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散らばる不穏な種
17.心配の種は刈り取るべし
しおりを挟む「なんかアンタ痩せたわね」
「え!?それ本当美加っ!」
「ええまあ。やつれたっていうか、ほら、頬のあたり」
「うぁぁぁぁぁ」
眩しい光り放つ鏡に映った自分に絶望してしゃがみこむ。確かに痩せたというよりやつれてる。しかもクマまで見つけちゃったんですけど……。
里香ちゃんと亜美ちゃんは笑っていました。切ない。
「ううう」
「可哀想に。なにがアンタをこんなふうにしたのかしら。ところでさっきからアンタを凝視しているのは前話していた城谷先輩かしら」
「気のせい気のせい気のせい」
「奇遇ね近藤さん。ちょっといいかしら」
「うぅぅぅ」
「いってらっしゃい」
「よく分かんないけど頑張って~」
「頑張って~」
さっきから視界にいれないようにしていた城谷先輩は美加が話題にした瞬間すぐさま声をかけてきた。そりゃご飯食べてるのを威圧的に見下ろされたら誰だって気になって声をかけるだろうけれど、美加、ここは気がつかないままでいてほしかったです。
え?ついてきなさい?
……はい。
目が合った瞬間通じた有無を言わさない命令にすごすごと従う。おそらくというか絶対話は藤宮くんのことだろう。なんでだ、なんで私がしめられなきゃいけないんだ。波多くんのときといい、立場的には私が弱みを握って強くなったともいえるのに、なんでこう嫌な役回りになってしまうんだ。
「それで近藤さん?あのクソ野朗どういうつもりなのか聞いてる?」
「いえ、その、全く」
「目が泳いでるわよ」
くそう。ポーカーフェイスは難しいんだよう。城谷先輩怖いし。
「……守秘義務ということで」
「まあいいわ。あの野朗より先に私が紫苑をものにすればいいだけの話よ」
「わー。凄いです」
「当然よ」
これが肉食系女子というのだろうか。実に男らしい。かっこいいなあ。なんだか桜先輩とお似合いな気がしてきた。しかし藤宮くんといい桜先輩は濃い人に好かれるな。魔性の女だね。
そして、あんなに威圧感バシバシだった割には、城谷先輩はそれだけであっさりと引き下がった。それなら呼び出ししなくてもよかったのでは?
そんな気持ちを遠回しに言ってみれば、城谷先輩は少しだけ振り返って私を見ると不穏な表情を見せた。
「こんな感じでこれから紫苑がらみの呼び出し食らうだろうから頑張りなさいよ」
どんな予行練習ですか。
もしかしたら城谷先輩なりに風紀をおしつけた私のことを考えてくれたんだろうか。そうなら有り難いことだ。欲を言うならそうなった時の対処法を教えてほしかったなあ。
「それで?アンタが紫苑の担当になった風紀な訳?」
おそらくボスだろう女の先輩がボブカットの髪を揺らしながら刺々しい口調でそういった。両隣に並んでいる先輩方もそれぞれ凄みをきかせたり頷いたりしている。
私はこの三名の先輩方に囲まれていた。城谷先輩が去ってものの数分後、この先輩方に呼び止められ、人が通らなさそうな場所へ移動させられ、囲まれた。あっという間だった。
……落ち着け私。頑張るんだ私。
いますべきことは説明で、機嫌を損ねないこと。ほーら笑え私。
「はいそうです。これからよろしくお願いします」
にっこり満面の笑顔。
風紀の仕事柄、ボディガード対象とよく接する間にそのファンともよく関わることになるそうだ。それなら仲良くなっておく、というよりコネを作っておくことは後々都合がいいだろう。もっと大事なのはボディガード対象とは絶対恋愛しませんよってことと、度を越えた行動は制限かけるけれどそうじゃなければ応援しますよ!って伝えること。
うん、コイツ使えるじゃん!
