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第1部
買取はだめです
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「ナオ様、エンロートのマフダル殿の紹介で、どうしてもナオ様に面会したいという者が王城を訪ねてきたそうです」
星の離宮での昼食のあと、ダリミルが梛央に伺いを立てた。
「誰だろう? マフダルの紹介だからエンロートの人だよね? ショトラ先生かな?」
梛央はショトラと女子会をするほど仲良くなったアイナとドリーンを見る。
「ショトラ先生からそのような連絡ははいっていませんわ」
「ショトラ先生ならお会いしたいです」
アイナとドリーンはショトラの可能性を排除するものだった。
「ダリミル、その人をここに呼んでも大丈夫?」
「はい。護衛騎士のどなたかにお迎えに行ってもらいましょう」
「お迎えに行く人にお願いしますって伝えてね」
梛央は部屋で待機しているクランツを見て向いた。
「ナオ様、お連れしました」
サロンで待っていた梛央のもとにファルクが客人を連れてきた。
「ルーロフ?」
現れたのは夕凪亭の料理長ルーロフだった。
ルーロフは王城の中でも王族のプライベートな場所である奥城の離宮に連れてこられるとは思ってもいなくて、恐縮して身を縮ませていたが、梛央を目にすると安堵した表情を覗かせた。
「ナオ様、こんなところにまでお邪魔いたしまして申し訳ありません」
「ううん、来てくれて嬉しいよ。ルーロフ、座って」
「失礼します」
梛央に促されて、ルーロフは申し訳なさそうに価値の高そうなソファにそっと腰を下ろした。
「ルーロフは僕に何かご用?」
「はい、その……厚かましいお願いなのですが、私にショウユとスの作り方を教えていただけないでしょうか」
ルーロフの顔を見た時になんとなくそうではないかと思っていた梛央は表情を曇らせる。
「作り方はなんとなくわかるけど、この前言ったように材料が難しいと思うんだ。材料があったとしても最初から作るなら何年もかかるかもしれない」
梛央は申し訳なさそうに言った。
「材料についても教えてください。それが存在するのか、代替え品でもいいのかも研究して、たとえ何年かかっても完成させたいと思います」
熱意のこもった眼差しを向けるルーロフに、梛央は睫毛を伏せる。
「僕ね、ルーロフが手まり寿司を作るって言ってくれた時に、母さんの思い出が壊されそうで嫌だ、って思ったんだ。だから、ルーロフの申し出は嬉しいけど、僕にはそんなことを言ってもらえる資格はないんだ……」
「そんなことはありません。誰だって大事な人との思い出を汚される行為は嫌なものです。そう思われて当然なのです。ナオ様は、お母様とは会うのが難しいのでしょう?」
ルーロフに言われて、梛央は小さく頷く。
「とても……」
「それを思い出させてしまって、申し訳ありません。ナオ様、私はナオ様の聖域には踏み入ることはしません。でもショウユとス作りには挑戦させてもらえませんか? ナオ様に故郷の味に近いものを作ることを許可していただけませんか? 私はナオ様のお歌に感動しました。ナオ様がこの国にいてくださって、嬉しいです。その思いを私なりに形にしたいんです」
テーブルに頭をぶつけるかと思うくらい深く頭を下げるルーロフに、
「困ったな……」
言いながら梛央は両手で顔を覆った。
「困らせるつもりでは……」
「ううん、困るよ……。この国の人は本当に優しくて困る……」
悪しき精霊が怖いからといって精霊神殿に行くのをしり込みしているのが恥ずかしくなるくらいに優しくて、本当に困ると梛央は思った。
「ナオ様」
スッ、と梛央にハンカチを差し出すダリミル。
それを受け取るために手をどかした梛央の顔には涙の筋ができていた。
ハンカチで涙を拭いた梛央は、
「ルーロフ、ありがとう。僕の知ってる作り方を教えるね。でもロザンネに怒られない程度にしてね? お仕事優先だよ?」
ルーロフに念を押した。
「大丈夫です。姉にはちゃんと許可をもらいましたし、店の売り上げから研究費を出すから何年かかっても作り上げるようにと言ってくれています」
「だめだめ、夕凪亭に迷惑かけられないよ。ダリミル、僕に夕凪亭に投資できるようなお金ってあるのかな?」
梛央に言われて、
「愛し子様の予算が承認されました。もちろん夕凪亭を買い取るくらいの予算は余裕でございますよ」
ダリミルがキリッとした顔で答える。
