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第二章:変わる、代わる

82.教える

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自分の部屋に恐る恐る入るのは初めてのことだった。ドアをゆっくり開けて部屋のなかを覗き込んだ梓は不安に細めていた目を大きく見開かせる。てっきり椅子かソファに座っているのかと思ったがヴィラは居なかった。

「よかった……」
「何がだ」
「ひぃえっ」

ドアを閉めた瞬間すぐ近くでヴィラの声が聞こえて梓は悲鳴を上げてしまう。どうやらドアの横で壁にもたれながら梓を待っていたようだ。ヴィラは驚く梓を無表情にみおろして、嗤う。

「やはり俺を避けていたか」
「いえそんな、え?ちょ、ヴィラさん」
「悪いが逃がしてやるつもりはない。俺はお前に話したいことがある」

言い逃れをしようとする梓を横抱きにしたヴィラは腕のなか非難の声が聞こえようが聞く耳を持たない。どこに行くのかと梓はヴィラが進むほうを見て、それから戸惑いにヴィラを見上げる。銀色の髪が梓の顔を撫で瞬き数回。ふわりと身体が浮いたかと思えば2人分の体重にベッドが軋んだ。
なぜかヴィラは梓を横抱きにしたままベッドに座っていた。立てた膝を壁に梓を座らせ、緊張に身体を縮め膝を抱える梓の足先に自身の脚を重りにする。言葉通り逃がすつもりはないようだ。
混乱している茶色の瞳がヴィラを見上げる。ヴィラは答えるかわりに布団を梓にかけた。

「……この体勢はなんでしょうか」
「お前が逃げないためだ」
「それなら普通に座って話しませんか」
「ベッドでなければお前を抱いてはいけないのだろう?」
「っ?……ああ、はいそうです分かりました。でしたら話を終わらせましょう」

紛らわしい話に動揺してしまうが前回より早く冷静になれた。何度も同じ話をしてきたことで少しは耐性がついたのだろう。それに梓は自分が言うべきことははっきりと分かっていたからこんなおかしな状態でも少しぐらいならと余裕さえ持てた。
ヴィラはいつまでも重ならない視線に諦めて話し始める。

「やはり俺はお前に触れたいと思う」
「……そうですか」
「お前はその理由が魔力のせいだと言ったがこれは俺が望んでいることだ。お前は信じられないんだな」
「そうですね、ヴィラさんの勘違いだと思っています。聖騎士同士で話すうちにそう誘導されたんじゃないですか」
「なるほど。ならお前はどういう奴なら触れられても許せる」
「え?」
「俺に触れられるのが嫌だとはっきり言ってくれるが、お前は誰なら許せる」
「許すって……」

そういえばと梓は思い出す。ヴィラはずっと梓に許しを請うてきた。許し。触れることに対する言葉としてはどこか暗い響きがする。
『本当に口づけてもいいんだな?』
──あれは許したことになるんだろうか。
ルトに手を伸ばしてしまった瞬間を思い出して梓の顔がかあっと赤くなる。俯き逸れた身体を抱く手に僅かに力が籠った。


「やはりそうだ。俺はお前を抱きたい」
「だから」
「お前が違う誰かを許していることに今俺がどんな気持ちになっているのか分かるか?」


声色は変わらず淡々としたものだというのにゾッとしてしまったのは何故だろう。
頬に触れた手がそっと梓の顔を持ち上げる。ようやく絡んだ視線にヴィラは微笑んだ。

「お前は警戒心が強いから俺なりに待ったつもりだ。色々考え込みもするから言葉も重ねた。だが同時に俺のすべてを否定するお前の口を塞いで抱き潰したくもなる。樹、否定するのなら教えろ。この気持ちはなんだ?」

引き寄せられる身体に梓は手を盾にするが結局はヴィラの肌に触れてしまう。首に触れる指からヴィラの体温を感じた。

「答えられないのか。それならお前が俺を否定するのはおかしな話だ。それともまた逃げるだけか?俺を見てくれようともせず俺を否定する」

戸惑いに浮いた手が捕まってヴィラの胸に押さえつけられる。ドクドク、ドクドク、五月蠅い鼓動が分かってしまう。梓は響く心臓の音に動揺してしまって囲いから逃げ出そうと布団のなか足を動かしたが、それが出来ないことだけが分かってしまう。

「お前の助言に従い白那から答えを聞いた」

手から伝わる音が早くなっていく。
自分の心臓の音と重なってしまう。


「お前のことばかり考えお前が俺を見るように望むのは恋しているからだそうだ。許しを得ないままお前を抱きたいのは独占欲で、他の男を許すお前に抱く感情は嫉妬だ」


心を吐き出して、ヴィラは不安に梓の顔を覗き込み──たまらず表情を緩めた。視線は合わないが梓の顔が赤くなっているうえ、胸に触れる手は動揺に震えている。梓はヴィラの言葉をちゃんと聞いていて、反応している。届いているのだ。
『あ~分かった分かったご馳走様。もうお腹いっぱいだからそれそのまんま樹に言えばいいよ』
白那に相談すれば何故か白那が顔を赤くしてそう言った。伝えてきたつもりだが逃げられると言えば『そうだろうね』と頷かれ、『なら捕まえて分かるまで教えてあげれば』と軽い返事。それからヴィラは感情の答えを教えてもらって、いま梓は腕のなかヴィラを意識している。
──こんなことでよかったのか。
逃げられないようにすれば梓は聞かざるをえない。聞いてしまえば逃げられない。
──こうすれば樹は俺を見てくれる。
ヴィラの表情が喜びに吊り上がる。それは反論しようとした梓を挫かせるほどの晴れやかな笑みだった。


「俺はお前を愛している」


はっきりと断言されて梓は思考を停止してしまう。
重なる唇、我に返る身体は抱き締められ、胸から響く音は梓を混乱させて。

「お前は否定するくせに愛や恋を知らないらしい。俺のほうがよほど知っているようだ」
「っ」
「知らないのなら教えてやろう。俺はお前に触れるたび喜びを覚える。お前が俺を気遣い言葉をかけてくれるのを嬉しいと思う。お前は嫌なことをよく言うがそれさえも可愛らしく思えてしまう。無意味な抵抗は飽きないし諦め悪くあがく姿も好ましい。微笑み作って聞き流すくせに不意をつかれれば弱いのは癖になる」
「ちょっと、なんか色々と」

以前も似たようなことを言われたがより余計な言葉が追加されている気がする。非難しようとするがそれはまたしても口づけに塞がれた。

「そうやって肝心な話を逸らすのは気に食わなかったが、俺が教えていなかったのが悪い。それにもう解決策は見つかった」
「肝心な、いえなにも」
「俺がお前に恋焦がれて抱きたいという話だ。ああいい、お前は否定するだけだろう。樹、そもそもの話をしよう。俺はセックスが嫌いだ」
「え?んぅ」

それならこのキスはなんだろう。
それならこの現状は。
梓は自分を抱きしめる男が言っていることが分からない……分かってしまえば逃げられない。身体にかけられていた布団は落ちてしまって梓を包むのはヴィラの体温だけだ。もう隙間もないほど抱き締められているのに背中を抱く手は力強く、ヴィラは梓を食べてしまいたいように口づけてくる。垂れた涎が喉を伝う、それだけが冷たかった。

「ひゃ、ぁ!ヴィラさ!」

服の下入り込んだ手にのけぞる梓を見てヴィラは笑みを浮かべていた。随分表情豊かになったヴィラの身体を押し離そうと梓は手を伸ばすが、腰に触れる手は躊躇なく梓の身体を這い上がって下着に隠れた肌を見つけてしまう。胸の膨らみをなぞった手は柔らかな感触を味わいながらも、ドクドクと鳴る音を探して胸の合間にもぐりこんでいって。
黒い瞳が笑う。

「お前も俺のように鼓動が早い」
「そ、それは誰だってそうなりますっ。男の人に触られたらっ」
「そうか。お前の目に俺はちゃんと男として映っているのか。聖騎士ではなく男として俺を見てくれているのか」

男として見ている。
わざわざ言葉を拾ったヴィラのせいで自覚せざるを得ない。走って逃げだしたくなったが身体は動いてくれないうえ心臓の音が五月蠅すぎてまともに考えることもできない。
銀色の髪が頬を撫でる。けれど身体をのけぞらせても距離は広がらない。はあ。声が漏れる。首を舐めた舌の感触。腰を抱く手が強くなってしまって。
──逃げられない。許してくれない。
鼻先触れて見えた黒い瞳は逃げ場を無くした梓を歓迎して微笑む。


「俺の神子」


梓の腰を抱いていた強い力が消えて身体がベッドに落ちていく。ギシリと軋む音、柔らかいシーツが素肌を撫でて、差した影の先にヴィラを見つけてしまった。
俺の、神子。

「っ!その、俺の神子って止めてください」

嫌だと主張した小さな手は子供をあやすように捕まえられる。絡む指はそのままベッドに縫い付けられて梓は思いつくまま否定するしか出来ない。

「あなたがいいって言う他の神子には喜ばれるかもしれませんが俺の神子って……腹が立つ。私はあなたの神子じゃない。神子って」

腕のなか動揺に身体を固くしていたのが嘘のようにキツイ表情だ。それなのにヴィラは堪えた様子もなく笑みを深めるだけ。作った微笑みで聞き流されるより余程嬉しいのだ。
それにもう、梓にはそれしかヴィラを否定する言葉がないのだから。

「お前が俺を否定する理由はそれか」
「……え?」
「俺はとうにそんなもの不要だと思っている。お前が神子である必要はない」
「ぇ?」
「話を戻すが俺はセックスが嫌いだ。望むままに、命じられるまま動かなければならない面倒な作業のうえ常々効率の悪い魔力の回収だと思っていた。お前は分からないだろうがものを勃たせるのも大変なんだ」
「っ?!……っ????!」

無言で驚愕と非難と恥じらいを訴えてくる梓にヴィラは口づけて身体を沈める。これでもう逃げられない。安心して手を離せば案の定けんめいに身体を押してくるが、あらわになった腹を撫でながら腰を引き寄せればすぐに大人しくなった。分かったのだろう。触れることが出来るようになってからずっと、ずっと堪えていた欲だ。
触れた瞬間ビクリと反応したのはヴィラだけじゃない。詰めた息をゆっくり吐きだす。逃げようと梓が立てた膝が丁度いい。太ももをすくい上げてしまえばもっと距離は埋まった。あ。掠れた声が聞こえる。口元隠す小さな手、堪えるように閉じた目。もう一度と身体を押し付けてしまう自分は堪えることが出来ない子供のようだ。ああそれでも、跳ねた身体に心臓が震えるほど喜んでしまう。

「お前には勝手に勃つ」

浮かんだ腰は辛いだろう。だがいい眺めだった。陽がようやく昇ってきて梓の顔が良く見える。真っ赤な顔につられたのか、身体まで熱を持ち始めていて薄っすら色づいている。めくれあがった服からのぞく白い肌はヴィラの肌を浮かび上がらせ、少し撫でるだけで呼吸を堪える梓の口から息が漏れ出る。散らばった黒髪が美しいと思った。
あとは邪魔な服を脱がせて、細い手がヴィラの背にまわればいい。それだけなのに。


「俺はお前を抱きたい……いいか?」


答えは分かっているというのに声が期待に震えてしまう。
──許してくれたらどれだけ嬉しいだろう──いや、言葉が伝わっただけでも十分だ──触れるだけでこんな反応を見せてくれるのなら抱いたらどんな顔を浮かべる──怯えさせたくない──快楽に溺れさせてしまえばいい──望んでほしい──ああでもよかった──こうすれば逃げられないのか。
天使と悪魔が2人一緒に微笑む。それを察したのか梓が声を振り絞った。

「だめ、です」
「そうか。嫌ではなくまだ駄目ということか」
「え?!」
「ならば俺はお前を抱かないし、抱いてもやらない」

ヴィラが随分前向きに言葉を受け取ってしまったことに驚いたが、続けられた言葉は更に驚くものだった。抱かないと宣言してくれたのはいいが抱いてもやらないという言葉の意味が分からない。分かるのは聞いてしまうと逃げ場がなくなるという確信だけ。

