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第2部
寝て食べて自力で大きくなれ、子供
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「では、水は?」
エルが促すと、
「みっちー」
『はーい』
水の精霊に呼びかけることでアシェルナオの人差し指から水鉄砲のような水が正面のエルに飛ぶ。
「……よろしい。次、光」
顔を濡らしたまま指示するエル。
「ぴか」
指先から光が発してエルの目を射る。
「光を人にあてるな!」
目を押さえて怒鳴るエル。
「ごめんなさい」
「次、風!」
「ぐりー」
エルの顔面だけに突風が吹き、綺麗に撫でつけている髪がわしゃわしゃになる。
「土!」
「ちゃー」
顔に向かって飛んできた小石を咄嗟に掴むと、
「今日はこれでおしまい。明日は外でやる!」
濡れた顔は風で乾いたが、髪の毛はわしゃわしゃのまま少しキレ気味にエルが言うと、ダイニングの奥にあるドアに消えていった。
「怒らせちゃった?」
しょんぼりするアシェルナオ。
「ナオ様がさっき、血の流れには2つあるって言っただろう? エルは早くその理論を自分の中に取り込んで、魔法を使う時の発動に組み込みたくて部屋に戻ったんだ。エルは独自の理論で魔力を増強させることができるんだけど、それをさらに強化できるかもしれない。それくらいナオ様の言葉がエルを触発して成長させようとしてるってことだから、怒ってはない」
言葉は優しくないが、エルの行動を説明するルル。
「初日で先生を怒らせる生徒にならなくてよかった」
アシェルナオも精霊たちもほっとした。
「愛し子様ってことはこの世界の人間じゃないってことだろ?」
「うん」
「さっきのエルじゃないけど、別の世界の知識がこの世界の常識を覆すことがある。それはさらなる成長を意味するけど、成長するにはそれまでのものを一旦捨てないといけない。それはとてつもない可能性を秘めている素晴らしいものだ。だが反面とても危険なものでもある。信じられる者以外にはうかつなことを言うんじゃないぞ」
ルルに説教をされて、アシェルナオも精霊たちも頭を垂れて頷く。
「ルル、さっきも言ったがナオ様を不安にさせるんじゃない」
「はいっ。気を付けます」
テュコには絶対服従のルル。
「そうだよ。危機管理は怠らない。でもそれは大人たちがすることで、ナオ様には今は何も気にせずにのびのびと育ってほしい。ただし、発言には気をつけようね」
子供を育てる親の意見としてサリアンが言うと、
「はーい」
アシェルナオは素直に頷いた。
午後からはルルの担当だった。
ダイニングテーブルに向かい合わせに座るルルとアシェルナオ。
「俺の得意なのは魔道具の制作。魔道具って何か知ってるか?」
「加護がない人でも魔法が使えるような道具? 平民の人が日常生活を便利に送るために使ったりするもので、でも安いものじゃないからみんながみんな持ってるわけじゃないって聞きました」
以前フォルシウスに聞いたことを思い出しながらアシェルナオが言った。
「たとえば、調理するための竈の役目をする魔道具がある。これは火を起こすための魔法陣を組み込んでいる。だから魔道具が壊れないかぎりは使い続けられる。また、魔石を使う竈もある。これは竈に魔力を溜めた魔石を組み込むことで竈の機能を使うことができるが、魔石の魔力が切れたら使えなくなる。俺が作っているのは前者のやつな」
「魔法陣て、床一面に描くやつでしょ? どうやって組み込むの?」
首を傾げるアシェルナオ。
「床一面に描くのは転移魔法の魔法陣な? 何人もの人間を転移させるにはそれだけ多くの魔力が必要になるから床一面の魔法陣になるんだよ」
「ちっちゃい効力のならちっちゃい魔法陣でいいの?」
「理屈はそうだが、ものによってはちっちゃい魔法陣に大きな魔力をこめないといけない。それをいかに効率よく小さい魔法陣にできるかが難しいんだよ。俺はそれがそこそこできるから天才だ」
「そこそこできるだけで天才なの? それ、すごい天才だね?」
あれ? そこそこできるから天才? と首を傾げるアシェルナオ。
「愛し子は賢いのか抜けているのかわからないな」
苦笑するルル。
「魔法陣はどうやって作るの?」
「魔法陣は魔法を起動させるための呪文を文字や記号で表している。それこそ何百年かけて作り上げてきた気の遠くなるような歴史があって、いまに至る先人たちの知恵の塊みたいなものだな」
「プログラミング言語みたいなものかな?」
アシェルナオは精霊たちに問いかける。
『ぷろぐらみんぐってなにー』
『ナオの言うことむずかしー』
『ナオなら思いをこめるだけでいいんじゃないー?』
「思いをこめる……」
思う人の顔を思い浮かべたアシェルナオは、ドキドキと切なさが入り混じった思いになった。
本当は今すぐ会いたい。会って、自分は梛央だと言いたい。生まれ変わって小さくなったけど、梛央だよ、と……。
「基本は、思いをこめるっていうのに間違いはないな。こうしてほしい、っていう思いを魔法陣にして道具を作るんだ」
「大きくなる魔道具ってない?」
つい思っていることが言葉になるアシェルナオ。
