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トラブルだらけの学園祭
51.「ちょっとあなた話を聞いているんですか?」
しおりを挟む紫苑先輩につれられて部屋の隅に移動すればそこには女子控え室と同じように机と椅子にお茶菓子がおいてあった。ほんのついさっきまで花先輩たちと楽しくおしゃべりしていたことを思い出して変に笑ってしまう。紫苑先輩が気を使って話しかけてくれるけど生返事しかできないし、椅子に座った瞬間どっと疲れて行儀悪く肘を机に置いて顔を覆ってしまう。ああ、もうほんとになんだか疲れた……。
「あら近藤さん、化粧が落ちるわよ」
「え?あっ!城谷先輩!うわ綺麗っ!」
「……それは、ありがとう」
まさかの声が聞こえて顔をあげればシンプルかつフォーマルな白いワンピースを着ている城谷先輩がいた。見た瞬間心に浮かんだ言葉をそのまま叫んでしまったら、城谷先輩は意表を突かれたのか嬉しそうに微笑みながらありがとう、だって。可愛い。しかも普段はまっすぐな髪をおろしているのにお団子にして後れ毛を巻いているからギャップもすごい。ううん、本当に、黙って微笑んでいれば頼りになる雰囲気のある綺麗な女性に見える。ラメがはいった青いアイシャドウがお似合いです。ところでなんでいま私は頬をつねられたんでしょうか。
「そういえば城谷先輩、ミスコンで風紀が出場する理由って知ってましたか?」
「嫌がらせでしょ?」
「城谷先輩やっぱり私もう風紀辞めたいです」
「そうはいってもねえ」
「近藤さんは風紀を辞めたいんですか……?」
「大丈夫よ紫苑!近藤さんが辞められるわけないじゃない!」
城谷先輩は困ったように手を組みつつ相槌を打っていたのが嘘のように紫苑先輩に満面の笑顔をみせる。なんてこった……。紫苑先輩、安心したように息を吐かないでください。
「ところで?さっきから可愛い子がちらちら近藤さんを見てるわよ」
「城谷先輩が可愛い子っていうとなんだか危ない感じがしますね。あ、刀くんどうしたの」
城谷先輩が指さすほうを見たら刀くんと目が合って、呼んでみればパアッと笑顔を浮かべたパピヨンが余計な人を連れてやってきた。おかげで「だから私は近藤さんを心配しないのよ」と微笑んでいた城谷先輩がすうっと笑みを消してしまう。
「佐奈ちゃんは明人のこと知ってるんだよね?明人がしいちゃんと話たがってたからちょっとだけお邪魔していい?」
「べ、別にそういうわけじゃありませんが……ただ、こんなコンテストに出場しなければならない紫苑さんの不安を少しでも」
「少しでも、なにかしら?」
ツンデレぶりながら現れた藤宮くんに城谷先輩が問いかけ、目を細めながら唇をつりあげる。藤宮くんはそんな城谷先輩を見てなにかを察して同じような表情をした。カーン。ゴングが鳴った音が聞こえる。そこに加えて藤宮くんたちの登場を素直に喜ぶ紫苑先輩と刀くんの噛み合わない話。
うん、考えるのが馬鹿らしくなってきた。お菓子でも食べよう。
「ん?」
チョコクッキーをばりばり食べていたら視線を感じる。もしやこれは皆のじゃなくて誰かの私物だったのかと思って顔を上げれば、見慣れない人がいた。茶色い髪をした背が高い人で藤宮くんばりに外人っぽい人だ。藤宮くんよりも彫りが深くて、あれだ、パキスタン系。かなり目立つだろうけどあんな人に声をかけることができる女子は少なそうだ。というか美奈先輩もそうだけど絶対10代じゃない……ということはきっと、ああやっぱりそうだ。さっき噂にあがったばかりの斉藤辰って人だ。神谷先輩が「辰」と話しかけてるのが聞こえてくる。私に気がついた神谷先輩は手を振って、目が合った斉藤先輩は私を見て気難しそうに眉を寄せる。
「ちょっとあなた話を聞いているんですか?」
「え、そんなまさかー」
「……聞いてませんでしたね」