「買い取ったらだめだよ!」
ダリミルなら余裕でそんなことをしそうで、思わず叫ぶ梛央だった。
星の離宮での昼食のあと、ダリミルが梛央に伺いを立てた。
「誰だろう? マフダルの紹介だからエンロートの人だよね? ショトラ先生かな?」
梛央はショトラと女子会をするほど仲良くなったアイナとドリーンを見る。
「ショトラ先生からそのような連絡ははいっていませんわ」
「ショトラ先生ならお会いしたいです」
アイナとドリーンはショトラの可能性を排除するものだった。
「ダリミル、その人をここに呼んでも大丈夫?」
「はい。護衛騎士のどなたかにお迎えに行ってもらいましょう」
「お迎えに行く人にお願いしますって伝えてね」
梛央は部屋で待機しているクランツを見て向いた。
「ナオ様、お連れしました」
サロンで待っていた梛央のもとにファルクが客人を連れてきた。
「ルーロフ?」
現れたのは夕凪亭の料理長ルーロフだった。
ルーロフは王城の中でも王族のプライベートな場所である奥城の離宮に連れてこられるとは思ってもいなくて、恐縮して身を縮ませていたが、梛央を目にすると安堵した表情を覗かせた。
「ナオ様、こんなところにまでお邪魔いたしまして申し訳ありません」
「ううん、来てくれて嬉しいよ。ルーロフ、座って」
「失礼します」
梛央に促されて、ルーロフは申し訳なさそうに価値の高そうなソファにそっと腰を下ろした。
「ルーロフは僕に何かご用?」
「はい、その……厚かましいお願いなのですが、私にショウユとスの作り方を教えていただけないでしょうか」
ルーロフの顔を見た時になんとなくそうではないかと思っていた梛央は表情を曇らせる。
「作り方はなんとなくわかるけど、この前言ったように材料が難しいと思うんだ。材料があったとしても最初から作るなら何年もかかるかもしれない」
梛央は申し訳なさそうに言った。
「材料についても教えてください。それが存在するのか、代替え品でもいいのかも研究して、たとえ何年かかっても完成させたいと思います」
熱意のこもった眼差しを向けるルーロフに、梛央は睫毛を伏せる。
「僕ね、ルーロフが手まり寿司を作るって言ってくれた時に、母さんの思い出が壊されそうで嫌だ、って思ったんだ。だから、ルーロフの申し出は嬉しいけど、僕にはそんなことを言ってもらえる資格はないんだ……」
「そんなことはありません。誰だって大事な人との思い出を汚される行為は嫌なものです。そう思われて当然なのです。ナオ様は、お母様とは会うのが難しいのでしょう?」
ルーロフに言われて、梛央は小さく頷く。
「とても……」
「それを思い出させてしまって、申し訳ありません。ナオ様、私はナオ様の聖域には踏み入ることはしません。でもショウユとス作りには挑戦させてもらえませんか? ナオ様に故郷の味に近いものを作ることを許可していただけませんか? 私はナオ様のお歌に感動しました。ナオ様がこの国にいてくださって、嬉しいです。その思いを私なりに形にしたいんです」
テーブルに頭をぶつけるかと思うくらい深く頭を下げるルーロフに、
「困ったな……」
言いながら梛央は両手で顔を覆った。
「困らせるつもりでは……」
「ううん、困るよ……。この国の人は本当に優しくて困る……」
悪しき精霊が怖いからといって精霊神殿に行くのをしり込みしているのが恥ずかしくなるくらいに優しくて、本当に困ると梛央は思った。
「ナオ様」
スッ、と梛央にハンカチを差し出すダリミル。
それを受け取るために手をどかした梛央の顔には涙の筋ができていた。
ハンカチで涙を拭いた梛央は、
「ルーロフ、ありがとう。僕の知ってる作り方を教えるね。でもロザンネに怒られない程度にしてね? お仕事優先だよ?」
ルーロフに念を押した。
「大丈夫です。姉にはちゃんと許可をもらいましたし、店の売り上げから研究費を出すから何年かかっても作り上げるようにと言ってくれています」
「だめだめ、夕凪亭に迷惑かけられないよ。ダリミル、僕に夕凪亭に投資できるようなお金ってあるのかな?」
梛央に言われて、
「愛し子様の予算が承認されました。もちろん夕凪亭を買い取るくらいの予算は余裕でございますよ」
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ダリミルなら余裕でそんなことをしそうで、思わず叫ぶ梛央だった。
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