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第二章:変わる、代わる
142.「好きにしなさい」
しおりを挟む花の間のソファに腰掛けながら紅茶を飲む時間はもう当たり前の日常のひとつだ。美しく整えられた空間や大きな窓から眺めることのできる景色も、魔法のことが書かれた本が並ぶ書棚も、心を和ませる甘い茶菓子も、傍に控えて立つ幼いメイドもすべて日常に見る光景のものになった。
──麗巳さんは、どうなんだろう。
聞きたいことや言いたいことがたくさんある。それと同時に聞きたくないこともや言いたくないこともたくさんあって、ただ、当たり障りない話をしながらまたランニングをしましょうと誘うだけにしたくなる。
本人を目の前にすればなおさらだ。
「久しぶりね」
落ち着いた、ともすれば高圧的にも聞こえる物言いが懐かしい。振り返れば紺色のドレスを纏った麗巳が唇をつりあげて梓を見下ろしていた。寒いのか現代じみたストールを羽織っていて、それが少し可愛い。
「お久しぶりです、麗巳さん。昨日から待っていてくれたんですね。お待たせしました」
「ただここでくつろいでいただけよ」
麗巳は大きな音を鳴らしながら梓の向かいにあるソファに深く腰かけた。紺色のドレスが空気に膨らんで、ふくよかな手に叩きつぶされる。
乱暴な言動は梓に会うことを望んでいなかったようにみえる。だがメイドの話を聞くにそれは違う。一昨日の夜、麗巳がメイドに預けた伝言は会いたいという希望だけで梓の返事を求めはしなかった。付け足した言葉は9時には花の間にいるというメイドからすれば非常に困ったもので、結果、昨日は現れない梓を待ち続ける麗巳にメイドたちが気を揉むことになったらしい。そもそも梓に伝えることができていないのだ。気が気じゃなかっただろう。けれど麗巳は狼狽えるメイドになにか聞くこともなければ暴言を吐くこともなく、30分ほど経つと自室に戻ったのだそうだ。
──きっと私が来るまで毎日来るつもりだった。
麗巳は外を眺めてばかりで梓を見ない。眩しい外を睨みつける視線は厳しく、口元は固く結ばれている。おそらく昨日もこんな表情で梓を待ち続けていたのだろう。
はあ。
疲れた溜め息。
「凝りもせず何度もメイドに会いたいって伝言してきたでしょう」
「はい」
「……そういえばヴィラから話は聞いたのかしら」
「え?ヴィラさんですか?」
突然の名前に素っ頓狂な声が出るが、麗巳はちらりと梓を見るだけだ。
「私、こう見えて身体が弱いのよ。あの頃はとくに体調が悪かったからヴィラに伝言を頼んだこともあったけど……まあ、もうどうでもいいわ」
そういえば神子の相本に会ったとき麗巳の伝言をヴィラから聞くことはなかった。あのときのことだろうか。
『ご機嫌よう神子。こんな場所にいたら冷えるだろう。俺の部屋に来いよ』
嫌なことを思い出して梓は眉を寄せるが、はっとして麗巳を見る。
「体調が悪いときに何度も急かしてしまってすみません。今日は大丈夫ですか?」
「問題ないわ。それに……そんなことがどうでもよくなるぐらい色んなことがあったから、もう、別に」
独り言のようにポツリと言葉を落とす麗巳の声は弱々しい。以前はその姿を見て麗巳の背が少し低い事実を知った。今回は夢で見た姿が重なって現実が分からなくなる。
「そのうえ最後はいやに物騒な誘い文句だったからしょうがなくよ。魔法で見てしまう前に直接会って話したいなんて……そんな魔法、あるのね」
「はい。まだはっきりとはしていないんですが、知りたいって強く思ったものを夢のような形で見れてしまうんです。私が見たいと思ったことも、そうじゃないことも」
「そう。嫌な魔法ね」
麗巳の視線がお茶をもってきたメイドに移る。ビクリと一瞬動きを止めたメイドは麗巳の前に紅茶とケーキを置いたあと一礼して逃げるように離れて行った。厳しい視線はすぐには離れない。
「ごめんなさい。神子が魔法を使えるようになった日のこと、見ました」
「……どこまで……あの子のことは」
「……その日に自殺した神子がいるというのは聞いていますが、見てはいません。私が見たのは麗巳さんとあの人……神様の会話です。それも最後までは聞けていませんが、ルールのこと、聞きました」
「そう」
表向きには麗巳が神に願ったこの国に過ごす者へのルールは、実際にはもっともらしく神が頷いて芝居しただけのものだった。それを本当の意味でルールとしたのは麗巳であり、この国に住むものだろう。
「聖騎士は自分の神子以外の神子に会ってはいけない、命令されない限り秘密を話してはいけない、神子の命令は絶対……破れば死という罰がくだる」
「そうよ、悪い?」
「どうでしょう。私、あまりいい人じゃないのでなんともいえません。気分によって変わります」
梓の返事に伏せてばかりいた視線が起きて、ようやく2人は目を合わせる。嬉しさに表情を綻ばせる梓を見て、麗巳は分かりやすく眉を寄せた。
微笑みは静かに形を変えて、嗤う。
「……あの場所にいた人たちを見て、私、酷いとか可哀想とかじゃなくてざまあみろって思ったんです。人を傷つることだって分かってても、それほど躊躇いませんでした」
「本当に人が死んだのに酷い話ね」
「そうですね」
「私が殺したのよ」
「はい、見ました」
「……そう」
思い出すのは血が飛び散り次々と人が死んでいく現実味のない光景。けれど耳に残る悲鳴や祈りが、鼻をついた血の匂いが、恐怖や憎悪に歪んだ心が……すべて夢ではなかったのだと親切に教えてくる。
生々しい時間を少し思い出すだけで手は震えて気持ち悪くなってしまうが、あの場にいた男たちに抱いた気持ちはきっとこれからも変わらない。
「私もきっと魔法を望みました。だから良いとか悪いとかじゃなくて、それしか選べなかったと思うから」
認めたくない自分の残酷さは自分が自分である限り変えようがない。普段浮かべることも思うこともない感情だろうが、同じ状況に陥ったとき、必ず、形を変えずにそこにあるだろう。
非難も許しもしない梓の言葉に止まった目が伏せられて、閉じて、動かなくなる。
なにも言わない麗巳を見て梓はふと気になってメイドたちを見る。メイドたちは梓が振り返るとは思ってもいなかったのか、麗巳を見て眉を寄せていた顔を驚きに変えて顔をそらした。
──なんだかすごく子供らしい。
泳ぐ目を見つけて微笑み浮かべてしまえば更に驚かすことになったのかメイドたちはぴくりとも動かなくなった。このまま見続けているのは意地悪だろう。梓は視線を戻す。
紅茶はまだ温かく、美味しい。
けれど向かいにある紅茶は精一杯香りを広げるもいまだ手にとってもらえていない。ケーキもそばで飾りのように並ぶだけ。
紅茶が少なくなって……ついになくなってしまえば、カチャリ音が鳴ってようやく麗巳が声を出した。
「ごめんなさい……この魔法を使っても神子の召喚を消すことはできなかったのよ。5年経つたびこんな場所に誰かが連れてこられるのを知っていたのに、なにもできなかったのよ」
「なに言ってるんですか。衣食住どころか贅沢まで出来る環境を作り上げたのは誰ですか」
「……知りたいことはもうなにもなくなった?」
疲れを隠さない笑い方だ。前に見せた苛立ち含ませた暗い微笑みとはまるで違う。たまらず手をとればサテンのグローブに施された刺繍を指に感じた。どうやらこれも美海のお手製らしい。美海がサイン代わりにしていると言っていた模様の組み合わせがある。紺色のドレスにあしらわれる細かいレースのなかにもサインはあって、きっと、どちらも美海の新作だ。会わない間も刺繍に精を出していたことが分かって、こんな状況だというのに口が緩んでしまう。
「いえ、まだまだ沢山あります。それにしたいこともあるんです。ねえ、麗巳さん。起きたことは変えられません。本当に……どうしたって悔しいし心残りとか後悔とか未練とかたくさんあるけど、どうしようもないんです。自分が嫌になるし知りたくない自分を知ってしまうし、もう、言い始めたらきりがないぐらい嫌なことってあります。でも、どこでだってそういうものですよね。どこでだってそこにいるのは自分で、そこで生きていくしかないんですし。私はここで生きていくために自分のために神子の召喚を無くしますよ。だからバトンタッチ、です」
