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第三章 化け物
163.「後悔させてやる」
しおりを挟む魔力は見えないし形はないはずだ。
それなのにキスから流れ込んでくる魔力はどろりとした欲に濡れている気がした。そのうえオーズは魔力量が高いらしく流れ込んできた大量の魔力に呼吸が止まりそうになる。
「っ」
「閉じんな」
服をたくしあげた手が下着をひっかけて簡単に取ってしまう。落ちてきた身体は重たいし黒い髪は顔をくすぐってくる。キスして、離れて。
──これじゃまだ足りないな。
そう思うのに何を遠慮してるんだかオーズは口から涎垂らしながらも私を見下ろして動かなくなった。なんだコイツ。見上げていたら詰めていた息を吐き出すようにオーズは笑う。そして閉じた口元をゆっくりと吊り上げた。歪んだ笑みだ。
頬に伸びてきた手は私の視界を隠してしまうほど大きい。指の合間から見えたオーズは長い舌で自分の指を舐めていた。頬に爪の感触。一瞬目を瞑って、すぐ近くに体温を感じる。
「後悔させてやる」
鼻先で言い捨てて唇が重なる。唾液に濡れた指が股の間に押し付けられて──冷たい。風を感じて震えても指は離れるどころか足りない唾液を増やそうと動き始めた。キスを続けるオーズの顔を押せば眉の寄った顔が見える。
「そういうの、いいっからさっさとヤレ」
愛撫なんていらない。ただの魔力補給でしかないのに無駄なことに時間をかけるつもりはなかった。
オーズは私が言ってることが分かってるだろうに鼻で笑って指を動かし続ける。早く終わらせてしまいたい私を煽るように、焦らすように、ゆっくりと動く。くちゃりと鳴る音が聞こえてしまう。
「ヤらせるんだったら俺の好きなようにさせろ」
「ん、ぅ」
黙れと言うように口を塞がれて、また、大量の魔力が流れ込んでくる。欠乏症だろうくせにこんなに魔力をよこしてきて、きっと後で痛い目を見るだろう。熱が出て頭がおかしくなりそうなほどまとわりついてくる魔力。ああ、おかしな話だ。人の魔力はなんでこうも酔ってしまうんだろう。熱い、苦しい、ああ……キモチイイ。
ハッとした瞬間指が身体の中に入ってきた。
「うあっ」
「魔力欲しーんだろ、口開けろ」
「……」
「やれば出来んじゃねーか」
偉そうに笑う声が口の中に響いてくる。人の顔を見るのがそんなに楽しいのか、キスの間も視線を感じた。ベッドに沈むほど押し付けてくる身体は律動するかのように動いて私を揺らす。グチャグチャ音を鳴らしながら中で動く指は数を増やしていて、入り口を弄る指は何かを探して這いまわる。オーズの身体に押しつぶされる胸が痛い。それなのに感触を楽しむように何度も押さえつけられ、呻くたび離れる。
「声、出せよ」
「……いいから、さっさと終わらせろよ」
「……ほんと可愛くねえな。いや」
考えるように伏せられた赤い目が私を映す。狐のように笑った目は魔物という言葉を思い出させた。褐色の肌は夜に彩られ、ああ、闇の者と同じ姿。
「っ」
入り口をくすぐっていた指の動きに身体がはねてしまう。止まる指。そして、もう一度。
睨めばニヤリと笑う顔が「へえ」と呟いた。舌なめずりして、また。
「だからそういうのはいいつってんだろ!」
「だから俺の好きにさせろっつってんだろ」
「あっ、んん」
「しっかり濡らさねえと辛いのはそっちだぜ?」
「そんな心配、され、っ!」
「いいからイッとけ」
オーズを蹴ってやろうとした足が片足持ち上げられて指が更に奥に入ってくる。声を抑えられない快感に涙が浮かんで滲む視界。それが晴れた瞬間赤い目が間近に見えた。ああ、駄目だ。今それは駄目だ。なのに赤い目は笑って──キスとともに魔力が流れ込んでくる。指がまた気持ちいい場所を刺激して。
