退廃の未来に飛ばされたおっさん、ロボ乗り傭兵になる

冴吹稔

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episode6:レダ・ハーケン救出作戦

第33話 現地調達とかいうクソヤバそりゅーしょん

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 レダはひとしきり泣きじゃくり終わると、今度はぷんすかした調子で怒り始めた。

「もう! おっさんはさあ。あんなの真に受けてこんなとこまでッ……ほんとバカなんだからッ」

「俺がバカだってのは百も承知だ。いいからさっさと、負傷箇所を自己申告しろ。隠すなよ?」

 レダはどこか骨折しているらしく、ろくに動けない様子だった。脊椎や頭蓋骨には異常がないようだが、なんとか処置できるとこくらいは処置しなければ。

「あー、肋骨と、あと大腿骨をやってるみたいだ……あと、負傷じゃねえけど、あ、あの! 採尿パックの換えとか……持ってる?」

 ……あいたたた。

「すまん。気づかなかったわ……っていや、何日もそんなモノ付けてるんじゃない。尿路感染起こすぞ」

「う」

「簡易トイレをなんとか用意してやるから、そのスーツを脱いで、骨折箇所をテーピングしろ。必要ならギブスもある」

「分かった……見るなよ!」

「見ねえよ」

 できるだけ近い場所にスコップで掘れる場所を探し、適当な穴を掘って周りを腰の高さ程度に切ったパラシュート生地で囲った。

(あの体でしゃがんでしろってのは酷だわな……なにか便座の代わりになりそうな……)

 少し離れた場所に弾薬の入っていたコンテナらしきものが落ちている。アレを並べて何か適当な板材と組み合わせれば役に立ちそうだ。
 そう考えて取りに行こうと歩き出しかけた所に、レダから泣きが入った。

「おっさん! やっぱりダメ、自分じゃ無理だ……」

 駆け寄って、どうすればいい、と問うと顔を真っ赤にしてひどいことを言い出した。

「脱がせて……で、する間、支えてて……」

「くっそ……しょうがねえなあ!」

 まあ、レダがぼかしながら途切れ途切れに供述する話からすると、スーツの中はパックからあふれたモノで、既にかなりひどいことになっているようでもある。
 さっさと見切りを付けて清潔を優先してやった方がいい。今は気温は二十度前後だが、もう午後のかなり深い時間。

 極寒の夜はもう、直ぐそこだ。


        * * *


「あのなおっさん。帰ってもさっきのアレ、絶対誰にも内緒だかんな……?」

 排泄を済ませ飲料用の水を使って体を拭き清め、どうにか人心地がついたらしい。防寒毛布にくるまりながら、レダは屈辱に耐えかねて真っ赤になった顔で俺に念を押した。あれから三時間、彼女は杖の助けを借りてどうにか動けるようになった。そろそろ鎮痛剤が効いてきたらしい。

「当たり前だ。人に知れたら俺が社会的に死ぬだろ……あと市長に殺されるかな」

 結局、肋骨のヒビをテーピングで応急処置するために、上半身も脱がさざるを得なかったのだ。今やレダの体で俺が目にしていないところはほとんどなかった。いわゆるプライベートゾーンくらいのものだ。不可抗力とはいえ、流石にいろいろとまずい気がした。

「あー。姉貴……心配かけちまったな」

 まだ過去形ではない。俺もひっくるめて絶賛大心配され中のはずだ。

「市長な、センテンスで出るってすごい剣幕だったぞ。『市長である前にあの子の姉でいたい』ってなぁ」

「そっかー。まあ、姉貴はまだあたしの事、ちっちゃな子供みたいに思ってるフシがあっからなあ……」

 二人の間にはざっと十年ばかりの年齢差がある。母親を早く亡くしたため、市長――ジェルソミナがほとんど母親代わりのようにしてレダを育てたのだ。

「うん、姉貴を思いとどまらせてくれて良かった。ありがとな……」

 レダは固形燃料で沸かしたスープをすすって、ふうっとため息をついた。

「よし、そいつを飲んだら、俺のケイビシのコクピットで早めに寝ろ。暖房が使えるからな。明日はやることが山ほどあるぞ」

 レダの怪我では、彼女をコクピットのシート後ろに押し込んでマニトバまで帰ることはほぼ無理だと思われた。それに彼女はネオンドールを放棄する気がない。

 「天秤」の保険で機体の再調達はできるが、ネオンドールのAIに蓄積された戦闘データは当然ながら彼女のために最適化されたものになっている。
 新規に育て直すのは時間がかかるのだ。まあ予想の範疇だったし、だからこそ俺もケイビシのマニュピレーターにこだわったわけだが。

「一応訊くが、ディヴァイン・グレイスの自宅にバックアップとかは取ってないのか?」

「あるにはあるけど……機体側でないと細かい調整が保存できないんだよね」

 では是非もない。

「よし、まあだいたい想定した通りの段取りになりそうだな……」

「あたしも大概無茶言ってるって自覚はあるんだけどさ。おっさん、どうやってここからつもりなんだ?」

 レダがスープを飲み干して、ぎろりとこちらを見つめた。

「それだがな……ここしばらくの間に俺もいろいろ勉強したんだわ。こっちのいろんな機械や技術は、俺にとっちゃあ珍しいものばかりでな……で、モーターグリフだが。コンペのあともらった資料を見たところ、個人が所有、運用することを考えて……最低限の設備でもパーツの交換、組み換えができる、と書いてあった。胴部中枢ブロックのサイズや強度によって若干の制限はあるが、ジョイントさえ合えばほぼどのメーカーの物でも接続できる。ご丁寧に動力系と情報伝達系はすべて同軸にまとめて、そのジョイントの内部を通すようになっている」

 まるでロボットアニメのキャラクタープラモのような手軽さだった。これがトレッド・リグであれば、関節部を組み付けた後二つのパーツの間にケーブルを引きまわしたり、ダンパーのオイルシリンダーを取りつけたりと面倒な手間がかかり、専用の設備も複数必要になるのだが――

「そうだな。うん、まあおかげで強度には少し問題を抱えることもあるけどさ……基本的にはその位置に合わせて持って行って、ジョイント接続部にぶち込んでやればそれで済む。精度の高い動作ができるクレーンやジャッキがあれば十分だね」

 レダが実際に運用する立場から、俺の理解を裏付けてくれた。

「俺の常識からするととんでもない話なんだがな……そこでだ」

「うん。何か嫌な予感がするぜ……」

「その辺から使えそうなパーツを掘っくり返してきてな。ケイビシのマニュピレーターで保持してネオンドールにくっつけるんだ。それで何とか、帰れる機体をでっちあげる」

「うわあ」

 レダは顔をしかめ、「莫迦がいる」と言いたげな目で俺を見上げた。俺はといえばここで冗談を言う誘惑にどうしても耐えられなかった――

「どうだ? 運が良けりゃ、もう一台でっちあげられるかもしれんぞ」
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