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episode6:レダ・ハーケン救出作戦
第35話 生還へのSamba Adagio ➀
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「戦車型……なるほど」
俺たちの世代がTVで慣れ親しんだ、ロボットアニメやらの世界にもまあ、あるにはあった。足回りに履帯を具え、肩とかに大口径の火砲――大概は実弾の――を積んでいる、人型兵器の範疇に入ることにいまいち疑問がある奴だ。
〈モーターグリフってもんがこう、兵器として完成するまでの間、黎明期ってやつにはさ。戦車兵から転向したパイロットが多かったって話でね〉
なるほど。使いやすい機体構成でまず普及させるところから始まったと。まあ、メーカーとしては売らんと始まらんもんなぁ。営業経験者としてよくわかる話ではある。
〈あたしは正直、戦車型は経験がないし動かし方が今までと全部違うしで、気が進まないんだけど……そうそう都合よくぴったりの二脚型の脚部があるとは限らないしね〉
「まあできれば捜したいとこだが……ここにとどまれる時間にも限りがあるしな」
レダもそれは否定しなかった。食糧、燃料、それにバッテリーや燃料電池の残量。時間のみならずリソースも限られているのだ。
引き続いてしばらく探索を続けて、どうにかネオンドールの残存パーツを組み込んでモーターグリフ一機分になるだけのパーツが集まった。他にも若干の余剰パーツ。
残念ながらこの場でもう一機とはいかないが、持って帰って足りないパーツを買い足せば、なんか変な形の機体がもう一つでっちあげられそうではある。
俺もかなり疲れたし、ケイビシの燃料電池もだいぶ消耗した。このくらいが限度だろう。問題は――
「ダメだな。やっぱり、脚部はこの戦車しかない」
「ちぇー……あの獣脚型のやつに右足もあったら良かったのに……」
獣脚型というのはちょうど恐竜や食肉目哺乳類の足のように、かかとから指先にかけての部分が長く伸びた形の足だ。
センチネルなどの逆関節にも似ているが、側面から見ると「く」ではなく「Z」の字を少し傾けたようなシルエットになる。走行時の衝撃吸収に優れ敏捷性の高い脚部だが、構造上の理由から機体重量にはやや制限がかかる。
「ないものねだりをしても始まらん。じゃ、ネオンドールの上半身をこいつに乗っけるからな」
「わかった、やってくれ……うう」
失敗したらやり直しがきかない。俺はケイビシにネオンドールの胴部を抱えさせ、慎重に水平をたもってジョイント部を戦車型脚部に挿入した。ガシン、という小気味よいクリッピング音とともに、腰部がターレット式に接続される。
そして右肩のジョイントには先ほどの前腕式火砲をセット。ネオンドールの左腕はそのまま残し、前腕部には即席のアダプターを介して、ランベルトの前駆型みたいな機体の腰から外した背面装甲を取りつけた。盾の代わりだ。
あと脚部の前面には同じ機体からかっぱらった三連銃身タイプの軽量ガトリングガン。本来なら肩につけるものらしいからかなり無理があるし、弾倉もケイビシの予備弾薬があるだけで、ほぼ一連射分にしかならない――が、ないよりはましだ。
足回りは履帯なので、完全に戦車。全体としては馬上槍試合に向かう途中の完全装備の騎士を、馬から引きずり降ろして正座させた感じだった。
「三時間も座らせとくと足が痺れて立てなくなって『くっ……殺せ!』とか言いそうだな」
「はぃ?」
レダには通じない冗談だった。ともあれ――
〈うぅん……これはネオン『ドール』というより、もうネオン『ドーザー』って感じになっちゃったなぁ……〉
組み上がった機体のコクピットに座って、レダがげんなりした声を上げた。
