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あの日盗んだリンゴ
避けるべき運命
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その日は、一日中混乱しっぱなしだった。
僕の頭の中身は、つい今朝がた交通事故で死んだばかりの、26歳のサラリーマン。そのはずだ。
それがいきなり、とっくに忘れた高校の学習内容をおさらいさせられる。判別式も波動関数も微積分も、アボガドロ常数も付帯状況のwithも、何もかも遠く朧げにかすんでしまって――いたはずだった。
だが、いざ教科書を、先生の板書を目にすると、それがまるで昨日習ったことのように鮮明に頭に浮かんできた。気持ち悪いなんて表現で済ませられるものじゃない。
「礼司、お前どうしたの。さっきから休み時間になるたびに水道で水ばっかり飲んで。どっか悪いんじゃないか?」
クラスメートの茂木がひどく心配そうに僕をの顔を覗き込んだ。
ああ、覚えてる。こいつはいいやつなんだ。
母親が看護士で、とにかく健康問題には詳しい。クラスでも保健委員の片割れを務めてるくらいなのだ。
「……うん、なんかちょっと、胸がむかむかしてさ」
「ふうん。胃酸でも出すぎてんのかな……保健室行っとく?」
「いや、いい。多分ストレスのせいだから。ありがとうな」
茂木が離れていくと、僕はため息をついた。自分の心が認識していることと、頭が実際に発揮するスペックが違う。体もだ。少し運動不足気味だったはずの体が、いざ動くとなると高校生に相応の活発さで動く――こんなの処理しきれねえ!!
そもそもこれはいったい何が起こっているのだろう。
概念としては知っている。web小説やコミック、アニメなどで出てくるリプレイヤーとかループものとか、そういう感じのあれだ。
アイデアとしては多分ビデオゲーム機のRPGなどで、セーブしては特定の時点からゲームをやり直すところからきているのではないかと思う。
攻略に失敗してキャラクターが死んでも、記録したところからやり直せる。プレイヤーは前回の内容を覚えているから、より適切な攻略を行える。アイテムを買い込んだり、装備を強化したりといった方法でだ。
そんな風に、人生をやり直せたらどんなにいいか。多くの人が多かれ少なかれ思うことだろうが――
実際に自分の身に起きるとなると、これは結構悩む。そりゃそうだろう。こうやっている間にも、奇怪な事態が続いている。次に何が起きるか、それが前もってわかる――そんな感覚がずっと続いている。
しかし。しかしだ。
これがそういうものだとして――ゲームの攻略のようにもう一度繰り返す機会だとして。
もしそうならどの程度、前よりましな人生を送れるだろうか? 例えば、四年後に母を失わずに、もっと長生きしてもらう事は可能だろうか?
誰にも邪魔されずに、大学以来根城にしたあのマンションで葉月とともに、愛し合いながら暮らすことが叶うだろうか?
それとも――
僕は何を目指すべきなのか。
少なくともわかっていることはひとつある。何も変えられずに同じコースをたどったら、僕はまた中央自動車道のあの場所で、救急車も間に合わずに死ぬのだ。
そうに違いない。
僕の頭の中身は、つい今朝がた交通事故で死んだばかりの、26歳のサラリーマン。そのはずだ。
それがいきなり、とっくに忘れた高校の学習内容をおさらいさせられる。判別式も波動関数も微積分も、アボガドロ常数も付帯状況のwithも、何もかも遠く朧げにかすんでしまって――いたはずだった。
だが、いざ教科書を、先生の板書を目にすると、それがまるで昨日習ったことのように鮮明に頭に浮かんできた。気持ち悪いなんて表現で済ませられるものじゃない。
「礼司、お前どうしたの。さっきから休み時間になるたびに水道で水ばっかり飲んで。どっか悪いんじゃないか?」
クラスメートの茂木がひどく心配そうに僕をの顔を覗き込んだ。
ああ、覚えてる。こいつはいいやつなんだ。
母親が看護士で、とにかく健康問題には詳しい。クラスでも保健委員の片割れを務めてるくらいなのだ。
「……うん、なんかちょっと、胸がむかむかしてさ」
「ふうん。胃酸でも出すぎてんのかな……保健室行っとく?」
「いや、いい。多分ストレスのせいだから。ありがとうな」
茂木が離れていくと、僕はため息をついた。自分の心が認識していることと、頭が実際に発揮するスペックが違う。体もだ。少し運動不足気味だったはずの体が、いざ動くとなると高校生に相応の活発さで動く――こんなの処理しきれねえ!!
そもそもこれはいったい何が起こっているのだろう。
概念としては知っている。web小説やコミック、アニメなどで出てくるリプレイヤーとかループものとか、そういう感じのあれだ。
アイデアとしては多分ビデオゲーム機のRPGなどで、セーブしては特定の時点からゲームをやり直すところからきているのではないかと思う。
攻略に失敗してキャラクターが死んでも、記録したところからやり直せる。プレイヤーは前回の内容を覚えているから、より適切な攻略を行える。アイテムを買い込んだり、装備を強化したりといった方法でだ。
そんな風に、人生をやり直せたらどんなにいいか。多くの人が多かれ少なかれ思うことだろうが――
実際に自分の身に起きるとなると、これは結構悩む。そりゃそうだろう。こうやっている間にも、奇怪な事態が続いている。次に何が起きるか、それが前もってわかる――そんな感覚がずっと続いている。
しかし。しかしだ。
これがそういうものだとして――ゲームの攻略のようにもう一度繰り返す機会だとして。
もしそうならどの程度、前よりましな人生を送れるだろうか? 例えば、四年後に母を失わずに、もっと長生きしてもらう事は可能だろうか?
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それとも――
僕は何を目指すべきなのか。
少なくともわかっていることはひとつある。何も変えられずに同じコースをたどったら、僕はまた中央自動車道のあの場所で、救急車も間に合わずに死ぬのだ。
そうに違いない。
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