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第二章:変わる、代わる
92.オメデタイハナシ
しおりを挟むぐちゃぐちゃと音が鳴っている。舌は溶けてくっついてしまいそうなほど互いを舐め合っていて、脚にはだらりと垂れるなにかの感触がする。
――私なにしてるんだろう。なんでテイルに触れるんだろう。
梓はテイルの身体を押しながらも自分のことがよく分からなくて、与えられる快楽に泣くしか出来なかった。嫌いな人には触れられないはずの魔法が効かないことに一番驚いているのは梓だ。
──嫌だ。
セックスをするつもりはない。それなのに押し倒してくるテイルはヴィラのように話を聞こうとしてくれない。怖い。それなのに心臓はドキドキと音を鳴らし続けていて、自分の身体に触れる手を気持ち悪いとは思わない。怖い。テイルは子供のように笑って意地悪なことを言ってくる嫌な奴だ。それなのに止んだキスに恐る恐る目を開ければ、覗き込んでくる緑色の瞳を見つけて心臓は大きく鼓動を鳴らす。怖い。
「っあ」
抜き取られた指に声を出してしまえばまた口を塞がれてしまう。逃げようとしても逃げられなくて、ついに酸素を失ってむせこめばようやく解放された。テイルはむせる梓を見下ろしながら脱いだ服を梓の身体の下に敷く。カーペットがあるとはいえ寒いだろう。そう思うのにベッドに連れて行く余裕はなかった。
「樹」
なにも初めてな訳ではないのに気が急いてしまう。茶色の瞳が見たかった。それから、テイルと呼んでほしい。前みたいに梓から口づけてほしい。触れてほしい。それが叶わないならせめて梓が欲しかった。キスだけでたまらない気持ちになってしまうのだ。抱いたらどんな感じだろう。
──そしたらコイツだって。
テイルにとってセックスは面倒なこともあるが嫌いではなかった。むしろ身体を重ねるときに得られる快楽は多少のデメリットも受け入れられるぐらいには良く、そのうえ魔力はとれるし良いこと尽くめだ。嫌だと否定する意味が分からない。
テイルは梓の両手を片手でおさえこみ、微笑む。
梓はその良さを知らないから言っていることが分からないだけなのだ。分からないのなら、身をもって分からせてやればいい。そうしたら梓もテイルに手を伸ばすだろう。快楽に酔ってテイルの名前を呼ぶだろう。
「手、離してよ」
梓は自身を抑え込むテイルを睨む。下着のなくなった脚は落ち着かなく、囚われた両手は身動き一つできない。そのうえテイルは服を脱いでしまって嫌でもその傷だらけの肌を見てしまう。魔物に引っ搔かれたときに出来たであろう大きな傷を、弾丸でも受けたような傷を見つけてしまう。
「スキな人じゃないと嫌って?……それならお前は俺の何が嫌いだ?」
見下ろしてくる目は梓が嘘を言わないか探っているのだろう。じっと、ただじっとテイルは答えられない梓を見ていて……梓の秘部に手が触れた。息を飲む梓を見てもテイルは動じない。濡れたソコに添えられた手は円を描くように緩慢に動き出して、梓の身体はビクリとはねてしまう。
「やめっ」
「答えろよ」
握られた手に力が込められて、それなのに秘部を弄る手は優しい。ああ、脚が寒い。テイルの肌が火傷しそうなほど熱いことは知っているけれど、行き場所無くして震えるしか出来ない。緑色の瞳のなか快感によがる自分の姿を見つけてしまえば声を堪えることしか頑張れなくて。梓は込み上がってくる妙な感覚に目を閉じる。が、急にテイルは止めてしまった。
え、と思って……恥ずかしさに顔が熱くなる。かと思えばずぷりと指先が身体の中に沈んできて声を上げてしまった。微笑むテイルは梓の頬に口づけ、耳元囁く。
「挿れていいか?今のが、もっとヨクなる」
指じゃなくて。