って思ってもらわなきゃならない。そのためには喜んで桜先輩の情報を流します。ええ。
ということで桜先輩の情報を有効活用させて頂きました。好きなもの、なんてのは皆さんご存知でしたけれど、最近のブームとか知らないものも結構あったみたいで──結果私はボスに気に入られた。メアドも交換した。
あー怖かった。本当にこんなことってあるんだね。
今更だけど風紀委員ってこんな仕事だったっけ?どういうことだ。
私の知る風紀委員との違いに遠い空を見上げてしまう。
そんな私を現実に戻す音がした。メールだ。ポケットにしまった携帯がニャーニャー音を鳴らしている。今までマナーモード派だったんだけど、波多くんに勧められてこの着信音にした。自分はできないからお前がしろっていう意味の分からない波多くんの主張でそうしただけだったんだけど、今はなかなか気に入ってる。
今なんかすっごく心がささくれてたから、この着信音に奇怪な行動で猫を呼ぶ波多くんと気まぐれな猫を思い出して和んだよ。ええっと?メールは誰からだ、ろ……。
点けた携帯画面をすぐに消す。
《紫苑の情報が入ったらまた教えなさいよね》
ボスからだった。
デコメ使用のやたらとキラキラした文字が眼に焼きついて離れない。あれ?どうしてだろう。涙がでてくるや。なんで私こんなにぱしられてるんだろう。あ、さっきはテンパってて記憶に残らなかったけどボスって駿河(するが)先輩っていうんだね。
「……早く桜先輩が誰かとくっついたらいいのになあ」
そうすれば私の世界は凄く平和なものになるだろう。誰でもいい。さっさと桜先輩を落としてくれ。
切実に願っていたら、慌しく廊下を走る音が聞こえてきた。それはどんどん近くなって、振り返った瞬間、衝撃が襲う。
「佐奈ちゃん!なんか久しぶり!」
「っう!か、刀(かたな)くん。……えーっと、あー。抱きつくのはどうかと思います」
「え?なんでー?」
振り返りかけだった私の身体を後ろから羽交い絞めにした刀くんは無邪気に首を傾げる。いやいや高校生にもなって、しかも特にそんなに親しくもないのにハグはどうかと思いますよ。あとどうでもいいかもしれないけど首がグキッて鳴ったんですが。
「わー近藤さん顔赤いー。おい刀、コイツ意識しちゃうから抱きつかないでくださいって言ってんの」
「うわー剣(けん)くんって嫌な性格って言われなーい?そりゃ急にハグされたら動揺しますー。普通こんなことされませんしー」
「わざわざ男に縁がなかったこと暴露しなくてもいいからー」
「どうしてそうなるんですかねー。剣くんって残念な思考だねー。とりあえず刀くん離してくれませんか」
「なんで?」
は?
純粋に分かりませんって顔されても困る。おい分身ちゃんと教えてやれ。変な言い回ししてないで人に抱き着くんじゃありませんよって教えるんだ。
ってか刀くん顔近い!顔近いですから!
「普通しないよ。いいから離れてくれません?」
「なんで?」
コイツ面倒臭い……。
しかしどう言えばいいんだろうか。問題にするなら、男女の付き合い方について述べよ、だろうか。難しすぎるわ。
「……幼稚園とか小学生ならともかく高校生にもなって、挨拶がてら異性に抱きつくのはどうかと」
「なんで?中学生までならいいの?」
あ、ほんとに面倒臭い。
「近藤さん顔赤いですよー」
「剣くん五月蝿い。というか分身どうしたの。私はどうすれば」
「そのままとくと男女関係の在り方なる講義でもすればいいんじゃね?」
「剣くん蹴るよ」
「ね、ね。佐奈ちゃん佐奈ちゃん」
「いい加減に刀くんは離れてっ」
聞き分けのない駄々っ子の腕を振りほどく。コイツは本当に高校生だろうか。常々思ってたけどコイツ背丈が高いだけの子供だ。
刀くんは疑問が解決されなかったらしく、まだ不思議そうに首を傾げている。なんて恐ろしい奴なんだ……。誰彼構わず抱きついて、気があると勘違いされたらどうするんだろう。その結果風紀で一緒の私に嫉妬の矛先が来ないだろうか。恐ろしい。
「佐奈ちゃん抱き心地いいのにー」
にこやかに笑う無邪気な子供の発言に言葉を無くす。思わず分身を見れば、そっと視線を逸らされた。おい。
「あのさ、私はこうやってハグされるのは心臓に悪いから嫌。それにそんなに親しくもないのにされるの嫌だよ」
はっきりと、刀くんでも分かるよう祈りながら言った。かわいそー、なんて余計な茶々が聞こえたけど無視だ。私はもう神経磨り減ってるんだ。これから生まれるかもしれない胃痛の種は刈り取っとかないと。
「んー、分かった」
「そっか有り難う。今日風紀あるよね?また放課後」
「ばいばーい」
分かってくれてなによりだ。手を振ってくれたから私も手を振って教室に戻る。もうそろそろチャイムが鳴りそうだった。
「仲良くなったら抱きついてもいいんだー。頑張ろー」
「ストレス解消しにきたはずなのになんか疲れた」
迷惑な双子の声は聞こえるはずもなかった。
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