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第1部
あーん二重奏
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入浴してアイナとドリーンによって全身を磨き上げられ、制服をもとに作られた夜会服を着せらた梛央は、すでに着替えていたサリアンと2人で扉の近くの椅子に座って待っていた。
アイナとドリーン、テュコは別室で支度をしてから、先に会場となるホールで待っているはずだった。
サリアンはタイトな白のロングコートと白いトラウザーズ、中のウエストコートも白という白尽くしだった。
「サリー、すごく素敵だね」
「ありがとう。ナオ様もよくお似合いだよ」
お気に入りだった制服と似た服は、本来の夜会服として作られたものより控え目な装飾だったが、シンプルで品のよい装いが梛央によく似合っていた。
サリアンに言われて梛央は嬉しそうに頷く。
「ナオ様、入ります」
ケイレブの声と同時にヴァレリラルドとケイレブが入って来た。
すぐに目についたのがケイレブの服装で、梛央は一目でそれがサリアンと色違いの対になっていることを知った。
ヴァレリラルドもサリアンを見てそう気づいたようで、気づいた者同士で梛央と目を見合わせて微笑んだ。
ヴァレリラルドは金のゴージャスな縁取りのある黒いコートで、ウエストコートも黒、シャツブラウスは白で、短めの丈の袖からもシャツブラウスのフリルの袖が覗いている。
まさしく王子様の装いだった。
「かっこいいね、ヴァル」
「ありがとう、ナオもすごく似合ってる。・・・綺麗だよ」
昨夜は落ち込んだが、護衛のケイレブや護衛騎士のイクセルたちからフォローされて立ち直っているヴァレリラルドだった。
「うん。アイナとドリーンが綺麗にしてくれたんだ」
ヴァレリラルドの言葉の意味合いとは少しずれている答えだが、これが、ナオ。だからナオが好き。いつかは家族としてではない愛情をナオに伝えていく。
心の中でヴァレリラルドが固く決意している様子をケイレブは温かい目で見ながら、
「今日は少人数の夜会なので小ホールで行われます。行きましょう」
サリアンと共に王太子と愛し子を夜会の会場に案内した。
シアンハウスのホールは大・小2つあり、今回は身内と身内同然の者たちとの小規模な夜会ということで小ホールが会場になっていた。
「ナオ様とヴァレリラルド王太子殿下、並びにその護衛のサリアンとケイレブの登場です」
サミュエルの紹介とともに演奏が始まる。
ナオの護衛騎士である第一騎士団の騎士たちは黒い騎士服の正装で、ヴァレリラルドの護衛騎士である近衛騎士団の騎士たちは白い騎士服の正装で整列して道を作っており、梛央はヴァレリラルドに手を取られてその中を進む。
その先には両脇に自身の護衛騎士を立たせたエンゲルブレクトが、椅子から立ち上がって2人が進んでくるのを待っていた。
「夜会へようこそ。ナオ様。ヴァレリラルド。身内だけの気楽な集まりとしてどうぞお楽しみください」
「えぇと、お招きありがとうございます? エレク」
戸惑いながら挨拶する梛央。
「叔父上。このような機会を作っていただき、ありがとうございます。お言葉に甘えて本日は私の護衛騎士ともども楽しませていただきます」
場慣れしているヴァレリラルドはすらすらと口上を述べる。
「ああ。堅苦しいことはこれで終わりだ。ナオ様、自由におしゃべりと食事をお楽しみください」
エンゲルブレクトの言葉を合図に、場がリラックスする。
「ナオ様」
濃い目のブルーの上着に水色のウエストコート、白のブラウスシャツのテュコが梛央の側に寄ると、
「ナオ様」
薄紫色のドレスのアイナと若草色のドレスのドリーンも側に来た。
ホワイトプリムを外して髪をセットした2人は、とても普段はメイドをしているとは思えなかった。
「2人ともすごく綺麗」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
綺麗なカーテシーで応えるアイナとドリーン。
「堅苦しくないとか、形式ばったものじゃないとか、気負いなく、とか言いながら、ちゃんと形式ばってるよ。小ホールなのに小じゃないし」
