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11、保護者が居れば良いじゃないか

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 あの後「楽しかった?」と声をかけてきたライラ達夫婦に、どうか仕入れについて行かせてくれないかとお願いし翌日トムの買い物について行かせて貰うことになった。
 普段は朝一に食材を店まで届けてもらい、昼過ぎに出かけて明日届けてもらう注文をしながら必要に応じて足りなくなってきたものを買うようにしているらしい。

「ユキ、賄い食べたか?そろそろ出るぞ」
「分かった、すぐ行く」

 食事をシンクの水桶につけてからトムの後を追うと、木で出来た荷車を準備して待っていた。

「思ったより小さい荷車なんだね」
「足りなくなっている食材だけだからな、ユキが来てからは使う頻度が増えたが」

 そう言って貰えるなら嬉しい話だ、美味しいと思えるということなのだから。取り敢えずはそろそろパンが作りたい。スープやアヒージョを作ることで柔らかくして食べているが、やはりパンと言えば柔らかいものだと思う。
 特に中につぶ餡がぎっしり詰まったあんパンは最高だと思う。もちろん小豆が無ければ作れないが、ひとまずはふわふわなパンが食べたい。

「ようリンダ、買い物にきたぞ」
「おやトム、最近儲かってるみたいだね?そのおかげでうちも儲けさせてもらってるよ」

 たどり着いた店は野菜を中心に売っているらしい、トムに話しかけられた恰幅のいい女性リンダは親しそうに笑っている。

「まあまあだな、ユキのおかげだ」
「ユキ?この子かい?ユキちゃんありがとうね」
「こんにちは、ユキです。少し前から陽だまりの猫亭で働いています」
「どうしたユキ、猫被ってんのか?リンダには猫被らなくて良いんだぞ」

 丁寧に話すユキにトムがからかってくる。

「被っちゃいないよ、初対面の人に丁寧に話すのは当たり前じゃないか」
「んー?俺らには始めから結構くだけてなかったか?」
「もう、良いから早く買い物しなよ」

 野菜の方を指差すと、へいへいと楽しそうにして野菜を選び始めた。

「トマトと玉ねぎは足りてなかったな」
(トマトってちゃんと言ってるよ!流石ウィズエル様だね)

 もう一度確かめてみたい、近くに置いてあったレモンを手に取ってトムに見せる。

「トム、これはなんて言うんだい?」
「は?レモンだろ?初めて来たときに使ったじゃないか」
「そうだね、そうだったよね」


 良かった、ちゃんとレモンって言っている。違う言い方をされるの地味に混乱していたんだ。地球に無い食べ物だけ、この世界の呼び方で聞こえるようにきちんとなったようだ。

「変やつだな?」

 トムは、ニマニマと顔を崩すユキを横目で見ながらリンダに注文をしている。出来れば米のような物がないかと、鑑定で探し始めた。

(当たり前だけど米なんか置いて無いね、麹菌を作れなきゃ醤油も味噌も遠い話だし。当然の話だけど専門店などあるわけもないしね。)

 がっかりしていると隣の店に黄色い塊が視界の端に映った。

「あ!チーズ!」
「チーズ?それがどうしたんだ」

 チーズを発見してすぐにユキのスイッチが入ってしまったらしい、口から止めどなく言葉が溢れてくる。

「牛肉があるんだから、チーズや牛乳があると思ったんだ!あれがあれば色んなものが作れるよ!ピザとかグラタンとか、シチューも!!」
「ユキ?」
「そもそも、卵と牛乳は小麦粉は必需品だよ!そりゃあ米や醤油、味噌なんかも欲しい。欲しいけど、それよりもこの三つは絶対に必要だよ!」
「おい、ユキ」

 興奮してベラベラとしゃべり続けるユキにトムが待ったをかけようとする、勿論止まるはずもないが。

「ということはだよ、バターも作れるね。ああでも常温保存ができない!なんでこの国には冷蔵庫が無いんだい!雑菌が増えていくし、バターを作っても溶けちまう!ああやっぱり氷魔法は必須だった!!」
「ユキ、ユキ」
「ん?ああ、すまない。ちょっと興奮した」

 ちょっとどころじゃなかったとトムは呟く、付き合いは浅いがその中でも過去一番の興奮具合を記録していたと思う。

「分かったよ、ユキはチーズが欲しいんだろう?」
「正確には冷蔵庫か氷魔法使いだけどね、概ねその通りだ」
「何に使うかわからないが買おう」
「任せてくれ!必ず美味しい料理を作って見せるから」

 年齢と外見の割にふくよかな胸を叩いて、大船に乗った気でいてくれとユキは満面の笑みでいう。その屈託のない笑みに、そんなに欲しいなら冷蔵庫とやらの購入もほんの少しだけ考えても良いかもしれないなと、トムは思ったのだった。

「じゃあ、リンダ配達は頼んだぞ」
「ああ、任せときなよ。あんたは早くユキちゃんにチーズを買って帰ってあげな」

 リンダまでがユキの熱気におされたようで早く帰れと言う。早口で捲くし立てていた声が聞こえていたのだろう、隣の店主は購入を今か今かと待っているらしい。ちらちらとした
視線を感じる。

「ユキ、チーズ買って帰るぞ。牛乳もか?」
「牛乳は明日の朝搾りたてを持ってきてもらうように言って欲しい、常温保存はご法度だからね。あと好き嫌いの分かれる食材だからとりあえず試作の分だけで」

 そういうと店主はあからさまにがっかりとした様子を見せたが、トムが絶対に店に出ると思うぞと言うのを聞くと目を輝かせて掌をすり合わせていた。
 さあ、帰ったら何を作るか考えよう。ユキは、へたくそなスキップを踏みながら陽だまりの猫亭への帰路を急いだ。
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