そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第2部

アシェルナオ、はじめて友達にかむ

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 先にサロンに案内された少年たちは、まだ招待主が現れていないため、サロンの壁ぎわで立って待っていた。

 それぞれの侍従たちは、さらに隅の方で身を寄せて主人たちを見守っている。

 やがてサロンの扉が開かれ、背の高い侍従を伴った少年が現れた。

 同い年には見えない小柄な少年はアッシュグレイの長髪をハーフアップにして編み込み、サークレットをして、紺色の瞳をキラキラと輝かせていた。

 まだ幼さを残しながらも気品のある綺麗な顔だちは一目で心を惹かれるもので、貴族たちの間では公爵家の秘匿の君と呼ばれているアシェルナオを少年たちは息を飲んで見つめた。

 アシェルナオは壁際で立っている少年たちを見つけると驚いた顔をした。

 「どうしたの? 立たされてるの? 何があったの?」

 「ナオ様。彼らがナオ様のお友達ですよ。この場ではナオ様の身分が一番高いので席に座らずに待っていたんです」

 テュコが言うと、

 「ええぇぇぇっ。僕のせいだったの? ごめんね? 僕、初めて友達に会うから楽しみすぎて緊張して、なかなかお部屋から出られなかったんだ」

 申し訳なさそうに詫びるアシェルナオ。

 「ナオ様、まずはホストとしてのご挨拶ですよ。そして席に案内するんです」

 「そうだった」

 パウラに一通りの作法を習っていたが、緊張と驚きで頭から抜けていたアシェルナオは、綺麗な立ち姿をすると、

 「本日は私のお招きに応じていただき、ありがとうございます。エルランデル公爵家次男、アシェルナオ・エリュッ」

 緊張のあまり久しぶりにかんでしまったアシェルナオは泣きそうな顔でテュコを見る。

 想定の範囲内です。

 笑顔で答えるテュコに、

 「エルランデル公爵家次男、アシェルナオ・エルランデルです。ささやかですがお茶とお菓子を用意しています。どうぞおかけください」

 ぺこり、と頭を下げて、上目遣いに見上げてくるアシェルナオに、少年たちは一目と一かみで大好きになった。




 アイナとドリーンを筆頭に、メイドたちが少年たちの前に香りのよいお茶を満たしたティーカップを置いていく。

 それぞれの前にお茶とお菓子の乗った皿が置かれると、

 「あのね、お茶を飲みながら、みんなの名前を聞いてもいい?」

 アシェルナオは、まだ緊張しながら言った。

 「そうしましょう。私からいいでしょうか」

 水色の髪、水色の瞳の、いかにも育ちの良さそうな少年・クラースが手をあげる。

 「うん。お願い」

 「では。私はクラース・カールフェルト。カールフェルト侯爵家の嫡男です。私の方こそアシェルナオ様に会うことを楽しみにしていました。これからよろしくお願いします」

 「クラくんだね。よろしくね」

 アシェルナオにクラくんと呼ばれたクラースは、少し驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに頷いた。

 「次は僕が言います」

 薄いピンク色の髪、紅茶色の瞳をした、可愛い雰囲気の少年が言うと、

 「待って。みんなは僕のお友達だよね? じゃあ、普通に話そう? 僕ね、兄さまがお友達と気安く話しているのを見て、いいなぁって思ってたんだ」

 シーグフリードがヴァレリラルドやウルリク、ベルトルドと丁寧な言葉ではなく気兼ねなく話しているのを思い出して言った。
 
 「アシェルナオ様がいいならそうさせてもらうね。僕はハルネス・タールフェルト。タールフェルト伯爵家次男だよ。僕もアシェルナオ様と会えるのを楽しみにしていたんだ」

 にこにこと愛嬌のある笑顔を見せるハルネス。

 「うん、僕も。よろしくね、ハルル」

 体格があまり自分と変わらないハルネスに親近感を覚えるアシェルナオ。

 「俺はトシュテン・アンデルバリ。アンデルバリ子爵家嫡男だ。初めに言っておくけど、母方の実家は貴族ではなく裕福な商家なんだ」

 赤毛でこげ茶の瞳をした、背のひょろ高い少年がアシェルナオの顔色を窺う。

 どういう意味かわからないアシェルナオはふわりと小首をかしげる。

 「知ってるよ。アブラムソン商会だろう? 下手な貴族より歴史のある由緒正しい商会だ。公爵にアシェルナオ様の学友に選ばれた時点で、それは今更のことだろう」

 クラースの言葉に、

 「トシュのところは老舗なんだね、すごいね」

 アシェルナオは純粋に感心した顔を向け、トシュテンはこそばゆそうな顔をした。

 「最後は俺だな。俺はスヴェン・アールグレーン。アールグレーン子爵家嫡男だ。父は統括騎士団団長をしている。母はアシェルナオ様の護衛で、以前は父と一緒にS級冒険者だった。貴族らしくしなさいとおじいさまは言うが、俺も父のような騎士になるのが夢だ」

 ローズグレイの髪とヘーゼルの瞳をした、一際体格のいい少年に、アシェルナオは小さく歓声をあげる。

 「スヴェン、やっと会えた。サリーから話を聞いてるよ。顔はケイレブに似てるね。体の大きいところも。髪の毛はサリーと同じだね」

 ほわっと花が綻ぶように笑うアシェルナオに、スヴェンは顔を赤らめた。

 「将来のことを決めてるのはいいことだね。その分だと剣の稽古もつんでいるようだ」

 クラースはスヴェンを好感の目で見る。

 スヴェンは気恥ずかしそうに頷いた。

 母の勤め先の子息とは言え、公爵家の学友に選ばれたのは身に余ることだと思っていたスヴェンだったが、アシェルナオを初めとして集められた少年たちも感じのいい者ばかりだった。

 「ありがとう。もしよかったら今度一緒に剣の稽古をしないか?」

 スヴェンはクラースや他の少年を見回す。

 「剣! 僕も稽古したい!」

 ヴァレリラルドの剣の稽古を何度か見学したことのあるアシェルナオは張り切って手をあげた。

 「じゃあ僕もやる」

 「俺も」

 「もちろん私も」

 じゃあみんなでやろうね、次のお茶会の時にね、と、少年たちは楽しそうに次の約束を決めていて、初めてのお茶会が順調に進んでいることにテュコ、アイナ、ドリーン、それにサリアンも胸をなでおろしていた。
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