となりは異世界【本編完結】

夕露

文字の大きさ
上 下
60 / 85
トラブルだらけの学園祭

58.癒しの行方

しおりを挟む
 


早い時間からミスミスター休憩所に来てしまったから結果発表まで紫苑先輩と2人きりだと暇かもなーって思ってたけど、ぜんぜんそんなことはなかった。
東先輩と美奈先輩には話を聞いてもらったうえおいしいお菓子をいっぱい食べれたし、仕事終わりに私たちと同じように避難してきた美加が加わったあと間髪おかずに藤宮くんと刀くん、剣くんと颯太くん、斎藤先輩と神谷先輩ペアがきてお祭りのように賑やかになった。

「しいちゃんメイド服姿すっごく人気だったみたいだねー!投票に来てた人が噂してたよー?」
「メッ!?メイド服ぅ?」
「それそれー!今年も優勝しちゃうんじゃねー?」
「そ、そんな「そんなことはないわ!今年こそ私が優勝するのよ!ねえ!?」
「え、いや知りませんし……こわ……」
「怖いってなによ?そこは勿論っていうところでしょ?!辰!この新人になんとか言ってやんなさい!」
「……」
「いや、新人て」
「メイド服……?」
「明人フリズってるけど大丈夫―?」

明るく笑う刀くんと颯太くんが眩しすぎるせいか美奈先輩にキレられてどんびきしてる剣くんの陰キャぶりがよく映える。その隣で無言を貫く斎藤先輩とブツブツ独り言を言い続ける藤宮くんとオロオロする紫苑先輩を加えれば綺麗に色分けされていて傍から見ていると面白い。
どうやら藤宮くんは颯太くんに紫苑先輩のメイド服姿の写真を見せてもらったらしい。見事に固まったあと、ぎこちなく動いて隣に座る紫苑先輩を見て──そのまま机に突っ伏してしまった。どっと笑う刀くんと颯太くんと違って、剣くんと美奈先輩は仲良くドンびいていて、斎藤先輩は興味深そうに藤宮くんを眺めている。紫苑先輩だけ変わらずオロオロしていて。


「いやあこの光景も見納めかと思うとこんなに楽しく見えるもんなんだね」


賑やかな光景を一緒に眺めていた東先輩が穏やかに微笑みながらそんなことを言う。集合写真を撮ったときも似たようなこと言ってたっけ。まだ先のこととはいえ3年生は今年に引退だからしょうがないけど、そんなこと言われると寂しい。

「いっとくけど俺は引き継がないからなー」
「え!?東先輩は3年生だから分かりますけど神谷先輩は駄目ですからね!?神谷先輩まで風紀抜けるんだったら私も絶対なにがなんでも辞めますからね!?」

神谷先輩の爆破段発言にしんみりとした気分が吹っ飛んでしまう。東先輩という恐ろしくも頼りになる人がいなくなったうえ癒しの存在がいなくなったら私の未来は間違いなく悲惨なことになる。ぜったいストレスで太る……っ!
恐ろしさのあまり神谷先輩の両肩をつかんで全力で揺すってるのに、楽しそうな笑い声が近くなって遠くなっていくだけでぜんぜん真剣に聞いてくれない。

「きゃー熱烈な愛の告白きたわー」
「ひどいなあ近藤さん。俺のことももうちょっと引き留めてくれたらいいのに」
「え!?いやいやいや流石に留年してとはいえませんし……、あ、でも引退しても顔出してくれると嬉しいですしなんでしたらせめて卒業するまでがっつり風紀にいてほしいです」

やっぱり寂しいですし。
なんて、口が滑って甘えたことを言ってしまたせいか、しんと妙に静かになった。おかげで美奈先輩の高笑いがよく聞こえる。昔の少女漫画にでてくるお嬢様の高笑いを地でやってるあたりほんとうに残念美女だ。

「はい、どうぞ」

軽やかな声と一緒に目の前に差し出されたのはクッキー。ぷらりぷらり揺れる包装紙に見え隠れする東先輩は微笑んだ顔で、美加も神谷先輩もおかしな顔をしてるけど東先輩が一番読めない。
とりあえず分かるのはこのクッキーを私にくれるってことだ。

「ありがとうございます、いただきまーす!」
「東先輩、気持ちは分かりますがあまり餌付けしないでくださいね。太ったって落ち込むのはこの子なので」
「大丈夫だよ美加。学園祭はもう太るって決めたし学園祭が終わったらお菓子は控えるしねー」
「別に控えなくてもいいだろ。佐奈はもうちょっと太ったほうがいいしなー?ほら、チョコ」
「やったー!」
「神谷先輩、明らかに見ているところが限定的だったんですが」
「え?美加ちゃんもチョコ食べる?」
「……」
「うわー視線で人殺せそー」

外見に合った言動をしていることが新鮮な神谷先輩は冷めきった美加の目にお腹を抱えて楽しそうに笑ってる。まさか安心癒しの神谷先輩にこんな性癖があったなんて……紫苑先輩より先に新しい扉を開いちゃった……。
面白い組み合わせの会話を聞きながら東先輩に猫クッキーをあげる。流石にもらってばかりはなんだし、一緒に食べたほうが美味しいしね。

「このクッキー美味しいね」
「え、ほんとですか!これ私が作ったやつなんです!お店にもだしてるんですよーふふ」
「すごいなあ。猫も可愛いしね。猫好きなの?」
「可愛いですよねー猫すっごく好きです。アニマルセラピーといえば猫です」
「うん、癒されるなあ」

思いのほか嬉しい言葉をもらってすっかり上機嫌になってしまう。東先輩はカウンセラーに向いてるなあ。おかげでスルスル口が滑って色んなことを話してしまって、おしゃべりが聞こえたのか美奈先輩が駆け寄ってきた。

「ちょっとなんでそんなに楽しそうなのよ。なに、なにを話してたの……あら可愛いクッキー。それあれでしょ、お店に出してたやつ」
「えへへーそれですそれです。よければ美奈先輩もどうぞ」
「あら。それじゃあご馳走になるわ」

綺麗な金色の髪を耳にかけた瞬間すごく綺麗だった美女が、猫クッキーを食べた瞬間近所のおばちゃんみたいに「あらやだ美味しいじゃない!」と手をぱたぱたさせるもんだから和む。美奈先輩に続いて遠くで話していた刀くんたちもわらわらとやってきて、それぞれが持っていたお菓子とかおもちゃとか飲み物が机に広げられてお茶会が始まる。
あんまりにも賑やかで楽しくて、12時の鐘が学校に鳴り響いたときは素で驚いてしまった。あっという間に時間が過ぎってしまった。12時。それはつまりミスコン投票が終わったのと同時に生徒会役員とミスコン運営委員による地獄の開票作業が始まったということだ。

「これでもミスミスター終了したも同然!おつかれー!」
「いやまだ発表されたわけじゃありませんし」

颯太くんが解放されたと喜びながらウーロン茶を飲んで、ゲームをしていた剣くんにウザ絡みを始める。溜め息を吐く藤宮くんに紫苑先輩が相槌を打って、なにを思いだしたか藤宮くんはまた机につっぷした。
平和な光景を眺めながら思い出すのは、そんなことをする時間もなさそうな生徒会の人たちだ。

「千代先輩、大丈夫かなあ」
「いまごろ涙目になりながら集計しているでしょうね」
「間違いなく私が優勝なのに集計するなんてご苦労なことだわ」
「え?でも美奈先輩去年負けたんですよね?今年も結果は分からなくないですか?」
「……」
「あー!結果が待ち遠しいですね!」

失言に気がついて慌てて誤魔化したけど、口元ひくつかせた美奈先輩の目は完全に私をロックオンしてる。あー危ない。疲れがたまってるせいか余計なこと言っちゃう。
あははーと笑いながら気をとりなおして「かんぱーい」とお茶が入った紙コップを掲げる。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...