そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

文字の大きさ
165 / 492
第2部

それ以上ナオ様にはぁはぁするな

しおりを挟む
 「うーん、何をしよう?」

 何か魔法を使ってみてと言われても、自分では何ができるわけでもないアシェルナオは精霊達に問いかける。

 『僕が水をだすー』

 『僕がぐるぐるまわすー』

 『僕もなにかするー』

 『僕もー』

 精霊たちが、はいはい、と手をあげる。

 「じゃあね、これくらいの大きい水」

 『はーい』

 アシェルナオが両手を広げて大きな円を描くと、身長とあまり変わらないほどの大きな水の玉ができた。

 「ぐり、空気の膜で覆って」

 『えいっ』

 「それで……ダイブ!」

 アシェルナオは勢いをつけて大きな水の塊にジャンプする。

 「アシェルナオ!」

 「ナオ様!」

 心配して声をあげるシーグフリードとテュコだが、

 「たのしー」

 トランポリンのように水の玉の上で弾んでいるアシェルナオを見て脱力していた。
 



 「アイナー、ドリーン」

 トランポリンのように水の玉の上で弾みながら、シートに座って待機しているアイナとドリーンに手を振るアシェルナオ。

 「ナオ様、ご立派ですよー」

 「すごい魔法ですー」

 アイナとドリーンも手を振り返す。

 「ナオ様、魔法を見せてとは言いましたが、魔法で遊ぼうとは言ってませんよ。水を消すところまでやってみてください」

 「もう消すの? 楽しいのに……どうやって水を消そうか?」

 アシェルナオは周りで一緒に飛び跳ねている精霊たちに訊く。

 『雨にして降らせちゃう?』

 「みんな濡れるよ?」

 『濡れないものを降らせたら?』

 『濡れないもの?』

 「俺たちを濡らすつもりみたいだ」

 アシェルナオの(客観的には)1人相談タイムを見ていたルルが焦る。

 「ナオ様の魔法には理念とか概念とかがまったくない。面白い」

 エルは感心しながら次の魔法を待っている。

 「アシェルナオ、決まったかい?」

 まだ水球の上のアシェルナオにシーグフリードが尋ねる。

 「はーい」

 アシェルナオは返事をして空中をニ、三度足場にしながら降りてきた。

 「今何をした? 何の属性だ? どういう理念だ?」

 エルが問い詰める。

 「難しいことはわかりません。降りるよ、って言っただけだよ?」

 「難しいことがわからないのにできるのか」

 頽れるエルに、

 「いま自分で愛し子に理念はないから面白いって言ってたじゃん」

 理念崩壊のエルにルルが声をかける。

 「そうだった?愛し子に理念を求めるほうが間違いだった」

 立ち直ったエルに、

 「じゃあ、行きまーす」

 アシェルナオが空中に浮かんでいた巨大な水の玉を握り、

 「なんで握れるんだ……」

 それをぐるぐる振り回して、

 「なんで振り回せるんだ……」

 えーいっ、と真上に放り投げる。

 巨大な水の玉はものすごい勢いで空に上昇していった。

 「なんで真上に、あの重さのものを投げれるんだ! どれだけの魔力を放出してるんだ! それともその小さい体で百人力の持ち主なのか?」

 キレるエル。

 「ん?」
 
 アシェルナオにしてみれば、みっちーやぐりたちがやっていることなので、魔力の放出だとか百人力を出したわけでもない。

 笑顔で首を傾げるアシェルナオに、はぁはぁ、と肩で息をするエル。

 「エル、それ以上ナオ様にはぁはぁするな」

 テュコが注意すると、シーグフリードも頷く。

 ルルは水の玉をずっと目で追っていたが、すぐに見えなくなり、それでもずっと空を見ていると、上空から白いものが落ちてきた。

 それを手のひらでうけとめると、すぐに溶けて消える。

 「雪か」

 「うん。雪だとそんなに濡れないから」

 アシェルナオが言うと、

 「素敵です、ナオ様」

 「ロマンティックです」

 シートの上のアイナとドリーンもうっとりと、舞い降りる雪を眺めている。

 「雪を降らせるなんて、どれだけ上空まであの水の玉を持ち上げていったというんだ……」

 ブツブツと呟くエルに、
 
 「エル。これからの魔法の授業では学園で悪目立ちをしないように、各属性の初級魔法が《ほどほどに使えるように見える》ようにしてほしい」

 シーグフリードが今後の方針を指示した。

 「初級……わかりました。明日からはそうします」

 「確かにそれは必要でしょうね。ナオ様の魔法は多少型破りのようです」

 学園で魔法の授業を受けるのに支障のない知識と実技は必要で、テュコもシーグフリードの意見に賛成だった。

 それに、あまり大きな魔法を使うのは、アシェルナオが精霊の愛し子ではなく精霊そのものになってしまいそうで、不安でもあった。

 「ナオ様、みな様。体が冷えましたでしょう? お茶にしませんか?」

 「温かいお茶を飲みながら雪を見るのもおつですよ」

 アイナとドリーンの声かけに、

 「はーい。兄さまも一緒にお茶にしましょう?」

 シーグフリードの手を取って、一緒にシートに向かう。

 温かいお茶をみんなで飲みながら、アイナとドリーンが持ってきたクッキーを食べるアシェルナオだが、クッキーを手に持ったまま、こくりこくりと舟をこぎだした。

 アシェルナオの手からクッキーを取ると、ブランケットをそっとかけるテュコ。

 「ここまで歩いてきて、水の玉で飛び跳ねて疲れたようだな」

 眠っている顔は、普段よりもさらに幼く見えて、可愛すぎる弟の姿に目を細めるシーグフリード。

 「こうして眠っているとただの綺麗な子供なのに、破格すぎる」

 結果的には自分の中の理念を覆され、新理念を構築する大きな役割を果たしてくれたアシェルナオには感謝しているが、同時に大きな疲労感を感じているエル。

 「けど、面白いだろう?」

 「ああ」

 ルルの言葉に笑顔で答えるエルだった。
 
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。

ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と 主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り 狂いに狂ったダンスを踊ろう。 ▲▲▲ なんでも許せる方向けの物語り 人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。

ゆう
BL
八代秋(10月12日) 高校一年生 15歳 美術部 真面目な方 感情が乏しい 普通 独特な絵 短い癖っ毛の黒髪に黒目 七星礼矢(1月1日) 高校三年生 17歳 帰宅部 チャラい イケメン 広く浅く 主人公に対してストーカー気質 サラサラの黒髪に黒目

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...