211 / 425
第2部
跳べ、雪うさぎ!
しおりを挟む
「ヴァルのところ!」
強く願ってアシェルナオが現れた先は、木や土の匂いが広がる山の麓の森だった。
木や土の匂いがするのは、大量の魔獣が山を荒らしながら駆け降りてきた証だった。
『会いたい……ナオ……』
微かなヴァレリラルドの声が聞こえた。
辺りを見回すと、少し開けた場所に一際大きな2本の牙を持つ魔獣がいた。
「おっきなマンモス……」
思わず呟いたアシェルナオだが、それが向き合っている木の幹にヴァレリラルドが左肩を押さえて座り込んでいた。
「ヴァル!」
ヴァレリラルドに駆け寄ったアシェルナオは、ひどい出血に気が付いて小さな悲鳴をあげる。
「ヴァル、しっかり!」
アシェルナオが呼びかけるが、ヴァレリラルドの凛々しい美貌は顔色を失っており、澄んだ蒼い瞳は今は力なく閉ざされていた。
ヴァレリラルドが心配だったが、落ち着いて介抱するには後ろで咆哮をあげているボスカルバングをどうにかしなければいけなかった。
「ヴァル、すぐに手当するから待ってて。ヴァルの剣、ちょっと借りるね」
そう言うとアシェルナオはヴァレリラルドの腰の剣を抜く。だが、その重さに、すぐに地面に切っ先がついてしまった。
「重たっ……ぐりっ!」
『軽くするよー』
ぐりが風魔法で剣の周りに風を纏わせる。
「ありがと。ちゃー、足場!」
ボスカルバングに向き直り、その瞳を睨みつけながら剣をかまえてアシェルナオが言うと、ボスカルバングに向けて土の階段が伸びる。
「ぴか、目つぶし!」
階段を駆け上がりながらアシェルナオが言うと、ボスカルバングの目の前で閃光が走る。
目がくらんだボスカルバングがパニックを起こして頭を振り回し、巨大な牙がアシェルナオの前を何度も横切る。
何度目かのそれが階段を崩し、アシェルナオの体が空中に投げ出された。
「ぐり、バックアップ! からの、足場! ひぃ、辺りを照らして!」
空気のクッションで受け止められ、体勢を立て直して空中を飛びあがる。
ひぃが松明の炎をいくつも作って、あたりを照らす。
「みっちー、剣に氷を! いくよ!」
ヴァルを護る。たとえまた死んでしまうことになっても、護る。何度でも、護る。ヴァルは僕が護る。
強い思いはボスカルバングへの恐怖を軽く凌駕していた。
雪うさぎマントのアシェルナオはボスカルバングの頭上に向けて跳躍する。
ボスカルバングの登頂は広く平べったく、安定性のある場所だった。
クランツが通信機越しに弱点だと言っていた脳天。アシェルナオは躊躇せずに氷を纏ったヴァレリラルドの剣をそこに突き立てる。
血しぶきがあがったが、ぐりがエアカーテンでアシェルナオが浴びないようにカバーした。
「ありがと、ぐり」
雷鳴のような咆哮をあげ、ボスカルバングは前足を持ち上げて背をのけぞらせる。
アシェルナオは空中に飛び退る。
「みっちー、雨! ぴか、雷っ!」
ボスカルバングの上だけに強い雨が降り、本物の雷鳴が轟く。
稲妻が頭頂部に突き刺さった剣に落ち、耳をつんざくような咆哮をあげながらボスカルバングがどぉぉぉんっ、と、地響きを立てて倒れた。
振動で土埃が舞い、小枝が飛び散った。
薄れゆく意識の中で、ヴァレリラルドは夜空を跳ぶ雪うさぎを見た。夜の闇に輝く白いマントの後ろには丸いふわふわのしっぽがあり、フードからは2つの長い耳が生えていた。
白いマントからのぞく雪うさぎの足も白くて細い。そのすらりと伸びた足が空中を蹴り、自在に飛び跳ねながら果敢にボスカルバングに挑んでいた。
可愛い夢を見てるものだ。
ヴァレリラルドの口元に笑みが浮かぶ。
やがて地面が揺れ、土埃が舞ったかと思うと、雪うさぎが自分の方に駆けてきた。
まっててね……大好きだよ……
途切れる意識の中で、あの時の梛央の言葉に似た言葉が雪うさぎから聞こえた。
ヴァレリラルドの心は久しぶりに穏やかな安らぎを感じていた。
強く願ってアシェルナオが現れた先は、木や土の匂いが広がる山の麓の森だった。
木や土の匂いがするのは、大量の魔獣が山を荒らしながら駆け降りてきた証だった。
『会いたい……ナオ……』
微かなヴァレリラルドの声が聞こえた。
辺りを見回すと、少し開けた場所に一際大きな2本の牙を持つ魔獣がいた。
「おっきなマンモス……」
思わず呟いたアシェルナオだが、それが向き合っている木の幹にヴァレリラルドが左肩を押さえて座り込んでいた。
「ヴァル!」
ヴァレリラルドに駆け寄ったアシェルナオは、ひどい出血に気が付いて小さな悲鳴をあげる。
「ヴァル、しっかり!」
アシェルナオが呼びかけるが、ヴァレリラルドの凛々しい美貌は顔色を失っており、澄んだ蒼い瞳は今は力なく閉ざされていた。
ヴァレリラルドが心配だったが、落ち着いて介抱するには後ろで咆哮をあげているボスカルバングをどうにかしなければいけなかった。
