となりは異世界【本編完結】

夕露

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トラブルだらけの学園祭

32.白熱する戦いに皆さんクラクラしています

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始まった青空高等学園祭。学園祭って秋のイメージがあったけれど変わったこの高校だ。そんな疑問はあの高校だしねで終われる。この高校は変だ。


「げほっ、ぉえ」
「……お前出場する種目玉入れでよかったな。そんなんじゃ他の種目出てたら死んでるぞ」
「ぐへぇっほ」
「うわ……」


最後のを無視すれば、むせこむ私を波多くんが珍しく心配してくれている。しかも私が玉入れに出場することにあんなにキレていたのにこの台詞だ。
これには訳がある。玉入れが思ってたものと違うかった。
風紀の仕事で時々参加できなかったとはいえ、運動種目の練習をしていたとき思ってたんだ。玉入れ練習する必要性なくね?って。でも練習があったから参加してた。籠に向かってお手玉を投げ入れながら皆気合入ってるなとか、そういや練習だりーみたいな人1人もいないなって思ってた。

「くっそ玉入れは2位だったか……。特攻隊棒引きでも1位だったぜ?!くっそ次で挽回しねえとな……」
「大丈夫!まだ始まったばっかだよ!」
「だな。得点の高いリレーとトライアスロンでもらいだ」

忘れてた。そういやこの学校の生徒みんな頭おかしいんだった。学園祭で頭のタガが外れる人たちばかりだったんだ。
なんで玉入れに連携とか技とか編み出してたのかよく分かんなかったけど、当日の今日よくわかったよ。
まず出場して見えたグラウンドに並ぶ籠の大きさに愕然とした。大玉でも入るんじゃないかってぐらいの籠が5つ等間隔で置いてあった。どれだけお手玉入れるんだって思ってたら放送で流れた玉入れのルールを聞いて棄権したくなった。
風紀で忙しかったから。忙しかったからなんだけど、玉入れのルールを聞かなかった私も悪かったと思う。だけど運動会の玉入れって言ったらただ自分のところの籠にお手玉投げ入れるだけの楽な競技って思うじゃないですか。なんでこの学校特有のルールがあるんですか。


ルールは2つあった。

1.自分のところの籠に自分のチームのお手玉を入れる
2.他のチームのお手玉を自分のチームの籠に入れると得点2倍


この2つめの寝耳に水のルールが問題だった。このせいで私はこの様だ。つまり皆他のチームに遠征に行ってお手玉奪って自分のチームの籠に投げ入れようとするんですよ。私たちのチーム決死隊もそうするんですよ。でも全員そうしたら逆に効率悪いし自分の陣地のお手玉が奪われるから陣地を守る人とお手玉を着実に投げ入れる人お手玉を奪ってくる人に分かれるんですよ……。
ああ、だから同時に複数お手玉を投げ入れる技とか連携プレーが必要だったんだねって納得しました。ちなみに私はお手玉を投げ入れる人がスムーズに投げ入れられるようにお手玉を渡しつつ投げ入れる人でした。死ぬかと思った……。奪いに来る人たちが本当に怖かった……ゲホッ。

一番最初の競技だった棒引きは人だかりで見えなかったけど、叫び声上がる白熱したものだった。私は玉入れでこの様だというのに、一体どんな戦いが繰り広げられたんだろう……あはは。
お茶を飲みながら人込みを観戦する。本当は座りながら今から始まる棒引きを観戦したかったけど、皆立ち上がって前に集まっているもんだから見えやしない。はは、ははは。
するとそんな暗い私を眩しく照らす明るい声が後ろから響いた。


「波多!次の借り物競争頼りにしてるぜっ!あ、近藤さんお疲れ!」
「あ、はは。へへ、ありがとう鈴谷くん」
「鈴谷そっとしといてやれ」
「ええー?」


うまく言葉が話せなくて笑って誤魔化していたら波多くんが言葉の足りないフォローをしてくれた。
あれ?


