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第三章 化け物
147.「それじゃ準備はいーですか」
しおりを挟む「あー、城を出るときにセルジオとハースとでくわして?結局ハースだけそのときあったことを忘れさせるためにリーフが記憶を消したんだ?」
「そう」
間違いないと頷くリーフを見ながらいつかハースに出会ったら詫びをいれようと心から誓う。自分が惚れた女性が男だったと分かったうえ友人と一緒に国家反逆。そのうえ「じゃあな」と記憶を消されて……あ、やっぱり顔向けできない。
「アイツ情報集めてやるとか言ってたけど忘れてるだろーしなー」
「でも忘れててもハースのことなら私たちのことを探すだろうな。面倒見良いし」
「……だろうな」
だからリーフはハースの記憶を消したんだろう。ついてこないのなら勇者サクとその仲間の行方を知る者として確実に取り調べを受けることになる。魔法も使われるだろう。
『その咎を負わせないために俺達がいるんだよ!』
いや、魔法を使われずともハースは黙っていることが出来ないだろう。それで今度は仲間を売った罪に自分を責める。
「なんだよ」
「別に」
リーフの頭を撫でればむくれてしまったけど止めろとは言わなかった。
……なんだろうな、胸が痛くなる。
先を歩くセルジオとレオルドを見てしまうとまた申し訳なさとか息苦しさでいっぱいになってしまう。気にしなくていいとか望んでるとかそんなことを言われても私は気にするし、その理由が私を好きだからと言われるともっと理解できなくて──分かってやれない。
怖い。
「リーシェ」
突然振り返ったセルジオに素直に怯えた心臓が大きく跳ねる。なにと言おうとしたけど肩を落とす梅や変わらない景色を見て理由が分かった。
「戻ってる」
「さっきの道も駄目だったね」
行きたい場所へ正しい道順で歩かないと辿り着くことが出来ない魔の森。その現実を私たちは味わっていた。
ジルドに内緒でキルメリア城跡地に転移が出来るようにナイフを残していてたからスタートまでは順調だった。だけど川を目指して魔の森に入ってからが問題だった。ひたすら北に進んでいたのに元の場所に戻っているのだ。試しに南に下れば最初に森に足を踏み入れた場所に戻っていて、薄気味悪さとともに感動したけど何回か続けば喜んでる場合じゃないことが分かった。
森に貯まった魔力がそうさせると言っていたけれどこれはなかなか怖いものだ。一人で旅に出るなんてなかなか自殺行為だろう。なにせ魔物も現れる。これなら確かに村から一切外に出ず生涯を終える人がいるのもおかしくない。
「一応印はつけてあるからもう一度試してみよっか」
「そうだよさっきの道を今度は右に行ってみようよ。見るからに怪しい感じだったし」
「これは地道に行くしかないですね」
セルジオと梅とラスさんが次のルートを決めているのをレオルドがのんびり眺めている。
不思議な光景だ。
「英雄伝の謎はサク──リーシェにどう役立つんだろうな」
「ん?」
「俺はイメラっていうサバッドのことが信じられない。サバッドに会ってリーシェが生きてて良かったけど……でもなんか話聞いてる感じリーシェを利用しようとしてんだろ。リーシェがイメラの願いを叶えてやる義理はないだろ」
ああ、そうか。サバッドという存在を教えられて育ったリーフからすればサバッドは恐怖の対象だろう。まあイメラは恐怖の対象であるサバッドとして考えてもいいとは思うけど。
ルートが決まったと叫ぶ梅に返事をして、また歩き出す。
「泣いてたからなあ」
「……泣いてる奴全員とか助けられないからな」
「流石に分かってるよ。それにイメラが色々調べてる私に役立つって英雄伝のことも教えてくれたから。私だけ助けられるのはな」
「でもその色々ってのはどれを指してるんだよ。あの国のことか勇者のことか歴史のことか魔法のことか魔物のことか……全然分かんねーじゃんか。それにリーシェが色々調べてたってことなんでイメラは知ってんだよ。ずっと見てたってことだろ?なんでまた厄介なもんに目つけられてんだよ」
段々小さくなっていく声は非難ばかりしている自分に気がついたからだろうか。なんにせよ心配してくれてるのは凄く伝わってリーフには悪いけど嬉しさで口元は緩む。
魔法をかける。
「私はあの勇者召喚の日からディオっていうオーズの分身と一緒に旅をして、それで知ったことがある。魔物は人の負の想いで作られる生き物なんだって。それで本当は闇の者っていう名前でその一部、人が倒せるものを魔物と呼んでいる。サバッドは差別用語で人が倒せる実証として便利がいいから作られただけで多くは普通の人間らしい。まあその中には皆が恐れてる魔物も居るみたいだけど……それで、だ。今から言うことはいつか私が自分で言うから、誰にも言わないでほしい」
シールドをかけて声が他の人に届かないようにして言えばリーフがじっと私を見上げて「誓う」と重く呟く。そしてその目が次の瞬間大きく見開かれた。
「色々知った結果、勇者は魔物と同じものだという結論になった。魔物が人の負の想いで作られるなら勇者は人の希望から作られた生き物だ。勇者はこの世界に来てこの世界の生き物に身体が作り変えられると言われていたし、魔物は魔物を呼ぶという特性を勇者も持っている……イメラを呼んだのは私だと思う。だからイメラは私を見てきたんだ」