シャンデリアの煌びやかな絢爛豪華なホール、テーブルに並ぶ数々の料理。そして生で演奏される室内楽。
前の世界とあまり変わらない楽器で奏でられる弦楽四重奏。
晃成たちに話をしたらやめようと思っていたヴァイオリン。自分から捨てようとしたものなのに、なぜ今は見るだけで胸がしめつけられるんだろう。
「ナオ様?」
「ううん、何でもない」
梛央の視線の先の楽団を見て、なんとなくその心情を察したテュコは、
「さあ、ナオ様。料理を見に行きましょう。あーん、ですからね」
あえて何も聞かずに梛央の手を取って料理の並ぶテーブルに案内する。
置いてある皿を取り、
「どれをお召し上がりに? 言わないといっぱい盛り付けちゃいますよ?」
悪い顔で言った。
「ぇぇ、じゃあ、これとこれと、これ。あと、これ」
どれも食べやすいように一口サイズに切り分けられている料理を、指さす梛央。
「と、これも追加で。壁際に置いてある椅子に座って食べましょう」
「待って。僕も取るから」
梛央も皿を取って料理を盛り付けると、壁際の椅子に座る。
「じゃあ、ナオ様。あーん」
テュコが料理を乗せたフォークを差し出すと、口を開けて食べる梛央。
「なっ、なんなんだ、あれは」
その光景にヴァレリラルドは衝撃を受けた。
「あれは『あーん』です。それはもう、しても至福。見ても至福な餌付け行為です」
恍惚とした目で語るサミュエル。
「あーん、餌付け・・・」
ヴァレリラルドは自分も皿を取ると、料理を数種類盛り付けて梛央の横に座った。
「ナオ」
呼ばれて、テュコとは反対側の隣に座ったヴァレリラルドを振り向く梛央は、振り向きざまに口の前に食べ物を差し出され、反射的にそれを食べた。
首を傾げながらも自分が与えた食べ物を咀嚼している梛央を見て、確かに至福で、こんな感覚がこの世にはあるのだ、と、ヴァレリラルドは感動に打ち震えていた。
「ヴァルも」
梛央は自分の皿の料理をフォークでヴァルの口に運ぶ。
ほわほわした気分で口を開け、それを食べる。
にっこり笑う梛央に、幸せそうに微笑むヴァレリラルド。
「ナオ様、こっちです」
負けじとテュコの差し出す料理を食べる梛央。
梛央、ヴァレリラルド、テュコ。
美形の少年3人の熾烈でほのぼのとした恋のバトルを大人たちは微笑ましく見守っていた。
アイナとドリーン、テュコは別室で支度をしてから、先に会場となるホールで待っているはずだった。
サリアンはタイトな白のロングコートと白いトラウザーズ、中のウエストコートも白という白尽くしだった。
「サリー、すごく素敵だね」
「ありがとう。ナオ様もよくお似合いだよ」
お気に入りだった制服と似た服は、本来の夜会服として作られたものより控え目な装飾だったが、シンプルで品のよい装いが梛央によく似合っていた。
サリアンに言われて梛央は嬉しそうに頷く。
「ナオ様、入ります」
ケイレブの声と同時にヴァレリラルドとケイレブが入って来た。
すぐに目についたのがケイレブの服装で、梛央は一目でそれがサリアンと色違いの対になっていることを知った。
ヴァレリラルドもサリアンを見てそう気づいたようで、気づいた者同士で梛央と目を見合わせて微笑んだ。
ヴァレリラルドは金のゴージャスな縁取りのある黒いコートで、ウエストコートも黒、シャツブラウスは白で、短めの丈の袖からもシャツブラウスのフリルの袖が覗いている。
まさしく王子様の装いだった。
「かっこいいね、ヴァル」
「ありがとう、ナオもすごく似合ってる。・・・綺麗だよ」
昨夜は落ち込んだが、護衛のケイレブや護衛騎士のイクセルたちからフォローされて立ち直っているヴァレリラルドだった。
「うん。アイナとドリーンが綺麗にしてくれたんだ」
ヴァレリラルドの言葉の意味合いとは少しずれている答えだが、これが、ナオ。だからナオが好き。いつかは家族としてではない愛情をナオに伝えていく。
心の中でヴァレリラルドが固く決意している様子をケイレブは温かい目で見ながら、
「今日は少人数の夜会なので小ホールで行われます。行きましょう」
サリアンと共に王太子と愛し子を夜会の会場に案内した。
シアンハウスのホールは大・小2つあり、今回は身内と身内同然の者たちとの小規模な夜会ということで小ホールが会場になっていた。
