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第2部
何度でも助けるよ(出てこいボフ美)
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『ねぇ、ねぇ』
泣き疲れて眠るアシェルナオは、けれど眠りは浅くて、自分を呼ぶ声で目を覚ました。
目を開けると、すぐ目の前に花弁をくれた花の妖精の姿があった。
「妖精さん……」
『大変だったわね。大丈夫? さっきこれも飛ばされちゃったから持ってきたの』
言いながらアシェルナオに花弁を渡す。
突然男が現れて、目の前で顔に火傷を負ったところを目の当たりにしたショックが強すぎて気が動転してしまったアシェルナオは、花弁を見てヴァレリラルドのことが頭から抜け落ちていたことに気づいた。
アシェルナオは、体は丸めたまま手を伸ばしてそれを受け取って耳に当てる。
『殿下、そちらにボスカルバングが移動しています!』
サミュエルの切迫した声が聞こえてきた。いきなり火急の事態に出くわして、アシェルナオの心臓が跳ね上がる。
祈るような気持ちでヴァレリラルドの力強い声を待ち望んでいたが、
『ぐっ』
耐えるような、噛みつぶすような声が聞こえた。
ヴァレリラルドの身によくないことが起きたに違いなかった。
「ヴァル!」
突然体を起こしてヴァレリラルドを呼ぶアシェルナオに、何事かとオリヴェルとパウラも目を覚ます。
「アシェルナオ? 怖い夢を見たのかい?」
「ヴァルを助けなきゃ」
緊急の事態に、それしかない頭にないアシェルナオに、
『どうやって?』
『遠いところにいるよ?』
『それ使えばいいよ』
『転移陣だねー』
『魔力いるよねー』
精霊たちが周りで口々に言いあう。
アシェルナオはリングダール型ポシェットに転移陣を付与したことを思い出して、それを握りしめる。
「僕が助ける! 何度でも助ける!」
純粋な思いが願いとなり、リングダール型ポシェットが眩しく光る。
同時にアシェルナオの姿はどこにもなかった。
「僕が助ける! 何度でも助ける!」
「ナオ様!」
「アシェルナオ!」
突然起き上がり、叫んだかと思うと光とともに消えてしまったアシェルナオに、オリヴェルとパウラが立ち上がる。
サリアンとテュコも駆け寄るが、すでにその姿はどこにもなかった。
「さっきとは違う。でも突然いなくなった」
焦った様子であたりを見回しながらサリアンが言う。
テュコは暗くしていた照明を全灯にし、サリアンと共に周囲を探したが、何の手がかりもなかった。
「あなた、どうしましょう、アシェルナオが……」
「ヴァルを助けると言っていたが、ヴァルとはヴァレリラルド王太子殿下のことだろうか。ならばアシェルナオは……」
「エンロートに行った……? まさか、本当にリングダールポシェットの転移陣で?」
顔を見合わせるテュコとサリアン。
「そうなの!」
突然花の妖精が姿を見せた。
「ヴァルがピンチなの。だからナオ、精霊たちとヴァルのところに行ったの。お知らせ終わり」
花の妖精はテュコに伝えるだけ伝えると消えてしまった。
「ぇぇと……今のは……」
「ナオ様が親しくなられた花の妖精ですよ」
「あ、ああ……ナオ様ならなんでもありだよね」
若干遠い目をするサリアン。
「スタンピードに近い状況だと聞いている。そんなところにアシェルナオが行ったのか?」
動揺するオリヴェルと、その言葉に顔を青くするパウラ。
「精霊たちと……」
呟いて、テュコは何かを思いついた顔をした。
「何? 何か思いついた?」
「ええ。サリアンには心臓に悪いでしょうから下がってていいですよ」
テュコは悪い顔でそう言うと、虚空に向かって、
「ボフ美! 出てこいっ!」
大声で、若干キレ気味に叫んだ。
精霊王を変な名前で呼んだことに顔色を悪くするサリアン。やがて、
「はーい。呼んだ?」
またもや何もない空間から落ちるような勢いでボフ美が現れた。
「ナオ様が精霊たちと一緒に、エンロートの郊外で魔獣の群れと戦っている王太子殿下を助けに行った。下手したら殿下もろとも死ぬような状況だぞ。もしそうなったらお前、精霊王ではいられないぞ」
テュコはボフ美に怒りをぶつける。
「えぇぇぇぇ。何してるのよぅ、ナオちゃん」
そのまま飛んでいきそうな勢いのボフ美の腕を、テュコががっつりと掴む。
「待て、ボフ美。私も連れて行け」
「えぇぇぇぇっ。無理無理ぃ」
「できないとは言わせないぞ、かりにも精霊王だろう!」
有無を言わさぬ形相で要求するテュコに、
「ボフ美、人を連れて転移したことないから、どうなるかわからないわよぅ」
「うるさい、連れて行け!」
「精霊王使いが荒いぃ」
しぶしぶ同意するボフ美の、テュコが掴んでいる方とは別の腕を、サリアンが掴む。
「私も連れて行け。護衛対象のそばにいられないくらいなら、精霊王から不敬罪で訴えられる方がましだ」
開き直ったサリアンが精霊王ボフ美に噛みつくように言った。
「あああんんっ、もう、ボフ美知らないからねっ!」
「うるさい、とっとと行けっ!」
悩ましい声をあげるボフスラヴァに怒鳴るテュコの声を残して、今までそこにいた者たちの姿が消えた。