「──っ」
のけぞる身体が潰される。重たい、熱い、キモチイイ。ぐちゃぐちゃだった頭は真っ白になったのに続けられる刺激にまたオカシクなっていく。部屋に響く音が増えたことに気がついたのにもう抑えることが出来なくて。
オーズが何か喋ってる。
「俺は本当にお前を尊敬しているし感謝もしてる。足掻いて……結局、痛い目あってもお前は手を伸ばす」
はあ。熱い吐息が落ちてくる。またイッてしまった私を見ながらオーズは意味の分からないことを真面目に言っていて、かと思えば首に噛みついてくる。痛い。逸らしていた顔を戻せば噛みつくのを止めたオーズにキスされて──身体が離れる。衣擦れの音がして足が開かれた。でももう私の魔力は満たされている。もう、十分だった。
「自分を傷つけてまで止まろうとしねえ……面白いよな?」
腰を押さえつけた指は愛液に濡れていた。逃がさないとでもいうのか両手で私の腰を押さえつけてくる力は痛いほどだ。オーズの身体が沈み込んでくる。
「ぁ」
股にあてがわれたソレはグチャグチャに濡れた感触を教えてくるようにゆっくりと入ってくる。身体を押し広げながら時間をかけて挿れてくるせいで、隙間を失って漏れた愛液が音を鳴らす。私は呼吸をするのが憚られて顔を逸らすしか出来なくて。
「可愛い反応してくれる」
苦しくて息を吐き出せば濡れた唇に見つかってしまう。キスされて、一気に奥まで貫かれた。声も出せないほどの刺激にオーズも息を漏らして私を掻き抱いてくる。早鐘のように鳴る心臓の音が耳に響いた。動揺にオーズの胸を押せば体温を感じてしまう。身体が、動き出す。身を竦める私に気がついたオーズが拘束を緩めて、少し冷静を取り戻せた私を見るとキスしてくる。何度涎を飲み干してもキスは終わらなくて身体は揺らされ続ける。そのたびに腹を圧迫するソレが大きくなって触れてほしくないところを何度も突いてくる。
「やめっ、ああ、んぅう」
満たされて余った魔力が行き場をなくして私の中を戸惑っているようだ。どこに行けばいいか分からなくて混乱してる。それなのに次から次に流れこんできて……ああ、キモチイイ。頭がおかしくなる。
「苦しいんなら、俺に返せ」
そんな言葉が聞こえたから近くに見えたオーズに口づけて魔力を渡そうと必死に舌を動かしたのに、身体を揺らすソレがビクリと震えたかと思うとさっき以上に律動を大きくする。
「オーズ……オーズ」
折角魔力を返せていたのにオーズが離れてしまう。
私の両足を持ち上げて、もういらないのに我を忘れたように身体を打ち付けてくる。早く果ててほしい。人がイッてるのを見て満足そうに笑ってないで、いいから、さっさと終わらせてほしい。ああ。
苦しそうに顔を歪めたオーズの身体が震える。そして散々人を揺らしたソレが中で痙攣するように動いて欲を吐き出す。
「ん……」
お陰で更に魔力は余ってもう言葉を作る理性もない。それどころか身体を動かすことさえ出来なかったのに、オーズはもう一度奥を突いたあと、落ちてきた。持ち上げていた脚をそのままに身体を沈みこませてきたせいで、身体がきゅっと震えてしまう。ごくりと喉を鳴らす音が聞こえて、あ、と息を吐き出せば赤い目が笑った。身体が動く。ゆっくり律動し出した身体にもういいと言ったのに否定を言うたび奥を突かれて、また、頭がおかしくなっていく。
「笑える……お前を止めてやりたくなった」
私だけじゃなくてオーズも後悔しているようだ。それなのに私を抱く手は私を離さず、私が気絶するまで私の身体を揺らし続ける。いや、もしかしたら気絶しても続けていたのかもしれない。