「……バトンタッチ?」
「はい。麗巳さん、私が引き継ぎます」
「……」
「もちろん私一人にできることなんてたかが知れているので、他の人たちにも助けてもらうつもりです」
「こんな場所で、神子の召喚を無くすなんて言っておいて?」
「はい、いいんです」
麗巳が視線を向けた先にはメイドがいる。もうこちらを見てはいないだろうが間違いなく聞き耳を立てている。
『神子様はそのようなこと気になさらずお努めなさいませ……無能の烙印を押されたままでいたいのでしたら話は別ですが』
『ララ、樹様をどの神子様よりも美しく仕立てるのがあなたの謝罪となります』
『ですが、神子様は神子様なのです』
神子でもそれぞれ考えが違うようにメイドだって一枚岩ではない。それにメイドが花の間に控えているのは神子の願いをすぐさま叶えるためだけでなく、当然監視もかねているからだ。
『大丈夫よ。花の間じゃなくて……ここで話しましょう』
『花の間で話さないでここで話したのは私にもメリットがあったからなんだよなー』
神子の様子を裏で聞いていた麗巳が花の間を避けて梓と話をしたときや白那の言葉から考えれば、麗巳以外にもなんらかの報告を聞いて動いている人はいるだろう。
麗巳は知りたいと思うことを止めはしなかった。それはその人たちにも例外じゃないはずだ。そうまでして平等に、秘密を無断で話せば死という重い罰を科しておきながら行動自体は縛っていない。矛盾しているのは、神子の命令は絶対というルール。
ああ、きっと。
──あのルールは復讐で、私たち神子を守るためのものだ。
麗巳の考えからは矛盾したルールを作った理由で思い当たるのはそれしかない。神子の命令は絶対。そうしたのはこの世界の人が崇める神が頷いたからだ。そして、まるで神がこの国の人を見限ったように見せた芝居は、言葉の通じなかった別の生き物である神子が人の言葉を話し始めた瞬間、神子を字の如く神の子として畏れ敬う存在とした。
麗巳は神子とこの世界の人の意思疎通を可能にする魔法を使っただけで、神の代わりに魔法を使ってルールを絶対としたわけではない。それを知ったときこの世界の人はどうするだろう。
梓が動かずとも、知ってしまうときはそう遠くないはずだ。
『その日たまたま居合わせるだけですから』
ヤトラの発言を思い出せば、似たようなことを思って試してくる人はこれからも出てくるだろう。ギリギリのラインを探って試し続け、最終的に疑いを確信に変えるはずだ。
そしてそのとき神子の安全が不安定なものへと変わる。ルールによって守られなくなれば何が起きるだろう。今までは麗巳が悪役をかってでて神子の恐ろしさをこの国の人に見せてきた。その虚勢が、周囲の知るところになる。
──自分のことは自分で守れるようにならないと駄目だ。
そのための力である魔法さえ麗巳から貰っているのだから。
「望むところです」
はっきりと、メイドにも聞こえるように答える。
静まり返る花の間はいつもとまるで違う雰囲気だ。麗巳は梓を見て小さく息を吐く。いつも微笑みを浮かべて話を聞き流し受け身ばかりでいることが多かった梓が、楽しそうにも見える表情で笑みを浮かべている。大人しそうに見えて自分の意見を言ったり拒否したりと自己主張できるところがあるのは知っていたが、人を挑発したり危険が及びかねない件にはっきりと自己主張して足を踏み入れたりすることはなかった。
──この子もこの世界でいろいろあったのね。
決めたのだろう。
それが分かって麗巳は鼻をならす。
「ああそう……あなたって、アイツに会えるんじゃない?悪趣味なところがあるようだから」
「え?……ああ、神様のことですか?」
「カミサマねえ」
「人に話すときには分かりやすいのでそう言っているだけですよ。私もあんな人……本当に許さない」
珍しい表情だ。
