194 / 492
第2部
核心
しおりを挟む
仕事がひと段落すると、オルドジフはハッセルバリを伴ってフランソン精霊神殿に向かった。
前の日に訪ねてきたシーグフリードから、エーマン子爵家の子供がいなくなった時に、その屋敷付近に神殿の荷馬車が止まっていたという事実を知らされたからだった。
「しかし子爵家の子供が帰って来てよかったですね」
馬車の中から王都の光景を眺めるハッセルバリ。
「ああ。もう1人の子供も無事に見つかるといいが」
もしも。
もしもアシェルナオが、愛し子を狙う何者かのせいで同じ日に洗礼を受けた2人の子供が攫われたと知ったら、どれだけの心労を背負うだろう。
そう思うと、できればアシェルナオの知らないうちにすべてが丸くおさまってくれればいい。そう願うオルドジフだった。
「オルドジフ殿。また何かありましたか?」
突然来訪したオルドジフたちを応対するフランソン精霊神殿の神殿長補佐カスパルは、少し緊張した面持ちで尋ねる。
「今日は教えてほしいことがあって訪ねさせてもらった。精霊神殿では、孤児院に食料を配布していると思うが」
「ええ。王都にはいろいろな理由で親が育てることのできない孤児院が8つあります。その子たちが食べるもので困ることがないように、フランソン精霊神殿では月に2度食料の配布を行っています」
「それは決まった日にちだろうか。配布する荷馬車はフランソン精霊神殿のものを?」
「うちでは毎月、1と3の光に配布しています。荷馬車は市場の荷馬車を借りますから、配布するための専用の荷馬車は所有していません」
「そうか。ありがとう」
それだけを聞くと、オルドジフとハッセルバリはフランソン精霊神殿をあとにした。
「子供たちがいなくなったのは1の水でしたね。フランソン精霊神殿では曜日が違います」
「荷馬車もないと言っていた。次はバスロ精霊神殿だ」
オルドジフは悪い予感が頭から離れなかった。
事前連絡をしていなかったが、オルドジフたちが訪問すると神殿長補佐のペッレがすぐに対応に出てくれた。
「急に訪れてすまない。少し確認したいことがあるんだが」
「なんなりとお聞きください」
オルドジフが確認したいということは、グルンドライストが確認したいことだと考えるペッレは協力的だった。
「うむ。バスロではフランソンとともに孤児院に食料の配布を行っているのだったな」
「はい。週に一度、4つの孤児院に。翌週は別の4つの孤児院に食料を配布しています」
「それはどの日に?」
「水の日です」
ペッレの答えに、ハッセルバリはオルドジフに視線を向ける。
「食料を配布するための荷馬車は?」
「毎週のことですので、専用の荷馬車を所有しています」
「そうか……。1の水に食料の配布に行ったのは誰か教えてほしいんだが」
「誰でしたか……。記録簿に残っているはずです。少々お待ちください」
ペッレはオルドジフたちを残して、配布担当の部署に記録簿を取りに行った。
「オルドジフ殿」
子供を攫った、もしくはこの件に深く関係しているだろう者がバスロ精霊神殿の内部にいる。その核心に触れようとしていて、ハッセルバリは緊迫した顔でオルドジフを見た。
「ああ……」
だがオルドジフは苦しい表情でそれ以上は何も言わなかった。
「お待たせしました」
やがて記録簿を手にペッレが戻ってきた。
「1の水は……ああ、ネルダールです」
ペッレが口にした名前に、オルドジフの危惧が現実のものとなった。
「配布した孤児院はどこだろう?」
「アッケル、カルス、フラート、ストラ地区の孤児院です」
「そうか」
ストラ地区は王都のはずれ、ノシュテット伯爵の子供が見つかったという森のある地区だった。
「ネルダールと話がしたいんだが、頼めるか?」
思いつめた顔のオルドジフに、ペッレは申し訳なさそうに首を振った。
「先日もお話しましたが、ネルダールは体調を崩したようでして、しばらく実家に帰っています」
「実家?」
実家とは縁遠く、神殿を出れば行く場所がない。一生を神官として全うする。
親しくしていた頃に聞いたネルダールの話を思い出してオルドジフの眉間にしわが寄る。
「どうかされましたか?」
「ネルダールとはかつて親しくしていた。ネルダールを見舞いたいのだが、実家はどこかわかるか?」
「ネルダールはあまり自分のことを話さないので……」
「ネルダールは心配されるのを拒むところがある。ネルーダルが戻ってきたら、ネルダールには内緒で私に連絡してほしい」
前の日に訪ねてきたシーグフリードから、エーマン子爵家の子供がいなくなった時に、その屋敷付近に神殿の荷馬車が止まっていたという事実を知らされたからだった。
「しかし子爵家の子供が帰って来てよかったですね」
馬車の中から王都の光景を眺めるハッセルバリ。
「ああ。もう1人の子供も無事に見つかるといいが」
もしも。
もしもアシェルナオが、愛し子を狙う何者かのせいで同じ日に洗礼を受けた2人の子供が攫われたと知ったら、どれだけの心労を背負うだろう。
