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散らばる不穏な種
14.どうしよう?不安しかないんだけど私がおかしんですかね
しおりを挟む女の子の必死の告白にもかかわらず冷たくあしらう人気の彼こと藤宮(ふじみや)くん。
辛い境遇に涙を浮かべる薄幸の美女 (笑)こと桜(おう)先輩。
見詰め合う美男美女は頬をうっすらと赤く染めてお互いから視線を逸らそうともしない。窓という隔たりを前に近寄れない二人はまるでロミオとジュリエットのよう。
「そして悲劇。……ブッ!ダメダメ不謹慎だ」
「なにブツブツ言ってんのよ。学園祭準備が始まるからって今からそれじゃ後々死ぬわよ」
「それは言わないで。って、まだまだ先だよね。そんなに気負わなくても……気負うものなの?」
「ああ。佐奈があんの糞野郎をたきつけてくださったお陰で?生徒会に入るはめになった訳で?その大変さもまたねちっこいほど説かれた訳で?「すみませんでした。もうなにも口答えしません」
うふふ、と爽やかかつ黒い笑みを浮かべた美加から目を逸らす。怖い。まじ怖い。蓮先輩に助言したこと根に持ってるなあ。
「まあまあ二人とも。それより班分け楽しみだね!」
「ねー!私王子様と一緒になりたいなあ」
「藤宮くんと一緒がいい!」
「神谷先輩も!」
「辰くんも!」
「「皆一緒だと最高!!」」
「二人とも元気ね」
「楽しそう」
里香ちゃんと亜美ちゃんは手をつないで目を輝かせながら班分けに希望を抱いている。楽しそうだなあ。私は美加と一緒だったら嬉しいなあ。
班分けは東先輩が教えてくれたように一年から三年まで学年クラス関係なくごちゃまぜに分けられて、来る学園祭で勝つために早くからオリエンテーションの時間を設けて共同作業を行うのだ。
ん?勝つ?
ああ、なんだか売り上げとかイベントの勝敗とかで順位をつけて見事一位を獲得した班には賞金が貰えるんだとか。ちなみに去年の賞金は学校宿泊権だったらしい。微妙だ。でもできたら楽しそうだよね。
「さーお前ら席につけーこれから班分けするぞー」
「待ってました!」
「きゃあ!わくわくするー!」
「ね、ね。どうなるだろ?」
海棠(かいどう)先生が大きな四角の箱を持って教室に入ってくる。くじびきかー。
「はい。じゃーお前らも知ってのとおり学園祭に向けて班分けをする。くじは一度しか引けないからな。勿論一枚だけだ。そして交換は禁止。引いたその場でこの名簿に記入していくから、くじを引いたらすぐに結果を俺に伝えること。じゃ、早く引きたい奴から並んでとってけ」
適当な促しに我先にとクラスメイトが列を作ってくじをひいていく。賑やかな歓声を聞くにABCDEと分かれているらしい。私も美加も列に並ぶ人が少なくなってきてから並んでくじをひく。
Bだ。美加は──
「Eよ」
「そ、そんな。しかも里香ちゃんも亜美ちゃんもE?はみごだはみごだ」
頭を抱える。
なんだかいますぐ海棠先生の持つ紙に細工をしたい。
落ち込みのあまり席に戻って机につっぷしていると、机になにか当たったのかコツンと音がした。顔をあげると机を足でつつく波多(はた)くんが見えた。
「お前、どの班だ」
「……B」
「俺もだ」
「え!やった知り合いがいるじゃんか。波多くんだけどなんか嬉しいよ。よかった」
「お前いろいろ間違ってるよな。まあいい、これで色々楽だな」
「……波多くん私になにを求めてるの。私なんにもしないからね」
「お前風紀だからなんか色々融通効くだろ。頼りにしてる」
「え-知らないよー?私にそんな態度とっちゃってー。これから本当に風紀のお世話になるとき私、波多くんのこと守ってあげないから」
知り合いゼロよりマシだと思って喜んだのも束の間、波多くんは私をパシリよろしく便利に使う気満々らしい。なんて奴だ。
思えば波多くんが猫を追いかけるあの奇妙な光景を目撃し、それに気がつかれてからというもの、ことあるごとにこき使われてる気がする。猫探しに付き合わされたり、宿題を見せてあげたり、猫を見つけたら写真を撮って提供することを約束させられたり、寝てるのを起こしたりさ。
あれ?私が弱み握ったんだから普通逆じゃない?
