海よりも清澄な青

雨夜りょう

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2人魚の彼女にもう一度恋をした

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「……い、おい。おい!オスカー!」

 体を揺さぶられ耳元で叫ばれる。感じる不快感にオスカーと呼ばれた男性は目を覚ました。

「やっと起きたか。何やってんだ?こんなところで寝たりして」

(……夢?)

 今まで喉から手が出るほど欲しかった最愛の彼女が目の前にいた。海の中に揺蕩う白銀の長い髪に、気の強さがうかがえるつり上がった瞳はとても綺麗な青は、以前と何一つ変わってはいなかった。
 人魚は長命な種族だ、容姿も簡単に衰えはしないのだろう。

 ガラス玉のように輝き透き通る瞳が、自分を映した時は二十歳も過ぎた良い年をした大人のくせに込み上げてくる思いを感じた。
 ああ、やっぱり自分は昔と変わらず彼女が好きで。自分は今もう一度恋に落ちたのだと。

「なあ!ここに白銀の髪をした綺麗な女性が居なかったか?!」

 オスカーは勢いよく体を起こし訊ねる。

「はあ?知らんよ。いつまでたっても帰ってこないから探し回ってたら、浜辺で眠りこけるお前を見つけたから声をかけただけだ」

 女なんて見ていないと、乳兄弟であり腹心でもあるアレックスは答える。第一そんな人を見つけていたら俺が声をかけているとも。アレックスは軽薄さを滲ませた顔で笑う。

「お前は夢でも見たんだ、さもなければ妖精にでも化かされたか。第一勝手に抜け出すなよ、一言声をかけろ」

(夢?そんなはず無い)

 オスカーは忙しい時間の隙間を縫って海に出かけていた。当然王太子である自分には護衛が付くものであるが、最近出かけすぎたためか周りに口うるさく言われたため、こっそりと出かけていたのだ。
 オスカーにとって海に出かける事は、日課と言って差し支えない。

 幼少期、夜の船で行われた海上パーティーに参加した時に誤って船から落ちてしまった事があった。その頃のオスカーは剣術も帝王学も出来ないことは無いのではないかと言われたほどの神童であったが、どうにも金づちであった。

 焦ってしまい余計に溺れていく自分を、白銀の髪に深い海の色をした目の人魚が助けてくれたのだ。一度見れば一生忘れられない容貌の彼女に、オスカーは一目で恋に落ちた。

 それからのオスカーはすさまじかった。海に住む彼女に逢いたい一心で金づちを矯正し、授業の合間に海へと足を運びゴミ掃除を行った。
 彼女が住みやすい環境になるようにと、種の保存のためと銘打って漁業を行う時期や場所を取り決めるようにと父王に提案した。もし彼女が陸に上がってこれるなら、このフランシア王国は貴女が住む海と同じくらい美しい国だと言ってもらいたいと国の政策へも進言した。

 どれほど婚約者を選ぶように言われても頑として首を縦に振らなかった。彼女以外は欲しくないと思えるような衝撃的な一目ぼれで、十年以上の片思いを拗らせている。
 そんな彼女が、逢いたいと思っても会えなかった彼女が目の前に現れたのだ。
 もう二度と会えないのかもしれない、自分は彼女以外の女性を選らばなければいけない、そんな風に諦めかけていたのに。

「……逢いたい」

 もう一度彼女に逢いたい。諦めようとしていた自分に、これ以上は限界だと冷静に判断する頭に、心が反論を唱えるのが分かった。

「……もう諦められない」

 オスカーは、人魚の彼女にもう一度恋をした。

(何か方法を考えないと)

 もっと何か手をうたなければ。そうしなけらば望んだ思いは生涯手に入らない、そんな予感がした。
 それでも海を活動域にしている彼女にはそう簡単に会えはしないだろう。アレックスの不審げな視線を無視して暫く考えてみたが、ついぞ良案は浮かばなかった。
 いつまでもこんなところに居ても仕方がない、やっと立ち上がったオスカーのポケットでカチャリと何かが音をたてた。

(……ペンダント?)

 取り出されたのは、銀のチェーンに青く光る石がつけられた女性用のペンダントだった。
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