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第3部
死んだらだめっ
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アシェルナオがシーグフリードにプレゼントされた雪うさぎマントを着て、歌と可愛いダンスを披露している時に、突然大きな音を立てて扉が開かれた。
アシェルナオの13歳の誕生日の招待客はすべて揃っているはずだった。
何事かと扉を振り向いたオリヴェル、パウラ、招待客らは、花束を手にしたヴァレリラルドを見つけると思わず動きを止めた。
誰よりも梛央の死に自責の念を抱き続け、もう一度会いたいと切望し、けれどそれは叶わぬ夢だと絶望する。それをヴァレリラルドはこの14年近くで数えきれないほど繰り返してきた。それを知っていてアシェルナオの存在を隠してきた人々は、突然己の罪を突きつけられていた。
「これは、その、だな……」
3年前に一度打ち明けようとしたが、できないまま今を迎えたベルンハルドが言葉に詰まる。
アシェルナオが自分の身の危険を顧みずにヴァレリラルドの窮地を救ったことで、まだ2人を離しておくことにした者たちも、その対応は間違っていないと思いながらも、言葉をかけられずにいたら。
ヴァレリラルドの気持ちを踏みにじったと言われても仕方ない仕打ちをしてきたとわかっているからだった。
気まずい思いでヴァレリラルがアシェルナオに駆け寄るのを見守っていたが、
「来ちゃだめ!」
アシェルナオはまるで雪うさぎのような恰好になって蹲り、自分に近づくヴァレリラルドを拒絶した。
アシェルナオに拒絶されたヴァレリラルドは、それでも、雪うさぎの存在を確かめるようにゆっくりと近づく。
「本当に……? 本当にナオなのか? その雪うさぎは、3年前のボスカルバングを倒した雪うさぎだ……ナオは、また私を救ってくれたのか? 3年前はたった10歳だったじゃないか。あの時の小さな体で助けに来てくれたのか?」
信じられないといった顔でアシェルナオに近づくヴァレリラルド。
「……僕、ヴァルのためなら何度でも助けるよ」
蹲る雪うさぎから小さな声がした。
「ナオっ!」
本当に目の前の雪うさぎが梛央だと確信が持てたヴァレリラルドは歓喜の声をあげる。
だが、
「来ちゃだめっ」
自分に近づこうとするヴァレリラルドに、雪うさぎはフードを手で押さえながら悲鳴のような声をあげた。
「なぜ……ナオの顔が見たい。ナオを抱きしめたい。ナオがそこにいることを確かめたいんだ」
ヴァレリラルドの手が雪うさぎを捕獲しようと伸ばされる。
「……だって、僕まだ小さいから。……10歳のときに洗礼を受けて秋葉梛央の記憶が戻ったけど、体は10歳の子供で……。兄様に連れて行ってもらった卒業式でヴァルを見て、ヴァル大きくなってて、かっこよくなってて、僕、小さい自分を初めて悲しいと思ったんだ。悲しくて苦しくて。だから僕、大きくなってヴァルに釣り合うようになるまでは会わないって、会わないってっ」
声を震わせる雪うさぎに、ヴァレリラルドは夢見るほど焦がれていた梛央が目の前にいて、大きくなった自分をかっこいいと言ってくれたことに喜びで小さく震えた。
「ナオが子供でも、大人でも、私にとってナオはナオだ。この世で一番尊くて、一番大切なナオだ。ナオ、お願いだ。顔を見せてほしい。ずっと、ずっと会いたいと思っていたんだ。ナオが消えたあの日から、ずっとナオに会いたかった。都合がいい話だと思うかもしれないけど、いつか、必ず会えると思っていた。たとえ死んでも……本当は、死んだらナオに会えると思って、どんな危険なことでも向かって行けたんだ」
ヴァレリラルドの言葉が、ベルンハルドやシーグフリード、ケイレブの胸を打ち抜く。
やはりヴァレリラルドは、いつ死んでもいいと厭世的な目で物事を見ていたのだ。
「死んだらだめっ」
アシェルナオも顔をあげてヴァレリラルドを懸命に見つめる。
長めの前髪から覗く黒曜石の潤んだ瞳で見上げてくるアシェルナオに、ヴァレリラルドはその場で両膝をついた。
「ナオだ……本当にナオだ……あの時より小さいけど、確かにナオだ」
両手を組み合わせ、祈るように額にその手をつける。
目の前で自分を庇って、赤い血に染まって消えてしまった梛央を失って、いつか会いたい。会いたい。会いたい。そう願っていてもそれは身勝手な願望だと知っていた。それでも諦めきれないでいた梛央への思いが、涙となってヴァレリラルドの蒼い瞳から溢れていた。
組み合わされた手で隠れたヴァレリラルドの顔から、頬を伝う涙が垣間見えて、アシェルナオは立ち上がってその頭を抱き包む。
体は13歳だが、心は16歳の時のままのアシェルナオは、まるで当時8歳のヴァレリラルドにするように21歳のヴァレリラルドの髪をなでる。
「ヴァルが死なないように、僕が護るから。何度でも護るから、死んじゃだめ」
「ナオ……13年前私を庇って消えたのに、また私を助けてくれた雪うさぎ……。聞こえていたよ。待っててね、大好きだよ、って。私も好きだ。ずっと、8歳の頃からずっと、ずっと、愛してる」
ヴァレリラルドは顔をあげると、アシェルナオの体を抱きしめる。
前よりも小さいが、この感触、この匂いは梛央だった。
ヴァレリラルドの胸におさまったアシェルナオは、その胸に顔を押し付ける。
