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episode6:レダ・ハーケン救出作戦
第34話 掘り出し物は安いけど、困ったことには選べない
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「ぶっ……ぷははぁあっは、ったたた痛ってえぇえ!!」
レダが失笑から盛大に笑いだしかけて、肋骨の痛みに悶絶した。
「お、おい。大丈夫か?」
慌てて伸ばした手を、ぱしっと払われる。
「大丈夫かじゃねえよ、こんな時に笑わすなよもぅ!! くぅ痛ぇ……いや、面白いアイデアだよ、確かにやってみる価値はあるかもだ……」
レダはどうにか肋骨の痛みをやり過ごし、ふうっとため息をついてまたビクンと肩を震わせた。
「だけど、ジョイントの接点とか汚れて後々交換が必要になっからな。理論的には可能でも普通はやらない……おっさんはやっぱりバカだな。最高のバカだ」
バカバカと大安売りもいいところだが、若干褒めるニュアンスも感じられる。まあ、そもそもの発想の大元は、野盗どもが戦場跡のスクラップから機体を再生して使う、という話ではあるのだが。
「はっはっは、最高か。惚れたか」
「まあうん、ちょっと惚れたわ。バカだけど」
レダはそのままケイビシのコクピットへ上がり、「おやすみ」と言い残してハッチを閉めた。目元に新たににじんでいた涙がどういう涙なのかは、ちょっと判然としなかった。
俺はといえば固形燃料の残り火をその辺りでかき集めた可燃物に移し、ありったけの衣類を着こんで毛布を地面に敷き、パラシュートの切れ端で三角形の一人用シェルターをこしらえてもぐり込んだ。その辺のサバイバル教本やボーイスカウトのハンドブックに載ってる様な、一番簡単な代物だ。
パラシュート生地の保温性はなかなかのものだった。俺は時々何かの物音に目を覚ましながらも、小刻みな睡眠を繰り返して朝までの間、英気を養った。
* * *
〈もうちょっと先。三メートルくらい右へ〉
「ここか?」
〈うん、そこ。その下に、統合性の高い物体がある〉
俺はケイビシに握らせた、古い百二十ミリ砲の断裂した切れっ端をシャベル代わりに地面を掘った。程なく地中から、戦車の砲塔のような形の物体が姿を現した。
ネオンドールの頭部パーツには、失われたレーダーと長距離通信機以外にも音響センサーと磁気検出器が内蔵されていた。俺がこの間潜った地下シェルターのような閉鎖空間を、事前情報なしに探索するような作戦に対応するための機能だ。そこでケイビシ用に一つだけ持ち込んであった予備バッテリーを、ネオンドールに無理やり繋いでみた。
いい具合に機能回復。それで集めた情報をもとに、レダにナビゲートしてもらっての宝さがしというわけだ。頭部アンテナも何とか適当な金属片で補修し、ごく短距離の通信なら可能になった。
錆びて崩れ、壊れてしまったパーツも磁気検出器には反応する。だが音響センサーを使った際の反応は全く違うのだそうだ。
細かい部品の集合体があるべき形にきっちり収まって、機能性をたもっている場合、音響センサーには特有の波形スペクトルが現れる。グライフたちはその現れ具合を統合性という概念、尺度で評価する。
「肘関節っぽいものがある……こりゃあ、腕パーツか?」
〈あーわかった。そりゃあ、GEOGRAAFの旧型モーターグリフだ。『メルカトル』型ってプランで使う前腕式火砲ってやつ〉
「へえ。腕に直接、大砲をつけるわけか……」
〈今欲しいパーツじゃないけど、一応ストックしといて……武器がないからね。最悪一発でも砲弾が残ってりゃ、威嚇くらいにはなる〉
戦車の砲塔、と形容したが、もう少し詳細に言えばそれを両側からぐいと圧縮して細長くしたような形状だ。内部に人間が乗らなくていい分、省スペース化できるわけだろう。
レダの説明によれば装弾数が最大十三発。機体の構造上弱装弾にするしかないため、弾速と射程距離はそれほどなく命中を期待しづらい。だが口径百ミリのタンデム式対戦車多目的榴弾は、当たりさえすれば十分な威力を発揮する。
〈取付基部のジョイントに、まだ胴部中枢ブロックの切れっ端が残ってるみたいだね。それ外せばたぶん、ネオンドールにそのまま付けられる〉
なるほど、それはいい塩梅だ。だがもっと重要なことに俺は気が付いた。
「って事はだ。これをつけてた『メルカトル』とやらは、コクピット部分を吹っ飛ばされて沈んだわけだよな……近くに案外、脚部もあるんじゃないのか?」
〈うん、可能性はある。あるんだけど……〉
レダが妙に気の進まない口ぶりになった。
「何だよ。まさかえり好みか。そんな場合じゃないだろ」
〈いや、これがさ……あ、待っておっさん。多分見つけたわ、脚部〉
「ホントか! やったじゃないか!」
〈うーん……まあ、仕方ないか。掘ってきて。そこから南南西に、百メートルくらいのとこ……〉
レダの指示に沿って、歩いて行く。そこには裏返しになった戦車のような物が底面を見せて、他の残骸に半ばうずもれるようにして鎮座していた。
「戦車みたいなものがあるが……この下か?」
〈いんや……よく見て。そいつ底面にホバーノズルの噴射孔が開いてない?〉
言われて俺もモニター越しにしげしげとその戦車を観察する。確かに、それらしい穴が車台の底面に、独特の配置で並んでいた。
「開いてるな」
