自分の横の席をアシェルナオに勧める。
「シーグフリード様、ご紹介いただけますか?」
促されて1人掛けの椅子に座りながらブロームがエルとルルを見つめる。
「ブローム先生、髪が跳ねてないのがエルことオーケリエルム・アレクサンデション。跳ねてるのがオーケルルンド・アレクサンデション。エルは魔法や魔法陣で、ルルは魔道具の制作で、魔法省でも重要な位置にいる天才です。6年前に1年ほどここに住んでいました。エル、ルル。ブローム先生はエルフの血を引く、王立学園の教師だ。縁あってここに滞在してもらっている」
「エルフ……初めて見た。俺はエルと呼んでください」
「っていうか、髪だけで判断してるんですか。……ルルです」
「ブロームです。純血のエルフから何代もたっているんですが、先祖返りのようで精霊を身近に感じることができますし、普通の人間では感じられないものも感じることができます。たとえば、エルとルルの纏う空気があまりよいとはいえない、とか」
エルとルルを見つめたままでブロームが言った。
「よくない? 悪い気なの?」
アシェルナオが呼びかけると精霊たちがアシェルナオの周りに集まった。
『悪い気とはいえないねー』
『だからといって、いい人間とはいえないねー』
『わかんないねー』
『わかんないねー』
ねーねーと言い合う精霊たち。
「精霊たちはなんと?」
精霊の言葉を聞いて首を捻るアシェルナオに、精霊の言葉は聞こえないブロームが尋ねる。
「悪い気とはいえないけど、いい人間とはいえない、わかんない、って」
「そうですか。私にはなんとなく災難の相が見えますが……」
「災難といえば災難なんだが」
アシェルナオとブロームの話を聞いて、シーグフリードが考え込む。
「だめです。帰れ」
考えるまでもない、と言いたげにテュコが断言した。
演奏を終えたブロームが動揺しているアシェルナオのもとに歩み寄る。
「箱に入れてもらってて、よかった」
ブロームに心情を吐露するアシェルナオ。
「なんの話です?」
アシェルナオの言ってる意味がわからないブロームだったが、
「アシェルナオは箱入り息子だって話ですよ、ブローム先生」
ハルネスに言われて納得した。
「ご両親と兄上に大事にされていますからね。ナオ様、今日はこれでおしまいでしたね? 帰りの馬車は私もご一緒させてもらいます」
「先生はもう授業はないの?」
「ええ。それにさきほどシーグフリード様から、今日は早く帰ってきてほしいと連絡が入ったんです」
「兄様が? じゃあ今日は兄様も早く帰ってくる?」
途端に綺麗な顔に喜色を浮かべるアシェルナオ。
ヴァレリラルドの側近であるシーグフリードは、なるべく朝食か夕食を一緒に摂るようにしてくれてはいるが、ゆっくりと話ができる機会は少なかった。
「ええ、おそらく」
「じゃあ、早く帰ろう? みんなも帰る?」
「ええ、帰りましょう」
家族から可愛がられているが、同じように家族が大好きなアシェルナオに、クラースたちは笑顔で同意した。
エルランデル公爵家の馬車寄せに着くと、先に降りたテュコに補助されてアシェルナオが馬車を降りる。その後に続いてブロームが降り立つと、出迎えた執事のデュルフェルが一礼する。
「おかえりなさいませ、アシェルナオ様、ブローム様。お部屋でシーグフリード様とお客人がお待ちです」
「お客人?」
部屋に通すくらいだから知り合いだろうが、誰だろうとアシェルナオはテュコとブロームを交互に見た。
「その方と会わせるために、私に早く帰ってくるように言われたのでしょう」
なんとなく事情を察してブロームが言うと、アシェルナオも納得して本館の最奥にある自分の部屋に向かった。
部屋といっても1階と2階に分かれた広い空間で、2階がアシェルナオの居住空間になっている。1階はホールやダイニング、その奥にゲストルームがあり、ブロームはそのゲストルームの一室を使っていた。
テュコが扉を開けると、いつものようにアイナとドリーンが出迎えていた。
「おかえりなさいませ、ナオ様。ブローム様」
「シーグフリード様たちがお待ちです」
2人に言われてアシェルナオはホールのソファセットに目を向ける。
「兄様!」
「おかえり、アシェルナオ」
シーグフリードは立ち上がるとアシェルナオが急ぎ足でやってくるのを待ってハグする。
「ただいま、兄様。お早いお帰りで嬉しいです。……エルるん、ケルるん?」
ハグを返すアシェルナオは長椅子に座っているエルとルルを見て目を見開く。
「お久しぶりだな、ナオ様……。何年か会ってないうちに成長して綺麗になったなぁ」
「中身はアレだが、すごい美人になってる……。お久しぶりです、テュコ先輩」
立ち上がって挨拶をするエルとルルを見て、
「どういうことです?」
テュコは訝し気にシーグフリードに説明を求める。
「帰って来たばかりですまないが、ここに座ってくれるかい、アシェルナオ。ブローム先生もおかけください」
シーグフリードはソファに座りながら、自分の横の席をアシェルナオに勧める。
「シーグフリード様、ご紹介いただけますか?」
促されて1人掛けの椅子に座りながらブロームがエルとルルを見つめる。
「ブローム先生、髪が跳ねてないのがエルことオーケリエルム・アレクサンデション。跳ねてるのがオーケルルンド・アレクサンデション。エルは魔法や魔法陣で、ルルは魔道具の制作で、魔法省でも重要な位置にいる天才です。6年前に1年ほどここに住んでいました。エル、ルル。ブローム先生はエルフの血を引く、王立学園の教師だ。縁あってここに滞在してもらっている」
「エルフ……初めて見た。俺はエルと呼んでください」
「っていうか、髪だけで判断してるんですか。……ルルです」
「ブロームです。純血のエルフから何代もたっているんですが、先祖返りのようで精霊を身近に感じることができますし、普通の人間では感じられないものも感じることができます。たとえば、エルとルルの纏う空気があまりよいとはいえない、とか」
エルとルルを見つめたままでブロームが言った。
「よくない? 悪い気なの?」
アシェルナオが呼びかけると精霊たちがアシェルナオの周りに集まった。
『悪い気とはいえないねー』
『だからといって、いい人間とはいえないねー』
『わかんないねー』
『わかんないねー』
ねーねーと言い合う精霊たち。
「精霊たちはなんと?」
精霊の言葉を聞いて首を捻るアシェルナオに、精霊の言葉は聞こえないブロームが尋ねる。
「悪い気とはいえないけど、いい人間とはいえない、わかんない、って」
「そうですか。私にはなんとなく災難の相が見えますが……」
「災難といえば災難なんだが」
アシェルナオとブロームの話を聞いて、シーグフリードが考え込む。
「だめです。帰れ」
考えるまでもない、と言いたげにテュコが断言した。
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