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第二章:変わる、代わる
127.「俺だけ」
しおりを挟む揺れる視界がかすんでは晴れて、自分の口からは舌ったらずな声が漏れる。身体を打ち付けられるたび快楽に高まる身体は自分のものではないようだ。男を受け入れる秘部はずっと隙間なく埋められていて、やまない刺激にびくびくと怯えるくせに悦ぶように卑猥な音を鳴らしていて、恥ずかしさの余りテイルの胸を押しても口づけに流されてしまう。キモチイイ。言葉が作られる前に意識が乱されてされるがままに感じて啼いて。
――夢みてえだな。
身体を突けば素直に反応して、学んだ肉欲に溺れながら思い出す理性に泣いてよがる梓は何度汚しても初心なまま。何度交わっても飽きるなんて、ありえない。無垢な身体を汚したテイルは痛みに泣く梓を食べ続けて身体の隅々まで男を教え込んだ。身体の奥に精を吐き出せば感じる異物に身をすくめていたが、それもすぐに慣れてくれたようだ。今では精を吐き出すたび甘い声をだしながら震えて望むようにきつく締め付けてくる。
たまらなかった。
「あっ、あ」
――たまらない。
探るように身体のなか動く異物は身体を押し広げて圧迫するのに、それが、おかしな感情をつれてくる。今まで逃げていたその先の行為は頭も身体もおかしくさせて、好奇心に恥じらいを持っていた自分を思い出せば恥ずかしくてしょうがなくなる。
望んで、与え続けられる快楽。
――も、駄目。
もう止めては聞き届けられなくて、梓は苦しげに手に力を入れる。
なんて恥ずかしいことを望んでしまったのだろう。こんな。
『だが触れるだけで気持ちがいい。お前に触れている』
『俺はお前に触れたい。お前も俺に触れろ』
なんで触れたい、なんて。
「ちょっと協力、な?」
声が聞こえた気がしてなんとかテイルを見れば、テイルの胸元においていた手が片手で捕まっていくのが見えた。甘く絡んだように見えた指がほどけて、梓の両手首をなんなく縛っていく。
頭の上で押さえ込むように握られて戸惑うも、樹と呼ばれて素直に視線を戻してしまって。
「ああっ!あっ……あっ」
間近にテイルが見えた瞬間欲をたたきつけられる。震える身体に心臓がドクリと大きく脈打ってクラクラふわふわ。身悶えることさえ忘れて脚のつま先まで痺れてしまうのはきっとキモチヨクて、ああ、でも。
「っ……やっべ」
はねる身体を味わうテイルが歯を食いしばって唾を飲み込む。手首が、痛い。それなのに気持ちよくて、キモチイィ、恥ずかしい、ヤダ。
「ひぅっ」
乱れた意識が現実に戻される。
太ももに触れた指が肉に食い込んで脚を持ち上げて……沈んでくる身体。
「樹」
声がもっと近くなってきゅうきゅうと身体の奥がオカシクなってキモチ、キモチヨクテ。
「樹」
急かす声に目を開ければテイルが口づけてきて、離れる。よく見えるようなった顔はものほしそうに梓を見ていて。
「――っ」
襲ってくる衝動に声をあげれば覆い被さってきたテイルに視界のすべてを奪われて、また、終わらない時間が始まってしまう。首筋に噛みつくように口づける男に身体中が痺れて意識が遠のいて……
「樹」
夢現に聞く声は優しくてひどく安心した。頬を撫でる手は温かくて気持ちよく、ぴたりと触れる身体から伝わる鼓動はいつまでも聞いていたいほどで……ハッと我に返る。起きてしまった瞼は現実を、みおろして微笑むテイルを映しだした。布団からのぞく身体は素肌のままで、間違いなく、梓もおなじ状態だ。見る勇気がなくて固まる梓にテイルは優しくない笑みを浮かべていて。
「百面相だな」
頬を撫でる指が熱を味わってずいぶん楽しげだ。脚が、絡む。触れた足先に思わず逃げ場探して脚を立てれば異変を知って梓は後悔に息を飲む。脚の間から流れたものがなにか分かってしまう。気を失えてからどれだけの時間が経ったのだろう。きっとそれほど長い時間は経っていない。ダルさの残る身体に違和感はそこらじゅうにあってそれが分かっていくたび羞恥心だけでなく心臓がドクドクと泣きだす。ただ、ずっと身体の中にあったものはもうない。自分を狂わせていやというほど快楽を教えてくることはもうないのだ。ああでも腹に触れるものはなんだろう。濡れた感触。見えない手を探せばなにかを取り出していたようだ。それがなにか分かって疑問に瞬いたのも束の間、梓は身体を起こそうとして失敗する。