おかしな事実に気がついて呆然としていたら、同じく呆然としていた波多くんが先に我に返ったような顔をして溜息を吐いた。
「俺は別に風紀に世話になることねえだろ」
「なるんじゃないかな?候補にあがってるんだよ。いま風紀の人数が少ないから一応候補だけど、これから波多くんきっと騒がれることになるよ」
「なんで俺が」
「波多くんかっこいいし」
「……は?」
知ってるんだぞ。もう既に告白受けたんでしょー。いやはや、既にばら色の学園生活を送ってるとは羨ましい。あ、嘘です。んー、いや、ちょっとだけ羨まし──まあいいや。
しかも容姿に加え、波多くんはどうやら水泳の世界では有名らしい。剣道部じゃないのか……と落ち込んだのは記憶に新しい。ともあれ水泳で成績を出せれば更に有名になって警護対象になるしい。なんて大袈裟なと思うけれど、大袈裟じゃない理由が分かるよと東先輩が笑顔で教えてくれたからもうなにも反論しない。無理。
「──ということで各自、移動するように」
「へ。どこに、っていうよりなんの話し?」
「アンタそれ海棠先生に聞かれないようにしないとまた眼をつけられるわよ。班ごとに移動するんだって。あんたはBだから体育館に移動よ。私たちは講堂。じゃあね」
「そ、そんな」
「ほら波多くん行ったわよ」
「ええ!?さっきまで一緒だって事を喜んだ同士のはずなのに!」
ぼーっとしている間に話は進んでいたらしい。
すっごく名残惜しかったけれど美加たちと別れて体育館に移動する。一人で移動とか寂しすぎる……。誰かと仲良く出来たらいいんだけどなあ……。
体育館は既に集まった生徒でいっぱいだった。本当に学年問わずいる。全学年1~5クラスをA~Eに班分けして、一クラスに大体30名だからここにはざっと90人いるのかー。
それにしても誰がこの人数をまとめるんだろう。リーダーとかいないだろうし、多分他の学年もさっき班分けがされただろうし。リーダー格の人が自然と指揮していくんだろうか。
ん?
おお凄い。
キャーと甲高い声が聞こえたほうを見てみれば、思わず先輩をつけたくなるほど年上かつ外人に見える藤宮くんがいた。女の子が群が──集まっている。
ここに桜先輩がいたら面白かったのになあ。
ざっとみたところ、ところどころで人だかりができているけど桜先輩は見当たらない。きっと違う班になったんだろう。
「あー、あー。静かにしろ。始めるぞー。ここはB班集合場所だが、分かってるな?」
低い声が体育館に響き渡る。海棠先生だ。なんでここにいるんだろう。
「よっしじゃあB班!まず最初にB班担当になった俺から一言言わせてもらおうっ。絶対優勝するぞ!俺は最初からそのつもりだから、お前らも優勝する気で挑め!手を抜くな!休むな!勝つぞ!」
「え?」
「おおおおおお!」
「いえええええええ!」
「は?」
ああ、先生も班分けされるんだと思ってたら熱のこもった声が徐々にヒートアップして最後は怒鳴るようになった。そしてそんな珍妙な海棠先生に応える生徒。
ど、どういうことだろう?
ちらほら私と同じように状況についていけない人が見えるけれど、本当に少数だ。よくよくみれば一年ばかり。二、三年生はノリノリであるところをみるにこれが普通なんだろう。
あ、胃がキリキリしてきた。
「いまのところ俺が臨時で司会をするが、俺はあくまでサポートしかまわれない。この学園祭の勝敗を決めるのはお前ら生徒だから、気合いれろ。手始めに一学年二学年三学年に分かれて代表者を独りずつ決めてもらう。学園祭の連絡や指揮を担う大事な役割だ。しっかり話しあうこと。三十分後には代表紹介とするからそのつもりで。なお、風紀委員と生徒会は特別な仕事があるため代表にはなれない。以上だ!」
わ、っと体育館が音で包まれる。一年が戸惑うなか、二年三年の人たちはそれぞれ集まって話し合いを始める。一年のところには海棠先生がきて、先生の補足のはいった説明の元代表者を決めることになった。
「1年代表、鈴谷相良(すずやさがら)でーす。よろしくお願いします」
「2年代表、武田翔(たけだしょう)ですっ。文化祭、ぜってー勝とうな!」
「3年代表、田中良人(たなかよしと)ですお前ら絶対勝つからなあああっ!優勝賞金はぜってえ勝ち取るぞっ!!」
どうしよう。ついていけない。
学年があがるごとにテンションもあがるこの状況をどう捉えればいいんだろう。わあああ、と盛り上がる先輩方につられて盛り上がる一年とついていけない一年。
「この学校頭おかしいんじゃね?」
「そんなこと言ったら駄目だよ。でも意味不明だよね」
引き気味に周りをみる波多くんの言葉に私と同じように思う人が他にもいてよかったと安心する。だけどこれはちょっと焦る。風紀の一員としてこのままなにも知らないままだととんでもないことになりそうだ。昼休みにでも風紀室に行こう。
B班なんて味気ないから残りの時間でチーム名決めようぜ!みたいな田中先輩の案で思案の結果、私たちB班のチーム名は「決死隊」になった。
うん。絶対に風紀室に行こう。学園祭のことを勉強しよう。
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