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イーセカ人はだーれだ
71.裏方は大変です
しおりを挟む魔法。クラスメイトが急にそんなこと言い出したら危険な世界に足を踏み込んだなって思うけど、異世界イーセカなら普通のことなのかもしれない。周りに人もいないことだし、深く考えないようにしよう。
「それじゃ、普通に話しますよ?」
「ああ」
「うーん……まあ、いっか。イーセカって魔法がある世界なんですね。魔法って……漫画とかに載ってるやつみたいになんでもできるんですか?」
「ある程度使える魔法は限られているな。俺たちからすればこの世界のほうが魔法のようだがな。魔法がなくとも魔法がある様に生活できている」
「……案外、原始人的な生活なんですか?」
「……いや、違うが……この世界では、スイッチを押せば電気がつくだろう?それを魔法なしにしているのは、驚くべきことだ」
「なるほど…あ、その例でいくと火とかも魔法で起こせるんですか?だったら火にも電気にもどんなものにでもなれる魔法のほうが凄い気もします」
「これは、異文化ならではだな」
「異文化……」
食い違う感想に斎藤先輩は物知り顔で頷くけど、納得できなくて首をひねってしまう。
正直、地球人と変わらないイーセカ人が目の前にいるのだとしても、魔法という言葉に現実味を感じない。イーセカの話は物語じみていて、ドッキリでしたと言われたほうが未だに納得できる。
「やっぱりよく分からないというか、それこそ本当に違う世界の話という感じがします。魔法にしても現実味がないですしねー」
「……それなら今度来たらいい」
「へ?いやいやいや、そんな、来週遊びに来いよみたいなノリでいけるものなんですか」
「お前なら許可がおりるだろう」
「キョカ」
軽いノリから一転物々しくなって、そんな手続きがちゃんとあるっていう理由を考えた瞬間、急に現実味を帯びてきた。
異世界イーセカは本当にあるのだ。
なんだか妙に感動するけど……国際問題的なことを言ってたわりにウェルカムなのはなんでだろう?
「私なら許可がおりるって……風紀辞めるって思われてたのに?」
「だが、お前は風紀を辞めないし、イーセカのことを話しはしなかっただろう?それに……俺の失言をすぐに指摘した。イーセカ人へ負の感情を抱いていもいない」
「んん?」
なんだか褒められてる感じがして笑っていたけど、ちょっとひっかっかる。確かに斎藤先輩の失言を指摘はしたけど、たったあれだけで「イーセカのことを話しはしなかった」って、評価が高すぎる気がする。ただすっごく好意的に見てくれてるってだけ……?
納得がいかずおでこにシワが寄るぐらい考えていたら、フッと鼻で笑われた。イケメンじゃなかったら許されない所業だ。
「お前の友人が何度か確認しただろう?」
「友人……え?美加?え!美加が関わってるんですか?」
「名前までは知らないが生徒会の1年だったはずだ。お前の監視だ」
美加だ……!美加が私の監視だった!イーセカのことを言わないか見張ってたってこと?……あ!だから最近あんなに心配してくれてたんだ!どうりで優しかったわけだ!!