自分の十八番をとられた麗巳は目を瞬かせる。普段の梓の代わりにメイドの様子を見てみれば、知らぬ存ぜぬの態度は忘れたのか梓を見て目を見開いていた。梓が誰かに怒りどころか憎しみまで露わにしているのだ。それも自分たちが信じる神を相手に。
『面白い』
一度会った存在は梓を見てまったく同じことを言いだしそうだ。
「そう、じゃあアイツでいいんじゃないの。あの人でもあんな人でもなんでも。アイツだって皆が呼ぶから神だとか言っていたぐらいだし」
「それは……ふふ、そうですね。麗巳さんはあの人と会う方法を知っていますか?」
「知るわけないじゃない。知りたくもないわ」
「それなら逆に会わないための方法はどうでしょう」
「話が読めないわね?そういえば知りたいと思ったものを夢のような形で見れるって言っていたわね。それを使えば望まずともアイツに会ってしまう可能性があるのかしら」
「可能性はあります。でも会うにしてもまだ先がいいんです。欲をいえば神子の召喚やこの城のこととか、いろんな問題を片付けたあとがいいですね。一生会わない可能性もあるのであくまで欲をいえばですけど」
「あなたが突然死んでしまうことがない限り会うことになると思うわ。アイツは次代の王を選ぶって自分で言っていたもの。見て……ああ、最後まで見てなかったって言っていたわね」
「そうですね。混乱した状況だったのでほとんど会話も聞こえませんでした。最後に聞こえたのはあの人が『絶望とはなにをさすのだろう。君はどう思う?』って言葉ですね」
「あら……そう。それならあなたはもうアイツと会ってるわ。あのときアイツは私に『絶望とはなにをさすのだろう。興味がある』って言ったのよ」
溜め息吐いた麗巳が身体を起こして紅茶を飲み始める。随分と話し込んだから喉が渇いたのだろう。ごくりごくりと聞こえる音を聞きながら梓は自分の手が震えるのを自覚した。
『君はどう思う?』
後ろから聞こえた言葉。夢の中で神の声はずっと梓を通して聞こえていて、その場から動くことのできなかった梓は自分に重なっている神の姿を見ることはできなかった。実際に見ることができたのは白い華奢な手だけだったため、梓にとって神とは存在を感じられるが見えないものなのかと、そう思おうとしたのだ。だから後ろから声が聞こえて振り返ったとき、視界を隠した白い華奢な手は、梓から離れた神が麗巳向けて伸ばしただけに思えたのだ。けれど、違う。
──あの人は私に聞いてたの?
そのうえでその姿を隠し、けれどその手を梓に伸ばした。
「……アイツ本当に嫌な奴よね」
「……」
涙を落とす梓に麗巳がハンカチを渡す。けれど梓は受け取ることもできなくて、気遣いむなしく机はボタボタと濡れていく。ついに麗巳は諦めてメイドに紅茶のおかわりを頼んだ。
「でもそう。本当に見てきたのね……誰の姿だったの」
麗巳の問いかけに梓は泣き叫ぶ声を思い出してしまう。悠斗と口を戦慄かせ、もう会えないと、最後は嗤っていた。
──確かに笑うしかない。
梓は拳を握り締めて答える。
「おかあさん」
見る者によって姿を変える神という存在。会いたくてたまらない人に姿を変えて、それを奪った存在のくせに、他人ごとに楽しみながら会いたくてたまらなかった人の顔や声で絶望とはどんなものか聞いてきた。
──あの人は私に聞いてたんだ。麗巳さんの過去を一緒に見ながら、まるで変わらない調子であんなに淡々と。
腸が煮えくり返って握った拳が痛くなる。同時に、結局は麗巳の過去を他人事に見ていたのだと分かって吐き気を覚えた。自分自身に言われていたのだと知った瞬間、さらに増した怒りがその証拠だ。
なんて浅ましい。
「アイツにまだ会いたくないのよね」
鼻をすする梓に確認する声は普段の調子を取り戻していた。麗巳はまたなにかを考えている。それが分かって梓は顔をあげて声を絞り出す。
「……はい」
「その魔法も、そうね。私にも嬉しくないものなのよ」
「……」
それはそうだろう。知られたくない秘密を覗き見されるのは気持ちがいいものではない。
けれど麗巳は呆れたように笑う。