「ふ、っ」

ヴィラが僅かに動いてしまう。たったそれだけで押し付けられたソレに身体が震える。ヴィラの手じゃない。指でも、太ももでもない。あ。どうすればいいのだろう。ぴたりと身体が触れているヴィラが声を聞き逃すはずがない。ああでも。ぐっ、と押し付けられた固い感触。服が下着を圧迫してくる。すくい上げられたままだった太ももが揺れて、きゅっと反応する身体はなにを思ったのだろう。弓なりになる身体。

「んぅ」

足がおろされて、けれどヴィラは離れてくれない。それどころか何度も、ああもう意味がないのに、何度も身体を押し付けてくる。どうすればいいのだろう。交わりを彷彿とさせる卑猥な行為、止めさせなければならない。それなのに、ああ──
物足りないとキュウッと縮む下半身は誰か別の人の身体なのかもしれない。梓はおかしくなっていく身体に気がついて少しばかり冷静さを取り戻した。
逃げないと。
ヴィラが様子を見て楽しんでいるのが見える。上気した頬が、ゴクリと息を飲む音が聞こえる。離れようと身体をひねらせベッドから起きようとして──笑う声が耳元囁かれる。


「本当に可愛いな」


脱ぎ捨てられたシャツに梓は気がつかない。ただ、背中に強い熱を感じた。首に回された手が余って唇に触れてくる。圧し掛かる身体に梓は再びベッドに沈み、逃げようと失敗して突き出された尻は男の手に捕まって引き寄せられる。股の間に押しつけられるのは間違いなく先ほど梓に快楽を教えようとしたものだ。身体が揺れる。梓は顔をシーツに埋めながらヴィラの声を聞き続けるしか出来なくて。

「知らないものを分かれというのが駄目だった」
「っあ!ん、ヴィラさ、やめっ!」
「ならば教えたほうがいい」

ベッドに上半身沈みこませる梓を救うため伸ばされたかに思えた手は梓の胸を鷲掴んでその頂きを指でつまむ。足りない。腰を押しつければ梓はようやく振り返って顔を見せた。もう顔を隠してしまわないように首に触れていたままだった手で優しく梓の顔を上向けてしまえば可愛い声が聞こえてくる。涙ごと唇を味わえば小さな身体はびくびくと震えて、ああ、随分物覚えがいい。解放してやれば油断してしまっているのか身体を揺らすたび声を漏らしてくれる。1回、2回、5回──快楽に啼く声を聞くたび無防備な首に口づける。桃色に染まる熱い肌はじわり浮かんだ汗に湿り気を帯び始めている。
尻を撫でていた手を腰に、腹に──クチュリと濡れる感触がした。


「──っ!あ、ヴィラさ、んぅ」


指先感じる愛液を遊べば心地いい音が聞こえてくる。恨めし気にこちらを見てくる茶色の瞳。その首筋には赤い痣。
ああ、まだ足りない。

「さっきと言ってたことが!ぅあ……んぅ」
「言ったとおりだ。抱いてはやらない。お前が俺を望むまで俺も耐えよう」
「なにそんな、酷い」
「酷い?」

新たに赤い痣をつけていたヴィラが疑問を囁く。梓の身体がはねて、自らが望んだように濡れたソコがヴィラの指を身体に沈めた。慌てて逃げる腰をヴィラは身体で押し戻し、そのままゆっくり指を奥へと入れていく。ベッドにうつ伏せになってしまった梓は呼吸を忘れシーツに顔を埋めるしかできなくて。
──ああ、嘘……。
自分の身体の中にある異物は間違いなくヴィラの指だ。出してほしいのに耳元囁く声に身体が震えてどうしたらいいのか分からない。

「逃げ続けたのはお前だ。俺は何度もお前と話そうとしたんだ。それに俺もお前も愛を知らない身だが、俺のほうがお前よりは知っている。それなら知っているぶんお前に教え、そのあとまたお前に許しを請おう。そのうえでお前は俺を否定するといい……ああ、お前はまだ中では感じないか」
「っ」

胸を好きなように弄っていた手が離れたかと思えば梓の腹に移る。結局離れてはくれないが、それだけでも迫る刺激から少し解放されて梓はようやくまともな呼吸ができた。それなのに耳を食んでくる男は笑う。

「覚えておけ。ここに挿れる」

身体の中にある指が内側をこすって梓に知らしめる。水音が聞こえる。擦りつけられるソレに身体の奥が震え──腹にある手が偉いと褒めるように優しく肌を撫でた。
動く梓に合わせてゆっくり、なぞってくる。

「あ」

中を弄るのに夢中だったくせに出番を待って秘部にそえていただけの指が垂れてきた愛液に喜びはじめた。下腹部を撫でる濡れた感触は羞恥心と慣れない感覚をつれてきておかしな声が漏れでてしまう。
男の指、ヴィラの手。調子にのってグチグチ音を出し始めて。

「ぅん、ん」

腰を押しつけながら時折指を沈ませてきて、その度にたまらない気持ちになってしまう。襲ってくる痺れるような衝動はなんだろう。愛液絡んだ指は梓に未知の感覚を教える。腰がはねるような疼きに戸惑って形を成さず落ちていくのは甘い声。
ごくりとヴィラは息をのんでしまうが、欲に任せてしまわないよう口を結んで感情を抑える。恐怖を植えつけたいわけでも、行為に嫌悪を覚えてほしいわけでもない。ただ、知ってほしい。否定して無いものとして扱うのではなく、知ってほしかった。

「ぅあ」

快感よりも戸惑いのほうが大きいようだがそれでも感じてはいるらしい。ヴィラは滑りの良くなった指を先ほどより増やして秘部の奥へずぶりと沈ませる。けれどこれはまだ違和感でしかないらしい。シーツを握っていた手が抵抗するような力を持ってしまった。ヴィラは息を吐き出して、なんとか堪える。指を抜き取って、途中聞こえる喘ぎ声を身体に感じながら、また、秘部を弄る。
組み敷いているとは思えないほど手は優しく、意識を取り戻しかけた梓の頭が靄がかかったようにぐちゃぐちゃになっていく。あ。啼き出す声が1つ2つ、堪えることもできていない。ああ、可愛い。労わる心が欲に濡れてしまう。反応する場所を探す手は梓を追い詰める。こすりあげれば大きく啼いてくれた。

「やあっ、ヴィラさっやめ」
「そうだ樹、俺を夫に望め」
「へ、ぇっ、あっ」

今こんなときにする話だろうか。
数枚の服を隔ててソレを押しつけられ、身体は好きなように弄られている。嫌というほど教えられる欲が身体を支配して怖いという感情に恥ずかしさと動揺──快感が混じって意識は朦朧としてくる。梓が感じてしまう場所ばかりを苛めてくる指は卑猥な音を出している。低い声は耳のなか響き続けて押しつけてくる腰は梓の身体を揺らして、ああ。軋むベッド。
──夫?なに言って。
まともに考えられたのはその瞬間だけだった。秘部を摘まむ指に身体全身がゾクリと震える。強い衝動に梓は一気に怖くなってしまうのに、梓の様子を見たヴィラは嬉しそうに梓の首に口づけ、また。

「ぃあ!んぅっ」

少し力が強くなって、けれどすぐに優しく撫でてくる。けれど、執拗にそこばかり触れてきて。浮いた腰は圧しつけられて逃げ場を失った。ずりさがっていくズボン。ヴィラから逃げようと、這うように手をベッドの先へと伸ばしても簡単に捕まってしまう。絡む指の温かさに動揺しているあいだに首の痣は増えて追い詰められていく。
濡れた視界に見えるドアは遠かった。首を食む音は大きく、揺れる身体に合わせて秘部は弄られる。ああ、それなのに。
──キモチイイ。
優しく動いたときにはそう思えた。そしてそんな自分に恥ずかしくなるのに、もう止めてほしいのに指は動き続ける。

「やめっ、あ」
「そうすればお前も神子でなくなり俺も聖騎士ではなくなる。お前が俺を否定する理由がなくなればようやくお前も俺を見てくれるということだろう?俺も喜んで聖騎士を辞めよう」

ヴィラは一体なんの話をしているのだろう。
高まる怖いほどの快楽に梓は否定するしか出来ないのにヴィラはずっと嬉しそうだ。けれど、熱い息が肌を撫でるたび見るヴィラの顔は余裕がなさそうに歪んでいる。

「せいっ、辞めるって、ああ!」
「俺が聖騎士だから魔力の源である神子のお前を欲しがるという前提を崩そうという話だ……たまらないな」
「たまら……ぇ、あ、ああ!」

大きく震えた身体が脱力するのを見て、ヴィラは欲に濡れた息を吐く。余韻に浸っている身体の中に指を沈めていけば、反応のいい身体はヴィラの指を締めつけて震えた。

「いつかここも今みたいに良くなる」

覚えればいい。望まないなら分からせてやる。想像してくれたら、もっといい。
あいた手で梓を抱き起こせば、挿れたままだった指に反応してされるがままだった梓は目が覚めたようにヴィラを見る。待ち望んでいたことだ。たっぷり、口づけて指を動かす。

「ぁ、んあ」

梓は与えられる快楽に身体を震わせるだけでもう否定する言葉も吐き出さない。ヴィラに背中を預けてしまうぐらいで、なのにヴィラは不満を覚えてしまった。もっと梓の声が聴きたかった。もっと奥へ、もっと近くに。そう思うのに自分のほうが限界でヴィラは嗤ってしまう。
けれど、ああ、と我に返った。
口のなか響く喘ぎ声を聞きながら衣服をずらせば力ない手が抵抗してきたが、添えられるだけになっているせいで強請っているようにしか思えない。けれど梓が正気を取り戻しつつあるのは分かってヴィラは一気に梓の服を脱がした。寒さに梓の身体が震えたが、あらわになった肌のほうが余程問題だったらしい。梓は守るように自分の身体を抱くが、胸に触れた手が梓をひきよせて背中がヴィラの身体に触れてしまう。
熱を持つ皮膚同士がぴたりとあわささって鼓動を共有する。

「~~っ!」

理性を取り戻した梓がヴィラを睨むが、動き出した指に意識はすぐにそれる。けれど、違和感。
ヴィラは気がついてしまいそうな梓に口づけてなにも考えられないように、口づけだけに意識が囚われるように──とろりと熱に浮かれる顔に喉を鳴らしてしまう──駄目だ。我慢して涎を飲み込む。ヴィラは自身の欲が梓に溶け込めばいいと何度も口づけ、梓のズボンも脱がしてしまう。互いの身体は熱くなっていてもう外気に気がつくことはなかった。

「んぁ、う」

それともようやく解放された喜びに気がつかなかったのだろうか。どちらにせよヴィラは感じる素肌を撫で、肉に沈む指に満たされるような想いを抱いた。

「樹」

震えるほど甘い声に梓は我に返る。
近くにある黒い瞳はじっと梓を見ていて、結ばれていた銀色の髪はほどけて肩にかかっている。梓の意識を奪う唇が「樹」ともう一度音を出し──そこでようやく違和感の正体が分かる。ずっと身体に押しつけられていたソレの熱を強く感じる。動揺する梓に声が落ちてきて。

「考えてくれたか?」
「え?あ……なに、あ。ゆびぃ」
「俺を夫にすることだ。そうすれば、お前が俺を拒む理由はなくなる」

愛を乞いながらも梓のなか沈められたままの指はその数を増やそうとしていた。力の入る身体。まだ、駄目なようだ。諦めた指がすべて抜かれて、けれど梓を追い詰めようと這いだす。そのせいで理性はまたトロトロに消えていってしまって。ああ、でもなんだろう。先ほどよりも熱い。ヴィラの身体に完全にもたれかかってしまっているからだろうか。背中にナニカが触れる。ずぶりと指が沈む。

「夫って、あ、あ、私はそんな」
「お前が欲しい」
「私恋したこともな、っぁ」
「俺とすればいい」
「だって」
「俺の気持ちがあくまでそうじゃないと否定するのなら知ってもらうまでだ。これが愛かどうか一緒に知ればいいだけの話だろう」
「っ!……?っっ!?」

今まで優しく触れていたのはなんだったのか。
優しさを忘れた手が梓の手を後ろに引いたかと思えば、ソレに触れさせた。反り勃つソレは脈打っていて体温を感じる。何か分からず指でなぞってしまえば梓を抱く身体が震え──理解する。

「そう、だ。触れてくれ」

耳元吐かれる息は余裕がない。音を鳴らす喉にゾクゾクと身体中が痺れあがる。梓は息をするのも憚れて、首に埋もれるヴィラの声だけに集中するよう努めるしか出来なくて。
それなのに梓の目に脱ぎ捨てられた衣服が映る。眩しい太陽の光に互いの肌の色がよく見える。

「ぅあ、あ……っ。やっ」

梓の手にあるソレが喜ぶように震えている。信じられなかった。梓の手ひとつで握ることが出来ない大きさをしているのに、撫でるたび大きくなっているような気がする。慌てて、手を離す。ヴィラはなにも言わなかった。

「ん……」

胸を優しく揉む手は梓を安心させるようだ。それなのに頂きをつねる指は優しくない。
ブラがシーツの上を転がっている。分かっていたことなのについ見てしまえば胸に埋もれる男の手を見つけてしまって心臓が大きく音を鳴らした。いつの間にか脱がされたズボンはベッドから落ちそうだ。ショーツをつけていることだけが救いだったが、そこは触れずとも分かるぐらい濡れてしまっていてもう意味を成さない。

「うぅ」
「樹、動かすぞ」
「あ、そんな、ヴィラさん……っ嘘吐き、や」
「嘘吐き?俺は嘘を言った覚えはない。お前を抱いてはいない。ところで俺はまだ返事を貰っていないが」
「嘘吐きぃ……っ!さわ、触らないって言ったぁ、あ」
「控えると言ったんだ。それにベッドでならお前を抱き締めていいのだろう?」
「抱かないって言ったぁ」
「それはさっきも言っただろう?抱いていない。覚えているか?ここに挿れたらそう言え」

秘部をこすりあげられて、湧き上がった快感に身体のなか動いた指を思い出す。ここに。指は動き続ける。優しく秘部をなぞる手に果てるほどの快感を思い出してしまう。

「さっき覚えただろう?ここを満たすとどうなると思う」

耳に熱い舌が這って身体が反応してしまう。

「今のよりもっとヨクなる」

囁かれて、腰が震えて。
もう気を失ってしまいたいのに手は動かされて、互いに身体を擦りつけてしまう。

「それで?俺はもう何度も聞いているが、どうする?」
「どうす……?あ、あ」

梓の頭が回らないことをヴィラは知っているのだろう。混乱する梓を見て微笑む顔はしていることとは違い慈愛に満ちている。

「それに嘘吐きはお前のほうだ、樹」
「へ、え?」
「いつまでもお前は俺をヴィラと呼ばない」
「あ……ぁ」
「これは仕置きでもあるな……ちゃんと出来るか?」

優しい声色だが何を言っているのか分からない。そのうえ濡れた手が腕に触れてヴィラの身体が離れる。愛液塗られた肌が空気の冷たさを感じて寒かった。あんなに身体を密着させていたのが嘘のように梓の身体はベッドに倒されて。
戸惑う梓は落ちてくる影を見つける。唇を見つけて、触れて、離れて──鍛えられた胸板を見つける。男の身体を、見てしまう。

「え、ぁ!」

一瞬だった。梓と同じようにベッドに横寝したヴィラは後ろから梓を抱きしめたかと思うと、戸惑う足を片足もちあげてヴィラの足を跨ぐように移動させてしまう。ショーツ1枚の姿で大きく足を開けられた梓は足を戻そうとするが、足を抑え込む腕はそのつもりがないようだ。ヴィラは梓に口づけ、ショーツの下を再びなぞる。開いたお陰か梓の身体が大きく跳ねた。