「桜がサバッド……?勇者が?」
「サバッドっていうか魔物?かな」
あくまで私の結論だから断言して言えなかったら立ち止まったリーフが私を見て首を振った。
「目、赤い」
「え?」
「瞳が真っ赤だ」
リーフは私の目を凝視していてその驚きようから冗談じゃないことが分かる。思わず髪を握ってみれば青みがかかった黒。銀色じゃない。それならサバッドで間違いないだろう。ということは勇者が魔物というの増々信憑性が高くなった。しかしこれはなんというか。
「いよいよ化け物じみてきたな」
このままだとイメラのようになってしまうんだろうか。最近見るおかしな幻覚や夢がその前兆なら色々説明がつく。まあなんにせよこれは隠しておいたほうがよさそうだ。
「あ、戻った」
「戻った?」
「うん……なあ、魔法は自分を助けるって前に話したろ?桜が喉仏だけ変えてるつもりがそうじゃなかったようにその目も隠してたんじゃないか?」
「でもそれだと他の勇者の説明がつかないだろ?」
「だよな……」
でももしそうだとするなら他の勇者はまだその段階になってないということなら説明がつく、か?勇者という魔物としてこの世界で作られて魔力欠乏症という副作用もなくなってこの世界に身体が馴染んだあと──個人差で夢を見始めて、それでサバッドとして姿を変える?でもそれなら過去に来ていた勇者はどうだ?今の今まで伝わっていないというのは──これも情報操作された?そもそも魔物の特徴としてはっきりと伝わる赤眼が自分に現れたら誰だって隠すだろうし。でも自分じゃすぐに気がつかない。私もリーフに指摘されて初めて気がついた。それならあの国で召喚された勇者が赤眼になってしまったとき誰が最初に気がついただろう。
『あなたは私達の世界に入り込み、あなたの身体は順応した。……直に分かります。どうかお許しを』
勇者の要望にそうようにと必ずつけられた付き人を思い出す。
──ミリア、元気だろうか。
「桜」
「ん?どうし……ごめんな、怖い?」
「違う怖いとかじゃなくてっ!こんなことになってんなら余計、英雄伝の謎解きとかしてる場合じゃないだろ?あの国にさっ!……あんなのもう御免だ」
震える口は私よりも怒っているようで、呑気に寄り道している私に歯がゆさを覚えているようだ。私が崖から落ちたときのことを言っているだろうリーフの頭を撫でれば泣きそうな顔が見えてしまって困る。私はこの顔には弱いんだ。そういえばリーフとは再会したもののセルジオを助けに行ったり進藤の襲撃にあったりしてろくに話すことが出来なかった。ハースのこともさっき知ったぐらいだしこれじゃ駄目だ。ちゃんと話さなきゃ。
「そうだなー……流れで道が逸れたり余計な面倒ごとに足突っ込んだりしてるけどさ……結局あの国には復讐するし、それなら途中関わりたいって思ったことはやってみてもいいんじゃないかって思ってる。それが私の興味があることに繋がるなら尚更。あの国には呪いをかけといたからまたすぐ召喚出来るような状態じゃないしな?」
「呪いって……ああ、なんか発狂する奴が出てるやつ?」
「発狂までいってんのか……ソイツ今までどんなことやってきたんだか」
私がかけた呪いは魔物を殲滅するまで見続ける悪夢だ。一息ついた瞬間忘れかけたころ唐突にふりかかる悪夢に心休まることはないだろう。私の悪夢はこの世界で起きた嫌な体験すべてだから彼らにも彼らが体験した嫌な体験が自分に還るようにしている。自分がした最悪も含めてだからもしこの呪いを返されたら普通に気が触れる事態になりそうだ。そう思えば保険を作っておいたほうがいいかもしれない。自分の呪いで死ぬとかそんなこと情けなくてしょうがない。
「あれ?リーシェたち後ろついて来てなかったの?」
後ろから声をかけられてすぐシールドを消せば、梅を先頭に全員がいた。どうやらまた戻されてしまったらしい。
「英雄伝のことを話してたんだよ。どうせお前が決めた道とか外れだろうし」
「はあー?じゃあアンタなら正しい道とか行けるわけー?」
「あーうっせ糞女はいっつもウルセー。なあ今日のところはこれぐらいにしてさ、英雄伝聞きに行かね?」
「あ、それいいね」
リーフの提案にセルジオが顔を綻ばせる。ラスさんはリーフに怒る梅を抑えるので忙しそうだ。
「つっても転移球俺は持ってねーけど。リーシェは持ってる?」
「そうだな──シルヴァリアの近くになら飛べる。でもまず準備が先だな」
セルジオとリーフは魔法で綺麗にして服を着替えたものの結局魔物と対峙したことで汚れてしまっている。梅なんかそこらへんに落ちてる木とかを武器に近接で戦うもんだから汚れが凄い。皆それぞれ顔を見合わせながら肩をすくめて笑い合う。
考えてみればレオルドも梅もセルジオも錯覚魔法をかけなきゃいけないし、こうみると大変な面子だ。
「それじゃ準備はいーですか」
「オッケー!」
皆に声をかけて一気に転移する。
シルヴァリア。
死体があったら寝覚めが悪いことになりそうだ──そんなことしか思わなくなった私はもしかしたらもうイメラと大差ないのかもしれない。
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