囁かれた言葉に梓は顔を真っ赤にして目を吊り上げる。嫌い。それは最初音にはならなかった。けれど指を抜いたテイルが不機嫌そうな顔をしたのを見てしまえば、ハッキリと言えた。
「テイルのそういうところが嫌い!大っ嫌い!私はしたくないって言ってるのに勝手に進めて……嫌い」
「……それ、結構傷つくんだけど」
「こんな酷いことしてどの口がっ!」
「酷いこと?セックスは気持ちいいだけだぜ?」
「私はしたくないの!お願いだから他の人としてよお……!」
「……俺はお前としたいんだ」
「嫌いっ大っ嫌い」
「俺は……まあいいけど」
テイルはずっと本心を言っているのだろう。だからこそ梓にはテイルの考えが分からなくて首を振る。
『否定しないと俺は思い上がる。否定してみろ』
ヴィラとの一件で梓は知ってしまったし、学んでしまった。もしあの1件がなければ梓はテイルの言動を素直に受け止めてただヤリたいだけなのだと、性欲のまま梓を犯そうとしているようにしか思えなかっただろう。けれど先ほどからテイルは自業自得とはいえ梓に拒絶されるたび自嘲するのだ。
分からない。
梓の自由を奪っていた手が、離れる。どういうつもりなのだろう。梓は恐る恐る上半身を起こしながら脚を閉じた。そのまま後ずってもテイルは何もしてこず、ついに背中は掛けられた服を押して壁についた。立ち上がる力は、出ない。
「……嫌いって言われるのが嫌なくせになんでこんなことするの?テイルはイイことでも私はしたくないって、嫌だって言ってるのになんで?私の気持ちなんてどうでもいいの?」
「……お前が俺のように欲しがればいいなとは思う。セックスは怖いもんじゃねえって分かれば、お前も嫌とは言わねえだろ」
「こんなことされたら普通に怖いから!それに私はこんなこと無理矢理してくる人なんて大嫌い。そんな人とするセックスってテイルが言うように本当にイイものなの?分かんないよ。ヴィラさんはちゃんと話を聞いてくれたのに」
テイルを詰る言葉はそれ以上続けられなかった。
俯いていた目が、梓を見る。ただそれだけのことで梓は身体が竦んでしまった。へえ。呟く声が聞こえる。
「ヴィラ?ははっ、マジかよ。アイツはお前にとってソウイウ奴?」
「ソウイウって」
「すげえ。なんかすげえ腹立つわ。お前、アイツのことがスキな訳?」
伸びてきた手が梓の頬に触れる。そのまま項を這って後頭部にまわされる手の危なさが分かる。近づいてくるテイルが見える。ようやく元に戻せたワンピースが濡れた手に掴まれたのが見える。
それなのに梓は動くことが出来ず、テイルとの口づけを避けることもせず受け入れてしまった。触れた唇、緑色の瞳が見える。
──また失敗した。
それだけは分かった梓の声はもう音を出せない。梓の太ももを這った手が脚の付け根に辿り着いてグチグチと動き出す。垂れた液体は薬なのか愛液なのか分からなかったが、指が這うたび身体が疼いてしまうのは間違いなかった。テイルは響く水音を否定するように目を瞑る梓を見続けていて。
「なあ?今、俺は何した?」
続けられる秘部への甘い刺激に頭はまわらない。
唇触れる距離にいるテイルはそんな梓を見ながら秘部に触れていた指をわざとらしく擦りつける。
「コレじゃない。さっきしたの……これだよ」
そして触れたのは唇。今度は触れるだけで、ゆっくりと離れていく。
そしてもう一度同じことを問われれば答えは一つだ。
「……キス」
掠れた梓の声にテイルは正解とでも言うように目を細める。
いや、首を振った。
「もっとちゃんと言おうぜ?……唇を重ねて、舌を舐め合って、お前はよがりながら俺の唾液を飲み干した」
言いながら梓に口づけて同じことを繰り返す。
その間も愛撫は続けられ、身体を起こしていることが辛かった。
「なあ挿れていいか?……駄目?なあ、今俺は何してると思う?」
テイルは梓を追い詰めることを止めない。