「ふはっ……! おま……お前さん、意外と余裕ありそうだな?」
こんな状況でよくもまあ、そんな軽口を思いつくものだ。
〈まあ、ここまで来たら押し通すしかないじゃん……あ、おっさん今初めてあたしの事、『レダ』以外で呼んだよね〉
「あーうん、なんかどう呼んでもしっくりこなくてな」
俺たちが――というよりレダが俺やトマツリに合わせて日本語でしゃべってくれるのが原因だった。英語なら「you」で事足りるところなのだ。
俺はレダのことを「君」などと呼ぶ柄じゃない。「お前」と呼ぶほど距離を詰めたわけでもない。かといって、もはや「あんた」というほどよそよそしくもない――
「というかそんな話よりも前にだ。どうしても解決しなきゃならん問題がある」
〈うん……主電源だよね。燃料電池がいる〉
「ケイビシのタタラ用電池は使えるはずだが、もう容量がギリギリだしな」
何より、それをレダに廻すと、ギムナンに帰るまでケイビシを使えなくなる。不測の事態に備えて、稼働は保っておきたいところだ。ダメもとでもう一度だけ探してみるか――そう考えた時だった。
〈おっさん! 何か来た! 音響センサーをパッシブにして警戒してたら……こりゃリグの駆動音だ!〉
「参ったな……今度こそ本物の野盗ってわけか!」
〈あーあー、悪かったよ、昨日間違えたの……ごめんて〉
やがて敵の陣容が、こちらにも見えてきた。スクラップから再生したと思しい、粗製のタタラが三機――
「いいさ、レダ。むしろこのタイミングはありがたい。天の配剤かと思えるくらいだ」
〈あ。おっさん今悪い事考えてるだろ〉
「ご明察!」
スクラップ再生のタタラなら、ケイビシの敵ではない。いざというときはネオンドーザーの火器も使いようはある。
(あいつらをノシて、燃料電池を頂くとしようじゃないか……!)
確か、タタラだと搭載位置は腰ブロックの中心よりやや後ろ。損傷させずに上手く無力化する必要がある。俺は二十ミリライフルを機体の腰だめに構えて、迎撃の体勢を整えた。
俺たちの世代がTVで慣れ親しんだ、ロボットアニメやらの世界にもまあ、あるにはあった。足回りに履帯を具え、肩とかに大口径の火砲――大概は実弾の――を積んでいる、人型兵器の範疇に入ることにいまいち疑問がある奴だ。
〈モーターグリフってもんがこう、兵器として完成するまでの間、黎明期ってやつにはさ。戦車兵から転向したパイロットが多かったって話でね〉
なるほど。使いやすい機体構成でまず普及させるところから始まったと。まあ、メーカーとしては売らんと始まらんもんなぁ。営業経験者としてよくわかる話ではある。
〈あたしは正直、戦車型は経験がないし動かし方が今までと全部違うしで、気が進まないんだけど……そうそう都合よくぴったりの二脚型の脚部があるとは限らないしね〉
「まあできれば捜したいとこだが……ここにとどまれる時間にも限りがあるしな」
レダもそれは否定しなかった。食糧、燃料、それにバッテリーや燃料電池の残量。時間のみならずリソースも限られているのだ。
引き続いてしばらく探索を続けて、どうにかネオンドールの残存パーツを組み込んでモーターグリフ一機分になるだけのパーツが集まった。他にも若干の余剰パーツ。
残念ながらこの場でもう一機とはいかないが、持って帰って足りないパーツを買い足せば、なんか変な形の機体がもう一つでっちあげられそうではある。
俺もかなり疲れたし、ケイビシの燃料電池もだいぶ消耗した。このくらいが限度だろう。問題は――
「ダメだな。やっぱり、脚部はこの戦車しかない」
「ちぇー……あの獣脚型のやつに右足もあったら良かったのに……」
獣脚型というのはちょうど恐竜や食肉目哺乳類の足のように、かかとから指先にかけての部分が長く伸びた形の足だ。
