12 / 54
11、保護者が居れば良いじゃないか
しおりを挟む
あの後「楽しかった?」と声をかけてきたライラ達夫婦に、どうか仕入れについて行かせてくれないかとお願いし翌日トムの買い物について行かせて貰うことになった。
普段は朝一に食材を店まで届けてもらい、昼過ぎに出かけて明日届けてもらう注文をしながら必要に応じて足りなくなってきたものを買うようにしているらしい。
「ユキ、賄い食べたか?そろそろ出るぞ」
「分かった、すぐ行く」
食事をシンクの水桶につけてからトムの後を追うと、木で出来た荷車を準備して待っていた。
「思ったより小さい荷車なんだね」
「足りなくなっている食材だけだからな、ユキが来てからは使う頻度が増えたが」
そう言って貰えるなら嬉しい話だ、美味しいと思えるということなのだから。取り敢えずはそろそろパンが作りたい。スープやアヒージョを作ることで柔らかくして食べているが、やはりパンと言えば柔らかいものだと思う。
特に中につぶ餡がぎっしり詰まったあんパンは最高だと思う。もちろん小豆が無ければ作れないが、ひとまずはふわふわなパンが食べたい。
「ようリンダ、買い物にきたぞ」
「おやトム、最近儲かってるみたいだね?そのおかげでうちも儲けさせてもらってるよ」
たどり着いた店は野菜を中心に売っているらしい、トムに話しかけられた恰幅のいい女性リンダは親しそうに笑っている。
「まあまあだな、ユキのおかげだ」
「ユキ?この子かい?ユキちゃんありがとうね」
「こんにちは、ユキです。少し前から陽だまりの猫亭で働いています」
「どうしたユキ、猫被ってんのか?リンダには猫被らなくて良いんだぞ」
丁寧に話すユキにトムがからかってくる。
「被っちゃいないよ、初対面の人に丁寧に話すのは当たり前じゃないか」
「んー?俺らには始めから結構くだけてなかったか?」
「もう、良いから早く買い物しなよ」
野菜の方を指差すと、へいへいと楽しそうにして野菜を選び始めた。
「トマトと玉ねぎは足りてなかったな」
(トマトってちゃんと言ってるよ!流石ウィズエル様だね)
もう一度確かめてみたい、近くに置いてあったレモンを手に取ってトムに見せる。
「トム、これはなんて言うんだい?」
「は?レモンだろ?初めて来たときに使ったじゃないか」
「そうだね、そうだったよね」
良かった、ちゃんとレモンって言っている。違う言い方をされるの地味に混乱していたんだ。地球に無い食べ物だけ、この世界の呼び方で聞こえるようにきちんとなったようだ。
「変やつだな?」
トムは、ニマニマと顔を崩すユキを横目で見ながらリンダに注文をしている。出来れば米のような物がないかと、鑑定で探し始めた。
(当たり前だけど米なんか置いて無いね、麹菌を作れなきゃ醤油も味噌も遠い話だし。当然の話だけど専門店などあるわけもないしね。)
がっかりしていると隣の店に黄色い塊が視界の端に映った。
「あ!チーズ!」
「チーズ?それがどうしたんだ」
チーズを発見してすぐにユキのスイッチが入ってしまったらしい、口から止めどなく言葉が溢れてくる。
「牛肉があるんだから、チーズや牛乳があると思ったんだ!あれがあれば色んなものが作れるよ!ピザとかグラタンとか、シチューも!!」
「ユキ?」
「そもそも、卵と牛乳は小麦粉は必需品だよ!そりゃあ米や醤油、味噌なんかも欲しい。欲しいけど、それよりもこの三つは絶対に必要だよ!」
「おい、ユキ」
興奮してベラベラとしゃべり続けるユキにトムが待ったをかけようとする、勿論止まるはずもないが。
「ということはだよ、バターも作れるね。ああでも常温保存ができない!なんでこの国には冷蔵庫が無いんだい!雑菌が増えていくし、バターを作っても溶けちまう!ああやっぱり氷魔法は必須だった!!」
