27 / 32
第二章:地下に拷問部屋がある悪名高い古城
図案を壁に写すには
しおりを挟む
そそくさと詰め所に引き返し、某ロス市警の警部よろしく戸口から中を覗き込んだ。
「あのー、すみませんもう一つ用件いいですかね?」
「へっ?」
「実はですね、サイアム男爵のお城の、地下室の改修工事を請けることになってるんですよ。それで、漆喰レリーフを施さなきゃならないんですが……私にはどうも絵心がないもんで。大変厚かましいお話で恐縮なんですが、ひとつ図案をお願いできないかなあ、なんて」
「……図案、ですか? 壁面のサイズはどのくらいでしょう」
ジュリアはいきなり具体的な話に踏み込んできた。これは即座に引き受けてくれるってことなんだろうか。
それとも、不明点をつぶして無理とわかったらきっぱり断られるんだろうか。
「えっと……横幅がおよそ二ロッドと六スパン、高さ一ロッドのものが三面。一面は入り口の壁だから、ドアの片側に一ロッド四方の壁面が」
「ふむふむ。わかりました。では明日夕方にまた来てください、それまでに何種類か試案を作っときますから、その中でよさそうなのを男爵様に選んでもらいましょう」
「おお……」
なんかすごいぞこの人。こともなげに複数ラフ提示とか言ってきた。これは報酬も前もってそれなりに約束すべきだ。
「報酬どうしましょう。男爵からの提示予算が最大で百ソレイユなんですが、試案の絵にもお支払いするとして――」
日本にいたころ、ネットで追いかけてた絵師さんがその辺のことでクライアントともめて、どんよりした感じのことを日記ブログにこぼしてたのを思い出す。
「ああ、採用になった四面分でいいですよ。どうせ試案は衛兵の仕事の片手間にやりますし」
「や、それはダメですよ! 仕事にはちゃんと報酬をお支払いしないと」
それはそうと、衛兵の仕事と掛け持ちとかは、さすがにローランドや総督府の偉い人に怒られるのでは。
「報酬貰うと手抜けなくなっちゃいますからねえ。それに、採用になった図案も原寸に起こしたりはしませんから」
「え!? じゃあどうやって」
この仕事を始めてから何度か見たのだが、漆喰壁に壁画を施す際にはまず下絵を転写するところから始まる。
これまで見た事がある方法は、原寸大の紙に描いた下絵の描線に沿って針で穴をあけ、そこから顔料の粉を壁面へ透過させるというものだった。
「縦横の比率が同じにして、下絵には木炭や鉛筆を使って格子状に分割線を入れます。壁面には格子状に糸を張ればいいかな」
「ああっ! その方法は……!!」
忘れていた。俺やったことあるわ、それ。
高校の文化祭でクラス展示物のベニヤ看板を描いたとき、美術部の連中がまさにその方法を使ったのだ。グリッドはできるだけ細かめにした方がいいが、描線と交差する位置を比率間違えないようにたどっていくことで、割とちゃんとした拡大が可能だった。
「なんだ、ご存じみたいですね?」
「……ま、まあ、たまたまね。なんにしても、報酬は出来る限りのことをします。どうか遠慮しないでください、最低でもソレイユ金貨十枚はお約束しないと。じゃあ、また明日。契約書作って持ってきますからね!」
「分かりました」
これは俄然テンションが上がる。こっちも頑張らねば。
「あのー、すみませんもう一つ用件いいですかね?」
「へっ?」
「実はですね、サイアム男爵のお城の、地下室の改修工事を請けることになってるんですよ。それで、漆喰レリーフを施さなきゃならないんですが……私にはどうも絵心がないもんで。大変厚かましいお話で恐縮なんですが、ひとつ図案をお願いできないかなあ、なんて」
「……図案、ですか? 壁面のサイズはどのくらいでしょう」
ジュリアはいきなり具体的な話に踏み込んできた。これは即座に引き受けてくれるってことなんだろうか。
それとも、不明点をつぶして無理とわかったらきっぱり断られるんだろうか。
「えっと……横幅がおよそ二ロッドと六スパン、高さ一ロッドのものが三面。一面は入り口の壁だから、ドアの片側に一ロッド四方の壁面が」