「誰か、デュルフェルを呼べ! 王城に連絡を!」
残されたオリヴェルが扉の外の警護兵に叫んだ。
泣き疲れて眠るアシェルナオは、けれど眠りは浅くて、自分を呼ぶ声で目を覚ました。
目を開けると、すぐ目の前に花弁をくれた花の妖精の姿があった。
「妖精さん……」
『大変だったわね。大丈夫? さっきこれも飛ばされちゃったから持ってきたの』
言いながらアシェルナオに花弁を渡す。
突然男が現れて、目の前で顔に火傷を負ったところを目の当たりにしたショックが強すぎて気が動転してしまったアシェルナオは、花弁を見てヴァレリラルドのことが頭から抜け落ちていたことに気づいた。
アシェルナオは、体は丸めたまま手を伸ばしてそれを受け取って耳に当てる。
『殿下、そちらにボスカルバングが移動しています!』
サミュエルの切迫した声が聞こえてきた。いきなり火急の事態に出くわして、アシェルナオの心臓が跳ね上がる。
祈るような気持ちでヴァレリラルドの力強い声を待ち望んでいたが、
『ぐっ』
耐えるような、噛みつぶすような声が聞こえた。
ヴァレリラルドの身によくないことが起きたに違いなかった。
「ヴァル!」
突然体を起こしてヴァレリラルドを呼ぶアシェルナオに、何事かとオリヴェルとパウラも目を覚ます。
「アシェルナオ? 怖い夢を見たのかい?」
「ヴァルを助けなきゃ」
緊急の事態に、それしかない頭にないアシェルナオに、
『どうやって?』
『遠いところにいるよ?』
『それ使えばいいよ』
『転移陣だねー』
『魔力いるよねー』
精霊たちが周りで口々に言いあう。
アシェルナオはリングダール型ポシェットに転移陣を付与したことを思い出して、それを握りしめる。
「僕が助ける! 何度でも助ける!」
純粋な思いが願いとなり、リングダール型ポシェットが眩しく光る。
同時にアシェルナオの姿はどこにもなかった。
「僕が助ける! 何度でも助ける!」
「ナオ様!」
「アシェルナオ!」
突然起き上がり、叫んだかと思うと光とともに消えてしまったアシェルナオに、オリヴェルとパウラが立ち上がる。
サリアンとテュコも駆け寄るが、すでにその姿はどこにもなかった。
「さっきとは違う。でも突然いなくなった」
焦った様子であたりを見回しながらサリアンが言う。
テュコは暗くしていた照明を全灯にし、サリアンと共に周囲を探したが、何の手がかりもなかった。
「あなた、どうしましょう、アシェルナオが……」
「ヴァルを助けると言っていたが、ヴァルとはヴァレリラルド王太子殿下のことだろうか。ならばアシェルナオは……」
「エンロートに行った……? まさか、本当にリングダールポシェットの転移陣で?」
顔を見合わせるテュコとサリアン。
「そうなの!」
突然花の妖精が姿を見せた。
「ヴァルがピンチなの。だからナオ、精霊たちとヴァルのところに行ったの。お知らせ終わり」
花の妖精はテュコに伝えるだけ伝えると消えてしまった。
「ぇぇと……今のは……」
「ナオ様が親しくなられた花の妖精ですよ」
「あ、ああ……ナオ様ならなんでもありだよね」
若干遠い目をするサリアン。
「スタンピードに近い状況だと聞いている。そんなところにアシェルナオが行ったのか?」
動揺するオリヴェルと、その言葉に顔を青くするパウラ。
「精霊たちと……」
呟いて、テュコは何かを思いついた顔をした。
「何? 何か思いついた?」
「ええ。サリアンには心臓に悪いでしょうから下がってていいですよ」
テュコは悪い顔でそう言うと、虚空に向かって、
「ボフ美! 出てこいっ!」
大声で、若干キレ気味に叫んだ。
精霊王を変な名前で呼んだことに顔色を悪くするサリアン。やがて、
「はーい。呼んだ?」
またもや何もない空間から落ちるような勢いでボフ美が現れた。
「ナオ様が精霊たちと一緒に、エンロートの郊外で魔獣の群れと戦っている王太子殿下を助けに行った。下手したら殿下もろとも死ぬような状況だぞ。もしそうなったらお前、精霊王ではいられないぞ」
テュコはボフ美に怒りをぶつける。
「えぇぇぇぇ。何してるのよぅ、ナオちゃん」
そのまま飛んでいきそうな勢いのボフ美の腕を、テュコががっつりと掴む。
「待て、ボフ美。私も連れて行け」
「えぇぇぇぇっ。無理無理ぃ」
「できないとは言わせないぞ、かりにも精霊王だろう!」
有無を言わさぬ形相で要求するテュコに、
「ボフ美、人を連れて転移したことないから、どうなるかわからないわよぅ」
「うるさい、連れて行け!」
「精霊王使いが荒いぃ」
しぶしぶ同意するボフ美の、テュコが掴んでいる方とは別の腕を、サリアンが掴む。
「私も連れて行け。護衛対象のそばにいられないくらいなら、精霊王から不敬罪で訴えられる方がましだ」
開き直ったサリアンが精霊王ボフ美に噛みつくように言った。
「あああんんっ、もう、ボフ美知らないからねっ!」
「うるさい、とっとと行けっ!」
悩ましい声をあげるボフスラヴァに怒鳴るテュコの声を残して、今までそこにいた者たちの姿が消えた。
「誰か、デュルフェルを呼べ! 王城に連絡を!」
残されたオリヴェルが扉の外の警護兵に叫んだ。
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