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第1部
オショウユとスメシ
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「ナオ様、テマリズシとはオスシと違うものでしょうか?」
ルーロフは純粋に興味から尋ねる。
「お寿司にはいくつか種類があるんだ。巻き寿司、稲荷寿司、押し寿司とかちらし寿司とか。てまり寿司もその中の一つ。薄い布みたいなものでライスを丸めて、その上に具材を乗せてもう一度丸めて、てまり……ボールみたいな形にするんだ。ひな祭りのときは、ちらし寿司をつくる家が多いみたいだけど、うちは母さんの作るてまり寿司で」
これ以上言うと涙がこぼれそうになるので、梛央は目を大きく見開いて息を止める。
「生でも食べられるような新鮮な魚ならありますよ。オサシミ、おつくりしますよ」
自分の質問が梛央の感情を揺らしてしまったことに責任を感じたルーロフは、その願いをかなえたくて申し出る。
「お刺身のことをお造り、ともいうんだよ。ありがとう」
「では早速」
厨房に行こうとするルーロフだが、梛央は首を振った。
「遠慮しなくてもいいんですよ」
親と離れて郷愁にからえれる梛央に、ロザンネも少しでも梛央が喜ぶことがしたかった。
「お刺し身はね、お醤油とわさびがないとだめなんだ」
「オショウユとワサビとはどんなものでしょう? おい、誰か書くものを持ってきてくれ」
本腰をいれて話を聞こうとするルーロフに、梛央は困ったような顔を見せる。
「僕、中学の時の自由研究で醤油を作ったんだ。だから作り方は大体わかるよ」
「じゃあルーロフに作ってもらえばいい」
ヴァレリラルドは気安く言うが、
「ナオはなぜ嬉しくなさそうなんだい?」
オルドジフはあまり芳しくない梛央の表情に気づいた。
「材料がここでも手に入るかどうかわからないし、手に入ったとしても、とても時間がかかるんだ。僕が作ったのは、あらかじめできあがってる醤油麹を使ったから難しくなかったけど、きっと、一から僕が住んでいたところと同じようなものができるのには何年もかかるんじゃないかな。それに、僕の知っている醤油の味をどうやってルーロフに伝えられるのかわからない」
梛央の言葉に、少なくとも今日明日中にどうにかなりそうなものではないということがわかり、ルーロウはううむ、と頭を悩ませる。
「ではオスシはどうです? ビネガーはありますよ」
それなら、と、ルーロフが提案する。
「たぶん料理に使ってるビネガーって、フルーツやワインから作られてるよね? 酢飯の酢の原料はお米なんだ。お米とライス、同じだけど、お米の種類が違うから、僕の知ってる酢飯と同じものができるかどうかわからない」
そう言って、梛央は俯く。
醤油は、カルムで諦めていた。だから今更ショックでもなんでもなかった。
むしろ、なんちゃっててまり寿司を作られてしまうと、琉歌の思い出が汚されてしまうようで嫌だと思った。
しばらくして梛央が顔を上げるとルーロフとロザンネが落胆した様子で自分を見ていて、
「ルーロフとロザンネの気持ちは嬉しいよ。困らせるつもりじゃなかったんだ。……ごめんなさい」
せっかくの2人の好意を、汚すというふうに捉えた自分が申し訳なくて謝った。
申し訳ないことを考えたのに、ここでもなんとか自分の役に立とうと申し出てくれる人たちがいて、梛央はクランツに明かした決意を新たにした。
「ナオ様がお謝りになることでは……。私は自分の力不足が情けないだけで……」
「そんなことない。僕が我儘言ってるだけなんだ。ルーロフはこの前、僕の歌を聞いていたの?」
「はい。最初の歌は明るくてノリがよくて、そのあとの歌は心が清められるような美しい歌でした。あんな歌を歌える方をもっとそばで見ていたくて……」
厨房からできてきてしまった、と言おうとしてルーロフは姉の鋭い視線にたじろぐ。
「まったく、あんたはいくつになっても」
「ロザンネ、あのピアノ弾いていい?」
小言を言うロザンネに尋ねる。
「ええ。見栄でおいているようなものですけどね、ちゃんと調律はしていますよ」
「じゃあ、弾かせてもらうね」
梛央は席を立つと、テーブルの間を通って窓際に進んだ。そして、