「……」
魔力が満ちているのに重ダルイ身体は朝日に照らされて酷い有様なのが分かる。赤い痣があるだけならまだしも噛み痕もあって身体は精液で汚れている。乾いてるからさっきまでシテたんじゃないだろうことは分かるけど、これは酷い。
「この変態ども」
恨み言言いながら気持ちよさそうにすやすや眠るオーズを睨む。だけどそんなことしても意味がないから私を横抱きにするオーズの手をどかして身体を起こした。少々乱暴に動かしてしまったから起きたんだろう。オーズがもぞりと動き始めた。無視して魔法で跡を消していたら腰が引き寄せられる。
「残しとけよ」
「離れてくれませんかね?もう魔力は足りてるんで」
きつい口調で言ってやったのに目を瞬かせたオーズはなぜか楽しそうに笑った。そして、私の腰をべろりと舐める。ゾクッとして頬を擦りつけてくるオーズの頭を引き剥がそうとしたら魔法でも使ってるのかオーズに触れなかった。その間も痣を増やしながらオーズは笑っていて、私の身体を引き寄せた手は昨晩随分好きに弄ったソコに触れる。
「無駄な魔力使うの止めたらどうだ」
「久しぶりに満たされたんだ……無駄もなにもねえだろ」
赤い目が笑う。
「防いでみれば?」
既にさっきからオーズの魔法を解こうとしているのが分かっていてそう言っているんだろう。カッとなって立ち上がろうとしたのに身体は動かない。怒鳴ってやろうとしたら声も出なかった。咽てしまう。
「よく啼いたからな」
指が知ったように動いて私の身体を揺らしてくる。後ろから押し付けられたものは既に固くなっていて、私を抱きしめる身体は熱い。息を飲む私の口を塞いだオーズの唾液が私の喉を潤して減った魔力も埋めていく。グチャリと濡れる身体。それが分かった瞬間身体を貫いたソレは暴力的に思えるほどの勢いで何度も打ち付けてくる。足りなかった滑りはすぐに潤って、挿れながらも秘部を弄っていた手は私の胸を鷲掴んだ。
「ん、ん、っ」
痛みと気持ちよさが同時に襲ってきて、もう朝なのに意識が飛びそうだ。
──オーズの後悔は、望みを叶えるための行動に反してしまったこと。私の後悔は。
揺れる身体に意識が飛びそうになるのをなんとか堪える。もう与えられる魔力から逃れるのを止めてオーズの魔法を解くのに使うことにした。けれど全く太刀打ち出来なくて身体は揺らされ続ける。気持ちよくて頭がおかしくなってしまったんだろうか。魔法を使うのを止めて打ち付けてくるオーズの身体に縋り付いてしまう。オーズは抱き締められる自分の腕を見てなにを思ったのだろう。痛いほど身体の奥を突いてきたのをやめてゆっくりと動き出した。お預けされるような快感が押してはゆっくり戻ってくる。身体全身が痺れてたまらなくなる。
「んあ」
「お前がイッたら一緒に風呂でも入ろうぜ」
「あっ誰が、んん」
「……汚してやる」
嗤った声を吐き出したオーズはもう何も言わない。私はオーズの腕の代わりにシーツにしがみついた。ベッドに顔を押し付けながら声を漏らさないようにして……ああ、揺れる身体におかしくなる。
「後悔させてやる」
──私の後悔は、利用しあってやろうとしたのに、相手がそう思わなくなったことだろうか。
私を抱きしめる男がゾッとするほど甘い声で囁く。
「見つけた」
お前がイイ。
そう続けながら身体の奥に入り込んできて精を放つ。秘部を刺激する指にイッてしまった私を見て笑う声が聞こえた気がする。
股の間から垂れた白濁の液体が、脚を伝う。
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