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第1部
困ったような顔=照れている顔
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「ここエンロートは、名前の由来となった始祖王エンロートが城を築いて以来、この王国の王都として栄えていました。しかし王都はロセアンに遷都し、エンロートは古都と呼ばれ、エンロート城は古城と呼ばれるようになりました。フォルシウス、遷都したのはいつだ?」
「約200年前です」
オルドジフに問われ、フォルシウスが答える。
「遷都した理由は?」
さらに問われ、
「国土の拡大に伴い国土の中心に王都を構えるためだと習いました」
王立学園で学んだことを思い出しながらフォルシウスが答えると、オルドジフは梛央に視線を向ける。
「表向きはそういう理由になっています。ここから先の話は王家にとっては不都合な事実かもしれませんので、王族の方がいらっしゃったら話せないことです。ナオ様、お聞きになりますか? もしお聞きになりたいのならば、ナオ様のお口から、この場にいる者に他言無用と命じていただけますか?」
オルドジフに言われ、梛央はこの場にいるテュコ、サリアン、フォルシウス、クランツ、アイナ、ドリーンを見た。
「ドーさんは、僕が悲しい気持ちになった理由を、愛し子として知らないといけないことを、話そうとしてるんだと思う。僕もここで生きていく以上知らないといけないと思う。でも……他言無用だ、って、言わなくてもいいよね?」
梛央はうかがうように、不安そうに一同を見回す。
他言無用は不要。という意味ではなく、他言無用と命じなくても、ここにいる者たちならそうしてくれる、信頼できる者たちだということを、梛央は言いたかった。
「言わなくてもいいですよ。大丈夫です。言わなくても、ナオ様の信頼を失くすような事をする者はここにはいません」
テュコが皆を代表して言うと、他の者も頷く。
「ナオ様はすでに信用できる方々に囲まれていらっしゃるんですね」
「うん。ドーさんもね」
にっこり笑う梛央に、またオルドジフはちょっと怒ったような困ったような顔になった。
「それ、わかる。照れてるときの父さんの顔だ」
梛央に言われて、ますますオルドジフは困ったような顔で笑う。
「兄上」
コホン、と咳払いをするフォルシウスに、慌てて顔を引き締める。
「すみません、話がそれてしまいました。話が話ですので、会話が漏れないようにさせていただきます」
オルドジフは衣嚢から手のひらサイズの三角錐を取り出すと、テーブルの上に置いた。
「これはなに?」
「話を外に漏らさない、声と気配を遮断する魔道具です。外部から内側へは声も気配も感じられますよ。メイドさんたちも掛けて話を聞いてください。あなたがたもナオ様の信頼できる身内ですから」
オルドジフの言葉に、アイナとドリーンは凛とした表情で頷くとソファに座った。
フォルシウスとクランツも護衛という立場を今だけは離れて、同じくソファに腰掛けると、無言でオルドジフに話を促す。
「およそ200年前、当時の王都であったエンロートで流行り病が発生しました。症状は高熱、震え、嘔吐、下血。発症した直後から皮膚に黒い痣が浮かびあがります。発症して早ければ数日で死に至る恐ろしい病でした。同時期に精霊の泉が瘴気により汚染され、瘴気は各地の河川や湖にも及びました。時を同じくして各地で魔獣が街を襲撃し、多数の負傷者が出ました」
梛央は思わずリングダールを抱きしめる。
「黒い痣……バールス病ですか」
クランツの呟きに、オルドジフは頷く。
「バールス病?」
「バールスという医師が特効薬を発見したのでバールス病と呼ばれています。特効薬のおかげで今では怖い病気ではありませんが、特効薬がなかった時代では恐ろしい病気でした。しかしバールス病が流行ったのは遷都よりずっとあとだったと記憶していますが」
フォルシウスは記憶違いだったか、と首を捻る。
「バールス病は、もともとエンロート地方にみられる風土病でした。症状は穏やかで、何度も繰り返すうちにひどくなり、寝込むようになる。ひどくなるのは概ね高齢になってからで、珍しくも、さほど恐ろしい病気でもありませんでした。ですが、当時流行したバールス病は症状が重く、子供や若者も発症してすぐに重篤な状態に陥りました。当時は特効薬もなく、王都の民は戦々恐々の日々を過ごしていました。そこへ魔獣です。王都では病に倒れる人々への救済は後回しになり、騎士たちは魔獣討伐に疲弊していました。そして泉の汚染。当時の王は打つ手がありませんでした」
「すべてが同時期だったとは……知っている歴史とは違う気がします」
アイナの言葉に、
「約200年前って……。前にエレクが言っていた。最後の愛し子様の出現は200年近く前のことだって。その時に愛し子が出現したの?」
梛央が尋ねる。
「はい」
頷くオルドジフに、