「ほら、口開けろ」
そう言われたのは何度目だろう。
微笑むテイルに首をふってきゅっと口を閉じれば、伸びてきた指が口紅を塗るようにマーマレードジャムを唇につけていく。身体を擦りつけられてゾクリと身体が痺れる。動いた布団からはいりこんだ空気が濡れた場所を冷やしきゅっと縮こまる身体。
歯茎をなぞる指からは甘い、苦い味。頬を撫でていた手が離れてしまって。
「休憩できたか?」
耳を噛んだ男の囁きに身体が燃えるように熱くなる。漏れた声は無遠慮な指を調子に乗らせる。梓がその指をせいぜい甘噛みしかできないことを知っている。
「っ」
口の中入り込んだ指は甘く優しいのに好きに息をすることを許してはくれなくて息が苦しい。腹の奥がきゅうっと締め付けられて身をよじらせれば、分かっていたとでもいうように秘部に触れた指が慣れたように動いて未熟な身体に劣情を思い出させる。
「ん、ん」
必死に堪えて、けれど身体を揺らすたび切なげに吐き出される声は物足りないとでもいうようだ。現に腹の奥まで満たせば梓は理性を忘れて叫んで泣いて甘えてテイルテイルと何度も呼んで請うてきた。あまりにも可愛くて盛りのついた獣のように何度も交わったのに、まだ、足りない。
薬と精液をすべて吐き出したわけではないが、それはそれで濡れて丁度いいだろう。
「ふっ、うあ」
擦りつけられる局部は快楽を教え込んだときのように固く膨れあがっている。
「樹」
また、永遠のような乱れた時間が始まる。
息が触れて、肌をなぞって、
「樹」
響いて。
チュプリ入り口が触れて梓は首を振る。けれど笑う声はそのまま容赦なく近づいてきて。
「ついさっきまであんなにキモチイイですって叫んでたのに」
「っ!」
テイルに許しを請うて涙ながらに言ったときのことを思い出す。結局テイルは許してくれなくて、それどころか気を失うまで苦手な場所を何度も何度も弄ってきたのだ。
「また気持ちよくなろーぜ?」
「ん゛ぅぅーっ、あっ、あ、ああ」
「……っ!そんな、締めつけんな。結構、辛い」
一気に奥を突いて梓の余裕を奪ったテイルは歯を食いしばって笑う。肌を熱で染めながら涎たらして吊り上がる唇は、優しく弧を描く緑色の瞳と違って歪んでいる。
樹と言葉を口にして、指先に力をのせて梓の腰を持ち上げて。
「んっ、んっ、や、やあ!テイルもう、も、ああっ」
恥じらいに顔を隠す手が力をなくすのはいつだろう。さらに腰を持ち上げて深く打ちつければ溢れた精液が淫靡な音をたてて梓は顔ではなく耳をおさえる。何度も何度も、梓がとくに気に入る場所を突けば肉が音を鳴らすたびよく見えるようになった顔が素直に欲に溺れてしまって……見惚れてしまう。
「テイル、テイル、テイル」
――俺だけのことを考えてる。
いつまでも続いて欲しい時間。
最高に気持ちよくて理想通り。
──セックスを怖がってたのに俺で感じてる。覚えて分かって……だけど逃げない。
「いつ、きっ」
――おかしくなりそう。
いつ終わるか分からない時間。
恐怖さえ覚える快楽が永遠のように続いて、欲しいのに、好きなのに怖い。
──触れたかった。好きで、ドキドキして……だけど。
「魔法使いながら、ヤルのって、やべーな……癖になりそ」
おそらく梓には聞こえていないだろう。淫らに喘ぐ梓は自分の部屋ではないことも忘れてずいぶん気持ちよさそうだ。先に果ててもそのまま身体を揺らせば耐えられない快楽にようやく理性を消して声がよく聞こえるようになる。抵抗にも見える手が腕に触れて猫のようなひっかき傷を残すのが可愛い。三つ編みを見つけてときどき引っ張るから悪戯できなくなるよう限界まで奥を突いて甘い唇を味わえば身体を痙攣させて、また、果ててしまって。
「俺だけ」
――この身体もこの声もこの顔も俺だけが知ってる。
そう思うたび心が震えて最高な気分になる。苦手なシールドを張ってまで味わい尽くしてしまう。いっそ他の奴らにも聞かせてやりたくなるが、いや、それは勿体ない。