そう思うと、できればアシェルナオの知らないうちにすべてが丸くおさまってくれればいい。そう願うオルドジフだった。
「オルドジフ殿。また何かありましたか?」
突然来訪したオルドジフたちを応対するフランソン精霊神殿の神殿長補佐カスパルは、少し緊張した面持ちで尋ねる。
「今日は教えてほしいことがあって訪ねさせてもらった。精霊神殿では、孤児院に食料を配布していると思うが」
「ええ。王都にはいろいろな理由で親が育てることのできない孤児院が8つあります。その子たちが食べるもので困ることがないように、フランソン精霊神殿では月に2度食料の配布を行っています」
「それは決まった日にちだろうか。配布する荷馬車はフランソン精霊神殿のものを?」
「うちでは毎月、1と3の光に配布しています。荷馬車は市場の荷馬車を借りますから、配布するための専用の荷馬車は所有していません」
「そうか。ありがとう」
それだけを聞くと、オルドジフとハッセルバリはフランソン精霊神殿をあとにした。
「子供たちがいなくなったのは1の水でしたね。フランソン精霊神殿では曜日が違います」
「荷馬車もないと言っていた。次はバスロ精霊神殿だ」
オルドジフは悪い予感が頭から離れなかった。
事前連絡をしていなかったが、オルドジフたちが訪問すると神殿長補佐のペッレがすぐに対応に出てくれた。
「急に訪れてすまない。少し確認したいことがあるんだが」
「なんなりとお聞きください」
オルドジフが確認したいということは、グルンドライストが確認したいことだと考えるペッレは協力的だった。
「うむ。バスロではフランソンとともに孤児院に食料の配布を行っているのだったな」
「はい。週に一度、4つの孤児院に。翌週は別の4つの孤児院に食料を配布しています」
「それはどの日に?」
「水の日です」
ペッレの答えに、ハッセルバリはオルドジフに視線を向ける。
「食料を配布するための荷馬車は?」
「毎週のことですので、専用の荷馬車を所有しています」
「そうか……。1の水に食料の配布に行ったのは誰か教えてほしいんだが」
「誰でしたか……。記録簿に残っているはずです。少々お待ちください」
ペッレはオルドジフたちを残して、配布担当の部署に記録簿を取りに行った。
「オルドジフ殿」
子供を攫った、もしくはこの件に深く関係しているだろう者がバスロ精霊神殿の内部にいる。その核心に触れようとしていて、ハッセルバリは緊迫した顔でオルドジフを見た。
「ああ……」
だがオルドジフは苦しい表情でそれ以上は何も言わなかった。
「お待たせしました」
やがて記録簿を手にペッレが戻ってきた。
「1の水は……ああ、ネルダールです」
ペッレが口にした名前に、オルドジフの危惧が現実のものとなった。
「配布した孤児院はどこだろう?」
「アッケル、カルス、フラート、ストラ地区の孤児院です」
「そうか」
ストラ地区は王都のはずれ、ノシュテット伯爵の子供が見つかったという森のある地区だった。
「ネルダールと話がしたいんだが、頼めるか?」
思いつめた顔のオルドジフに、ペッレは申し訳なさそうに首を振った。
「先日もお話しましたが、ネルダールは体調を崩したようでして、しばらく実家に帰っています」
「実家?」
実家とは縁遠く、神殿を出れば行く場所がない。一生を神官として全うする。
親しくしていた頃に聞いたネルダールの話を思い出してオルドジフの眉間にしわが寄る。
「どうかされましたか?」
「ネルダールとはかつて親しくしていた。ネルダールを見舞いたいのだが、実家はどこかわかるか?」
「ネルダールはあまり自分のことを話さないので……」
「ネルダールは心配されるのを拒むところがある。ネルーダルが戻ってきたら、ネルダールには内緒で私に連絡してほしい」
92
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。
ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と
主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り
狂いに狂ったダンスを踊ろう。
▲▲▲
なんでも許せる方向けの物語り
人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。
ゆう
BL
八代秋(10月12日)
高校一年生 15歳
美術部
真面目な方
感情が乏しい
普通
独特な絵
短い癖っ毛の黒髪に黒目
七星礼矢(1月1日)
高校三年生 17歳
帰宅部
チャラい
イケメン
広く浅く
主人公に対してストーカー気質
サラサラの黒髪に黒目
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる