狂った勇者が望んだこと

夕露

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第一章 召還

32.「ちょっと思い出し笑い」

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この世界に連れてこられて5ヶ月。もう5ヶ月経ったのかという気持ちと、まだ5ヶ月かという気持ちがせめぎあう。

この世界に来る前は初夏に入ってジリジリと暑さが忍び寄ってきた頃だった。太一発案で梅や響と川原でバーベキューしていたのが夢みたいだ。

……あいつらは元気だろうか。

梅は、元気だろう。毎日毎日五月蝿いぐらいの大声で挨拶して抱きついてきた姿を思い出して笑ってしまう。

「サク?なに笑ってんの」

リーフが眉を寄せて顔を覗き込んできて、首を傾げるのにあわせて綺麗な白髪がさらりと流れていく。
最初会ったときと比べて随分血色がよくなったリーフは表情も豊かになった。まだまだ食事は一度に多く摂れず体力はすぐに底をついてしまうようだけど、持ち前の精神力でカバーしてみるみる健康を取り戻している。
最近では筋トレさえ始められるようになった。
それでも女としていようと変化魔法を練習してくれるあたりリーフらしいと思う。

「ちょっと思い出し笑い」
「ふうん?……誰」

怪訝そうな顔から不貞腐れた顔に変わったリーフの頭を撫でる。気持ち良さそうに目を閉じる顔は猫みたいで可愛い。

「元の世界の友人」
「……ふうん。ま、いいや。そろそろ行くよ」
「ん」

手をひいてくるのに合わせて部屋から出る。丁度、食器を下げにきたミリアに出会った。今日は編みこみをしながらハーフアップをしている。凄いな。

「ありがとう。今から任務行ってくる」
「お気をつけて」
「ん」

お辞儀をするミリアに手を振れば強く引っ張られて顔を上げるミリアの顔を見れなかった。リーフはミリアが嫌いらしい。
ついでに加えるのならセルリオも嫌いらしい。いつもの集合場所、城門前に既に集まっていたセルリオを見つけた瞬間リーフはぐっと眉間にシワを寄せた。見えない尻尾が逆立っている。

「おはよう、サク」

そして人の良いセルリオにしては珍しく、セルリオもリーフのことを苦手としている。まっすぐ自分に向けられた視線を完全に無視して私に挨拶してきたのに苦笑いで返した。

「おはよ」
「ああ、それとリーフさんもおはよう」
「……」
「ハースもおはよ。今日も元気そうだな」
「……はよっすサク班長。ソウデスネ、今日も元気いっぱいですよ」

リーフが新メンバーになった頃からハースはスリムになっていった。もっと具体的にいうのならやつれていった。主にリーフと仲良く喧嘩するお陰だろう。

「今日は早くにあがれそうだね」
「だな。集落1つだけだし、近いしな」

指令書を広げて確認すればセルリオものぞきこんできて金色の髪が揺れた。気がつかなかったけれど少し長くなっている。じっと見ていれば視線に気がついたセルリオが顔を起こして、青い眼が私を映す。一度驚いたように瞬いた青い瞳はすぐに弧を描いて笑った。

「どうしたの?」
「髪、伸びたなって思って」
「サクは切っちゃったね」
「邪魔だからな。でもちょっと切りすぎたかも。寒い」

タートルネックに重ね着しているし、ガントレットがいい防寒具になっているけれど、顔とか首の付け根は肌が外にさらされていて寒い。
ライガの店で目だし帽を買おうか真剣に悩んでいる。

「セルリオも鎧着なくなってから寒いんじゃねえの」
「まあね。でも重ね着してるし大丈夫だよ」

微笑むセルリオはもう全身鎧じゃない。
あのトナミ街での任務が終わってからセルリオは全身鎧を止めてしまった。最近ではガントレットさえつけなくなっている。なぜかと聞いてみれば鎧をとってみたら快適だし動きやすいから止めたとのこと。
現にセルリオは以前にもまして前衛の働きに磨きがかかった。後ろで弓をひきながらの支援が中心の私から見ればもう斬りこみ隊長という称号を与えたいぐらいだ。
傷を負っても、治療しながら戦うことも、血を流しながらも余裕で戦えるようになっている。
人は変わるものだ。
ハースもセルリオの成長振りになにか思うところがあるのか、時々遠い目をしたかと思えば空を見上げて微笑んでいる。

「こんな簡単な任務で怪我なんてしないでよね」
「誰もお前の治癒魔法なんてあてにしてねえーよ」
「へえ?この前私が魔法をかけてやったこと、そのチキン頭はもう忘れてるの。流石」
「て、め、えはっ……!」
「はいはい、行くぞー」

2人の肩を押して城門を出る。門番も定番になっているリーフとハースのじゃれ合いに笑っていて、指令書をしっかり確認することもなく通ることを許可してくれる。

「サク?どうしたの?」
「え?ああ、またボーっとしてた」

顔を覗き込んできたセルリオに今朝のリーフが重なる。ところどころリーフとセルリオは似ている。だから余計同属嫌悪?するんだろうか。
大丈夫かと聞いてくるセルリオに笑って返せば、腕に抱きついてきたリーフが唇つりあげて微笑む。

「昨日あんま寝てねーんだから無理すんなよ」
「はいはい、セルリオくん。黙らないでください。ちゃちゃっと任務終わらせますよ。なあサク班長」
「ん」

いつものようにハースが先陣を切って歩き出す。私もその後に続いた。



 
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