「無理。寝て食べて自力で大きくなれ、子供」
ルルは至極正論を言い、アシェルナオはそれくらいわかっている、と心の中で呟いた。
エルが促すと、
「みっちー」
『はーい』
水の精霊に呼びかけることでアシェルナオの人差し指から水鉄砲のような水が正面のエルに飛ぶ。
「……よろしい。次、光」
顔を濡らしたまま指示するエル。
「ぴか」
指先から光が発してエルの目を射る。
「光を人にあてるな!」
目を押さえて怒鳴るエル。
「ごめんなさい」
「次、風!」
「ぐりー」
エルの顔面だけに突風が吹き、綺麗に撫でつけている髪がわしゃわしゃになる。
「土!」
「ちゃー」
顔に向かって飛んできた小石を咄嗟に掴むと、
「今日はこれでおしまい。明日は外でやる!」
濡れた顔は風で乾いたが、髪の毛はわしゃわしゃのまま少しキレ気味にエルが言うと、ダイニングの奥にあるドアに消えていった。
「怒らせちゃった?」
しょんぼりするアシェルナオ。
「ナオ様がさっき、血の流れには2つあるって言っただろう? エルは早くその理論を自分の中に取り込んで、魔法を使う時の発動に組み込みたくて部屋に戻ったんだ。エルは独自の理論で魔力を増強させることができるんだけど、それをさらに強化できるかもしれない。それくらいナオ様の言葉がエルを触発して成長させようとしてるってことだから、怒ってはない」
言葉は優しくないが、エルの行動を説明するルル。
「初日で先生を怒らせる生徒にならなくてよかった」
アシェルナオも精霊たちもほっとした。
「愛し子様ってことはこの世界の人間じゃないってことだろ?」
「うん」
「さっきのエルじゃないけど、別の世界の知識がこの世界の常識を覆すことがある。それはさらなる成長を意味するけど、成長するにはそれまでのものを一旦捨てないといけない。それはとてつもない可能性を秘めている素晴らしいものだ。だが反面とても危険なものでもある。信じられる者以外にはうかつなことを言うんじゃないぞ」
ルルに説教をされて、アシェルナオも精霊たちも頭を垂れて頷く。
「ルル、さっきも言ったがナオ様を不安にさせるんじゃない」
「はいっ。気を付けます」
テュコには絶対服従のルル。
「そうだよ。危機管理は怠らない。でもそれは大人たちがすることで、ナオ様には今は何も気にせずにのびのびと育ってほしい。ただし、発言には気をつけようね」
子供を育てる親の意見としてサリアンが言うと、
「はーい」
アシェルナオは素直に頷いた。
午後からはルルの担当だった。
ダイニングテーブルに向かい合わせに座るルルとアシェルナオ。
「俺の得意なのは魔道具の制作。魔道具って何か知ってるか?」
「加護がない人でも魔法が使えるような道具? 平民の人が日常生活を便利に送るために使ったりするもので、でも安いものじゃないからみんながみんな持ってるわけじゃないって聞きました」
以前フォルシウスに聞いたことを思い出しながらアシェルナオが言った。
「たとえば、調理するための竈の役目をする魔道具がある。これは火を起こすための魔法陣を組み込んでいる。だから魔道具が壊れないかぎりは使い続けられる。また、魔石を使う竈もある。これは竈に魔力を溜めた魔石を組み込むことで竈の機能を使うことができるが、魔石の魔力が切れたら使えなくなる。俺が作っているのは前者のやつな」
「魔法陣て、床一面に描くやつでしょ? どうやって組み込むの?」
首を傾げるアシェルナオ。
「床一面に描くのは転移魔法の魔法陣な? 何人もの人間を転移させるにはそれだけ多くの魔力が必要になるから床一面の魔法陣になるんだよ」
「ちっちゃい効力のならちっちゃい魔法陣でいいの?」
「理屈はそうだが、ものによってはちっちゃい魔法陣に大きな魔力をこめないといけない。それをいかに効率よく小さい魔法陣にできるかが難しいんだよ。俺はそれがそこそこできるから天才だ」
「そこそこできるだけで天才なの? それ、すごい天才だね?」
あれ? そこそこできるから天才? と首を傾げるアシェルナオ。
「愛し子は賢いのか抜けているのかわからないな」
苦笑するルル。
「魔法陣はどうやって作るの?」
「魔法陣は魔法を起動させるための呪文を文字や記号で表している。それこそ何百年かけて作り上げてきた気の遠くなるような歴史があって、いまに至る先人たちの知恵の塊みたいなものだな」
「プログラミング言語みたいなものかな?」
アシェルナオは精霊たちに問いかける。
『ぷろぐらみんぐってなにー』
『ナオの言うことむずかしー』
『ナオなら思いをこめるだけでいいんじゃないー?』
「思いをこめる……」
思う人の顔を思い浮かべたアシェルナオは、ドキドキと切なさが入り混じった思いになった。
本当は今すぐ会いたい。会って、自分は梛央だと言いたい。生まれ変わって小さくなったけど、梛央だよ、と……。
「基本は、思いをこめるっていうのに間違いはないな。こうしてほしい、っていう思いを魔法陣にして道具を作るんだ」
「大きくなる魔道具ってない?」
つい思っていることが言葉になるアシェルナオ。
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