となりは異世界【本編完結】

夕露

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イーセカ人はだーれだ

66.気持ちは切り替えるにかぎります

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風紀委員の裏話を知っただけで風紀委員を辞めると思われていた。心外だ。実に心外だ。

「そんなに睨んでもテスト範囲は変わらないわよ」
「うう、ううーっ」
「アンタはやればできるんだから大丈夫よ」
「えへへー!」

テストに関するお知らせの紙を握りしめていたら美加が頭を撫でてくれた。でもおかわり希望してもう1度握りしめてみても頭は撫でてくれなかった。心外だ。

「……朝っぱらから元気だな」
「そっちはいつもどおりダルそうだね。テスト大丈夫そう?」

隣で机にへばりつきながら紙を見ていた波多くんが無言になって目を閉じる。なんて分かりやすい。いつものマジだりーにマジやべーが加わってる。

「波多くんって勉強得意じゃないの?」
「佐奈、そんな直球で気いたらダメよ。バカなの?って失礼でしょ」
「お前より大分マシだと思うけどな……勉強は、得意じゃない。ここもスポーツ推薦で入ったし」
「へえええ!なんか水泳の世界では有名って噂話は聞いてたけど、へええええ!」
「お前もたいがいだったな」
「水泳部だっけ?じゃあテストが終わるまでプールはお預けなのね」

スポーツ推薦でこようが、ある程度の学力は必要だし、万が一にも留年したら部活にも影響する。だから青空高等学校は風紀は緩々だけどそこのところは厳しく、平均点以下の点数を取ったら部活返上で補習になる。そのおかげでテスト前は部活動は短縮するか休みにしているところは多い。噂によると、塾のような雰囲気でテストにあたる部活動もあるぐらいだ。
学力に不安がある波多くんなら、部活動はほどほどにするか休んでまで勉強するかどちらかだろう。でもチラリとこちらを見たあと顔を背けて寝る姿勢をとる姿をみるに、全力で部活に励んでいるようだ。これはテスト終わりの顔が楽しみだ。

クスクス、くすくす。

会話が聞こえていたのか笑う声が聞こえる。波多くんは学園祭での活躍や打ち上げの姿が多くの人の目にとまったみたいで、人気急上昇しはじめているらしい。水泳でいい成績とるまえに波多くんが風紀の対象になることも──ふんだ。風紀委員のこと考えたってしょうがないもんね。
クスクス。
顔を上げれば遠目に目が合った里香ちゃんと亜美ちゃんがにっこり唇をつりあげた。同じような顔をして返事をしたら2人は何事もなかったように楽しそうに会話を始める。
学園祭が終わっても1日いちにちが濃すぎる……。


「なにかあったの?佐奈」


落ち込んでいたらキレイな顔が目に飛び込んでくる。無表情にみえて心配に眉を寄せた顔だ。
うん、やっぱり美加が一番綺麗でかわいい!

「なんでもない!波多くん見てたらテストが不安じゃなくなった!」
「おい」

隣から聞こえてくるドスが効いた声には苺チョコを与えておく。カサカサ、もぐもぐ。平和な音に私もにっこりして、美加は溜め息吐いたあと笑ってくれた。












「やっほー、お先に食べてるよー」
「おまたせー!それに先食べてよかったー!」

階段に座っていた真奈が唐揚げをつまむお箸を見せて笑う。ああやっぱりこの気軽さがいいなあ、なんて思いながら隣に座ってお弁当を広げる。
今日は生徒会に用があってついでにそこで昼を済ませるからと美加に言われたときはぼっち飯が確定したと思ったけど、ちょうど連絡がきた真奈に思い切ってお昼を誘ってみたらこのステキな展開だ。誘ってよかったあ。

「ここでお昼食べたことなかったけど静かでいいね」
「人気がないからねー私だいたいここで食べてるよ」
「えっ、1人で?」
「基本1人かな。同じクラスの子と一緒にご飯食べることもあるけど、ここでのんびりご飯食べてるほうが楽だってときあるし。っていうかほぼそんな感じ」
「へえええ大人だ。じゃあ、今日はありがとーお邪魔しまーす」
「あはは!なにそれっ。どうぞー」

ぼっち飯に恐怖を感じた私と違ってひとりを楽しんでるらしい。話を聞くに、学校の裏掲示板を眺めながらご飯を食べて、次の休み時間それをもとに学校探索するのが楽しいとのこと。剣くんと話が合いそうだ。

「でも、うーん……直球で言っちゃうけど、また一緒にご飯食べたいなーって思うんだけど、ときどきだったらいい?」
「いやいやここ別に私の部屋じゃないし確認必要ないでしょ。ときどきじゃなくてもきたらいいじゃん……私も佐奈とだったら楽に過ごせるだろうし」
「デレてる?これってデレだよね?」
「まあいるときといないときがあるけどねー」

なんてことのないように話しながらちょっと恥ずかしそうに笑った顔がかわいい。食堂で食べる日以外は毎回来よう。

「いないときは私も裏掲示板見とくよー」
「いいね。案外おもしろいよ。新しいスレが立ったんだけどさ──」

携帯をのぞきこみながらいろんな話をする。学園祭のご褒美である学校宿泊券の内容の予想や、紫苑先輩の劇的変化と来年の意気込み、テストの予想──話は尽きなくて昼休みはあっという間に終わる。



「そんじゃまたねー!風紀で面白いことがあったら教えてー」
「あははー」



棒読みなことが伝わったんだろう。真奈は楽しそうに笑って自分のクラスに戻って行った。私も教室に戻れば、美加はすでに席について次の授業の準備をしていた。早めに現れた先生の姿に私も慌てて席について授業の準備をする。
お腹いっぱいになって受ける授業は眠たくて、ちゃんと起きて授業をしている先生を尊敬だ。同じリズムの声ってなんでこんなに眠たくなるんだろう。外はいい天気だし、波多くんは肘をつきながらノートをとるふりして寝てるし──キーンコーンカーンコーン。

チャイムが鳴って、もう、放課後。

鞄を背負って席を立つ波多くんはきっと水泳部に直行するんだろう。授業が始まる前とまるで顔つきが違う。


「……?風紀に行かねえの?」


机に突っ伏しながら波多くんを目で追っていたら、目が合った波多くんが不思議そうに聞いてくる。心外だ。それじゃまるで私が水泳部に向かう波多くんみたいじゃんか。

「波多くんはテスト勉強しなくていいの?」
「……」
「いってらっしゃーい」
「……おー」

無言で背中を向けた波多くんに挨拶したら、振り返ることなく手をひらひら振ってそのまま行ってしまった。どうやら振り返る時間が惜しいほど早く泳ぎたいらしい。


「べつに私はそこまではまってるワケじゃないですしー」


愚痴グチ可愛くないこという私はどうやらガラスのハートだったらしい。
それに、近くに立って私を見下ろす美加は今朝と変わらず私のことを心配してくれているらしい。机に頭をぐりぐり押し付けて精一杯悩んでますアピールしたあと、ちらりと様子を窺ってみる。

「生徒会の仕事があるから先に行くわね」
「うう、さすが美加だ」
「話したいの?」
「……ううん、今はまだというかちょっと甘えただけです……うん。……よし!生徒会いってらっしゃい!こうなったら勉強だ!おもいっきり勉強していい点とってやるもんね!」
「佐奈のそういうところ好きよ」
「えへへー!褒められた!」

今朝よりもいっぱい頭を撫でられて俄然ヤル気がでる。学年1位は無理だけど30位以内は狙ってみよう。







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