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トラブルだらけの学園祭
58.癒しの行方
しおりを挟む早い時間からミスミスター休憩所に来てしまったから結果発表まで紫苑先輩と2人きりだと暇かもなーって思ってたけど、ぜんぜんそんなことはなかった。
東先輩と美奈先輩には話を聞いてもらったうえおいしいお菓子をいっぱい食べれたし、仕事終わりに私たちと同じように避難してきた美加が加わったあと間髪おかずに藤宮くんと刀くん、剣くんと颯太くん、斎藤先輩と神谷先輩ペアがきてお祭りのように賑やかになった。
「しいちゃんメイド服姿すっごく人気だったみたいだねー!投票に来てた人が噂してたよー?」
「メッ!?メイド服ぅ?」
「それそれー!今年も優勝しちゃうんじゃねー?」
「そ、そんな「そんなことはないわ!今年こそ私が優勝するのよ!ねえ!?」
「え、いや知りませんし……こわ……」
「怖いってなによ?そこは勿論っていうところでしょ?!辰!この新人になんとか言ってやんなさい!」
「……」
「いや、新人て」
「メイド服……?」
「明人フリズってるけど大丈夫―?」
明るく笑う刀くんと颯太くんが眩しすぎるせいか美奈先輩にキレられてどんびきしてる剣くんの陰キャぶりがよく映える。その隣で無言を貫く斎藤先輩とブツブツ独り言を言い続ける藤宮くんとオロオロする紫苑先輩を加えれば綺麗に色分けされていて傍から見ていると面白い。
どうやら藤宮くんは颯太くんに紫苑先輩のメイド服姿の写真を見せてもらったらしい。見事に固まったあと、ぎこちなく動いて隣に座る紫苑先輩を見て──そのまま机に突っ伏してしまった。どっと笑う刀くんと颯太くんと違って、剣くんと美奈先輩は仲良くドンびいていて、斎藤先輩は興味深そうに藤宮くんを眺めている。紫苑先輩だけ変わらずオロオロしていて。
「いやあこの光景も見納めかと思うとこんなに楽しく見えるもんなんだね」
賑やかな光景を一緒に眺めていた東先輩が穏やかに微笑みながらそんなことを言う。集合写真を撮ったときも似たようなこと言ってたっけ。まだ先のこととはいえ3年生は今年に引退だからしょうがないけど、そんなこと言われると寂しい。
「いっとくけど俺は引き継がないからなー」
「え!?東先輩は3年生だから分かりますけど神谷先輩は駄目ですからね!?神谷先輩まで風紀抜けるんだったら私も絶対なにがなんでも辞めますからね!?」
神谷先輩の爆破段発言にしんみりとした気分が吹っ飛んでしまう。東先輩という恐ろしくも頼りになる人がいなくなったうえ癒しの存在がいなくなったら私の未来は間違いなく悲惨なことになる。ぜったいストレスで太る……っ!
恐ろしさのあまり神谷先輩の両肩をつかんで全力で揺すってるのに、楽しそうな笑い声が近くなって遠くなっていくだけでぜんぜん真剣に聞いてくれない。
「きゃー熱烈な愛の告白きたわー」
「ひどいなあ近藤さん。俺のことももうちょっと引き留めてくれたらいいのに」
「え!?いやいやいや流石に留年してとはいえませんし……、あ、でも引退しても顔出してくれると嬉しいですしなんでしたらせめて卒業するまでがっつり風紀にいてほしいです」
やっぱり寂しいですし。
なんて、口が滑って甘えたことを言ってしまたせいか、しんと妙に静かになった。おかげで美奈先輩の高笑いがよく聞こえる。昔の少女漫画にでてくるお嬢様の高笑いを地でやってるあたりほんとうに残念美女だ。
「はい、どうぞ」
軽やかな声と一緒に目の前に差し出されたのはクッキー。ぷらりぷらり揺れる包装紙に見え隠れする東先輩は微笑んだ顔で、美加も神谷先輩もおかしな顔をしてるけど東先輩が一番読めない。
とりあえず分かるのはこのクッキーを私にくれるってことだ。
「ありがとうございます、いただきまーす!」
「東先輩、気持ちは分かりますがあまり餌付けしないでくださいね。太ったって落ち込むのはこの子なので」
「大丈夫だよ美加。学園祭はもう太るって決めたし学園祭が終わったらお菓子は控えるしねー」
「別に控えなくてもいいだろ。佐奈はもうちょっと太ったほうがいいしなー?ほら、チョコ」
「やったー!」
「神谷先輩、明らかに見ているところが限定的だったんですが」
「え?美加ちゃんもチョコ食べる?」
「……」
「うわー視線で人殺せそー」
外見に合った言動をしていることが新鮮な神谷先輩は冷めきった美加の目にお腹を抱えて楽しそうに笑ってる。まさか安心癒しの神谷先輩にこんな性癖があったなんて……紫苑先輩より先に新しい扉を開いちゃった……。
面白い組み合わせの会話を聞きながら東先輩に猫クッキーをあげる。流石にもらってばかりはなんだし、一緒に食べたほうが美味しいしね。
「このクッキー美味しいね」
「え、ほんとですか!これ私が作ったやつなんです!お店にもだしてるんですよーふふ」
「すごいなあ。猫も可愛いしね。猫好きなの?」
「可愛いですよねー猫すっごく好きです。アニマルセラピーといえば猫です」
「うん、癒されるなあ」
思いのほか嬉しい言葉をもらってすっかり上機嫌になってしまう。東先輩はカウンセラーに向いてるなあ。おかげでスルスル口が滑って色んなことを話してしまって、おしゃべりが聞こえたのか美奈先輩が駆け寄ってきた。
「ちょっとなんでそんなに楽しそうなのよ。なに、なにを話してたの……あら可愛いクッキー。それあれでしょ、お店に出してたやつ」
「えへへーそれですそれです。よければ美奈先輩もどうぞ」
「あら。それじゃあご馳走になるわ」
綺麗な金色の髪を耳にかけた瞬間すごく綺麗だった美女が、猫クッキーを食べた瞬間近所のおばちゃんみたいに「あらやだ美味しいじゃない!」と手をぱたぱたさせるもんだから和む。美奈先輩に続いて遠くで話していた刀くんたちもわらわらとやってきて、それぞれが持っていたお菓子とかおもちゃとか飲み物が机に広げられてお茶会が始まる。
あんまりにも賑やかで楽しくて、12時の鐘が学校に鳴り響いたときは素で驚いてしまった。あっという間に時間が過ぎってしまった。12時。それはつまりミスコン投票が終わったのと同時に生徒会役員とミスコン運営委員による地獄の開票作業が始まったということだ。
「これでもミスミスター終了したも同然!おつかれー!」
「いやまだ発表されたわけじゃありませんし」
颯太くんが解放されたと喜びながらウーロン茶を飲んで、ゲームをしていた剣くんにウザ絡みを始める。溜め息を吐く藤宮くんに紫苑先輩が相槌を打って、なにを思いだしたか藤宮くんはまた机につっぷした。
平和な光景を眺めながら思い出すのは、そんなことをする時間もなさそうな生徒会の人たちだ。
「千代先輩、大丈夫かなあ」
「いまごろ涙目になりながら集計しているでしょうね」
「間違いなく私が優勝なのに集計するなんてご苦労なことだわ」
「え?でも美奈先輩去年負けたんですよね?今年も結果は分からなくないですか?」
「……」
「あー!結果が待ち遠しいですね!」
失言に気がついて慌てて誤魔化したけど、口元ひくつかせた美奈先輩の目は完全に私をロックオンしてる。あー危ない。疲れがたまってるせいか余計なこと言っちゃう。
あははーと笑いながら気をとりなおして「かんぱーい」とお茶が入った紙コップを掲げる。
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