「あ……ん」
朦朧とているのか力なく呟く唇を深く味わえば子宮が喜ぶように締めつけてきてたまらなくなる。
それでも必死に我慢して意識が戻るの待ったのは茶色の瞳が見たかったからだ。それからあとは快楽によがって泣いてもう一度テイルを求めてくれたら最高で。
なのに終わったとでも思っているのかまた夢に逃げようとしている。そんなこと、許すはずがない。
「まだ帰らせない」
「……かえ?ぁ、っ」
「……帰りてえの?」
帰るという言葉に反応した梓を見て、テイルは笑みを消した。
心を満たしていた最高な気持さえも消えていく。足りない。また、飢えた気持がわいて止まらなくなってずっとずっとずっとずっと……心に引っかかっていた違和感が嫌ななにかを訴えてくる。おかしい。理想通りのはずだ。なのに何故足りないなんて思うのだろう。理想的だ。
――コイツはこの世界を恨んでたくせに俺を欲しがってくれた。俺を好きだって言って望んで触れてくれた。セックスだってどれも最高で頭がおかしくなりそうなぐらいだしぜんぶ最高……最高、だ。
「あ」
怯えたようにも聞こえた声。茶色の瞳を見つけて、止まった時間。このままやめてしまいたくはなくて手を伸ばせば、とたんに横たわっていたはずの手がテイルの身体を押し離そうとしてくる。
その手は背中にまわらない。
違和感が分かって歪んだ笑みを浮かべたテイルは最後の薬を一気に飲み干した。
「いやああっ!あ!テイルっ!あっ」
腰を持ち上げて深く突けば初心なわりに女の身体は弓なりになってさらに深く男を受け入れた。テイルを咥えこんで垂れた涎に髪を絡ませる女は教えこんだとおり快感に従順で。
──俺だけ見ろよ。
気持ちいい、最高、理想通り。
テイルを受け入れてほしがってくれた。理想通り。快楽を覚えて知らない恐怖に逃げることもなくなった。理想通り。
「テイルぅ」
テイルを呼ぶ唇。理想通り。
「やだ、テイルもうやめ」
覚えた快楽に泣いてよがってテイルを身体の奥まで受け入れて……けれど、テイルと頬を染めてはにかんだ笑顔はない。
浮かれて気にならなかった小さな違和感がしこりになって、いつの間にか大きくなってしまった。
足りない。
違う。
何度も果てて、果てさせて、何度も身体を重ねてそのたび最高に満たされるのに、満たされない。
『ん……ぅ』
テイルを心配して梓が自分からした口づけを思い出す。テイルを抱きしめて、拙いながらも懸命にテイルの口づけに応えていた。肌の熱を感じながら見た茶色の瞳はテイルだけを映してゆるく微笑んでいて……ああ、おかしい。足りない、理想通り、足りない、理想?足りない、足りない足りない――なんで。
「お前は」
弛緩する身体は自分の姿も気にせず吐き出される欲を受け止めて枯れた声をだしている。そこらじゅうに赤い痣がついた身体は夢のような時間が現実だったと、帰ってからも、教えてくれることだろう。
精液に汚れた淫靡な姿。汗で湿った肌はテイルの身体にぴたりとくっついて……足りない。悦ばすには足りない肉棒を抜けば薄汚れた欲がべったりと絡んでいて、それだけ求めたことを思い知らせてくる。
──俺の。
秘部からこぼれる精液を拭えばドロリと指を伝っていく。痙攣する身体に這わせれば甘い甘い声。腹を撫でながら白く汚していくのは、なにか、暗い喜びを覚えた。別にいい。そう思うことにした。なにせ理想と違っても可愛くてたまらない女はテイルに感じてテイルを受け入れてテイルを呼んでテイルを欲しがった。
──俺だけのもの。
それだけでいいはずだ。欲しいものは自分で手に入れなければならない……手に入れた。逃げないしもう誰にも……ああでもなんで。
──俺はお前だけなのに。
「俺だけ見ろよ」
言うつもりがなかった言葉が滑り落ちて、消えていく。
触れる肌から伝わってきた振動に目が奪われたのが一瞬。そしてもう一度見た茶色の瞳に映っている気がしたのは情けない顔をした自分の姿。
名前も知らない女が時間を忘れたように固まった。
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