「それで流行り病はおさまって、泉も浄化して、魔獣もおとなしくなったの?」
さらに尋ねる梛央に、オルドジフは小さく首を振った。
※※※※※※※※
中途半端なところですが、ここで一旦切ります><
「約200年前です」
オルドジフに問われ、フォルシウスが答える。
「遷都した理由は?」
さらに問われ、
「国土の拡大に伴い国土の中心に王都を構えるためだと習いました」
王立学園で学んだことを思い出しながらフォルシウスが答えると、オルドジフは梛央に視線を向ける。
「表向きはそういう理由になっています。ここから先の話は王家にとっては不都合な事実かもしれませんので、王族の方がいらっしゃったら話せないことです。ナオ様、お聞きになりますか? もしお聞きになりたいのならば、ナオ様のお口から、この場にいる者に他言無用と命じていただけますか?」
オルドジフに言われ、梛央はこの場にいるテュコ、サリアン、フォルシウス、クランツ、アイナ、ドリーンを見た。
「ドーさんは、僕が悲しい気持ちになった理由を、愛し子として知らないといけないことを、話そうとしてるんだと思う。僕もここで生きていく以上知らないといけないと思う。でも……他言無用だ、って、言わなくてもいいよね?」
梛央はうかがうように、不安そうに一同を見回す。
他言無用は不要。という意味ではなく、他言無用と命じなくても、ここにいる者たちならそうしてくれる、信頼できる者たちだということを、梛央は言いたかった。
「言わなくてもいいですよ。大丈夫です。言わなくても、ナオ様の信頼を失くすような事をする者はここにはいません」
テュコが皆を代表して言うと、他の者も頷く。
「ナオ様はすでに信用できる方々に囲まれていらっしゃるんですね」
「うん。ドーさんもね」
にっこり笑う梛央に、またオルドジフはちょっと怒ったような困ったような顔になった。
「それ、わかる。照れてるときの父さんの顔だ」
梛央に言われて、ますますオルドジフは困ったような顔で笑う。
「兄上」
コホン、と咳払いをするフォルシウスに、慌てて顔を引き締める。
「すみません、話がそれてしまいました。話が話ですので、会話が漏れないようにさせていただきます」
オルドジフは衣嚢から手のひらサイズの三角錐を取り出すと、テーブルの上に置いた。
「これはなに?」
「話を外に漏らさない、声と気配を遮断する魔道具です。外部から内側へは声も気配も感じられますよ。メイドさんたちも掛けて話を聞いてください。あなたがたもナオ様の信頼できる身内ですから」
オルドジフの言葉に、アイナとドリーンは凛とした表情で頷くとソファに座った。
フォルシウスとクランツも護衛という立場を今だけは離れて、同じくソファに腰掛けると、無言でオルドジフに話を促す。
「およそ200年前、当時の王都であったエンロートで流行り病が発生しました。症状は高熱、震え、嘔吐、下血。発症した直後から皮膚に黒い痣が浮かびあがります。発症して早ければ数日で死に至る恐ろしい病でした。同時期に精霊の泉が瘴気により汚染され、瘴気は各地の河川や湖にも及びました。時を同じくして各地で魔獣が街を襲撃し、多数の負傷者が出ました」
梛央は思わずリングダールを抱きしめる。
「黒い痣……バールス病ですか」
クランツの呟きに、オルドジフは頷く。
「バールス病?」
「バールスという医師が特効薬を発見したのでバールス病と呼ばれています。特効薬のおかげで今では怖い病気ではありませんが、特効薬がなかった時代では恐ろしい病気でした。しかしバールス病が流行ったのは遷都よりずっとあとだったと記憶していますが」
フォルシウスは記憶違いだったか、と首を捻る。
「バールス病は、もともとエンロート地方にみられる風土病でした。症状は穏やかで、何度も繰り返すうちにひどくなり、寝込むようになる。ひどくなるのは概ね高齢になってからで、珍しくも、さほど恐ろしい病気でもありませんでした。ですが、当時流行したバールス病は症状が重く、子供や若者も発症してすぐに重篤な状態に陥りました。当時は特効薬もなく、王都の民は戦々恐々の日々を過ごしていました。そこへ魔獣です。王都では病に倒れる人々への救済は後回しになり、騎士たちは魔獣討伐に疲弊していました。そして泉の汚染。当時の王は打つ手がありませんでした」
「すべてが同時期だったとは……知っている歴史とは違う気がします」
アイナの言葉に、
「約200年前って……。前にエレクが言っていた。最後の愛し子様の出現は200年近く前のことだって。その時に愛し子が出現したの?」
梛央が尋ねる。
「はい」
頷くオルドジフに、
「それで流行り病はおさまって、泉も浄化して、魔獣もおとなしくなったの?」
さらに尋ねる梛央に、オルドジフは小さく首を振った。
※※※※※※※※
中途半端なところですが、ここで一旦切ります><
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