そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第1部

さらにさらに襲撃(伝説の蹴り)

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 自重で防御壁を壊しながら横転した馬車は、扉側を下にして地面に落ち、もう一度転がって天地が逆さまになった状態で止まった。

 馬車に駆け寄ろうとするケイレブたちだが、馬車が転がるのを上空で羽ばたきしながら見ていた飛竜が降下してきた。

 「サリー、次が来る!」

 叫びながら、それでも馬車に駆け寄るケイレブたちに、それを拒むように大きな翼を大きく何度も羽ばたかせる飛竜。

 巻き起こる風が森の枝葉を飛ばして体や目に当たる。その間に飛竜は逆さまになった馬車を足でつかみ、さきほどよりも高く持ち上げて旋回する反動で馬車を転がす。

 何度か転がった馬車は途中で扉が開き、最初にサリアンが投げ出された。テュコ、ヴァレリラルドも投げ出され、2人の体は森の中まで飛ばされる。

 最後に投げ出された梛央はリングダールを抱えたまま何度か回転して街道のぬかるみに倒れた。

 その体をあっという間に激しい雨が濡らしていく。

 最初に投げ出され、受け身を取って転がったサリアンが起き上がって馬車を追いかけ、ケイレブたちもそれに続いたが、それよりも速く飛竜が梛央のもとに迫っていた。

 梛央のもとに到着し、鋭い爪を持つ足を伸ばす飛竜。

 「ナオ様!」

 絶叫するサリアン。

 その瞬間、眩しい光が梛央の抱くリングダールから発せられ、飛竜の巨体が吹き飛ばされた。

 そのまま地面に叩きつけられ、激しい雨で地面に溜まっていた水が噴水のようにあがる。

 「リンちゃん」

 梛央の声が聞こえ、無事だったことに安堵したサリアンが、

 「ナオ様! すぐ行くからそのままでいて!」

 叫びながら飛竜に近づくと、小型の竜とは言え先ほどのボスフェルより大きな飛竜の尻尾の付け根、人間でいうところの太ももあたりを狙って、体を回転させながらその反動で蹴りを入れる。

 サリアンの渾身の蹴りは飛竜を護衛騎士たちが多数いるところまで飛ばした。

 「とどめをさせ!」

 いきなり白目を剥いた飛竜が飛ばされてきて動揺する護衛騎士たちに向かって叫ぶサリアン。

 「半数は飛竜を。半数は殿下とテュコの保護と治療。それに被害状況の収集と出発準備を整えろ」

 ケイレブに言われて動き出す護衛騎士。

 そこに、

 「飛竜です! もう一頭います!」

 通信機から声が聞こえ、身構える前に上空から別の飛竜が滑空してきた。

 「サリー、だめだ、伏せろ!」

 「でも、ナオ様が!」

 梛央のもとへ駆け寄ろうとするサリアンだが、駆けつけるその前に飛竜が滑空しながら足を伸ばして梛央の体を掴む。

 気を失っていたのか、悲鳴をあげることなく横たわった姿勢のまま空中に運ばれる梛央。何もできずに見上げる者たちをあざ笑うように、飛竜は護衛や護衛騎士の上空を通過して飛び去った。

 「ナオーっ!」

 木にぶつかった衝撃で動けないでいたヴァレリラルドは、飛竜に連れ去られる梛央を見て絶望の絶叫を響かせた。


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