センチネルなどの逆関節にも似ているが、側面から見ると「く」ではなく「Z」の字を少し傾けたようなシルエットになる。走行時の衝撃吸収に優れ敏捷性の高い脚部だが、構造上の理由から機体重量にはやや制限がかかる。
「ないものねだりをしても始まらん。じゃ、ネオンドールの上半身をこいつに乗っけるからな」
「わかった、やってくれ……うう」
失敗したらやり直しがきかない。俺はケイビシにネオンドールの胴部を抱えさせ、慎重に水平をたもってジョイント部を戦車型脚部に挿入した。ガシン、という小気味よいクリッピング音とともに、腰部がターレット式に接続される。
そして右肩のジョイントには先ほどの前腕式火砲をセット。ネオンドールの左腕はそのまま残し、前腕部には即席のアダプターを介して、ランベルトの前駆型みたいな機体の腰から外した背面装甲を取りつけた。盾の代わりだ。
あと脚部の前面には同じ機体からかっぱらった三連銃身タイプの軽量ガトリングガン。本来なら肩につけるものらしいからかなり無理があるし、弾倉もケイビシの予備弾薬があるだけで、ほぼ一連射分にしかならない――が、ないよりはましだ。
足回りは履帯なので、完全に戦車。全体としては馬上槍試合に向かう途中の完全装備の騎士を、馬から引きずり降ろして正座させた感じだった。
「三時間も座らせとくと足が痺れて立てなくなって『くっ……殺せ!』とか言いそうだな」
「はぃ?」
レダには通じない冗談だった。ともあれ――
〈うぅん……これはネオン『ドール』というより、もうネオン『ドーザー』って感じになっちゃったなぁ……〉
組み上がった機体のコクピットに座って、レダがげんなりした声を上げた。
「ふはっ……! おま……お前さん、意外と余裕ありそうだな?」
こんな状況でよくもまあ、そんな軽口を思いつくものだ。
〈まあ、ここまで来たら押し通すしかないじゃん……あ、おっさん今初めてあたしの事、『レダ』以外で呼んだよね〉
「あーうん、なんかどう呼んでもしっくりこなくてな」
俺たちが――というよりレダが俺やトマツリに合わせて日本語でしゃべってくれるのが原因だった。英語なら「you」で事足りるところなのだ。
俺はレダのことを「君」などと呼ぶ柄じゃない。「お前」と呼ぶほど距離を詰めたわけでもない。かといって、もはや「あんた」というほどよそよそしくもない――
「というかそんな話よりも前にだ。どうしても解決しなきゃならん問題がある」
〈うん……主電源だよね。燃料電池がいる〉
「ケイビシのタタラ用電池は使えるはずだが、もう容量がギリギリだしな」
何より、それをレダに廻すと、ギムナンに帰るまでケイビシを使えなくなる。不測の事態に備えて、稼働は保っておきたいところだ。ダメもとでもう一度だけ探してみるか――そう考えた時だった。
〈おっさん! 何か来た! 音響センサーをパッシブにして警戒してたら……こりゃリグの駆動音だ!〉
「参ったな……今度こそ本物の野盗ってわけか!」
〈あーあー、悪かったよ、昨日間違えたの……ごめんて〉
やがて敵の陣容が、こちらにも見えてきた。スクラップから再生したと思しい、粗製のタタラが三機――
「いいさ、レダ。むしろこのタイミングはありがたい。天の配剤かと思えるくらいだ」
〈あ。おっさん今悪い事考えてるだろ〉
「ご明察!」
スクラップ再生のタタラなら、ケイビシの敵ではない。いざというときはネオンドーザーの火器も使いようはある。
(あいつらをノシて、燃料電池を頂くとしようじゃないか……!)
確か、タタラだと搭載位置は腰ブロックの中心よりやや後ろ。損傷させずに上手く無力化する必要がある。俺は二十ミリライフルを機体の腰だめに構えて、迎撃の体勢を整えた。
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