「みんな。ちょっと聞いてくれる?」
食事を終えたテュコたちや護衛、護衛騎士たちを見回した。
ルーロフは純粋に興味から尋ねる。
「お寿司にはいくつか種類があるんだ。巻き寿司、稲荷寿司、押し寿司とかちらし寿司とか。てまり寿司もその中の一つ。薄い布みたいなものでライスを丸めて、その上に具材を乗せてもう一度丸めて、てまり……ボールみたいな形にするんだ。ひな祭りのときは、ちらし寿司をつくる家が多いみたいだけど、うちは母さんの作るてまり寿司で」
これ以上言うと涙がこぼれそうになるので、梛央は目を大きく見開いて息を止める。
「生でも食べられるような新鮮な魚ならありますよ。オサシミ、おつくりしますよ」
自分の質問が梛央の感情を揺らしてしまったことに責任を感じたルーロフは、その願いをかなえたくて申し出る。
「お刺身のことをお造り、ともいうんだよ。ありがとう」
「では早速」
厨房に行こうとするルーロフだが、梛央は首を振った。
「遠慮しなくてもいいんですよ」
親と離れて郷愁にからえれる梛央に、ロザンネも少しでも梛央が喜ぶことがしたかった。
「お刺し身はね、お醤油とわさびがないとだめなんだ」
「オショウユとワサビとはどんなものでしょう? おい、誰か書くものを持ってきてくれ」
本腰をいれて話を聞こうとするルーロフに、梛央は困ったような顔を見せる。
「僕、中学の時の自由研究で醤油を作ったんだ。だから作り方は大体わかるよ」
「じゃあルーロフに作ってもらえばいい」
ヴァレリラルドは気安く言うが、
「ナオはなぜ嬉しくなさそうなんだい?」
オルドジフはあまり芳しくない梛央の表情に気づいた。
「材料がここでも手に入るかどうかわからないし、手に入ったとしても、とても時間がかかるんだ。僕が作ったのは、あらかじめできあがってる醤油麹を使ったから難しくなかったけど、きっと、一から僕が住んでいたところと同じようなものができるのには何年もかかるんじゃないかな。それに、僕の知っている醤油の味をどうやってルーロフに伝えられるのかわからない」
梛央の言葉に、少なくとも今日明日中にどうにかなりそうなものではないということがわかり、ルーロウはううむ、と頭を悩ませる。
「ではオスシはどうです? ビネガーはありますよ」
それなら、と、ルーロフが提案する。
「たぶん料理に使ってるビネガーって、フルーツやワインから作られてるよね? 酢飯の酢の原料はお米なんだ。お米とライス、同じだけど、お米の種類が違うから、僕の知ってる酢飯と同じものができるかどうかわからない」
そう言って、梛央は俯く。
醤油は、カルムで諦めていた。だから今更ショックでもなんでもなかった。
むしろ、なんちゃっててまり寿司を作られてしまうと、琉歌の思い出が汚されてしまうようで嫌だと思った。
しばらくして梛央が顔を上げるとルーロフとロザンネが落胆した様子で自分を見ていて、
「ルーロフとロザンネの気持ちは嬉しいよ。困らせるつもりじゃなかったんだ。……ごめんなさい」
せっかくの2人の好意を、汚すというふうに捉えた自分が申し訳なくて謝った。
申し訳ないことを考えたのに、ここでもなんとか自分の役に立とうと申し出てくれる人たちがいて、梛央はクランツに明かした決意を新たにした。
「ナオ様がお謝りになることでは……。私は自分の力不足が情けないだけで……」
「そんなことない。僕が我儘言ってるだけなんだ。ルーロフはこの前、僕の歌を聞いていたの?」
「はい。最初の歌は明るくてノリがよくて、そのあとの歌は心が清められるような美しい歌でした。あんな歌を歌える方をもっとそばで見ていたくて……」
厨房からできてきてしまった、と言おうとしてルーロフは姉の鋭い視線にたじろぐ。
「まったく、あんたはいくつになっても」
「ロザンネ、あのピアノ弾いていい?」
小言を言うロザンネに尋ねる。
「ええ。見栄でおいているようなものですけどね、ちゃんと調律はしていますよ」
「じゃあ、弾かせてもらうね」
梛央は席を立つと、テーブルの間を通って窓際に進んだ。そして、
「みんな。ちょっと聞いてくれる?」
食事を終えたテュコたちや護衛、護衛騎士たちを見回した。
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