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第二章:地下に拷問部屋がある悪名高い古城

図案を壁に写すには

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 そそくさと詰め所に引き返し、某ロス市警の警部よろしく戸口から中を覗き込んだ。
 
「あのー、すみませんもう一つ用件いいですかね?」

「へっ?」

「実はですね、サイアム男爵のお城の、地下室の改修工事を請けることになってるんですよ。それで、漆喰レリーフを施さなきゃならないんですが……私にはどうも絵心がないもんで。大変厚かましいお話で恐縮なんですが、ひとつ図案をお願いできないかなあ、なんて」

「……図案、ですか? 壁面のサイズはどのくらいでしょう」

 ジュリアはいきなり具体的な話に踏み込んできた。これは即座に引き受けてくれるってことなんだろうか。
 それとも、不明点をつぶして無理とわかったらきっぱり断られるんだろうか。
 
「えっと……横幅がおよそ二ロッドと六スパン、高さ一ロッドのものが三面。一面は入り口の壁だから、ドアの片側に一ロッド四方の壁面が」

「ふむふむ。わかりました。では明日夕方にまた来てください、それまでに何種類か試案を作っときますから、その中でよさそうなのを男爵様に選んでもらいましょう」

「おお……」

 なんかすごいぞこの人。こともなげに複数ラフ提示とか言ってきた。これは報酬も前もってそれなりに約束すべきだ。
 
「報酬どうしましょう。男爵からの提示予算が最大で百ソレイユなんですが、試案の絵にもお支払いするとして――」

 日本にいたころ、ネットで追いかけてた絵師さんがその辺のことでクライアントともめて、どんよりした感じのことを日記ブログにこぼしてたのを思い出す。
 
「ああ、採用になった四面分でいいですよ。どうせ試案は衛兵の仕事の片手間にやりますし」

「や、それはダメですよ! 仕事にはちゃんと報酬をお支払いしないと」

 それはそうと、衛兵の仕事と掛け持ちとかは、さすがにローランドや総督府の偉い人に怒られるのでは。


「報酬貰うと手抜けなくなっちゃいますからねえ。それに、採用になった図案も原寸に起こしたりはしませんから」

「え!? じゃあどうやって」

 この仕事を始めてから何度か見たのだが、漆喰壁に壁画を施す際にはまず下絵を転写するところから始まる。
 
 これまで見た事がある方法は、原寸大の紙に描いた下絵の描線に沿って針で穴をあけ、そこから顔料の粉を壁面へ透過させるというものだった。
 
「縦横の比率が同じにして、下絵には木炭や鉛筆を使って格子状に分割線を入れます。壁面には格子状に糸を張ればいいかな」

「ああっ! その方法は……!!」

 忘れていた。俺やったことあるわ、それ。
 高校の文化祭でクラス展示物のベニヤ看板を描いたとき、美術部の連中がまさにその方法を使ったのだ。グリッドはできるだけ細かめにした方がいいが、描線と交差する位置を比率間違えないようにたどっていくことで、割とちゃんとした拡大が可能だった。
 
「なんだ、ご存じみたいですね?」

「……ま、まあ、たまたまね。なんにしても、報酬は出来る限りのことをします。どうか遠慮しないでください、最低でもソレイユ金貨十枚はお約束しないと。じゃあ、また明日。契約書作って持ってきますからね!」

「分かりました」

 これは俄然テンションが上がる。こっちも頑張らねば。
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