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40、搾りかすと呼ばれた女
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ヒルダはサンドリア伯爵家の三番目の子供としてラグジェルドに生を受けた。母親譲りの金の髪に、父親譲りの緑の瞳を受け継いだ美少女であった。
両親だけでなく、長男である兄も長女である姉もヒルダを目に入れても痛くないほど可愛がった。
ヒルダも家族の愛を一心に受け素直な良い子に育ってはいたが、他者からの心無い言葉に打ちのめされてしまったのだ。
頭が良く幼い頃から父の領地経営に口を挟めるほどの頭脳を持つ兄と、絶世の美女と謳われ道行く男のみならず女まで虜にしてしまうような美人な姉。
そんな二人の下に生まれた次女は別段特筆するべきこともなく、兄よりも愚かで姉よりも不細工だと嗤われた。素晴らしい兄姉の残り、搾りかすだと。
それはヒルダの事が好きな少年が意地悪を言っただけの話ではあったが、言われている事は確かだった。その少年だけならば鼻で笑ってやれたが、他から出た失笑に皆が同じことを思っているのだと感じたのだ。
当然ながらやられたまま泣き寝入りするようなヒルダではないので、ニタニタといやらし気に嗤う顔に頭突きをして、転んで尻もちをついた所に男の急所目掛けて踏みつけにしてやったが。
落ち込むヒルダを気晴らしにと侍女達が連れて出てくれた先で、不運にも破落戸に遭ってしまったのだ。
そこで助けてくれたのがアレクというわけだった。
アレクはあっという間に破落戸を追い払ってくれた。その姿を見て、体が弱く運動が苦手な兄にも、貴族令嬢である姉にも剣を握って戦う事は出来ないだろうと考えたのだ。
どうせ不出来な娘なら、どこか人と違う事をしてみようではないかと。
ついでに言うと剣の道を究めてあの日ヒルダを嗤った少年を打ちのめし、今度はヒルダが嗤ってやろうと思ったのもある。
何せ彼は不能にはなっていないらしいから、まだやり足りなかったとヒルダは今でも思っている。
そのため、こっそりと屋敷を抜け出し武器を揃え冒険者ギルドへ登録し、町の道場のような場所にも通った。
そんな毎日を過ごすうちに度々アレクを見かけるようになった。彼はいつも誰かの世話を焼いていて、楽しそうに毎日を生きていた。そんな彼の誠実さや、剣の手腕を好きになっていったのだ。
アレクの好きなものを知って、アレクに近寄ろうとする女は速やかに撃退し、アレクを好きになったことを他の者ににおわせ、平民になった時のためにこっそりと料理や洗濯を覚えていた。
だというのに、彼はいつの間にか隣に自分以外の女を連れて楽しそうに笑っていて。
それどころかその女が稀代のビッチだというのだから、ヒルダは怒髪冠を衝く程の怒りようだった。
アレクを取られまいと焦ったヒルダは、最後に取っておいた結婚を父に願い出てしまい拒否された。
「あーイライラするわ!あの女には隙が無いし、いつまで経っても吉報はやって来ないし!どうすれば良いのよ」
自室のソファーに置いてあったクッションを力いっぱい地面に叩きつけると、ヒルダははっと顔を上げてにたりと笑みを浮かべる。
ユキは人が困っていれば首を突っ込んでしまう女だ、それは今までのストーカー行為で確定している。その特性を生かしてやれば、案外楽に捕まえられるかもしれない。
「ふふ、ふふふふふふ。そうと決まればすぐに実行よヒルダ!」
自室の窓を開いたヒルダは、窓枠に手をかけて二階から飛び降りた。
両親だけでなく、長男である兄も長女である姉もヒルダを目に入れても痛くないほど可愛がった。
ヒルダも家族の愛を一心に受け素直な良い子に育ってはいたが、他者からの心無い言葉に打ちのめされてしまったのだ。
頭が良く幼い頃から父の領地経営に口を挟めるほどの頭脳を持つ兄と、絶世の美女と謳われ道行く男のみならず女まで虜にしてしまうような美人な姉。
そんな二人の下に生まれた次女は別段特筆するべきこともなく、兄よりも愚かで姉よりも不細工だと嗤われた。素晴らしい兄姉の残り、搾りかすだと。
それはヒルダの事が好きな少年が意地悪を言っただけの話ではあったが、言われている事は確かだった。その少年だけならば鼻で笑ってやれたが、他から出た失笑に皆が同じことを思っているのだと感じたのだ。
当然ながらやられたまま泣き寝入りするようなヒルダではないので、ニタニタといやらし気に嗤う顔に頭突きをして、転んで尻もちをついた所に男の急所目掛けて踏みつけにしてやったが。
落ち込むヒルダを気晴らしにと侍女達が連れて出てくれた先で、不運にも破落戸に遭ってしまったのだ。
そこで助けてくれたのがアレクというわけだった。
アレクはあっという間に破落戸を追い払ってくれた。その姿を見て、体が弱く運動が苦手な兄にも、貴族令嬢である姉にも剣を握って戦う事は出来ないだろうと考えたのだ。
どうせ不出来な娘なら、どこか人と違う事をしてみようではないかと。
ついでに言うと剣の道を究めてあの日ヒルダを嗤った少年を打ちのめし、今度はヒルダが嗤ってやろうと思ったのもある。
何せ彼は不能にはなっていないらしいから、まだやり足りなかったとヒルダは今でも思っている。
そのため、こっそりと屋敷を抜け出し武器を揃え冒険者ギルドへ登録し、町の道場のような場所にも通った。
そんな毎日を過ごすうちに度々アレクを見かけるようになった。彼はいつも誰かの世話を焼いていて、楽しそうに毎日を生きていた。そんな彼の誠実さや、剣の手腕を好きになっていったのだ。
アレクの好きなものを知って、アレクに近寄ろうとする女は速やかに撃退し、アレクを好きになったことを他の者ににおわせ、平民になった時のためにこっそりと料理や洗濯を覚えていた。
だというのに、彼はいつの間にか隣に自分以外の女を連れて楽しそうに笑っていて。
それどころかその女が稀代のビッチだというのだから、ヒルダは怒髪冠を衝く程の怒りようだった。
アレクを取られまいと焦ったヒルダは、最後に取っておいた結婚を父に願い出てしまい拒否された。
「あーイライラするわ!あの女には隙が無いし、いつまで経っても吉報はやって来ないし!どうすれば良いのよ」
自室のソファーに置いてあったクッションを力いっぱい地面に叩きつけると、ヒルダははっと顔を上げてにたりと笑みを浮かべる。
ユキは人が困っていれば首を突っ込んでしまう女だ、それは今までのストーカー行為で確定している。その特性を生かしてやれば、案外楽に捕まえられるかもしれない。
「ふふ、ふふふふふふ。そうと決まればすぐに実行よヒルダ!」
自室の窓を開いたヒルダは、窓枠に手をかけて二階から飛び降りた。
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