失言のせいでテイルは許してくれなくなった。泣いても首を振っても今度こそ話を聞いてくれない。けれど最後まではしなくて。
……分からない。
「お前の股に触ってんの。指は1本、2本、3本……音が鳴ったな。聞こえたか?コレは俺の指。中に薬塗ったのも俺の指……今お前に触ってんのは俺だ」
そんなのはとうに知っている。
だから恥ずかしくて梓は泣いている。与えられる刺激や未知の感覚が怖くて泣いている。
分からない。
「ここまで許すってんなら、それでもいい。挿れなきゃセックスじゃねえならそれでもいいぜ?お前はそうやって目を閉じながらコレがヴィラの指だとでも思えばいい」
分からない。
テイルは何を言っているのだろう。驚く梓にテイルが自嘲に笑う。
分からなかった。
──私たちはどこですれ違ってしまったんだろう。
セックスはしたくないけど気持ち悪くない。セックスは怖いけどキモチイイ。テイルは意味が分からないけど嫌いじゃない。はっきりとした性格は好き。でも傷ついた表情を浮かべて言葉を飲み込んでしまったらどうしたらいいか分からない。身体が触れるたび笑みを浮かべるのも、掻き抱かれる瞬間も、苦手だ。
『ちょっとごめん』
──なんで私はキスをしたんだろう。
「わたっ私は、ヴィラさんにも同じこと言った。無理矢理してくる人なんて大嫌いって。許してなんか」
「でもヤッタんだろ?」
「ヤッテないってば……!」
「でもソウイウ関係を許したんだろ。スキじゃねえとソウイウ関係を許さねえならお前はヴィラがスキってことだ」
テイルの言っていることはもっともだ。
そしてそれはヴィラに触れてしまったと思う梓の悩みの種でもある。恋人だと自分の口で言って……ヴィラのキスを受け入れた。怖いぐらいの感情で梓に好きだと言う男の言葉に流されたのだとしても、ヴィラの告白に心動かされたのは事実だ。信じるのは怖かったけれど自分もと手を伸ばしたのは、ヴィラの微笑む顔にドキリとしてしまった瞬間の気持ちが答えなのだろう。
それなのに身体を許すのは怖くて綱渡りのような関係になってしまっている。ソウイウ関係は好きな人でと言っておきながら矛盾している。テイルともこうして互いに触れているのに。
「……なんでそうやって追い詰めるの?私は、ああっ。私はこんなことになるなら誰もいらない。1人で生きてくもん」
「それは嫌だ。俺はお前に触りたい」
「嫌い、テイルなんか嫌い」
「お前が欲しいんだ」
「私はいらない!」
「……分かんねえなあ」
愛撫を止めた手は離れない。ソコはもう十分に濡れていて薬も入念に塗り込んだ。
それなのに。
「このまま続けられるんだ。お前が嫌いって言おうが泣き喚こうが抱いて……そのほうが手っ取り早い。セックスの良さも分からせてやれる。でも、それはしたくねえんだよな」
「どの口が!ひっく、似たようなこともう、して、のに!」
「これはお前にはセックスじゃねえんだろ?」
「そんなの言ってない!私はずっと嫌だって言ってるんだってば!」
「俺も言ってる。お前は分かってないだけだろ?」
堂々巡りの会話はヴィラともしてきたことだ。お互い譲らず、けれど少しずつ譲歩すればするほど……梓は逃げられる気がしない。テイルはじっと梓を見る。嫌いだ嫌いだと言われても追いかけ続けてくるような人に梓は対抗する言葉も否定する理由も持ち続けていられない。テイルはじっと、梓を見る。
「テイルなんか嫌い」
「……それさ、ほんとに堪えんだけど」
「本当にそうなら止めてくれるでしょ!?ヴィラさんは止めてくれたもん」
またヴィラの名前を出してしまったことに梓は口を抑えるが、今度は大丈夫だった。
分からない。
「本当にそうか?」
そして含んだ物言いに色々と思い出してしまって、言葉を飲み込む。
「極力、そうだったもん」
「なら俺も極力そうする」