「え!じゃあ美加もイーセカのこと知ってるんですか!?」
「現生徒会役員なら知っているだろうな」
「へえ、へえええええ!え!じゃあ、美加とイーセカの話をしてもいいんですか?」
「それは……徹に聞いておいたほうがいいだろうな」
「あ、はい。そうします」
思いがけない話にテンションがあがってドジやらかすところだった。東先輩を思い出してすぐさま冷静になれたのは幸いだ。
でも凄いなあ。生徒会と風紀ってこんな秘密を共有してたんだ。もしかしたら風紀じゃなくて体育委員とか保険委員とかも実は裏でなにかあるのかもしれない。
「あれ?でもなんで監視なんてつけたんですか?まあ、実は異世界と繋がってるーなんて大事件ですししょうがないかなーとは思いますけど、んん……?それならそもそも言わなきゃよかったし……もし私が教室とかで言っちゃってたらどうするんですか?その可能性だってありましたよね?」
剣くんはともかく、私なら言われなきゃ絶対に異世界のことなんて気がつかなかった。そのほうが安全な気がするのに、なんで監視なんて手間までかけて話したんだろう。……私なら言わないって思ってくれてたのかな?へへ。
「秘密を洩らさないと判断された相手に話すことにはなっているが、万が一話してしまったときその場にいた全員の記憶を消すために監視が必要だった」
「急に危ない話になった」
「当然の措置だ」
「そ、そうですか……」
イーセカには近づかないようにしよう。すごく危なそうな世界だ。そして過去の私よくやった。美加の顔につられて喋らなくて偉い。
「記憶を消す魔法って、斎藤先輩も使えるんですか?」
「俺は使えないな」
「え?じゃあ美奈先輩?」
「……あいつも使えないな。悪いが、徹からお前が風紀に戻ったと聞くまで、誰がイーセカ人か俺の口からは言えない」
「……別に風紀を出てったわけじゃないんですけど、分かりましたー。テスト明けにでも質問攻めします」
出鼻を挫かれるのに慣れてきて、ふんっと鼻を鳴らして気持ちを切り替えた。
そうだ、今は無理でもお休みが終わったらたくさん出来ることがある。イーセカの話をすることもそうだけど、まずは東先輩にたくさん文句を言おっと。泣き真似も一緒にしたら、もしかしたらお菓子をくれるかもしれないし、楽しみだ。
斎藤先輩は追及しない私に安心したのか少しだけ口元に笑みを作った。
「美奈は魔法がほとんど使えないから、あまり聞いてやるなよ」
「え、そうなんですか?勝手なイメージですけど、美奈先輩はなんでもできるイメージがありました。でも魔法が使えるだけで凄いですよ」
「まあ、アイツは魔法がなくても生きていけるからな」
「確かにあの逞しさは憧れますね。空回って残念になるところも素敵ですしね」
「そう……だな」
なにを思い出してるのか斎藤先輩は視線を落として黙り込んでしまった。幼馴染というぐらいだから、美奈先輩にたくさん振り回されてきたんだろう。
「美奈先輩って昔はどんな感じだったんですか?」
「……そうだな。本人に聞いてやってくれ。お前がイーセカ人を気味悪がっているのかと思って落ち込んでいた」
昔っからあんな感じにパワフルだったのかなーなんて興味本位で聞いてみたら爆弾が振ってきた。ちょっと前に花先輩に送ってもらった写真を思い出せば、ぎゅうっと胸が痛くなる。あんな人を落ち込ませてしまってたなんて最低すぎる。
「ちょっと待ってください、誤解!誤解です!」
「もう会えるだろう」
冤罪だと焦る私に斎藤先輩はゆっくりと頷いて、また変なことを言った。異世界人なのに日本語をこれだけ話せてるだけで十分凄いけど、ときどき何を言っているか分からないときがある。今がまさにそれだ。
「……今からここに来るんですか?」
「違う。りょ……そういう魔法がお前と俺たちにかけられている」
「ど、どういう魔法……?斎藤先輩、困ったとき魔法って言ってごまかそうとしてません?」
「……そういう魔法なんだ。美奈から聞いてくれ。明日ここに来るように言っとくから」
「ええ……今からじゃ駄目ですか。私は早く誤解を解きたいので電話したいんですが……」
「あいつも今、監視中だから駄目だ」
「監視……あ!剣くんのですか?」
「そうだ」
まさかと思ったら正解だ。剣くんの監視は美奈先輩が担当かあ……。
美奈先輩が剣くんを監視してる姿を想像したらちょっと笑ってしまう。城谷先輩が紫苑先輩を覗いているときの恐ろしさとはまるで違う。雑な監視に剣くんが気がつくところまでワンセットで想像してしまった。
これは確かにいま電話をかけるのは止めておいたほうがいいだろう。お仕事の邪魔になる。
「明日が楽しみだなあ」
美奈先輩ならきっと賑やかにいろいろ喋ってくれるはずだ。剣くんのことだって美奈先輩の手にかかれば面白い話になるに違いない。
ニヤニヤする私に呆れたのか、斎藤先輩はふうっと溜め息を吐いて外を見た。うわ~絵になる~。
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