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44、建物にたどり着いた女傑

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「アレクの為にいっぱい頑張ったのに!あんたなんかに!!」

 延々と喋り続けたヒルダは、いまだにその不満は留まるところを知らずにいた。
 バシバシと叩かれ続ける痛みに、もはや痛みすら通り越して感覚が無くなっているような気がしてならない。

(同じ場所ばかり叩くのは止めてくれないかね。鏡は無いけど分かるよ、私は今おたふく風邪にかかった子供みたいに顔が腫れ上がってるだろうね)

 刃物が出てこないだけマシだろうが、一体いつになったらこの怒りは収まるのだろうか。

「あーもう!イライラする、イライラするイライラする!!!」

 膨れ上がっていく怒りを止められなくなったヒルダは、手近にある木箱や宝石箱を手あたり次第に投げ始めた。

「って!」
「私の方が痛いわよー!!」

 宝石箱が当たった痛みで思わず声を漏らすと、逆切れしたヒルダがユキ目掛けて物を投げてくる。
 角ばったものを重点的に投げてくるのだから質が悪いというやつだ。
 角が綺麗にユキの額にヒットしたと同時に、空気を割るような大声が響き渡る。

「ヒルダ!!!そこにいるんだろう!」
「うひっ!?この声は、お、おばあ様?」

 ヒルダにとって祖母は父よりも恐怖の対象なのだろう、少し青ざめた顔をしている。

「べ、別におばあ様なんか怖くないんだから!あんた達何とかしなさい!」

 現役を退いたおばあ様くらい、何とか出来るでしょうとヒルダは金切り声で叫ぶ。行かなきゃ報酬を減らすからと喚いた。
 報酬を減らされちゃ敵わないと渋々建物の外に出たチンピラ達は、アルシアの姿を見てニヤリと笑った。

 白い髪に皺の寄った顔は見るからに年寄りという風貌で、これは簡単な仕事だと男達は思ったのだ。そういう所がチンピラたる所以ゆえんというやつかもしれないが。
 サンドリア伯爵は捜索部隊を集めているため、今は近くに居ない。それ故に余計に年寄り一人なら何とかなると思ったのだろう。

「うぉら!死ねやババア!!」

 男達は持っていた剣でアルシアに容赦なく切りつけてくる。
 アルシアは剣筋を読んで避けると、脛を力いっぱい蹴り上げた。衝撃でよろめいた男の手の甲目掛けて、髪を結わえるのに使っていた簪を突き立てる。
 
「痛ってえな!なにすんだババ……ア」
「誰がババアだい、おばあ様と呼びな」

 アルシアは落としてしまった剣を素早く拾い上げ、男の首に突き立てた後ピンヒールで力いっぱい男を踏みつけにする。

「うっ、なんだよこのババア」

 呻く男は、勝利を確信したようにふっと鼻で笑うと、近くに隠れていた仲間がアルシアを切りつけてくる。

「バーカ、年寄りは後ろに引っ込んでろ!」
「危ない!!」

 切っ先がアルシアにたどり着く瞬間に身を翻し男の剣を防ぐ、と同時に仲間の男からひっと小さな声が漏れた。
 前からはアルシアの剣が、後ろからはたどり着いたアレクの剣が男に突き付けられていたからだ。

「大丈夫ですか」
「おや、ありがとうね。坊やはこの先の女性を助けに来たのかい?」
「ああ」
「なら、早く行きな。ここは私一人で大丈夫だよ」

 アルシアが先に行くように促すと、アレクは頷いて建物に走って行く。
 見送るアルシアは剣を構えなおした。

「ババア一人なら何とかなる!行くぞ」
「おう」

 向かってくるチンピラ達にアルシアは笑った。

「私に勝とうなんざ一世紀早いと思うけどね」
『手伝うの~』
『クリ抜イテイイ?』
『手伝う必要性が見出せませんが』

 側で成り行きを見守っていたアルシアの烏達が、カーと一鳴きした。
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