となりは異世界【本編完結】

夕露

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トラブルだらけの学園祭

49.花びら

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噂のビーナスこと金剛美奈先輩と自己紹介をしてからというものの、紫苑先輩ばりに気に入ってもらえて花先輩や亜紀先輩たちと一緒に楽しくおしゃべりをしていた。お菓子を食べながら女子会という優雅な時間にもしかしてこれは最近大変なことばかりある私へのご褒美イベントなのかなと思えてくる。
しかしあれだ。紫苑先輩打倒に燃える意気込みを話す美奈先輩を見ていたら同性にも人気があるのが頷ける。美人過ぎて同性の妬みがあるだろうって思ったけどそもそも美人過ぎて嫉妬しないし、だいぶ残念な性格……すっごく絡みやすいフレンドリーな性格だから話してて楽しい。
なんで去年は紫苑先輩が勝ったんだろう?男子のほうが多いから??ううん、どっちの側についても美奈先輩に勝ってほしいって思うんだけどなあ。

「任せなさい!去年はみんな遠慮したみたいだけど今年は間違いなく私が優勝よ!!」
「ここで第三者が優勝したら凄いことになりそうですね」
「ぶっ!さっなっちゃん!」
「あははは!佐奈ちゃんの友達だっけ?園田さんが優勝したら最高すぎる」
「誰よそいつ!?」

ごめん美加……。
青筋たてる美奈先輩に口を滑らしたことを後悔する。意気込む美奈先輩を見ていたらそんなことがあったら面白いのになあって思ってしまったんです……。
だんまり決め込んでいたら廊下に顔を出してなにか話していた先輩が小走りで近づいてきた。そして困ったように笑いながらとんでもないことを口にだす。

「盛り上がってるとこごめんねー。美奈さん、東くんが呼んでるよ?なんか多分もう何度目かじゃない??笑ってたけどたぶん怒ってるよ」

東、先輩……?何度目……?
まさかと思いながら美奈先輩を見ればなんのことだと眉を寄せていて少し安心する。まさか呼ばれていたのに無視してたとかそんなことありえないですよね。

「2回ぐらいしか無視してないわよ」
「っ!」
「なんで佐奈ちゃんが慌ててるの!」
「あははははっ!」

亜紀先輩たちはツボに入ったのかお腹をおさえて笑ってるけど、これは、笑い事じゃない。女子ばかりの控え室に入れないから廊下でスタンバイして、通りがかる人に伝言を頼んでは待ちぼうけを食らい続ける東先輩の姿が目に浮かぶ。
『本当に迷惑だよね』
うわ、こわ……。
ぞっとして変な汗が出てしまう。なにが怖いってまたしても紫苑先輩の警護のことを忘れて呑気におしゃべりしていた絶望的なこの状況だ。間違いなく紫苑先輩も準備が終わってるだろうし、男子控え室に美女ひとりでいるとそれはそれは心細くて泣いているかもしれない。本当に泣いてたら間違いなく東先輩に『どう思う?』って聞かれる。

「わ、私そういえば大事な用事があったのでちょっと席を外しますね。へへっ」

まだまだ笑い続ける花先輩たちに一礼してからちょうど控え室を出ようとしていた先輩方の後を追う。幸い私はミスコン出場者が着る伝統の白い服に着替えてるし、先輩たちのおかげでイメチェンしてるから流石に東先輩といえど一瞬で私とは分からないはずだ。
ドキドキしながら人混みに紛れて見えたのは黒いズボン。東先輩はらしくないことに壁にもたれかかって楽な姿勢をしていた。それだけ待たされている可能性は考えないようにしよう。
このまま先輩たちに紛れていればスッと男子控え室まで行けるはずだ。スッと……。

「ちょっと佐奈待ちなさいよ!あいつのとこに行くなら私も行くわ!勝者の余裕ってやつよ!」

むしろ余裕なくないですか?辛辣に答えたくなったのは美奈先輩ががっちり私を捕まえて佐奈と呼んだからだ。当然、東先輩にも聞こえてる。むしろ美奈先輩が「あ、東そこにいたの」なんて東先輩を呼んでしまう。

「ずっといたけどね」
「へえ」
「ところで、近藤さん?」

穏やかに話す声が怖いと思う人は東先輩だけだろう。目の前に立つ黒いズボンに観念して恐る恐る顔を起こせば黒いジャケットを羽織ってフォーマルにきめた東先輩がいた。
ミスミスター出場者の女子が白いワンピース縛りなのと同じように、男子は黒いスーツが縛りらしい。それでも、美奈先輩がレースのついたドレスみたいなワンピースで私のはノースリーブハイウエストで腰にリボンがあるタイプと違うように、男子も男子でちょっとずつ違うんだろう。演劇部の先輩たちがその人の雰囲気にあったものをと熱を込めて語ってくれた。なにせフォーマルな格好だなってまとめてしまえるけど、違う。
似合ってるしかっこいいけどなにかの黒幕っぽい雰囲気がもれなくついてくるのは流石東先輩だ。

「嬉しいね、褒めてくれてるの」
「ひっ……も、もちろんですよ、へへ」
「近藤さんも凄くかわいいよ。一瞬分からなかったしね」
「やっぱりそう思いますかっ!?それじゃあ風紀の近藤って紹介されても普段の私と結びつかない感じでむしろ同一人物と思わない感じでいけると思いますかっ??」

褒められたうえお墨付きになった嬉しさで前のめりになりながら聞けば、言ってることが無茶苦茶だからか東先輩は目をぱちくりさせたあと固まってしまった。
慌てて「東先輩」と呼びかければ噴き出したあと朗らかに笑いだして、心配したのが損した気分になる。

「さすが近藤さんだなあ。あと風紀の近藤って言ったら近藤さんだろうね。普通に同一人物だし」
「ですよね」

分かってるけどヘイトを減らしたくてしょうがないんですよ。出場を今からでも無しにしたいし現実逃避に別人になりたいんですよ……。
落ち込んでいたら頭に柔らかい感触。驚いて顔をあげれば目を細める東先輩が口元に笑みを浮かべたまま私の頭を撫でていた。

「ウィッグが……」
「っ!」
「楽しそうなところすみませんがウィッグがズレます」
「はははっ!あーほんとにおかしい。花びらがついてるからね」
「あ、そうなんですか。ありがとうございます。ところで東先輩すっごく似合ってます」
「なにかの黒幕っぽいでしょ?」
「アハハ」

にっこり笑い合っていたら花びらがとれたらしい。手を離した東先輩が廊下の先を指さす。

「あっちが男子控え室でドアに張り紙があるから近藤さんの姿を紫苑にも見せてあげて。元気でるから」
「はい!勿論仕事します!」
「あははっ」

楽しそうに笑う東先輩に背を向けてすぐに走り出す。話せば話すほど墓穴を掘っていくからさっさと撤退するに限るんだけど、そういえば美奈先輩を置いてきてしまった。「ちょっと」と呼ばれた気がして返事をしかけたけど、なんとか堪える。
なにせ美奈先輩には東先輩がいるし、現にもう2人で楽しそうに眉を寄せながら微笑みながら会話をしていた。くわばらくわばら。


「花びらなんてついてなかったけど?」
「そうだった?」


紫苑先輩いまどうしてるんだろ。







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