「ヴァル、すぐに手当するから待ってて。ヴァルの剣、ちょっと借りるね」
そう言うとアシェルナオはヴァレリラルドの腰の剣を抜く。だが、その重さに、すぐに地面に切っ先がついてしまった。
「重たっ……ぐりっ!」
『軽くするよー』
ぐりが風魔法で剣の周りに風を纏わせる。
「ありがと。ちゃー、足場!」
ボスカルバングに向き直り、その瞳を睨みつけながら剣をかまえてアシェルナオが言うと、ボスカルバングに向けて土の階段が伸びる。
「ぴか、目つぶし!」
階段を駆け上がりながらアシェルナオが言うと、ボスカルバングの目の前で閃光が走る。
目がくらんだボスカルバングがパニックを起こして頭を振り回し、巨大な牙がアシェルナオの前を何度も横切る。
何度目かのそれが階段を崩し、アシェルナオの体が空中に投げ出された。
「ぐり、バックアップ! からの、足場! ひぃ、辺りを照らして!」
空気のクッションで受け止められ、体勢を立て直して空中を飛びあがる。
ひぃが松明の炎をいくつも作って、あたりを照らす。
「みっちー、剣に氷を! いくよ!」
ヴァルを護る。たとえまた死んでしまうことになっても、護る。何度でも、護る。ヴァルは僕が護る。
強い思いはボスカルバングへの恐怖を軽く凌駕していた。
雪うさぎマントのアシェルナオはボスカルバングの頭上に向けて跳躍する。
ボスカルバングの登頂は広く平べったく、安定性のある場所だった。
クランツが通信機越しに弱点だと言っていた脳天。アシェルナオは躊躇せずに氷を纏ったヴァレリラルドの剣をそこに突き立てる。
血しぶきがあがったが、ぐりがエアカーテンでアシェルナオが浴びないようにカバーした。
「ありがと、ぐり」
雷鳴のような咆哮をあげ、ボスカルバングは前足を持ち上げて背をのけぞらせる。
アシェルナオは空中に飛び退る。
「みっちー、雨! ぴか、雷っ!」
ボスカルバングの上だけに強い雨が降り、本物の雷鳴が轟く。
稲妻が頭頂部に突き刺さった剣に落ち、耳をつんざくような咆哮をあげながらボスカルバングがどぉぉぉんっ、と、地響きを立てて倒れた。
振動で土埃が舞い、小枝が飛び散った。
薄れゆく意識の中で、ヴァレリラルドは夜空を跳ぶ雪うさぎを見た。夜の闇に輝く白いマントの後ろには丸いふわふわのしっぽがあり、フードからは2つの長い耳が生えていた。
白いマントからのぞく雪うさぎの足も白くて細い。そのすらりと伸びた足が空中を蹴り、自在に飛び跳ねながら果敢にボスカルバングに挑んでいた。
可愛い夢を見てるものだ。
ヴァレリラルドの口元に笑みが浮かぶ。
やがて地面が揺れ、土埃が舞ったかと思うと、雪うさぎが自分の方に駆けてきた。
まっててね……大好きだよ……
途切れる意識の中で、あの時の梛央の言葉に似た言葉が雪うさぎから聞こえた。
ヴァレリラルドの心は久しぶりに穏やかな安らぎを感じていた。
69
お気に入りに追加
959
あなたにおすすめの小説

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。
アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。
それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。
するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。
それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき…
遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。
……とまぁ、ここまでは良くある話。
僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき…
遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。
「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」
それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。
なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…?
2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。
皆様お陰です、有り難う御座います。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる

風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる