狂った勇者が望んだこと

夕露

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第二章 旅

136.「ねえ、どうしてほしい?」

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お風呂に続く脱衣所は広く、そこだけで一室と言ってもいいぐらいだ。けれどベッドがあるわけじゃなく寝室のように絨毯がひかれているわけじゃない。

「ん、ぁ」

床の冷たさを服ごしに感じる。羽織はどこかに捨てられたらしく背中が冷えて身体が震えた。私の肩に触れていた手は気がついたんだろう。人の足を持ち上げたレオルドが笑みを浮かべて太ももに口づけ、舐め上げる。ゾクリと粟立つ肌が楽しいのか、止めろとレオルドの身体を押しても止めてくれない。
レオルドは私を見下ろして笑みを深くした。


「ごめんね、寒いんだよね」


わざとらしく音を鳴らして太ももにキスしたあとレオルドが服を脱いでいく。陽にあたってよく見える肌に思わず視線を逸らしたけど、肩を抱いていた手が私を簡単に抱き起してしまってその体温を感じてしまう。心臓に触れた耳が鼓動をひろう。頬をくすぐる毛の感触、頭上で聞こえるくつくつ笑う声、温もり──赤い目が見えてすぐお互いの魔力を交換し合う。
レオルドが服を床に敷いてくれたのかさっきより床が冷たくなかった。

「君は──脱がないのもいいかもね」
「ほんと、変態」
「脱ぎたいんだ?」
「ちがっ」
「じゃあ君も変態だ」

非難しようとした言葉はすぐに飲み込まれてしまう。腰を撫でてくる手は肌の感触を楽しむように動いて下着を指にかけてしまった。私が抵抗をみせることは予想がついていたんだろう。私の手を握った手は自身の背中に誘導したあと動くことさえできないほど窮屈に私を抱きしめた。腰に戻った手は肌にぴったりとくっついて熱を伝えてくる。
──私は、なにをしてるんだろう。
噛みつくように首に口づけてくるレオルドの髪が肌をくすぐる。服ごしじゃない肌に動揺して、だけどいつの間にか抱きしめてしまっている。必死に声を押し殺して、ぐるぐるする頭のなか身体が疼くのが分かって早く気絶してしまいたいと祈ってしまう。


「リーシェ様!おはようございます!」


隣の部屋で元気な声が聞こえた。
ビクリと弾む身体を笑った男が私を間近に見下ろしながら囁く。

「シールド張ってるから安心して声出していいよ」
「もうお気づきでしょうが魔物が現れましたけど私たちが対応してますのでご心配なく!」

脚の合間に触れたソレに声を上げそうになって、でも触れるだけで、でも、腹に重さを感じて──代わりに指が押し付けられる。息を殺す空間に小さいはずの水音がいやに大きく聞こえた。

「っ」
「ねえ、サク」

愛液をすくった指がじらすように肌を撫で、ひとつずつ落とされる言葉に反応するたび褒美のように身体の内側を弄る。


「どうしてほしい?」


レオルドが動くたび擦るように押し付けられるソレを意識して身体が反応してしまう。私の顔を覗き込んで頬を上気させながら聞いてくるけどそんなこと言わなくていいし聞かなくていい。レオルドだって聞いてくるくせに余裕がない顔をしてる。だったら私だけじゃないはずで、だから。

「そんな顔しても駄目だよ。今日は見逃してあげない」

なんの話をしているのかレオルドがそんなことを言って口づけてくる。ドロドロに頭を溶かすような魔力が言葉にしないだけで感情を訴えてくる。だけどきっと私もそうなんだろう。もてあますように胸を鷲掴んだ手が私の反応を見てゆっくり力を抜いていく。それなのに私の片足をすくいあげた手は急かすように脚を這って、落ちた愛液を自覚させる。
──気が狂いそうだ。
さっさと羞恥心に頭が麻痺してしまえばいいのに、まだ残ってる理性がずっと首を振ってしまう。でもさっきから腹の奥がどうしようもなく疼いて触れる体温が離れるたび手を伸ばしそうになる。


「俺もね、不安なんだ」


人の胸を好きなように弄って太ももにキスマークを残すような男が随分と殊勝なことをいう。滲む視界のなか睨んでも、少し身体を擦りつけらたら私の頭をおかしくさせる痺れが私の身体の自由を奪ってしまう。

「俺だけが君を欲しがってる。俺だけが君と繋がるのを喜んでる……それはそれでいいよ。先に君の身体だけでも欲しいと言ったのは俺だ」
「ふぅ、っあ」
「おかしなもんだね。欲が出る」
「っ」

太ももを食んだ唇がなにを思ったか足の付け根へと動いていく。生暖かい舌がピチャリと音を鳴らして身体が震えた。

「駄目っ、止めろ馬鹿!レオルド!」
「──なに?」

身体を起こす私にレオルドが微笑みを浮かべ濡れた舌で唇をなぞる。寒い部屋なのにも関わらず熱い肌はすぐそこにある。たくしあげられたワンピースは赤く色づいた太ももを隠していない。さっきまで腹に感じていたソレまで見えて──ごくりと喉が鳴った。
これ以上あがりようがなかった体温がまた上がったのを感じた。


「レオ、もう」


隣の部屋ではまだ和やかな会話が聞こえる。
それなのにこんな状態で、私は理解できない感情に陥って。

「ねえサク、俺は言葉が欲しいんだ。ねえ、どうしてほしい?」

こんな状況なのに……こんな状況だからか、初めてレオルドとヤッた日を思い出してしまった。忘れようとしていた記憶が鮮明に思い出されてあのときとまったく違う今の感情に動揺が隠せない。

「ん」

私に口づける男の手を何度も離そうとした。初めてのことだらけでただ恥ずかしくて、そうするしかなかったことが悔しくて、目の前の男を利用する自分の酷さに幻滅して、こんな現状を作ったあの国を恨めしく思って、未知の感情が怖くてたまらなかった。
それなのに今はこの男とのキスは嫌じゃなくて魔力も与えられるだけじゃなくて交換になってる。身体を支配するのは恥ずかしさと……。


「俺は君に望まれたい。君が欲しい」


何度もキスしあって、時々、いつの間にか流れる涙を舐めとられる。
──ああ、ほんとに気が狂いそうだ。
『おかしなもんだね。欲が出る』
──欲が出る。

「早く挿れて、レオルド」

ようやく出来た言葉にレオルドの身体が分かりやすくビクリと反応した。それなのに挿れてくれなくて、レオルドは長いキスをしたあとも、まだ──ああでも。
あてがわれたソレに声が漏れ出れば息を飲む音が聞こえた。

「凄くそそる言葉だけど」
「っ!もういいからっ早く……っ挿れろっ」

ムードもへったくれもなくついに消えてくれた羞恥心のお陰で顔の赤いレオルドに怒ることが出来たけど、レオルドはだらしなく口元を緩めるだけだ。

「君はほんとに可愛いなあ」
「いいからっ、早く」

引き寄せてキスをすればようやく身体がくっついていって──ぐるぐるする頭。もっともっと欲しくてもっと触れたくてもっと安心したくて──安心?ああ、そうか。



「レオルド、早く……抱きしめてほしい。レオルドに──っ!いいから抱け!」



レオルドが言わんとすることが分かって、それにちょっと理解ができたもんだから言葉にして……速攻で後悔した。復活した羞恥心にこういうことが私に向いていないのがよく分かった。
幸せなことに私の望み通り私を抱いた男は、それからいくら私が止めてくれと望んでも止めてくれず、結局、私は気絶した。
やっぱりレオルドとはいつか本気で勝負して負かしてやりたい。
……いつか。






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