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イーセカ人はだーれだ
77.フラグクラッシャー
しおりを挟む乱立するクエスチョンマークがついに脳内宇宙を覆いつくしたとき、藤宮くんはわざとらしく溜め息を吐いた。間近に私を見る目は不愉快そうに歪んでいて。
「あなたもソウイウ人ですか。興味なさそうな感じをして、結局は、欲にまみれた生活をしてるんですね」
「私に彼氏がいるっていうことからそこまで妄想しちゃうのってシンプルに怖いね」
「……?現にあなたはいまこうやって男と2人きりでしょう?」
どうやら藤宮くんは本気で私に彼氏がいると思っているらしい。
なんだ……?情報源はなんなんだ……?これは早めに解決したほうがよさそうだ。でも彼氏がいるのに他の男の子と2人きりでいる、イコール欲にまみれた生活なんて考えをする人だ。間違いを指摘した瞬間、顔を真っ赤にして逃げちゃいそう……それはそれで面白そうだなあ。情報源を聞いてからやってみよう。
案外ピュアッピュアな藤宮くんにフフフと笑ってしまう。美奈先輩ならとっても楽しく藤宮くんで遊んでくれそうだ。
「ちなみに、誰から聞いたの?私に彼氏がいるって」
「……聞くもなにも借り物競争の彼でしょう?」
「波多くん????いやいやそれは前にも言ったように……藤宮くんには言ってなかったっけ?波多くんはクラスメイトですよ。友達がいなくて私しか指名できなかったんですよねーあと純粋な嫌がらせで猫狂いです」
「猫狂い……?それにキャンプファイヤーのときに告白されていたんでしょう?」
「あー」
鈴谷くんのことだ。
波多くんのことで気が抜けて笑っていたのに、告白のときのことを思い出した瞬間、顔が熱くなる。それが当たりとでも思ったのか藤宮くんは鼻で笑う。
「恥知らずにも人の目を憚らず校門前で抱き着いていたとか」
あ、大樹のことだ。
藤宮くんは話の緩急が上手なのか、突然でてきた大樹の登場にまた笑いそうになってしまった。確かに迎えに来てくれた大樹に抱き着いたっけ。
なるほど、だ。
全員違う人の話だけど同一人物だと思われてたんだ。それで彼氏ができたと思われてたのか……ん?
「校門前でのハグの件はともかく……、私が告白されたっていうのは誰から聞いたんでしょう?」
「紫苑さんからです」
「あ、やっぱり。じゃあ風紀委員の人ってみんな知ってるんでしょうか?」
「詳しくは知りませんが……きっとそうだと思いますよ。紫苑さんは風紀室に行くと言っていましたから」
私が鈴谷くんに呼び出されたあと、紫苑先輩は藤宮くんと会って話してたんだ。それで、私が風紀室でイーセカの話を聞いて飛び出したあとにでも風紀室に戻ってきたのかな?
簡単に想像できるその後に苦笑いが浮かんでしまうけど、腑に落ちてちょっと……すごく安心した。
「もしかしたらそれで会わなかったのかな……?避けられてたわけじゃなかったのかな」
美奈先輩に両想い魔法のことを聞いてからもずっと疑問だった。
だけどもしかしたら、みんな私に彼氏ができたと思って遠慮してたのかもしれない。嫌われたとかそういう感じで避けられたわけじゃない──そう思えた瞬間、すーっと心のモヤが晴れてスッキリした。
なーんだ!迷惑な勘違いだったんだ!
「そっか、そっかー!」
「……どういうことですか?」
私の言動に違和感を覚えたのか藤宮くんの眉間にシワが寄りだすけど、鋼のメンタルに戻った私には怖い顔もまるで効かない。
「それより紫苑先輩のことはどうするんですか?協力頼まれた身としては、やっぱりそこんとこ知っておきたいんですけど」
「あなたの情緒はどうなってるんですか……っ!?いや、食べますけどいま食べるべきはあなたでしょう?!」
声を荒げた藤宮くんに苺チョコをあげたら今度こそ怒ってしまった。まあ、怒りついでに離れたからよかったことにしよう。
藤宮くんが落ち着くまで私ももう一個チョコを食べることにした。
そういえば今日は猫が現れない。もうそろそろ蝉が鳴き出すかもってぐらい暑くなってきたし、住む場所を変えたかのかな。
「……僕だって戸惑っているんです」
「え?ああ……まあ確かに、男の子だって分かってても女の子にしか見えない人が、綺麗めだけど男の子にしか見えなくなったら戸惑いますよね。サラサラボブヘアーからの刈り上げツーブロックはインパクトが強すぎました」
「そうなんです……紫苑さんは紫苑さんだと分かっているのに、今の紫苑さんを見るたび、どうしても、あの揺れる髪を見てしまうんです……」
ポエミーなことを言い始めた藤宮くんにびっくりするけど、そういえば初恋を自覚してすぐ相手が同性だと知った藤宮くんはショックのあまり泣いていた。感受性が豊かな人なんだろう。これは極端な思考になるのも納得だ。
「なるほど……もしかしたら藤宮くんが抱いていた理想の女性像がぴったり形になって現れたのが紫苑先輩だったのかもしれませんね。あんまりにも理想形だったら好きになっちゃったし、ギャップはあっても好きになっちゃうのは止められなかったし……でも理想形が崩れたからそうじゃなくなった、みたいな感じじゃないですか?」
「感じじゃないですか?って……シンプルに最低な奴じゃないですか」
「そうですか?そんなもんのじゃないでしょうか?」
完璧な推理だと思ったけど、考え込むように黙った藤宮くんは今まで見たことないほど落ち込んでしまった。もしかしたら図星をついてしまったのかもしれない。
胸を抑えてブツブツ言い続ける姿は毒でも盛られたように苦しそうだったから、前回とは違って優しさの心でもってハンカチを差し出してみた。数秒後、差し出されるハンカチのあとに私を見た藤宮くんは舌打ちした。
よし、もうなにもしないでおこう。
藤宮くんはツンデレ……違うな。天邪鬼だ。
素直じゃないうえ言ってることがすぐに変わるひねくれもの……あ、そうだ。
今までのことを振り返りながらひとり納得していたら、名案を思い付いた。
おさげにしていた髪をほどいて、髪が内巻きになるように毛先を手で掴む。簡単ボブヘアーだ。鏡がないから成功してるか分からないけど、聞けば分かることだ。地面を見てる藤宮くんを呼んでみたら、時間をかけてようやく暗い顔が私を見た。
「ボブヘアーに見えますか?」
「……なんとなくは」
目を見開く藤宮くんは鬱モードから回復したらしい。話を聞いてくれそうでよかった。
私は私で即席ボブヘアーがお墨付きをもらって大満足だ。
「ふふん。それじゃあ紫苑先輩に見えますか?」
「まったく」
「でも別にトキメキなんてしないでしょう?だったら、ヘアスタイルとかその人の一部でおまけで、やっぱり藤宮くんは紫苑先輩が好きなんですよ。完璧な理想じゃなくなったからギャップを感じてるんでしょうけど、少なくともボブヘアーの紫苑先輩は好きだったんですよ。理想じゃなくなったから嫌いになったっていうより、推しじゃなくなった、みたいな感じですかね?」
真奈のオタトークに通じる話だ。
理想と推しについて熱く語る真奈の話をへーって聞き流してたけどこういうことだったのか……。
藤宮くんも納得してくれたのかツッコまない。
「本当はトキメイたほうが答えは簡単だったんですけどね」
「……ちなみに答えはなんですか」
「藤宮くんはボブヘアーフェチ!いったあ!いまデコピンした?!なんでデコピンしたのっ!??」
おでこで鳴ったバチンと大きな音に涙目になりながら非難するけど、藤宮くんはやれやれ系男子になって溜め息つくだけだ。
もう藤宮くんには関わらないようにしよう!
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