「ふむふむ。わかりました。では明日夕方にまた来てください、それまでに何種類か試案を作っときますから、その中でよさそうなのを男爵様に選んでもらいましょう」
「おお……」
なんかすごいぞこの人。こともなげに複数ラフ提示とか言ってきた。これは報酬も前もってそれなりに約束すべきだ。
「報酬どうしましょう。男爵からの提示予算が最大で百ソレイユなんですが、試案の絵にもお支払いするとして――」
日本にいたころ、ネットで追いかけてた絵師さんがその辺のことでクライアントともめて、どんよりした感じのことを日記ブログにこぼしてたのを思い出す。
「ああ、採用になった四面分でいいですよ。どうせ試案は衛兵の仕事の片手間にやりますし」
「や、それはダメですよ! 仕事にはちゃんと報酬をお支払いしないと」
それはそうと、衛兵の仕事と掛け持ちとかは、さすがにローランドや総督府の偉い人に怒られるのでは。
「報酬貰うと手抜けなくなっちゃいますからねえ。それに、採用になった図案も原寸に起こしたりはしませんから」
「え!? じゃあどうやって」
この仕事を始めてから何度か見たのだが、漆喰壁に壁画を施す際にはまず下絵を転写するところから始まる。
これまで見た事がある方法は、原寸大の紙に描いた下絵の描線に沿って針で穴をあけ、そこから顔料の粉を壁面へ透過させるというものだった。
「縦横の比率が同じにして、下絵には木炭や鉛筆を使って格子状に分割線を入れます。壁面には格子状に糸を張ればいいかな」
「ああっ! その方法は……!!」
忘れていた。俺やったことあるわ、それ。
高校の文化祭でクラス展示物のベニヤ看板を描いたとき、美術部の連中がまさにその方法を使ったのだ。グリッドはできるだけ細かめにした方がいいが、描線と交差する位置を比率間違えないようにたどっていくことで、割とちゃんとした拡大が可能だった。
「なんだ、ご存じみたいですね?」
「……ま、まあ、たまたまね。なんにしても、報酬は出来る限りのことをします。どうか遠慮しないでください、最低でもソレイユ金貨十枚はお約束しないと。じゃあ、また明日。契約書作って持ってきますからね!」
「分かりました」
これは俄然テンションが上がる。こっちも頑張らねば。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
異世界の権力者 〜休職中に異世界転生したら聖騎士団長という権力者になって働きすぎてしまった結果、世界統一をしてしまった話〜
rui ji roku
ファンタジー
⭐︎⭐︎⭐︎ できる限り毎日7:00〜8:00に1話投稿予定 ⭐︎⭐︎⭐︎
仮想敵国Xが日本に侵略してきて死んでしまった休職中の俺が
異世界転生したら聖騎士団長という権力者になって
休みたいのに休めず働き過ぎた結果
逆に侵略する立場になってしまった話
日本に住む陽キャ「太陽」と陰キャ「満月」の双子が
仮想敵国Xの突然の侵略で命を落とし、
世界の権力者を恨みながら異世界転生をする。
双子はそれぞれ聖霊を召喚する最強の聖騎士団長と
悪魔を召喚する最強の中央帝国皇帝のトップになります。
それぞれがチート級の能力を持ちながらも
聖霊や悪魔に振り回されながら国を大きくしていくストーリー。
陰キャの満月は部下に恵まれ、支えられながら聖騎士国を拡大する。
陽キャの太陽は独裁者になり、1人孤軍奮闘して中央帝国を拡大する。
様々な陰謀に巻き込まれながらも主人公最強として敵の野望を打ち砕く
波瀾万丈な物語です。
戦争中の両国はそれぞれ2人を中心に劇的な変化を遂げ、
お互いに知らぬまま侵略者として相まみえることになる。
ドグラマ3
小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。
異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。
*前作ドグラマ2の続編です。
毎日更新を目指しています。
ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる