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【囚われの、】

25.時間はたっぷりと

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「まず、私は魔法が使えるようです。というのも最近自覚したところなので具体的にはよく分からないんですね。正直賭けだったんですが、恐らく妨害魔法を使って起爆を防ぎました」
「それは、ふむ……?賭け……」

梓の答えに男は手で口を覆い眉を寄せる。不確定要素を含んだ言葉をたくさん使いすぎたせいか男の表情は固い。真剣に悩んでいる表情を見ながら梓は肩をすくめる。
──嘘は言っていない。
内心で呟く梓の声を聞いたように男が梓に顔を向ける。けれど梓は表情を変えることなく男の話を待った。

「まず、女性が魔法を使えるというのを私は聞いたことがない」
「そうですね。本にもそのように書かれていました。なぜかご存知ですか?」
「生憎研究が進んでいなくてな。まだ理由は分からない」
「研究ですか。……興味あります」
「なら是非我が国に来るといい。しかし魔法が使えることは私の国でもそうだがこの国には絶対に漏らさないほうがいいだろうな。悪用される可能性がある」
「悪用。そうですね」

やはり魔法が使えるというのは良くも悪くもあるようだ。女が、神子が魔法を使えると言った瞬間この言葉だ。この世界の人でも同じ結論に至るのだから用心していこう。
だけど問題がある。
妨害魔法と適当に言ってみたけれど実のところどんな魔法かよく分からない。今回はできたけれど今まで使ってきた魔法は使おうと思って使ったわけではなかった。なにか条件があるんだろうか。だけどいま“この人の考えていることが知りたい”と思ってみても魔法という形でなにか変化はでない。
魔物に強い興味を覚え考え続けていたら魔物を夢で見た。男の言動の理由を知りたいと思えばその答えになるだろう光景を映像で見た。前者はきっとリアルタイムで、後者は過去で同じではない。
共通するもので考えられるのは“知りたい”という感情ぐらいしか思い浮かばなかった。だからこそ起爆を防ごうとしたとき“あなたのことが知りたい”“味方になってほしい”と言葉にした。言霊に賭けたようなものだ。起爆装置は王子様の魔力に反応するって言っていたから王子様に触れて魔力が流れるように願いをかけた。
ほとんど全部なんとなくで、結果が良かったからオッケーといえるものの、また次こんなことが起きたらもう一度やってみようとは思えない。

「……でもまあとにかくあなたは自分の国に戻れるように元気にならないとですね。……こんなことを聞くのもなんですが戻れそうですか?」
「それはまだ分からないな。今頃私の状況が本国に伝わっている頃だとは思うが」
「そうですか。シェントさんに聞けば分かりますかね」
「……そうだな。アイツのことを知っているのか」
「召喚されたとき初めて会いました。……そういえばあれってシェントさんが召喚したのかな」

梓の小さな独り言に男は首を振る。

「いや、召喚魔法は一人だけでは行えない。召喚されたときにきっと大勢人がいただろう。彼ら全員で行われたはずだ」

一人の手によって行われたものならば元の世界へ送り返すのも説得できそうなものだが、召喚の場にいた大勢の人間によるものだったといわれると説得が難しそうなものになる。とはいえ既にシェントには召喚は成されて元の世界には戻れないとも、試すにしても最低五年は必要だと言われている。考えるだけ無駄だろう。

「あなたは──あ、すみません。お名前をお伺いしてもいいですか?私は樹と申します」
「私は……。ウィドと呼んでくれ」

王子様もといウィドさんは強面のわりに随分分かりやすい人のようだ。名前を言うのを物凄く躊躇ったところをみるにウィドは本名じゃないかもしれないし、お互い様だけど私のことを信用しきれていないのかもしれない。
ああ、やっぱりこの人を味方に誘って正解だ。

「ウィドさん、お茶でも淹れましょうか?私、いっぱいお話がしたかったんです」

暗に寝かせませんよと言う梓にウィドは微笑んで立ち上がる。

「さっき良い茶葉をもらったところだ」

……このひと囚人のはずなんだけどなあ。
梓も微笑みながら立ち上がる。まだ夜は長い。




 
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