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12、とろーりチーズオムレツ

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 陽だまりの猫亭に帰ってからは何を作ろうか考えるのに必死だった、だってチーズと牛乳が手に入ったのだから。牛乳は明日の朝にならなければ手に入らないとなれば、チーズを使った料理を作る必要がある。

「燻製なんかは酒にも合うんだけど、スモークチップも燻製器も無いからまた今度にしよう。」

 手間はかかるが一度に数を作ってしまえばその都度作る必要もなく、多少であれば常温の保管も出来る。その上酒の肴にもとても良い。もっとも熱燻製であれば十分から一時間あれば出来上がるらしいが、長期保存ができないのは痛い所だ。スモーキーな香りがしてとても美味しいんだけど。
 とはいえ、ユキも手伝ってはいるが基本的にはトム一人が厨房だ。ピザなどの手が凝っているものよりも比較的簡単に作れる方が良いだろう。

「チーズオムレツでも作ろうかね。あれならチーズを入れ込むだけだし、簡単で美味しいから良いんじゃないか?」

 チーズオムレツならブイヨンを作った時みたいに長時間付きっきりになる心配もないし、材料さえあればすぐに作れる上に美味しいのがとても良い。善は急げだ、客の注文が途切れたのを見計らって作り始める。
 卵を取り出してボウルに割り入れ、しっかりと溶きほぐす。この世界かあるいは国かは分からないが、少なくとも陽だまりの猫亭には箸というものは存在していない。
 混ぜるのはフォークか木べらだ。たかだか卵を溶いていくだけのために木べらを使用するなど面倒以外のなにものでもない。当然泡だて器なんて便利なものもなかった

「そこらへんで丁度いい棒でも拾ってきて菜箸でも作ろうかね、箸が無いとどうにも不便で仕方ないよ」

 つまむ、切るとそれだけで何役もこなせる箸はとても便利だった、この世界には自分のような異世界人は居ないのだろうか。食材が無いのは仕方がないとしても、転生者が居るのなら箸くらい作っていそうなものだが。

「塩と混ぜ合わせて、やっと卵の用意が出来たよ。トムー……うわっ!」
「チーズ料理か!」

 呼ばれるまでもなく、トムはユキの後ろに陣取っている。その姿はもはや恒例行事のようになりつつある。
 
「さて、今日は手間暇というものを知ってもらおうかね。私と一緒に作るよ」
「分かった」
「なら早速、これはマネしないで良いからね」

 そういうと、ザルを取り出してユキの分だけ卵液を濾していく。

「ブイヨンの時にやってた濾すって作業か?なんのためにしてるんだ?面倒なだけじゃないか」
「美味しくなるからだよ。今回の場合は、濾すことによって殻やカラザなどの異物を取り除いたり口当たりを滑らかにする効果がある。あとは、黄身と白身が均一に混ざりあって黄色一色の綺麗な色合いになったり、焼き上がりも均等になるね」

 何をするにも手間をかける分だけ美味しくなる。まあやらなくても料理は出来上がるあたり、少々面倒な行為ではあるんだが。特に最近の若い子は、仕事だ趣味だと忙しいようだから、面倒な事は省きたいかもしれないが。かくいうユキも、食洗機だのお掃除ロボットだの避けれる手間は避けたいと思うから、なんでこんな事をしなければならないのだと言う気持ちは分からなくもないが。

 まあ、トムが厨房を回しているのだから、やるかやらないかはトムが決めればいい。料理の質と時間を天秤にかけて、やらないに傾いたらそれでいいのだ。勿論、やりたいと思ってくれたなら嬉しいことではあるが。

「ふーん?」
「出来上がればわかるよ」

 バターを早く作りたいのだが、牛乳が届いていないので今回はなし。油をひいて熱したフライパンに卵液を流し込む。すぐに木べらで休むことなくかき混ぜながら卵に火を通していく。
 卵が半熟になったら日から外し、あらかじめ用意しておいた濡れ布巾の上でトントンとフライパンを上下に動かす。

「せっかく焼いてたのにわざわざ冷やすのか?」
「すぐに火が通ってしまうからね、ふわとろにしたいんだよ」

 そこにチーズを投入すると弱火でもう一度卵を火にかけ、フライパンにこびりついていた卵の端を取りながらくるんでいく。フライパンを傾けながらカーブを使って焼くのがコツだ、オムレツは丸くなければ。

「ほい、出来上がり」
「簡単だな。なるほど、ユキが作った方が綺麗な黄色だ」
「そうだろう、手間暇を惜しまないだけで料理がワンランクアップするからね。私はオニオングラタンスープでも作るから、食べ比べといで」

 そういうとユキは作ってあるオニオンスープのもとへ向かう。
 ユキとオムレツを何度も視線を往復させて、トムはオムレツを食べることにしたらしい。フォークを手に取る。きっとさっと食べて合流すればいいと思ったのだろう。自分の作ったチーズオムレツを食べ始めた。

「オニオンスープとパンがあって、そこにチーズが加わるなら、オニオングラタンスープを作れと言われてるようなものだねー」

 早く明日になれと思いながら、ユキは足取り軽やかに引き続き新しい料理を作ることにした。
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