「こっちのほうがしやすいだろう?」
「っ」

びくびくと動きつつも元に戻ろうとする脚を見るに気持ちよさよりもまだ抵抗する心のほうが強いようだ。それならやはり協力してもらうのがいい。ヴィラは梓の胸を弄りながら口づける。そしてまた、濡れた手で梓の手を捕まえた。
捕まった手がどうなるかはもう分かっていた。それなのに梓は抵抗らしい抵抗も出来ずソレに触れてしまう。あてがわれた手は先ほどと違って離れない。ショーツを隔てて触れるソレが、秘部をこすった。

「約束をしてからお前はどれだけ約束を破っただろうな?俺ばかりが約束を守っている」
「え、あ……え?ん゛ぅ」
「ならばお前が違えたぶんだけ俺も約束を違えよう。お前に触れられて……丁度いい」

微笑む顔は梓に見せられない。梓が目を閉じていてよかった。
ヴィラは自身のソレを握る梓の手を撫でる。それだけて怯えた手が震えてくすぐってくきて、ヴィラの心がドロリとした悦びに満たされた。梓がヴィラを許し身体を重ねられる日がくるのかは分からない。けれど想像するだけで身体は震えて、梓の身体のなかに指を沈める。

「うぅ、っヴィラさ……ヴィラあ……っ」
「なんだ?樹」
「ん、もうやめ、あっ」
「このまま止めたらお前が辛いだけだぞ?それにお前が約束を違えたのは1度じゃない」
「お願い、もう止め」
「なら手を動かせ」

手を。
ヴィラがなにを言っているのかが分かって、混乱に逃げてシーツを握っていた手がしばらく動かなくなる。そのあいだも身体のなか動く指は梓を追い詰めて諦めてはくれない。やめてくれる方法は、できることは。
戸惑いに揺れた手が止まって、恐る恐る動き出して……ようやく、ソレに触れる。どうしたらいいのか分からないのだろう。動かせと言われたから動くだけの可愛い小さな手。けれどたどたどしいながらもその手はもうヴィラの手を必要としていない。
この気持ちをなんというのだろう。
ヴィラは梓をかき抱いて口づける。そして熱を出しそうなほどの恋情を欲に変えて梓の秘部に触れた。もっと感じればいい。果ててよがればいい。覚えて──欲しがるようになればいい。
快楽によがるしか出来なくなった梓にヴィラはもう一度、教える。

「あっヴィラさ、ヴィラ、待って」
「ああ、お前はなかよりも撫でるほうが好きだったな。分かっている。樹、お前はどうするんだった?」
「あ……」

ぐに、と秘部に押しつけられた指が時間を刻むように動く。

「樹?」

快楽に身体が揺れる。熱が梓を追いこむ。
これが終わる方法は──梓は自分からヴィラに触れた。恐々探す指がソレを捉え、なぞるように包む。そしてゆっくり動かせば喜びに笑う低い声が聞こえた。何も分からない梓にヴィラは耳元で囁きゆっくり教えていく。疑問を覚えたら快感に忘れさせ、うまくできたらもっと悦ばせる。その繰り返しで──

「っ」

息を飲む音が梓の耳に響いた。ソレを握る手が梓の腹に押さえつけられ、震える感覚。あ。腹が熱く濡れて手のなかにあるソレの重さを感じる。手を覆うヴィラの大きな手を知って、互いの息だけが聞こえて。
終わった。ようやく終わった。指も止まって……なのに梓の身体のなか沈む指は抜かれない。

「覚えているか?」
「っ」

長いようで短い時間のなか何度も教えられたことが梓の身体を震わせる。身体の奥の疼きをヴィラは指で味わいながら「偉いな」と梓を褒めるが、真っ赤な顔は混乱に満ちている。腹に放った精をぬぐえばさらに混乱。白い肌に塗ってしまえば羞恥心と戸惑いだけでない表情。

「ん、ん」

胸の頂きまでなぞれば甘い声。そのまま胸をもみしだけば小さな身体がきゅっと縮こまって、身体のなかにある指が動き出したのを感じれば1人揺れはじめる。
ヴィラは微笑んで優しく梓に語りかけた。


「このまま止めたら辛いと言っただろう?」


返事をするように指を締めつけた梓にヴィラは深い口づけを落とす。ビクリと動く脚はもう力を無くしていた。







 
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