「ナオ様とヴァレリラルド王太子殿下、並びにその護衛のサリアンとケイレブの登場です」
サミュエルの紹介とともに演奏が始まる。
ナオの護衛騎士である第一騎士団の騎士たちは黒い騎士服の正装で、ヴァレリラルドの護衛騎士である近衛騎士団の騎士たちは白い騎士服の正装で整列して道を作っており、梛央はヴァレリラルドに手を取られてその中を進む。
その先には両脇に自身の護衛騎士を立たせたエンゲルブレクトが、椅子から立ち上がって2人が進んでくるのを待っていた。
「夜会へようこそ。ナオ様。ヴァレリラルド。身内だけの気楽な集まりとしてどうぞお楽しみください」
「えぇと、お招きありがとうございます? エレク」
戸惑いながら挨拶する梛央。
「叔父上。このような機会を作っていただき、ありがとうございます。お言葉に甘えて本日は私の護衛騎士ともども楽しませていただきます」
場慣れしているヴァレリラルドはすらすらと口上を述べる。
「ああ。堅苦しいことはこれで終わりだ。ナオ様、自由におしゃべりと食事をお楽しみください」
エンゲルブレクトの言葉を合図に、場がリラックスする。
「ナオ様」
濃い目のブルーの上着に水色のウエストコート、白のブラウスシャツのテュコが梛央の側に寄ると、
「ナオ様」
薄紫色のドレスのアイナと若草色のドレスのドリーンも側に来た。
ホワイトプリムを外して髪をセットした2人は、とても普段はメイドをしているとは思えなかった。
「2人ともすごく綺麗」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
綺麗なカーテシーで応えるアイナとドリーン。
「堅苦しくないとか、形式ばったものじゃないとか、気負いなく、とか言いながら、ちゃんと形式ばってるよ。小ホールなのに小じゃないし」
シャンデリアの煌びやかな絢爛豪華なホール、テーブルに並ぶ数々の料理。そして生で演奏される室内楽。
前の世界とあまり変わらない楽器で奏でられる弦楽四重奏。
晃成たちに話をしたらやめようと思っていたヴァイオリン。自分から捨てようとしたものなのに、なぜ今は見るだけで胸がしめつけられるんだろう。
「ナオ様?」
「ううん、何でもない」
梛央の視線の先の楽団を見て、なんとなくその心情を察したテュコは、
「さあ、ナオ様。料理を見に行きましょう。あーん、ですからね」
あえて何も聞かずに梛央の手を取って料理の並ぶテーブルに案内する。
置いてある皿を取り、
「どれをお召し上がりに? 言わないといっぱい盛り付けちゃいますよ?」
悪い顔で言った。
「ぇぇ、じゃあ、これとこれと、これ。あと、これ」
どれも食べやすいように一口サイズに切り分けられている料理を、指さす梛央。
「と、これも追加で。壁際に置いてある椅子に座って食べましょう」
「待って。僕も取るから」
梛央も皿を取って料理を盛り付けると、壁際の椅子に座る。
「じゃあ、ナオ様。あーん」
テュコが料理を乗せたフォークを差し出すと、口を開けて食べる梛央。
「なっ、なんなんだ、あれは」
その光景にヴァレリラルドは衝撃を受けた。
「あれは『あーん』です。それはもう、しても至福。見ても至福な餌付け行為です」
恍惚とした目で語るサミュエル。
「あーん、餌付け・・・」
ヴァレリラルドは自分も皿を取ると、料理を数種類盛り付けて梛央の横に座った。
「ナオ」
呼ばれて、テュコとは反対側の隣に座ったヴァレリラルドを振り向く梛央は、振り向きざまに口の前に食べ物を差し出され、反射的にそれを食べた。
首を傾げながらも自分が与えた食べ物を咀嚼している梛央を見て、確かに至福で、こんな感覚がこの世にはあるのだ、と、ヴァレリラルドは感動に打ち震えていた。
「ヴァルも」
梛央は自分の皿の料理をフォークでヴァルの口に運ぶ。
ほわほわした気分で口を開け、それを食べる。
にっこり笑う梛央に、幸せそうに微笑むヴァレリラルド。
「ナオ様、こっちです」
負けじとテュコの差し出す料理を食べる梛央。
梛央、ヴァレリラルド、テュコ。
美形の少年3人の熾烈でほのぼのとした恋のバトルを大人たちは微笑ましく見守っていた。
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