「だからなんで私の意見は無視するの……セックスってそういうのなの?」
「しょうがねえだろ。お前は俺がいらなくて俺はお前が欲しいんだ。俺はお前に触って拒絶されてお前は……なんだろうな?1人で生きられるように情報を盗るか?」
分からない。なにを言っているのだろう。
テイルを見れば真面目な話をしていたはずなのに指を動かし始めた。焦らされてばかりで辛い。触れては離れて、さっきからそればっかりだ。
梓は恥を捨て、脚を使ってテイルを蹴り離す。驚いたのか、尻もちついたテイルは目をぱちくりとさせている。それから梓がしたことを理解したテイルはこんな状況だというのに普段のような笑みを浮かべて笑った。今度は梓がテイルの顔を見続ける。そしてようやく絡んだ視線の先にいるテイルは、楽しそうに笑っていたのが嘘のように自嘲の笑みを浮かべた。
「分かんない……分かんないよ。テイルは私としたくって、私とヴィラさんがソウイウ関係だって思って嫉妬したのに……俺をヴィラだと思えって、なに?それで、そんだけ言ってするセックスって結局、お互いの欲の解消?私はそんなことまでして情報なんて欲しくないよ」
分からない。
なんで泣いてしまうのだろう。ああ、だから聖騎士と神子という関係でありたかったのだ。そうすれば意味の分からないことに振り回されずこんなに傷つくこともなかった。
分からない。
──なんで私は傷ついてるんだろう。
『ちょっとごめん』
あのときの出来事を思い出す。本当はもう分かっている。壁を作ったのは傷ついたから。傷ついたのは気持ちが踏みにじられたように思えたから。手を伸ばしたのは心配したから。心配したのは怪我をしないでほしかったから。嫌味を言い合うことが分かっていても会話をしたのはそんな時間が嫌いじゃなかったから。
怖いのは触れてしまうから。触れてしまったのは……気になったから。
「こういうことって相手のことを考えるんじゃないの?私、私の言葉を聞いてくれないんだったら、言っても届かないんだったら……最初から聞く気がないんなら私じゃなくていいじゃん!何が神子サマなの!何が誰と話してたつもりって?テイルこそ誰と話してるの!私の声は届いてる!?」
普段微笑んで声を荒げることをしない梓が涙を流しながら大声を出している。悲痛な叫びは聞いた者の心をえぐるはずだ。
それなのにテイルは呆けた顔を喜びに震わせる。吊り上がる唇は形に出来ない感情を閉じ込めるには甘くて「樹」と言葉を漏らす。緑色の瞳はさきほどまであった暗い色が消えて光を宿していた。戸惑う梓を映し、弧を描く。
梓の手が握られて、口づけられる。
「届いてる。お前は俺のこと、考えてたんだな?セックスが嫌でこえーのに、俺のこと考えてくれてたんだ?そんで泣いた?傷ついて?……俺はそういうお前が欲しいんだよ。俺のことしか考えられないようにしてえ。もう触れなくなるのはごめんだ。お前がいうスキは分かんねーから間違いないほうで堕としたかった。お前が嫌って言おうが良さを分からせてやれる……聞いてるか?」
「き、聞いてる」
先ほどまで梓を恐怖に追いやっていたはずのテイルが次から次に甘いような恐ろしいような言葉を吐いてくる。なにがこの世界の男たちの琴線に触れるのかが分からない。梓は知りたかったはずのテイルの言動の理由をもう聞かないように後ずさる。そしてもう既に背中が壁についてしまっていたことを思い出した。テイルが梓に近づく。緑色の瞳は梓を映して離れない。
「今分かった。俺は身体だけじゃなくてお前が欲しい。樹、前言撤回だ。責任をとれ」
「せ、責任?」
「お前が好きだ」
脚がテイルの身体に触れる。
間近に見える瞳、唇が重なって。
「俺はずっとお前のことを考えてる。お前を抱きたいしお前にも望んでほしい。俺のことを見てほしい。俺のことを考えろ。俺を見て笑え。泣くのもイイけどそれはベッドにいるときだけにしろ。なあ、樹」