突然話しかけられて適当に相槌打ってみたら斉藤先輩よりも険しい顔をした藤宮くんに睨まれたあげくヤレヤレとばかりに溜め息を吐かれた。やっぱり藤宮くんは携帯越しに話すのが一番よさそうだなあ。すごく引っかかるのが、なんで斉藤先輩も私を見て藤宮くんのようにヤレヤレって感じで溜め息吐いたのかなってことですね。
「あなたは自分も出場することを忘れているんじゃないでしょうね」
「え?あー……忘れたいというかなしにしたいですよね。でもそれはもう非常に残念ですが出来なさそうなんで適当に笑って即敗退しようと思ってます」
「まあ分かっているんならいいんですが……正直僕は自分のことよりあなたの番を想像すると不安になります」
「いやいや誰も注目するはずないんですから風紀の近藤でーすって言って終わりですよ。ついでに私は敵じゃありませんよー害なんてありませんよー平和に過ごしたいだけなんですよーって言っちゃおっかなあ……あはは」
「それは煽りに煽りまくってるんじゃないんですか?」
藤宮くんは本当に不安を感じているのか眉を寄せて難しく溜め息を吐く。うーん、絵になるなあ。紫苑先輩と並んでるから眼福がんぷく。
「すみません、出場者の方はステージのほうへ移動お願い致します」
「ああついに……って美加!」
控え室を開けて平和の終わりを告げたのは真っ白なチャイナドレスを着た美加だった。美加は私を見ると目をぱちくりと瞬かせたあとフッと微笑む。うわああ綺麗……。
「女性陣は既に移動を終えていますので近藤さんもよろしくお願いします」
「ふわっ、いやそれどころじゃ……チャイナ!チャイナドレス……っ!」
「早く移動して下さい」
「お団子……っ!かわ、可愛い……っ」
感動しすぎて涙が浮かんでくる。普段どんなにあれ着てこれ着てとお願いしてもシンプルに徹して可愛い服はおろか長い髪で遊びもしなかった美加が白いチャイナドレスを着て、真っ赤なアイラインにあわせた赤い花をお団子に飾り付けて、怒りMAXの圧をだしながらも微笑んでる。
美加のこんな姿が見られるなんて……っ!ミスコンあってよかった……!
興奮をどう表現したらいいか分からなくて今にも身を翻しそうな美加の手を掴んだあとはただただ顔を見続ける。綺麗だし可愛い……。美人な人はたくさんいるし世の中いろんな人がいるけど、やっぱり私の理想は美加で美加が一番綺麗で可愛い。
「まあ、アンタがそう言うんなら信じられるわ……佐奈も可愛いわよ。すっごくね」
「わわ、わーっ!」
「はいさっさと移動するわよ」
「わーい!」
デレた美加に手を引っ張られた私はなんのために男子控え室まで来たのかすっかり忘れてぴょんぴょんついていく。
紫苑先輩の警護、もっといえば泣かないようにするのと逃亡しないように見とくんだったことを思い出したのは出場者全員で並んでスポットライトを浴びた瞬間だった。
幸いなことに紫苑先輩は出場してくれていた。名前を呼ばれて列から一歩前に出た紫苑先輩は渡されたマイクを手に挨拶を始める。挨拶?違う。紫苑先輩の話は自分は男だってドモりながら言っているだけだったけど、これは、間違いなく自己PRだ。そして間違いなく私もするやつだ。え、あれ?なんて言おう。無難に名前を名乗ってよろしくお願いしますでいいんだよね??自己PRの時間長くないですか?
『いやいや誰も注目するはずないんですから風紀の近藤でーすって言って終わりですよ』
藤宮くんにふざけて返した内容を思い出してしまう。いや、風紀の近藤だって一致してほしくないから別人にしてもらったのにわざわざ主張するのって馬鹿すぎる。というか東先輩も言ってたけどふつうに私は私だし風紀って分かるし。
『それは煽りに煽りまくってるんじゃないんですか?』
不安そうな藤宮くんの顔まで思い出してしまえば一気にパニックだ。なにせ私に注目しているわけじゃないにしても、ミスコンを見に来た人はたくさんいて眩しくて携帯を構えている人さえいて。
「次は、1年初出場の近藤佐奈さんです!」
眩しい眩しい、スポットライトが当たる。
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