「見てしまうものはしょうがないわ。その魔法にアイツも干渉していることを考えれば、むしろあなたは見させられているのかもしれないし」
「え……」
「でも、魔法をかけてもいいかしら」
「魔法……はい。お願いします。迷惑をかけてしまってすみません」
麗巳からの思わぬ話に動揺するが申し出は有難くて梓は頭を下げる。人の心を踏み荒らしたことに気がつきもせず考えもせず責任を持たない。そんなことはもう、嫌だった。
「殊勝なことね。でもごめんなさい。本当のところあなたに魔法を使うまでもないのよ……約束して。絶対に、私の過去を覗き見するような魔法を使わないって今ここで誓って」
約束。
魔法と比べればおままごとのような拘束だ。けれどすぐには返事ができなくて梓は息を飲む。気軽に受け取るには怖くて重たくて、嬉しくて。
「……誓います。絶対に見ません」
たっぷり悩んだあと誓った梓を見て麗巳は満足そうに微笑む。きっと梓はそれこそ魔法を使ってでも夢を見ないようにするだろう。だからこそ麗巳は梓を魔法で縛らない。
──魔法が必要ない関係は初めてかもしれないわね。
そんなことを思う自分を女々しく思うが、魔法よりも重たい信頼で縛られた梓が泣いたままのくせに嬉しそうに笑うからどうでもよくなってしまう。
紅茶を飲めばさらにどうでもよくなって。
「これであなたはその魔法を使ったことで少なくとも私関連でアイツに会うことはないでしょうね。一応、こうも言っておきましょうか。アイツと話せば私の話が出るのは間違いないわ。だからそもそもアイツを望まないことね。今度は手順を踏まないと、私は一生あなたと話さないから」
「絶対に会いません」
「あらそう」
固く答える梓に微笑んだ麗巳はご褒美と言って自分のケーキを梓に渡す。
「アイツは必ず私が死ぬ前にもう一度ここに来るわ。その前に私が死ぬようなことがあればアイツはこの国にまた魔物を呼ぶとも言っていたわね」
「それって……あの人は麗巳さんに執着してるんですか」
「そのようね。とても楽しんでいるみたいよ?でも矛先があなたに移りそうで安心しているところ。だからあなたが死んでも同じ結果になるでしょうね。とにかく、アイツにそんな長生きはしないだろうことも言っておいたから、まあ、数年以内に現れるんじゃないかしら」
「麗巳さん」
「なによ。さっきから騒々しいメイドのことなら気がついているわよ」
麗巳の爆弾発言にメイドはどたばたと動き出して慌ただしい。こうなることが分かっていたから麗巳は先にお茶のお代わりをしたのだろう。熱い紅茶をゆっくりと楽しんで微笑んでいる。
「そうじゃなくて、長生きしないとかそんなこと言わないでください。それとケーキ食べてください。すっごく美味しいですよ」
「この身体をみなさい。食べに食べたんだからもういらないわ」
「それぐらいお菓子が好きなら是非にって感じですが、でも麗巳さんっていつもケーキもお菓子もあまり食べませんよね。食べたとしても一口ぐらいですし、もしかしてご飯が大好きなんですか?」
「あなたって本当、大人しい顔して言うこと言うわよね」
口元をひきつらせる麗巳に梓はにっこり笑う。
「ありがとうございます。そのついでと言ってはなんですが、また走りませんか?それに私の部屋で女子会しましょうよ。白那や美海さんたちも呼んだら絶対楽しいですよ」
「ある意味楽しそうではあるけど遠慮しておくわ。神子全員で集まるのも勝手にやっておいて頂戴」
「あ、そうですよね。身体のことを考えたら長々するのは気をつけたほうがいいですし、そこは気をつけます」
「……勝手に言っておいて」
「そうします」
譲らない梓に麗巳が紅茶に逃げれば、微笑んだ顔も紅茶を飲んで「おいしい」と幸せに浸った。ゆっくりとした時間。そういえばと話す穏やかな声が刺々しい声を笑って、穏やかな時間。
「ああもう、好きにしなさい」
投げやりな声は楽しそう。
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