「ユキ、ユキ」
「ん?ああ、すまない。ちょっと興奮した」
ちょっとどころじゃなかったとトムは呟く、付き合いは浅いがその中でも過去一番の興奮具合を記録していたと思う。
「分かったよ、ユキはチーズが欲しいんだろう?」
「正確には冷蔵庫か氷魔法使いだけどね、概ねその通りだ」
「何に使うかわからないが買おう」
「任せてくれ!必ず美味しい料理を作って見せるから」
年齢と外見の割にふくよかな胸を叩いて、大船に乗った気でいてくれとユキは満面の笑みでいう。その屈託のない笑みに、そんなに欲しいなら冷蔵庫とやらの購入もほんの少しだけ考えても良いかもしれないなと、トムは思ったのだった。
「じゃあ、リンダ配達は頼んだぞ」
「ああ、任せときなよ。あんたは早くユキちゃんにチーズを買って帰ってあげな」
リンダまでがユキの熱気におされたようで早く帰れと言う。早口で捲くし立てていた声が聞こえていたのだろう、隣の店主は購入を今か今かと待っているらしい。ちらちらとした
視線を感じる。
「ユキ、チーズ買って帰るぞ。牛乳もか?」
「牛乳は明日の朝搾りたてを持ってきてもらうように言って欲しい、常温保存はご法度だからね。あと好き嫌いの分かれる食材だからとりあえず試作の分だけで」
そういうと店主はあからさまにがっかりとした様子を見せたが、トムが絶対に店に出ると思うぞと言うのを聞くと目を輝かせて掌をすり合わせていた。
さあ、帰ったら何を作るか考えよう。ユキは、へたくそなスキップを踏みながら陽だまりの猫亭への帰路を急いだ。
普段は朝一に食材を店まで届けてもらい、昼過ぎに出かけて明日届けてもらう注文をしながら必要に応じて足りなくなってきたものを買うようにしているらしい。
「ユキ、賄い食べたか?そろそろ出るぞ」
「分かった、すぐ行く」
食事をシンクの水桶につけてからトムの後を追うと、木で出来た荷車を準備して待っていた。
「思ったより小さい荷車なんだね」
「足りなくなっている食材だけだからな、ユキが来てからは使う頻度が増えたが」
そう言って貰えるなら嬉しい話だ、美味しいと思えるということなのだから。取り敢えずはそろそろパンが作りたい。スープやアヒージョを作ることで柔らかくして食べているが、やはりパンと言えば柔らかいものだと思う。
特に中につぶ餡がぎっしり詰まったあんパンは最高だと思う。もちろん小豆が無ければ作れないが、ひとまずはふわふわなパンが食べたい。
「ようリンダ、買い物にきたぞ」
「おやトム、最近儲かってるみたいだね?そのおかげでうちも儲けさせてもらってるよ」
たどり着いた店は野菜を中心に売っているらしい、トムに話しかけられた恰幅のいい女性リンダは親しそうに笑っている。
「まあまあだな、ユキのおかげだ」
「ユキ?この子かい?ユキちゃんありがとうね」
「こんにちは、ユキです。少し前から陽だまりの猫亭で働いています」
「どうしたユキ、猫被ってんのか?リンダには猫被らなくて良いんだぞ」
丁寧に話すユキにトムがからかってくる。
「被っちゃいないよ、初対面の人に丁寧に話すのは当たり前じゃないか」
「んー?俺らには始めから結構くだけてなかったか?」
「もう、良いから早く買い物しなよ」
野菜の方を指差すと、へいへいと楽しそうにして野菜を選び始めた。
「トマトと玉ねぎは足りてなかったな」
(トマトってちゃんと言ってるよ!流石ウィズエル様だね)
もう一度確かめてみたい、近くに置いてあったレモンを手に取ってトムに見せる。
「トム、これはなんて言うんだい?」
「は?レモンだろ?初めて来たときに使ったじゃないか」
「そうだね、そうだったよね」
