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イーセカ人はだーれだ
67.噂の図書室に行ってみる
しおりを挟む風紀のことなんて忘れてテストに集中するぞと意気込んでから数日、なんだか不気味なことが起きている。
というのも風紀の人たちにまったく会わないのだ。それに紫苑先輩たち風紀の対象の面子ともまっったく会わない。今まで毎日のように顔を会わせていたからか、こうまで会わないと意図的なもののように思えてくる。だって風紀委員だろうがそうじゃなかろうが普通に学校生活はあるわけで、それなのにすれ違うこともないなんて……どう考えてもおかしい。
『もし風紀を辞めたいときは城谷みたいに後任を見つけてからだと嬉しいな』
思い出してしまった笑顔から考えればこの予想は正しいに違いない。ふーん、そうですか。そういうことしますか。まあ考えようによっては?ちゃーんと私がお休みできるように、東先輩は配慮的なことしてくださってるってことですしねー。
「あ、近藤さん。今から風紀室?」
不貞腐れながら歩いていたら先輩らしき人から話しかけられた。誰だか分からないけれどこのフレンドリーさから考えて紫苑先輩のファンの1人に違いない。にっこり微笑んでおく。
「あ、いいえー今お休みもらっててテスト勉強のため図書室に行くんですー」
「そうなんだ!頑張ってねー」
「はい!ありがとうございまーす」
お辞儀すれば笑顔で通り過ぎていく先輩。
風紀関連の面々に会わないかわりに、学園祭を通じて知り合った紫苑先輩のファンの方々との交流が増えた。紫苑先輩のことを聞かれるのはもちろんだけど、普通に雑談してくれる人もいて不気味と不思議が混ざった奇妙な感覚を味わえる。それに内緒にするのもおかしな話だからと思って、正直に風紀の仕事はお休み中ですって答えても意外と反感を買われなかった。紫苑先輩から離れた状態だと普通にコミュニケーションがとれるらしい。これはいい発見──ふん。私はテスト勉強しますから関係ないですしー。
気持ちを切り替えることにしたのに、こうまであからさまな態度をとられると拗ねたくもなる。それにちょっとばかしムカムカしはじめてもいる。
なんだかんだ一緒に頑張ってきたしいっぱい頑張ってきたのに、ちょっとぐらいこう「どうしたんだよ?」的なさー?聞いてくれてもいいじゃないですかねー。
なんて、東先輩に抱いていた怒りを双子に向けてしまうのはしょうがないと思う。同期なのにちょっと冷たすぎやしませんかねー。
きっとこの不満は明日にはもっと膨れ上がってるに違いない。こんなことなら来来週じゃなくて来週からテストが始まってほしい。そしたらこんな感情ともおさらばできるに──おお?うわー確かにこれは凄い。
「うわー確かにこれは凄い」
思ってることが声に出てしまうぐらい、扉を開けた先は凄い光景だった。
そんな大袈裟なことを言ってしまうぐらい、辿り着いた図書室は私が思っていたものとまるで違っていた。
開放的な窓がある図書室は体育館みたいに広くて、蔵書量が凄いのが見て分かる。それに書架は本が並んでいるだけじゃなくて勉強机のようになっているところもあったり、10色に色分けされていたりと個性的だ。自習机はあちこちにたくさんあって、中央にあたる場所には図書室の地図が書かれていた。書架の色分けがここでも使われていることを考えるに、本の分類にあわせて色分けされてるんだと思う。
思ってたよりお金がかかってる……っ!
いつだったか海棠先生から聞いたように図書室は凄いところだった。家だとテレビを見ちゃうから学校で勉強しようと思ったのは正解だった。私と同じ人はたくさんいて、日当たりのいい昼寝に最高そうな場所は埋まっている。
ここは早いとこいい席を見つけたほうがよさそうだな……。
どうせだから集中するために人気が少ないほうに移動していけば、階段をあがって進んだ先にいい場所を見つけた。遠くにしか人はいないし、背中には壁がある隅っこの席だし、左には窓もあるし机は大きいし最高だ。ここを秘密基地にしよう。
そんなことを考えながら鞄を開けていたら、ふと、視線を感じた。
顔をあげてみると、さっき遠目に見つけた人が私に気がついたようで視線を向けていた。会釈するほどでもないしすうっと視線をそらそうとしたら、見覚えのある顔に身体が動かなくなる。あの美形は間違いない。
斎藤辰先輩だ。
気怠げに椅子に座る斎藤先輩も私が近藤だと気がついたんだろうか。じっと視線をそらさない。長い脚と窓から差し込んでいる太陽の光が眩しい。この角度で撮った写真はいい値がつきそうだ。
きっとこの時間は数秒だった。
でも個人的にとっても長い時間が経ったあと、斎藤先輩は顔をそらして外を眺めはじめた。私も慌てて鞄に視線を戻して勉強道具を広げていく。なんだか妙に緊張した。というか斎藤先輩って図書室になにしにきてるんだろう?机に勉強道具どころか鞄も見当たらかったんだけど……あ、ダメダメ。余計なことは考えない。集中、集中。
頭を振って問題集を広げれば、目が掠れるほどの数式が私を勉強の世界にひきずりこんでくれた。他の科目はともかく数学だけは何回も問題を解かなきゃよく分からない。授業をお休みタイムと思い込んでる波多くんが隣の席なせいで、最近適当に授業を聞いてたからこれは時間がかかりそうだ。
「よし、頑張ろう」
いつにないぐらいヤル気の私を最高の環境がサポートしてくれた。
それが分かったのは下校チャイムが鳴ったときだった。これはいい場所を発見した。
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