〈じゃあ間違いないよ、それだ。『メルカトル』ってさ……基本構成の購入プランだと、重装甲と単発火力が売りの、『戦車型』だったんだわ〉
レダが失笑から盛大に笑いだしかけて、肋骨の痛みに悶絶した。
「お、おい。大丈夫か?」
慌てて伸ばした手を、ぱしっと払われる。
「大丈夫かじゃねえよ、こんな時に笑わすなよもぅ!! くぅ痛ぇ……いや、面白いアイデアだよ、確かにやってみる価値はあるかもだ……」
レダはどうにか肋骨の痛みをやり過ごし、ふうっとため息をついてまたビクンと肩を震わせた。
「だけど、ジョイントの接点とか汚れて後々交換が必要になっからな。理論的には可能でも普通はやらない……おっさんはやっぱりバカだな。最高のバカだ」
バカバカと大安売りもいいところだが、若干褒めるニュアンスも感じられる。まあ、そもそもの発想の大元は、野盗どもが戦場跡のスクラップから機体を再生して使う、という話ではあるのだが。
「はっはっは、最高か。惚れたか」
「まあうん、ちょっと惚れたわ。バカだけど」
レダはそのままケイビシのコクピットへ上がり、「おやすみ」と言い残してハッチを閉めた。目元に新たににじんでいた涙がどういう涙なのかは、ちょっと判然としなかった。
俺はといえば固形燃料の残り火をその辺りでかき集めた可燃物に移し、ありったけの衣類を着こんで毛布を地面に敷き、パラシュートの切れ端で三角形の一人用シェルターをこしらえてもぐり込んだ。その辺のサバイバル教本やボーイスカウトのハンドブックに載ってる様な、一番簡単な代物だ。
パラシュート生地の保温性はなかなかのものだった。俺は時々何かの物音に目を覚ましながらも、小刻みな睡眠を繰り返して朝までの間、英気を養った。
* * *
〈もうちょっと先。三メートルくらい右へ〉
「ここか?」
〈うん、そこ。その下に、統合性の高い物体がある〉
俺はケイビシに握らせた、古い百二十ミリ砲の断裂した切れっ端をシャベル代わりに地面を掘った。程なく地中から、戦車の砲塔のような形の物体が姿を現した。
ネオンドールの頭部パーツには、失われたレーダーと長距離通信機以外にも音響センサーと磁気検出器が内蔵されていた。俺がこの間潜った地下シェルターのような閉鎖空間を、事前情報なしに探索するような作戦に対応するための機能だ。そこでケイビシ用に一つだけ持ち込んであった予備バッテリーを、ネオンドールに無理やり繋いでみた。
いい具合に機能回復。それで集めた情報をもとに、レダにナビゲートしてもらっての宝さがしというわけだ。頭部アンテナも何とか適当な金属片で補修し、ごく短距離の通信なら可能になった。
錆びて崩れ、壊れてしまったパーツも磁気検出器には反応する。だが音響センサーを使った際の反応は全く違うのだそうだ。
細かい部品の集合体があるべき形にきっちり収まって、機能性をたもっている場合、音響センサーには特有の波形スペクトルが現れる。グライフたちはその現れ具合を統合性という概念、尺度で評価する。
「肘関節っぽいものがある……こりゃあ、腕パーツか?」
〈あーわかった。そりゃあ、GEOGRAAFの旧型モーターグリフだ。『メルカトル』型ってプランで使う前腕式火砲ってやつ〉
「へえ。腕に直接、大砲をつけるわけか……」
〈今欲しいパーツじゃないけど、一応ストックしといて……武器がないからね。最悪一発でも砲弾が残ってりゃ、威嚇くらいにはなる〉
戦車の砲塔、と形容したが、もう少し詳細に言えばそれを両側からぐいと圧縮して細長くしたような形状だ。内部に人間が乗らなくていい分、省スペース化できるわけだろう。
レダの説明によれば装弾数が最大十三発。機体の構造上弱装弾にするしかないため、弾速と射程距離はそれほどなく命中を期待しづらい。だが口径百ミリのタンデム式対戦車多目的榴弾は、当たりさえすれば十分な威力を発揮する。
〈取付基部のジョイントに、まだ胴部中枢ブロックの切れっ端が残ってるみたいだね。それ外せばたぶん、ネオンドールにそのまま付けられる〉
なるほど、それはいい塩梅だ。だがもっと重要なことに俺は気が付いた。
「って事はだ。これをつけてた『メルカトル』とやらは、コクピット部分を吹っ飛ばされて沈んだわけだよな……近くに案外、脚部もあるんじゃないのか?」
〈うん、可能性はある。あるんだけど……〉
レダが妙に気の進まない口ぶりになった。
「何だよ。まさかえり好みか。そんな場合じゃないだろ」
〈いや、これがさ……あ、待っておっさん。多分見つけたわ、脚部〉
「ホントか! やったじゃないか!」
〈うーん……まあ、仕方ないか。掘ってきて。そこから南南西に、百メートルくらいのとこ……〉
レダの指示に沿って、歩いて行く。そこには裏返しになった戦車のような物が底面を見せて、他の残骸に半ばうずもれるようにして鎮座していた。
「戦車みたいなものがあるが……この下か?」
〈いんや……よく見て。そいつ底面にホバーノズルの噴射孔が開いてない?〉
言われて俺もモニター越しにしげしげとその戦車を観察する。確かに、それらしい穴が車台の底面に、独特の配置で並んでいた。
「開いてるな」
〈じゃあ間違いないよ、それだ。『メルカトル』ってさ……基本構成の購入プランだと、重装甲と単発火力が売りの、『戦車型』だったんだわ〉
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