良かった、ちゃんとレモンって言っている。違う言い方をされるの地味に混乱していたんだ。地球に無い食べ物だけ、この世界の呼び方で聞こえるようにきちんとなったようだ。
「変やつだな?」
トムは、ニマニマと顔を崩すユキを横目で見ながらリンダに注文をしている。出来れば米のような物がないかと、鑑定で探し始めた。
(当たり前だけど米なんか置いて無いね、麹菌を作れなきゃ醤油も味噌も遠い話だし。当然の話だけど専門店などあるわけもないしね。)
がっかりしていると隣の店に黄色い塊が視界の端に映った。
「あ!チーズ!」
「チーズ?それがどうしたんだ」
チーズを発見してすぐにユキのスイッチが入ってしまったらしい、口から止めどなく言葉が溢れてくる。
「牛肉があるんだから、チーズや牛乳があると思ったんだ!あれがあれば色んなものが作れるよ!ピザとかグラタンとか、シチューも!!」
「ユキ?」
「そもそも、卵と牛乳は小麦粉は必需品だよ!そりゃあ米や醤油、味噌なんかも欲しい。欲しいけど、それよりもこの三つは絶対に必要だよ!」
「おい、ユキ」
興奮してベラベラとしゃべり続けるユキにトムが待ったをかけようとする、勿論止まるはずもないが。
「ということはだよ、バターも作れるね。ああでも常温保存ができない!なんでこの国には冷蔵庫が無いんだい!雑菌が増えていくし、バターを作っても溶けちまう!ああやっぱり氷魔法は必須だった!!」
「ユキ、ユキ」
「ん?ああ、すまない。ちょっと興奮した」
ちょっとどころじゃなかったとトムは呟く、付き合いは浅いがその中でも過去一番の興奮具合を記録していたと思う。
「分かったよ、ユキはチーズが欲しいんだろう?」
「正確には冷蔵庫か氷魔法使いだけどね、概ねその通りだ」
「何に使うかわからないが買おう」
「任せてくれ!必ず美味しい料理を作って見せるから」
年齢と外見の割にふくよかな胸を叩いて、大船に乗った気でいてくれとユキは満面の笑みでいう。その屈託のない笑みに、そんなに欲しいなら冷蔵庫とやらの購入もほんの少しだけ考えても良いかもしれないなと、トムは思ったのだった。
「じゃあ、リンダ配達は頼んだぞ」
「ああ、任せときなよ。あんたは早くユキちゃんにチーズを買って帰ってあげな」
リンダまでがユキの熱気におされたようで早く帰れと言う。早口で捲くし立てていた声が聞こえていたのだろう、隣の店主は購入を今か今かと待っているらしい。ちらちらとした
視線を感じる。
「ユキ、チーズ買って帰るぞ。牛乳もか?」
「牛乳は明日の朝搾りたてを持ってきてもらうように言って欲しい、常温保存はご法度だからね。あと好き嫌いの分かれる食材だからとりあえず試作の分だけで」
そういうと店主はあからさまにがっかりとした様子を見せたが、トムが絶対に店に出ると思うぞと言うのを聞くと目を輝かせて掌をすり合わせていた。
さあ、帰ったら何を作るか考えよう。ユキは、へたくそなスキップを踏みながら陽だまりの猫亭への帰路を急いだ。
23
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「たかが一男爵家の分際で、一々口を挟むなよ?」
そんな言葉を皮切りに、王太子殿下から色々と言われました。
曰く、「我が家は王族の温情で、辛うじて貴族をやれている」のだとか。
当然の事を言っただけだと思いますが、どうやら『でしゃばるな』という事らしいです。
そうですか。
ならばそのような温情、賜らなくとも結構ですよ?
私達、『領』から『国』になりますね?
これは、そんな感じで始まった異世界領地改革……ならぬ、建国&急成長物語。
※現在、3日に一回更新です。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる