となりは異世界【本編完結】

夕露

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トラブルだらけの学園祭

53.学園祭2日目、終了!

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チーム決死隊の打ち上げ場所は教室3つぶんとそれぞれをつなぐ廊下を使った場所だった。じゃんけんに勝ったチームは体育館を使えたとのことだけどこれはこれで面白い。ひとつの場所で集まれないぶん窓やドアを全開にして皆いろんなところから顔を出したり座ったりしながら大きな声で楽しそうに話している。
でもこれボッチだと絶対きついなあ……。体育祭のとき女子に睨まれたことも思い出せばますます肩身が狭くなる。真奈はどこだろ?できればそっと潜り込みたいんだけどなあ。
そんなことを思いながら携帯を手にとって真奈に電話をかけようとした瞬間、キャーッと黄色い悲鳴が聞こえる。

「藤宮くんっ!ミスミスター見たよ!」
「めっちゃかっこよかったあ!」
「ってか打ち上げ来てくれたんだ!ね、ね。こっちきなよ」

次々に話しかけられて眉を寄せる藤宮くんはきっとあと数秒後にはブツブツねちねち言い返すことだろう。さて何人が根気よく藤宮くんにつきあえるのか……。
耳元でプルルと響く無機質な電話音を聞きながら観戦していたら藤宮くんが睨んできたからずらかることにする。

「あ、もしもーし。佐奈ここ、ここー」
「わーみっけー」

教室から身を乗り出す真奈の笑顔につられて笑えばパシャリと写真が撮られる。目を白黒する私を見る真奈はニッと唇をつりあげながらミスミスターに出ている私の写真を携帯にだした。

「黒髪も似合ってたけどそのヘアスタイルも可愛いじゃん」
「やっぱりそう思う!?ウィッグを返すとき先輩達が編み込みしなおしてくれたのっ!」
「そんなことないよ~てきなことがなさすぎて気持ちいーわー。化粧もいい感じ」
「へへへーっ」

照れくさくてへらへら笑っていたら近くにいた人達がミスミスターのことで色々話しかけてきた。舞台裏の出来事や紫苑先輩とか特定の誰かのことを聞きたがるのはともかく、見たよーとか可愛かったーとかの褒め言葉はむず痒くなっていたたまれなくなる。

「近藤さんおつかれっ!コーラとお茶が選べるけどどっちか飲む?」
「わーありがとー。お茶がいいなあ」
「おっけ!」

爽やかな笑顔で現れた鈴谷(すずや)くんは太陽のような笑みを浮かべて教室を出て行く。あれ?
どうしてだろうと思って見ていたら目を細めて微笑む真奈が背中を押してきて。

「飲み物とお菓子を置いてるのが隣の教室」
「え!パシッちゃった!ちょっと取りに行ってくる!」
「はーい」

人に囲まれて酸欠状態になってたしちょうどいい。鈴谷くんを追って教室を出ればすぐに追いつくけど誰かに声をかけられていたところで、ちょっと離れたところで後を追うことになってしまった。
しかし、だ。鈴谷くんってほんと陽キャっていうか……爽やか……。
チームの代表のひとりだから学園祭関係のことで話しかけられたりすることが多いみたいだけど、友達らしき人たちからもよく話しかけられてキラキラ眩い感じだ。誰とは言わないけどみんな見習ったほうがいいと思うぐらい鈴谷くんのコミュ力が高いことが数分も経っていない尾行でよく分かった。
そして私には尾行の才能がないことが分かった。友達らしき人と話していた鈴谷くんが振り返ってばっちり目が合ってしまう。

「え、近藤さんっ?」
「パシッちゃってたことに気がついて追いかけてきました。あとちょっと人混みから抜けたくて」

あははと笑って言い訳すれば目を泳がせた鈴谷くんが「いいのに」と困ったように笑ったあと「じゃあ一緒に取りに行こーぜ」と白い歯を輝かせながら笑った。

「私、学園祭ってあんまり楽しいイメージなかったけど楽しいねー。でも仕切るのはほんと大変そうだから……なんていうか、代表おつかれさま~」
「ははっ!それ言うなら近藤さんも風紀すっげえ大変そうじゃん。ミスミスターもおつかれ」
「う゛あぁああーそれは忘れたいー黒歴史ぃ」

耳をぱちぱち叩きながらミスミスターの話を全力で拒否するけど爽やかな笑顔は一切崩れない。うう、手強い。

「近藤さん黒髪のウィッグ?つけてたじゃんか。それで最初見たとき誰か分かんなかったから近藤さんって紹介されたときほんとにビックリした」
「別人になりたいって言ったら先輩達がすっごく可愛くしてくれたんだー」
「……すっげー可愛かった!」
「うん、先輩たちにほんと感謝。しかも今度メイクを教えてくれることになったから、これからときどき近藤は別人になりますよー」
「ときどき別人になんの!」

フフフと野望を話せば鈴谷くんは楽しそうに笑ってくれて……なんだろ。鈴谷くんってほんとに凄いな……。代表でふりまわされて疲れてるはずなのに相変わらずそんなの一切顔に出さないし、代わる代わる話しかけられても面倒そうな顔なんてしないで皆に笑顔で話して、自分と近い境遇になっている人に気遣いまでしてる。しかも話題も豊富で運動もできて人望もあるときた。モテるっていうんならこういう人だろうに。

「あ、波多くんだ」

鈴谷くんの対極である1人を思い浮かべてしまって探せば複数の女子に話しかけられて追い詰められた結果壁を背にしてるんだ……という背景がよく分かるいかつい顔した波多くんを見つけた。さすがに女子たちも波多くんが苛ついてることを察したのか少し離れた場所で様子をうかがっている。うわー!うわー!あれ絶対辛いやつだ!ざまーみろ!
体育祭の恨みがどこかに行ってしまうぐらい楽しい光景に口元が緩んでニヤニヤ。あんまりにも危ない顔をしていたのか鈴谷くんがちょんちょんと肩を叩いてくる。
振り返ればペットボトルのお茶を持った鈴谷くんが「近藤さん」とお茶を手渡してくれて。

「黒歴史って言うけど、えっと、ほんとに可愛かった」
「え?」
「あっあれ、ミスミスターの話!とりあえず今日はもうなんもないんだし打ち上げ楽しもうぜ!じゃあほんとお疲れ!」
「え、あ、うん。お疲れー」

早口でまくしたてた鈴谷くんはそのままさっき話していた友達らしき人達のところに行ってしまう。フォローまでできる彼の性格のよさはどうやって出来上がったんだろう。でも直球で可愛いって言われると嬉しいけどやっぱり照れるなあ。からかいとか一切なく男子に可愛いって言われたの人生初だし、これはほんと花先輩と亜紀先輩に感謝だ。
るんるん気分で真奈がいる教室に戻ればちょうど今からミスミスターの動画を見直すところだった。すぐさま真奈の隣を陣取って一緒に鑑賞会。
広がる話声のなか響くアナウンス。そして始まった自己紹介の最初は紫苑先輩だ。おどおどした可憐な美女紫苑先輩の恒例になってる「俺は男です」アピールの次はビーナス美奈先輩が迫力ある笑顔で投票を促して、城谷先輩が端的に自己紹介をすませていく。知らない他の出場者の自己紹介が続いたあと、愛想の欠片が一切ない美加の「よろしくお願いします」で終わる自己紹介。そして……。

「風紀の近藤ですって言ってるとこ声裏返りまくりだよね。しかもこれから宜しくお願いしますって一般の人からしたらふつーに意味分かんないだろね」
「あ゛あああ分かってますー分かってますー」
「好きなのは平穏とお菓子全般って、平和とか言ってればそれっぽくなるのに平穏だしチョコとかじゃなくてお菓子全般だし」
「あ゛あ゛ああああ聞こえない聞こえない聞こえない」

耳を叩きながら携帯から聞こえてくる自分の声が消えるように大きな声をだすけど、真奈はお腹をおさえて笑い続けていてまるで効果がない。くそう……黒歴史ぃ……。顔が熱くなってお茶をあおるけど冷えてるやつじゃないからあんまり意味はない。

「斉藤漣(さいとうれん)生徒会長3年。これでもう最後になると思うと清々しい」
「あ!先輩だ!」

女子の自己紹介の次に始まったのは男子の自己紹介でトップバッターは斉藤先輩だった。生徒会も風紀と同じく嫌がらせされるとのことだったけど、会場に響く楽しそうな声を聞くに斉藤先輩の人気は高そうだ。選手宣誓のときと同じような歓声と囃し立てる声からみるにとくに男子から好かれてる感じがする。
そして続いていく自己紹介は身内ネタかっていうぐらい面白くて美奈と一緒にお腹を抱えて笑ってしまった。東先輩は私の上をいって風紀と名乗ったあと風紀関係のお知らせをマイペースに言っていたし、神谷先輩はノリノリにウィンクまでして1人完全にホストだし、刀くんと颯太くんは頭おかしいほど無邪気に明るくて、剣くんと波多くんはコミュ障にふりきって名前を言ったあとよろしくしか言えてない。

「あっははは!この顔っ!眉間のしわすっごい!というか真奈どうやってこんなに綺麗に撮ったの!?」
「最高の席陣取ったからねーっ」
「最高―!」
「……楽しそうだな」
「あっ……はは!はったっくん!!あはははっ!ゲホッ」

動画とは違ってスーツを着ていないけど、短い髪をヘアワックスで整えたままの波多くんはまるで携帯から出てきたように現れておかしさが込み上げてくる。これ駄目だ、ツボに入った……っ!
目の前で仁王立ちして腕を組む波多くんはどこからどう見ても苛立ってるけどおかしくてしょうがない。だってミスミスターに出ているあいだどのシーンを見ても眉間に皺を寄せながら視線俯きがちに立ってる。これって子供が怒られたとき「俺、悪くないもん」って言ってるときとまったく一緒!あははっ!

「近藤」
「……すみません、調子に乗りました」

冷え切った声にすんっと笑いがひっこむ。へへへと愛想笑いをしたあと波多くんを手招きすれば警戒したように眉を寄せたもののこっちに来てくれた。猫ばっかり見てると行動も似てくるんだろうか。


「とりあえず、波多くんもお疲れ様」


ネコクッキーをプレゼントすれば目を瞬かせる。私にこんな優しさはないと思っているのか、きょとんとした顔が険しい顔を思い出すどころかさらに深く眉を寄せて凝視してくる。ひどい話だ。真奈にもネコクッキーをあげたあと私も食べれば、毒はないと分かったのか波多くんもようやく食べてくれる。でも一瞬表情は綻んだものの、また険しい顔。

「めんどくせえ……」
「打ち上げが?でも聞くところによると皆から貰ったお菓子をしっかり楽しんでるんでしょ」
「……」
「痛い痛い痛いっ!無言で頭ぐりぐりしないで!」
「シャイだのチョコ好きだの打ち上げを楽しみにしてるだの吹き込んだのやっぱお前だろーが」
「ぜんぶほんとのことじゃんかっ!イダダダッ真奈っ!真奈助けて!」
「えー?ふつーにお邪魔じゃない?」

誰かとやりとりしているのか携帯から目を離した真奈が生暖かい笑みを浮かべる。ひどい誤解すぎる。

「見てこの涙目!?これすっごく痛いんだからね!?あと波多くん先輩たちがセットしてくれたんだから崩さないで!なんでみんな頭触るかなー」
「みんなって、ああ鈴谷か」
「なんでそこで鈴谷くん……?違うよ」

真奈から手鏡を借りて見てみればちょっとだけ髪がこぼれてしまっている。まあでもこれはこれで可愛いからいっか。

「あー……そういや鈴谷くんって結構人気らしいよ?佐奈知ってた?」
「え、そうなんだ。でも納得。ふつーに良い人だしモテるんならああいう人だろーなあ。鏡ありがと」

手鏡を受け取った真奈はなんともいえない顔をして波多くんを見上げると、目を合わせた2人は示し合わせたように溜め息を吐いた。

「そ、人気者なの。ところで鈴谷くんは?」
「え?友達のとこに行ったけど鈴谷くんになにか用事だった?」
「いや、そういうわけじゃないけど一緒に動画見れたら楽しかったのになーてきな?」
「一緒に動画……」

ミスミスターの話で鈴谷くんに可愛いと言われたことを思い出してまた照れくさい気持ちになる。誤魔化すように笑えば真奈はからかおうとでも思ってるのか「今からでも呼んでこようか?」と弾んだ声でそんな恐ろしいことを聞いてきた。慌てて首を振る。

「ミスミスターのこと鈴谷くんすっごく褒めてくれたんだけど、なんていうかちょっと眩しすぎて居心地悪くなるから一緒に動画とかはいい」
「あ……そ、そう……」

爽やかの代名詞のような鈴谷くんは話してると浄化されるような気持になるけど、とにかく、眩しすぎてうまく目が開けられなくなる。皆に優しくて明るくて気遣いまでできて──同じことをしてみる自分を想像するだけで胃が痛くなってくる。
あ、胃が痛くなるといえば藤宮くんはあのあとどうなったんだろう。
辺りを見渡すけど残念なことに藤宮くんと周りにいた女子はもうこの教室にはいなかった。違う教室に行ったか、帰る藤宮くんを廊下で女子が引き留めている最中かどっちだろう?
あれ?


「どうしたの?」
「……なにが」
「こんな感じに悪人みたいに笑ってるよ」


唇つりあげて静かに笑っていた波多くんの顔真似をすれば目を見開いた顔が動揺したように目を泳がせる。なんだなんだ?視線を追っていけばようやく止まって、その先を見て納得する。いつから知っていたのか謎だけどきっと匂いがしたんだろう。

「新商品の苺チョコに気がついたんだねーさすが目ざといなあ。はい、どうぞ!」

今日のために買っておいた新商品の苺チョコを贅沢にも2つあげれば、喜ぶかと思った顔が眉を寄せた。

「あれ?違うの?」
「……」
「じゃあ返して。こんなに美味しそうなチョコを欲しいとも思わないありがとうも言わない人には食べさせない」
「…………サンキュ」
「いだっ!え!?なんで私いま小突かれたの!?人としての優しさ忘れすぎじゃない!?」

抗議を無視して一気に2つ口の中に放り込んで食べてしまった波多くんはそれから返事をしてくれなかった。くっそうこのコミュ障め……!

「佐奈私もチョコ食べたーい」
「もっちろんいいよ!はい、3個あげる!」
「やった、ありがと」
「どういたしまして~」

真奈と一緒にぱくりとチョコを食べればきゅうっと幸せな味。チョコの中のどろりとした苺ソースが口の中に広がって私のテンションは一気に回復だ。なんだかんだいいながら波多くんもチョコがあんまりにも美味しかったからか眉間の皺をなくして眉さえ通常の位置に戻して唇をほんのりつりあげている。

「おいしいねー」
「ほんとそれー」
「……うまい」

3人で食べるチョコは美味しくって新しいお菓子の封を開けるのはすぐだった。
体重が1キロ増えた学園祭2日目、終了。






 
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