アシェルナオも、ずっと会いたいと思っていたヴァレリラルドが自分を抱きしめていることを実感していた。
「僕も……ヴァルが好き。大好き」
アシェルナオの13歳の誕生日の招待客はすべて揃っているはずだった。
何事かと扉を振り向いたオリヴェル、パウラ、招待客らは、花束を手にしたヴァレリラルドを見つけると思わず動きを止めた。
誰よりも梛央の死に自責の念を抱き続け、もう一度会いたいと切望し、けれどそれは叶わぬ夢だと絶望する。それをヴァレリラルドはこの14年近くで数えきれないほど繰り返してきた。それを知っていてアシェルナオの存在を隠してきた人々は、突然己の罪を突きつけられていた。
「これは、その、だな……」
3年前に一度打ち明けようとしたが、できないまま今を迎えたベルンハルドが言葉に詰まる。
アシェルナオが自分の身の危険を顧みずにヴァレリラルドの窮地を救ったことで、まだ2人を離しておくことにした者たちも、その対応は間違っていないと思いながらも、言葉をかけられずにいたら。
ヴァレリラルドの気持ちを踏みにじったと言われても仕方ない仕打ちをしてきたとわかっているからだった。
気まずい思いでヴァレリラルがアシェルナオに駆け寄るのを見守っていたが、
「来ちゃだめ!」
アシェルナオはまるで雪うさぎのような恰好になって蹲り、自分に近づくヴァレリラルドを拒絶した。
アシェルナオに拒絶されたヴァレリラルドは、それでも、雪うさぎの存在を確かめるようにゆっくりと近づく。
「本当に……? 本当にナオなのか? その雪うさぎは、3年前のボスカルバングを倒した雪うさぎだ……ナオは、また私を救ってくれたのか? 3年前はたった10歳だったじゃないか。あの時の小さな体で助けに来てくれたのか?」
信じられないといった顔でアシェルナオに近づくヴァレリラルド。
「……僕、ヴァルのためなら何度でも助けるよ」
蹲る雪うさぎから小さな声がした。
「ナオっ!」
本当に目の前の雪うさぎが梛央だと確信が持てたヴァレリラルドは歓喜の声をあげる。
だが、
「来ちゃだめっ」
自分に近づこうとするヴァレリラルドに、雪うさぎはフードを手で押さえながら悲鳴のような声をあげた。
「なぜ……ナオの顔が見たい。ナオを抱きしめたい。ナオがそこにいることを確かめたいんだ」
ヴァレリラルドの手が雪うさぎを捕獲しようと伸ばされる。
「……だって、僕まだ小さいから。……10歳のときに洗礼を受けて秋葉梛央の記憶が戻ったけど、体は10歳の子供で……。兄様に連れて行ってもらった卒業式でヴァルを見て、ヴァル大きくなってて、かっこよくなってて、僕、小さい自分を初めて悲しいと思ったんだ。悲しくて苦しくて。だから僕、大きくなってヴァルに釣り合うようになるまでは会わないって、会わないってっ」
声を震わせる雪うさぎに、ヴァレリラルドは夢見るほど焦がれていた梛央が目の前にいて、大きくなった自分をかっこいいと言ってくれたことに喜びで小さく震えた。
「ナオが子供でも、大人でも、私にとってナオはナオだ。この世で一番尊くて、一番大切なナオだ。ナオ、お願いだ。顔を見せてほしい。ずっと、ずっと会いたいと思っていたんだ。ナオが消えたあの日から、ずっとナオに会いたかった。都合がいい話だと思うかもしれないけど、いつか、必ず会えると思っていた。たとえ死んでも……本当は、死んだらナオに会えると思って、どんな危険なことでも向かって行けたんだ」
ヴァレリラルドの言葉が、ベルンハルドやシーグフリード、ケイレブの胸を打ち抜く。
やはりヴァレリラルドは、いつ死んでもいいと厭世的な目で物事を見ていたのだ。
「死んだらだめっ」
アシェルナオも顔をあげてヴァレリラルドを懸命に見つめる。
長めの前髪から覗く黒曜石の潤んだ瞳で見上げてくるアシェルナオに、ヴァレリラルドはその場で両膝をついた。
「ナオだ……本当にナオだ……あの時より小さいけど、確かにナオだ」
両手を組み合わせ、祈るように額にその手をつける。
目の前で自分を庇って、赤い血に染まって消えてしまった梛央を失って、いつか会いたい。会いたい。会いたい。そう願っていてもそれは身勝手な願望だと知っていた。それでも諦めきれないでいた梛央への思いが、涙となってヴァレリラルドの蒼い瞳から溢れていた。
組み合わされた手で隠れたヴァレリラルドの顔から、頬を伝う涙が垣間見えて、アシェルナオは立ち上がってその頭を抱き包む。
体は13歳だが、心は16歳の時のままのアシェルナオは、まるで当時8歳のヴァレリラルドにするように21歳のヴァレリラルドの髪をなでる。
「ヴァルが死なないように、僕が護るから。何度でも護るから、死んじゃだめ」
「ナオ……13年前私を庇って消えたのに、また私を助けてくれた雪うさぎ……。聞こえていたよ。待っててね、大好きだよ、って。私も好きだ。ずっと、8歳の頃からずっと、ずっと、愛してる」
ヴァレリラルドは顔をあげると、アシェルナオの体を抱きしめる。
前よりも小さいが、この感触、この匂いは梛央だった。
ヴァレリラルドの胸におさまったアシェルナオは、その胸に顔を押し付ける。
アシェルナオも、ずっと会いたいと思っていたヴァレリラルドが自分を抱きしめていることを実感していた。
「僕も……ヴァルが好き。大好き」
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