狂った勇者が望んだこと

夕露

文字の大きさ
上 下
98 / 251
第二章 旅

98.「逃げないで」

しおりを挟む
  



熱がゆっくりと沈み込んできて、身体がベッドに縫いつけられる。
触れるだけで戸惑いを覚える肌がぴたりと密着して、お互いの肌を舐めるように動いた。指を絡めながら握られた手は逃がさないとでもいうように力を込められて動かない。

「……っ」

抗議の声は口内に沈み込まれ、グチュリクチュリと鳴く。お互いの呼吸を奪い合いながらするキスは快楽や怖さなんてものを消し去って頭をどろどろに溶かすようだ。
時折聞こえるベッドの軋む音や衣服の擦れる音が私を現実に戻そうとするけれど、生き物のような生温かい舌にすぐ忘れさせられる。
どちらのか分からない汗が唾液に混じってしょっぱい。

「う、あ」

レオルドが離れてようやくできたまともな呼吸にむせこめば腹に冷たい空気を感じた。高熱のときのように霞む視界のなか見上げれば、レオルドが笑ったのが見える。
だらしなくはだけた服。のぞく胸筋には前にも見た傷跡――手を伸ばし触れると、ぴくりと少しだけ動いた。そしてお返しとばかりに伸ばされた手が私の頭を何度か撫でて頬を覆う。髪がレオルドの指に絡んで、ゆっくり身体のラインを撫でながら梳かされる。
指先がからかうように、先を望むように妖しく触れて、最後に太ももを撫でる。


「逃げないで」


――ビクリと身体が震えたのをレオルドは気がついたようだった。
思わず背けた私の顔をレオルドはすぐに戻して、また、唇が重なる。ズボンどころか下着までひっかけた指はいつのまに紐を緩めたのか、簡単にずりおろされてしまう。そのまま確かめるように陰部に触れた指がなんなく身体の中に入るだけでも頭が沸騰ものなのに、それをわざわざ知らしめるように何度も、何度も弄られておかしくなりそうだ。
濡れた音が聞こえる。体の中をなぞる指の感触を追ってしまう。身体がひくついてこの先を探してしまう。


「気持ちいい?」


わざわざ顔を合わせて聞くレオルドを睨み上げても効果はなく、ただ煽るだけのものだったらしい。
反応を見ながら与えられる刺激は止まらなくて、ついに耐えきれず声が漏れ出てしまう。自分のものには思えない甲高い声が恥ずかしくて、信じられなくて、目を閉じる。
ちゅ、と小さなリップ音を鳴らして瞼にキスされたのは、その直後だった。
逃げようとしても逃げられない怖いほどの快楽はもうない。ゆっくり目を開ければ、金色の髪が目元をくすぐった。目を瞬かせば察したレオルドが笑いながらまた目に、そして鼻にキスをして離れていく。
蒼い瞳が見える。
最初見た嗤った顔とは違う笑顔も。
レオルドが自分の着ていた服を脱ぎ捨てる。明るすぎる部屋にレオルドはよく見えて……だから、テラリと光る指もすぐに見つけてしまった。それがなにかすぐに分かって、同時に足を閉じようとしたけれど、そこまでは止めてくれない。

「サク」
「な、……にっ」

私の様子を観察していたレオルドが、なにを思ったのか濡れた指を自身の唇にそわせ、味わうように舐めた。ゆっくりと官能的に動く赤い舌は愛液をすくいとり、飲み込む。
ゾクリ、と腹の内が震えた。

「……今日は見逃してあげる」

低い声が優しさなのかそうでないのか分からない、どこまでも上から目線の言葉を吐き出す。
もう、レオルドから目を離せない。レオルドが次なにをするのかが予想がつかなかった。
視線を逸らせないでいる私を見下ろす蒼い目が、弧を描いていく。
大きな手が私の手を捕まえた。そして私の人差し指と中指を合わせたかと思うと、濡れた唇に触れさせて――ぱくりと咥えられる。
赤い舌が今度は指の先まで這って、今度は私の指が唾液で濡れていく。生温かい、けれど柔らかくてぐにぐにしたレオルドの口は、……口の中は気持ちよくて。
解放された指が外気にヒヤリとしたのに気がついたのは、キスされたときだった。さっきの感覚が蘇る。


「かわいい」


熱に浮かれた声で何度も耳元で囁かれる言葉は馴染みのないものばかりで、否定しようにも言葉は掻き消される。レオルドの身体を押すために使っていた手はレオルドの背中にまわされて意味をなさない。
私なのか、レオルドなのか――余裕なく息を吐くのが聞こえた。
グチュリと濡れたソコに、指じゃないものを宛てがわれたのが分かって腰をひこうとしたものの圧しかかってきていた身体が許さなかった。容赦なく一気に貫かれて、感じる圧迫と衝撃に身体がのけぞる。身体を埋めたソレが分かる。全身が震えて、だけど耐えて、ああでも奥を撫でた先が──ああ。
呼吸さえ憚られる私を見下ろすレオルドは、自分だって余裕がなさそうなくせに笑った。
レオルドの額に浮かんでいた汗が頬を、肌を伝って私の汗と混じっていく。


「ぅあ、やめ」
「冗談でしょ?……もっと奥まで、俺を受け入れて」


律動に合わせて囁かれる言葉についに頭はパンク状態で、できる抵抗といえば顔を背けるぐらいだった。けれどもうレオルドは気にしないようで、代わりにがぶりと首を食んで離れない。おそらくまたキスマークをつけているだろうレオルドの身体を力ふり絞って押せば、今度は黙らせるようにキスがふってきて伝う魔力の濃さに冗談抜きでブラックアウトしそうになる。
まだ着ていた服からのぞいていたサラシがずりおろされ、胸をわしづかみにされる。加減されているとはいえ感じる痛みに眉をひそめれば、だらりと力を無くしつつあった左足が持ち上げられてさらに奥まで腰を進められた。息を失う衝撃に足は無様に怯えてしまう。出来たのは声を押し殺すこととシーツを握りしめるだけで――



「……可愛い俺のサク」



聞いてるこっちがむず痒くなりそうなほど幸せそうな声でレオルドが呟く。
シーツを握っていたはずの手がレオルドを抱きしめていたことを教えられたのは、再会してから2日後のことだった。





 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

ヤンデレ義父に執着されている娘の話

アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。 色々拗らせてます。 前世の2人という話はメリバ。 バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...