混乱に流れた涙が舐めとられる。ドキリとして身体を竦ませれば、抱き締められて大きな心臓の音が聞こえた。手を置いて離れても覗き込んでくる瞳を見つけてしまって、逃げられない。
「この感情を教えたのはお前だ。責任、とれよ」
おめでたい話。それは誰にとってそう思ったのだろう。
分からない。
分かっている。
──傷ついたのは悲しかったから。
知りたかったのだ。
会話をしたのは気になったから。
触れたのは、触りたいと思ったから。
──嫌いな人にキスなんてしない。自分から触れたりなんてしない。
この世界に来て尚更そうだったが元の世界でもそうだ。不愉快に思う人がいて、そんな人に自分から近づくことはなかった。
手が触れる。
それが出来ている時点で、もう心を許してしまっていた。
「私、怖いよ。こんな世界に連れてこられて信じるのが怖い」
「そりゃそうだろうな」
「ヴィラさんもテイルも私が好きって言うけど、分かったけど!怖いよ」
「……だから一緒に過ごすんじゃねえの?」
「……それが怖いよ」
怖くなくなるときが、怖い。
元の世界のことをさっぱり諦めてこの世界で生きる。それだけのことが怖くてたまらなかった。
「人に堕ちるのはそんなに怖いか?」
「なにそれ……怖いよ」
神子サマと言われたときの言葉を思い出して梓は泣き笑う。
それなのにその涙を拭うテイルは幸せそうに笑っていて。
「案外この世界も悪くないかもしんないぜ?俺がそうしてやる」
テイルはヴィラのようにずっと自分の心を吐き出してくる。涙を止めた言葉は梓の頭に残って、呟き始める。
『お前が出来ることは素直に俺を受け入れるか、流されて受け入れるか、どっちかだ』
テイルの言葉が頭から離れない。
あ。
声を出そうとして、失敗する。けれど不意打ちに口づけられたとき「テイル」と言えた。非難をのせた声だったのにも関わらずテイルは楽しそうな表情だ。心臓がドキリと音を鳴らす。
──分かってる。
流されて受け入れたくはない。傷ついたのも喜んだのもすべて自分の本心で、心を吐き出してくれる人に嘘を言いたくはなかった。
「私、あなた達に恋しかけてる……です」
突き動かしてくるこの気持ちは何だろう。ああ、本当に恋は人をオカシクさせるらしい。怖いのに言ってしまいたい。触ってしまいたい。気になる。自分のことを知ってほしい……知りたいのだ。
楽しそうに笑っていた顔が、消えた。目を見開いてじっと梓を見ている。あ。どちらかが声を漏らしてしまって、ようやくテイルが動いた。梓は動かない。
触れた梓の頬は熱い。茶色の瞳はテイルを映している。
「……言い切れよ。それにあなた達ってのは余計だな」
唇が触れて、離れない。唾液が垂れて吐息が甘ったるく響く。
──熱い。
狭い空間に身体を押し付け合って互いの熱を交換し合う。瞳にはそれぞれを映し合って。
「お前俺に恋してんだ?へえ……いいな。凄くイイ」
心底嬉しそうに呟いたテイルの言葉に梓の心臓はおかしくなる。頭はぐるぐるして恥ずかしくて嬉しくて怖くてなにも考えられなくなっていく。
「なあ、挿れていいか?」
それなのに、余計なことを言う。
梓は甘さの感じられない厳しい表情をした。
「なんでそうなるの!?テイルのそういうとこ嫌い!」
「はあ?好きじゃねえのかよ?!恋しかけてるってのは好きってことだろうが!」
「──!違う馬鹿!」
「──っ!いいから堕ちろ馬鹿!」
「誰が!」
男と女が消えてテイルと梓は互いを非難して叫び合う。
──分からない。
梓はテイルを睨み、テイルは梓を見て鼻を鳴らす。
それでもその手は確かに、
お互いに触れていた。
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