「そっか。波多くん借り物競争に出るんだったね。もう並ばないと駄目なんじゃない?」
「だるい」
「はい、行けよー」
「そうだそうだーさっさと行ったほうがいいよー」
「なんだようっせーな」


鈴谷くんと一緒に波多くんをせっついたら波多くんは眉を寄せて並びに行った。背中で語る男、波多くん。マジダリーって聞こえてくるわー。
それにしても、だ。
なんだかんだいって私の学園祭、運動部門は終わった。あとは観戦しながら風紀の仕事をするだけ──うっわ、風紀の仕事しなきゃ!桜先輩どこ行った!?
気を抜きすぎていたせいで風紀の仕事をしなきゃしなきゃと思っていたのに忘れてた。早く桜先輩と合流して桜先輩の近辺状況を把握しとかないと。
というか護衛対象が普通に学校生活を送れるようにする風紀って本当変わってるよね……今日で言うと桜先輩が学園祭という行事をこなせるようにサポートか……。
いまいちまだ理解しきれない風紀の仕事だけど、学園祭の玉入れが予想と違いハード過ぎたように警戒するにこしたことはない。頑張ろう。

「近藤さんもしかして今から風紀?」
「うん、そうなんだ。鈴谷くんは二人三脚に出るんだよね?頑張ってね!」
「え!お、おう!ありがとう!頑張る!」

鈴谷くんの健闘を祈ると鈴谷くんは眩しい笑顔を見せた。この人本当輝きすぎてるわ……。爽やかな人ってある意味危ないんだな……。
自分の心が病んでる可能性は蓋をして私もにっこり笑う。そしてお互い頑張ろうと別れて私は桜先輩がいる俺達1番チームに向かった。



「……うわあ」



俺達1番チームに向かってる間に棒倒しが始まった。棒倒しは棒引きとは違って男子だけだ。

「お前ら足踏ん張れえええ」
「くっそがあああ」
「ひきずり落とせえええ!!!」

つまり、壮絶な戦い過ぎる。野太い声や叫び声があちこちから聞こえてきてドン引きする。どこかの地方の祭りのような勢いと熱があった。ああよかった。玉入れと棒引きどっちに出るか悩んでたんだけど、玉入れを選んで本当によかった……っ!棒倒しのこの様子を見る限り女子のみとはいえ棒引きもなかなか壮絶だったに違いない。私玉入れで本当に良かった……っ!

って、あ。


「剣くん?剣くんだ。うっわあ!」


桜先輩に会わなきゃいけないのに棒倒しから目が離せないでいたら、もっと面白いものを見つけてしまった。剣くんが棒倒しに出ていた。自分のチームの棒を守って土台のようになっている。相手チームに踏まれて押されて、うっわ!痛そ。うっわー!
やっぱりこういうのって知り合いが出てるとすっごくテンション上がる。
思わず人込みに混じって観戦してしまった。剣くんは近くにいる仲間と何事か言い合いしながら必死に体制を崩さないようにしている。そして棒を倒そうとよじのぼってくる敵を押しのけ──あ!神谷(かみや)先輩だ!
どこからともなく現れた神谷先輩に剣くんも驚いたような顔をしたけどすぐさま仲間と一緒に防戦に入る。神谷先輩と剣くんは違うチームだ。神谷先輩は神谷先輩で自分の仲間と連携して相手を崩しにかかる。そして一瞬の隙をついて人の上によじ上り、途中何度も引っ張られて体勢を崩しながらもついに棒を力強く握って全体重をかけた。傾く棒を神谷先輩の仲間が見逃すはずなく1人また1人と後に続いて──棒が倒れる。


「さっすが!さっすが神谷先輩っ!!」


思わず飛び上がって叫んでしまう。
幸いなことに紛れ込んでいた人込みは神谷先輩がいるチーム特攻隊だったらしく変に目立たずに済んだ。それどころか近くに居た人と一緒に手を叩き合ったぐらいだ。
神谷先輩が喜びの声を上げながら仲間と腕をぶつけ合ったあと、自分のチームのほうに手を振る。私たちに向けてだ。
あのサービス精神は流石だ。やっぱり神谷先輩ホストに向いてそう。


「かっこいい……」
「神谷くんってやっぱかっこいいよね……」


なにせ神谷先輩の笑顔と爽やかさに近くに居た女性陣がメロメロだ。普段大人びて色気がある人の爽やかすぎる姿っヤバイんだなあ。
特攻隊に混じりながら神谷先輩に手を振り返していると、神谷先輩が一度止まって目を疑うような仕草を向けたあとお腹を押さえて笑い出した。多分そんな感じだ。そして神谷先輩は疲れ切って座り込む剣くんをひきずり上げてこっちを指さし、また手を振った。
神谷先輩元気だなあ……。
そんな無邪気な神谷先輩の姿も女性陣には素敵な姿に映ったらしい。また黄色い悲鳴が上がった。


「借り物競争に出場されるかたは急いでください。繰り返します──」


放送が流れる。
はっとしてグラウンドを見渡せば、もうすぐ棒倒しも終わりそうだった。呑気に観戦している場合じゃない。
慌てて私の後ろにも出来ていた人込みをかき分けて今度こそ桜先輩がいる俺達1番チームまで移動した。




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